中日春秋 (2020年7月31日 中日新聞))

2020-07-31 09:45:35 | 桜ヶ丘9条の会

中日春秋

2020年7月31日 
 春夏秋冬に加えて、日本には梅雨というもう一つの季節がある。時折、語られる日本の「五季説」を最初に唱えたのは、一説に、戦後、気象と健康の関係の研究などで知られた医学者、藤巻時男さんという
▼「はしり」や中休みがあって、蒸し暑くなったり、冷えたりしながら続く。春とも真夏とも違う季節はたしかに独特で、時に健康や心理に影響しよう
▼そんな五季説にこれほど説得力を感じる年もなさそうだ。長い梅雨が各地に水害をもたらした今年である。ようやく九州北部と中国、四国が昨日、梅雨明けし、真夏の明るい光景が伝えられた。猛暑の訪れを意味する景色ではあるが、梅雨明けまであとひと息の地域からみれば、うらやましくも思える
▼<白昼のむら雲四方に蕃茄熟る>飯田蛇笏。蕃茄(ばんか)はトマトの漢名という。空の青と雲の白に地上で濃く色づく作物。頭の中に色鮮やかな景色が浮かぶが、今回の長雨は作物から日照時間を奪った
▼収穫減などでニンジン、ジャガイモといった野菜が値上がりしている。昨年の倍ほどの値がつくこともあるようだ。トマトの色や生育に影響が出た地域もある。高値はしばらく続きそうだ
▼思えば一昨年は梅雨に続き、「災害級」の暑さが訪れた。昨年は台風の災害が十月まで続いた。「災害季」という長い季節が定着していないか。用心をしつつ、普通の季節感が恋しくなる。

 


ずさん原燃、資質に疑問 (2020年7月30日 中日新聞))

2020-07-30 08:55:30 | 桜ヶ丘9条の会

ずさん原燃、資質に疑問

2020年7月30日 

 

  • ずさん原燃、資質に疑問

    2020年7月30日 05時00分 (7月30日 05時02分更新) 会員限定

     

    • 日本原燃の使用済み核燃料再処理工場。左端が排気筒=16日、青森県六ケ所村で
     原発の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)が新規制基準に適合し、稼働への条件を一つクリアした。しかし、原子力規制委員会に寄せられた国民の意見の多くは、運営する原燃の資質を疑問視し、規制委の委員らも同調した。不安が渦巻く中で、再処理工場は核燃料サイクルという目的さえ失っている。(福岡範行、渡辺聖子)

    ■いらだち

     「技術的能力について、一般の方が非常に心配になられているのは非常によく理解できます」。二十九日の規制委定例会合で、山中伸介委員は原燃への憂慮を口にした。伴信彦、田中知(さとる)の両委員も同じだった。
     延べ七百六十五件に上った国民からの意見公募は、「適合反対」の声で埋め尽くされ、原燃の能力不足の指摘だけでも百件以上。傍聴席から「何人も不安視してますよ」といらだつ声が飛ぶ。それでも更田豊志委員長が適合と決定するかどうか促すと、委員らは「異存ありません」。原燃の能力については、規制委事務局が今後の検査などで確認するとしただけで、四十六分間の審議が終わった。
 原発の使用済み核燃料の再処理工場(青森県六ケ所村)が新規制基準に適合し、稼働への条件を一つクリアした。しかし、原子力規制委員会に寄せられた国民の意見の多くは、運営する原燃の資質を疑問視し、規制委の委員らも同調した。不安が渦巻く中で、再処理工場は核燃料サイクルという目的さえ失っている。(福岡範行、渡辺聖子)

■いらだち

 「技術的能力について、一般の方が非常に心配になられているのは非常によく理解できます」。二十九日の規制委定例会合で、山中伸介委員は原燃への憂慮を口にした。伴信彦、田中知(さとる)の両委員も同じだった。
 延べ七百六十五件に上った国民からの意見公募は、「適合反対」の声で埋め尽くされ、原燃の能力不足の指摘だけでも百件以上。傍聴席から「何人も不安視してますよ」といらだつ声が飛ぶ。それでも更田豊志委員長が適合と決定するかどうか促すと、委員らは「異存ありません」。原燃の能力については、規制委事務局が今後の検査などで確認するとしただけで、四十六分間の審議が終わった。

最低賃金水準 コロナ禍でも上げたい (2020年7月29日 中日新聞)

2020-07-29 09:39:26 | 桜ヶ丘9条の会

最低賃金水準 コロナ禍でも上げたい

2020年7月29日 中日新聞
 二〇二〇年度の最低賃金は現行水準維持が適当−。厚生労働省の審議会がこう答申した。新型コロナウイルスが経済に与える影響は理解できるが、こういう時だからこそ賃上げが必要ではないのか。
 リーマン・ショック後の〇九年度以来となった最低賃金の据え置き判断には、疑問が二つある。
 一つ目は、働く人が自立して生活できる賃金の水準を保障するという最低賃金の目的に合致しているか、である。コロナ禍で困難に直面する人がいる現状を考えれば、なおさら疑問が募る。
 二つ目は、主に正社員対象の春闘では今年、賃上げが実現(連合まとめで1・9%)したのに、最低賃金はなぜ据え置くのかだ。
 最低賃金は企業が従業員に払う最低の賃金額で、労使参加の審議会で毎年目安を示す。
 一六年度から3%以上の引き上げが続き、昨年度は過去最高となる二十七円の引き上げ。全国平均は時給九百一円になったが、この額で週四十時間働いても年収は二百万円に満たない。
 これでは最低賃金に近い賃金で働く非正規労働者と賃上げされた正社員との格差は広がる一方だ。
 さらに、感染が拡大する中、医療や介護、保育、小売り、運送、飲食店などで働く人の社会的な役割の大切さが再認識された。非正規で働く人が多い職種もある。賃金水準の底上げは必要である。
 据え置き判断には伏線がある。政府が十七日に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の方針」では「より早期に全国平均千円を目指す」と従来方針を明記しつつ、「雇用を守ることが最優先課題」と含みを持たせた。これではあらかじめ据え置きを容認したと受け取られても仕方がない。
 安倍政権は「働き方改革」の一環として最低賃金引き上げを掲げてきたが、審議会では結局、引き上げを求める労働側と凍結を主張する経営側が歩み寄れなかった。
 感染症の拡大で経営環境が厳しいことは理解できる。経営側は最低賃金引き上げで人件費が増え、中小企業では雇用が維持できなくなると懸念する。
 ならば生産性を上げるための設備投資や税制などで支援するなど政府は賃上げと経営の両立にもっと知恵を絞るべきではないか。
 最低賃金の決定は今後、地域ごとの額を決める都道府県の審議会に委ねられる。コロナ禍で受ける影響は地域や業種ごとに違うだろう。各審議会には最低賃金制度の目的にかなう議論を望みたい。

 


中日春秋 (2020年7月27日 中日新聞))

2020-07-27 09:10:38 | 桜ヶ丘9条の会

中日春秋

2020年7月27日 中日新聞

 昭和四十年代の実話らしい。ドロボウが家に忍び込んだ。家人に見つからないように隠れていたところ、テレビから坂本九さんが歌う「幸せなら手をたたこう」が聞こえてきた
▼この歌をご存じの方なら分かるだろう。「手をたたこう」の九ちゃんの歌声に続いて、このドロボウ、「ぱん、ぱん」と手拍子を打って、家人に見つかり、御用になったそうだ。立川談志さんが『現代落語論』の中に書いていた。「世知辛い世の中にこんな間が抜けた楽しい奴(やつ)はまたとない」
▼「楽しい奴」とはまったく思わないが、これもいささか間が抜けた話か。東京都府中市の九十代の男性からキャッシュカードをだまし取った二十一歳の男が逮捕された。男の正体が見破られたきっかけは、漢字だったそうだ
▼男は刑事のふりをしていたらしいが、連絡先として渡してきたメモは誤字だらけだった。「刑事」は「形事」。「特殊詐欺防犯係」の「詐欺」という字も書けていない
▼不審に思って通報したというが、それはそうだろう。自分の職業や肩書をきちんと書けない人はいない。九十代の眼力は確かだった
▼妙な人間が訪ねてきても応対しないのが一番だろうが、書き取りも効果があるか。「けいじ」に加えて、「ははおや」という漢字を書けと出題してみたらいい。悪いことをする前に、なにか大切なことを思い出してくれるかもしれない。

 


ダンスをうまく踊る 週のはじめに考える (2020年7月26日 中日新聞))

2020-07-26 10:57:57 | 桜ヶ丘9条の会

ダンスをうまく踊る 週のはじめに考える

2020年7月26日  中日新聞
 うまいことを言う人があるもので、コロナ禍への社会としての対応を二つの段階に分けて曰(いわ)く、ハンマーとダンス(The Hammer and the Dance)と。米国のライターがネット上で書いた記事から知られるようになった言葉だそうで、山中伸弥・京都大iPS細胞研究所長も自身のコロナ関連のサイトで紹介しています。

「ハンマー」の後が大事

 「ハンマー」は、諸外国の都市封鎖、ロックダウンのような厳しい行動制限の段階。わが国の場合は木槌(きづち)ぐらいかもしれませんが、先の緊急事態宣言下の休業要請・外出自粛の時期が当てはまるでしょう。対して、制限を緩めて、経済の回復と感染拡大防止をうまくバランスしながらやっていく時期が、「ダンス」というわけです。やっかいな疫病の動きに柔軟に合わせて動いていく、というイメージでしょうか。
 日本人の特に年配者にとってはダンスは苦手種目のイメージがありますが、もし、自然の脅威との柔軟なつきあい方をそう呼ぶのなら、話は違ってきます。
 俵屋宗達の『風神雷神図屏風(びょうぶ)』は、どこかで一度は目にしたことがあるという人が多いでしょう。
 古来、この国に生きる人を悩ませてきた豪雨や台風など自然の脅威。それを表象するキャラクター
が風神、雷神です。しかし、宗達の両神は奇妙なことに、全然怖く
ない。にやけた、というか、愛嬌(あいきょう)のある顔に描かれています。漫画家の黒鉄ヒロシさんに言わせれば、妙に親しみがあって、まるで落語の「熊さん、八つぁん」。
 ただ怖がるのではなく、戦うというより受け入れて、ともに生きていく。そんな日本人の自然とのつきあい方が表れているのではないか−。それが、Eテレ『日曜美術館』の中で披歴した黒鉄さんの“謎解き”でした。
 毛色は違いますが、コロナも自然の脅威といえば、自然の脅威かもしれません。

Go To トラブル?

 目下、人々は次第に日常を取り戻しつつも、一方で「三密」を避け、できるだけマスクを着け、こまめに手指消毒をしと、それなりに気をつけて暮らしています。いわば、みな、何とかうまくダンスを踊ろうと奮闘しているのです。
 ですが、それを助ける情報を当局が十分に提供できているかというとそうでもない。
 例えば、実際に起きた感染のパターンのようなものを示せないものでしょうか。既に三万人を超える感染例があるのですから、ある程度まで経路を追えて、こうして感染したと推定できるケースは少なくないはずです。
 無論、感染者が特定されるような情報は不要です。Aさんは、既に感染していた人と、こういう場所で、こんな位置関係、これほどの距離で、これぐらいの時間、こういう接触をした結果、感染したようだ、といった類型をマスク着用や換気の有無など含めて、なるべくたくさん、わかりやすく示してもらえないかと思うのです。
 ダンスをうまく踊る、という点で、今、心配なのは国民より、むしろ政府の方です。
 しばらく前、東京で始まった再度の感染拡大は周辺、さらには地方へと広がり、おさまる様子がありません。ところが、そのさなかに、政府は国民に旅行を促す「Go To トラベル」事業を始めてしまいました。
 観光業などの急回復をはかるための施策であり、大打撃の業界を助けること自体異論はありませんが、問題は時期です。本来はコロナ収束後のはずが、いつのまにか今月の四連休前のスタートに決まりました。しかし、東京などでの感染者急増で「延期」を求める声が各方面から澎湃(ほうはい)と。にもかかわらず、政府は「東京発着除外」の一部修正で見切り発車してしまったのです。
 この感染拡大局面で、求められるのは人の移動の抑制。なのに、むしろ移動を促す政策を、しかも多額の税金を投入して打つというのはやはり間尺に合わない。事業が感染を広げる「Go To トラブル」になりかねません。決めたことに固執する姿勢は、柔軟にコロナの動きに合わせていくダンスとはほど遠いものがあります。

緊張と解緊の連続

 最近の感染者の急増ぶりを見ていると、ハンマーの絵が頭にちらつきますが、今のところ政府には緊急事態宣言の再発出の考えはないようです。経済や暮らしへの打撃が大きすぎるという判断でしょう。でも、日本ボールルームダンス連盟のサイトによると、ダンスという英語の語源はdeanteという古ラテン語であり、それ自体、「緊張と解緊の連続」の謂(いい)だといいます。ワクチン到来の時まで、時に締め時に緩め、上手にダンスを踊っていきたいものです。