「辺野古移設は「理不尽」反対言わないと全体主義に(2015年11月24日沖縄タイムス)

2015-11-30 09:04:31 | 桜ヶ丘9条の会
坂本龍一さん、辺野古移設は「理不尽」「反対意見を言わないと全体主義に」
2015年11月24日 沖縄タイムス

 沖縄の女性ボーカルユニットとのコラボレーションシングル「弥勒世果報(みるくゆがふ)-undercooled」を発売した世界的に活躍する音楽家の坂本龍一さん(63)=米ニューヨーク在住=が23日までに、沖縄タイムスの単独インタビューに応じた。政府の辺野古新基地建設について「凶暴なまでに法を無視して強行している。理不尽なことだ」と述べ、あらためて基地建設に反対の姿勢を示した。日本の「平和」や「言論の自由」に関する現状についても「非常に危機的状況」と指摘。「できるだけ明確に反対意見を言わないと、全体主義体制になってしまう」と警鐘を鳴らした。(学芸部・与儀武秀)

» 基地と原発のニュースをフクナワでも

 インタビューは、ニューヨークの坂本さんとインターネット電話サービス「スカイプ」で結んで行った。

 中咽頭がん治療のため、昨年7月から音楽活動を一時休止。今年8月に再開し、古謝美佐子さんらの女性ユニット「うないぐみ」と「弥勒世果報-undercooled」を10月に発売した。その際、「ぼくも、うないぐみの皆さんも、アメリカ軍基地の辺野古移設で沖縄の海と貴重な生態系が壊されることに反対です。この曲の売り上げはコストを除いた全額を辺野古基金に寄付します」とのコメントを出した。

 辺野古基金への寄付について坂本さんは「私が古謝さんに提案し、進めようということになった」と説明。「新たに軍事基地を建設して貴重な自然を壊す。何でそこまでして沖縄が犠牲を払わなければいけないのか。まったく不可解」と、政府の政治姿勢を疑問視した。

 辺野古で続く市民の抗議集会やデモなどについては、新基地建設反対の沖縄の民意を踏まえ「選挙結果もきちんと出ている、世論調査のアンケートでも結果もはっきりしているのにそれを政府が無視するなら、それ以外の他の方法を取らざるを得ないのは当然」と理解を示した。

 
また、辺野古や安保法制の強行採決で「民意と国会や政府がねじれている。民意が反映されない状態で今の日本の民主主義に疑問を抱かざるを得ない」と指摘。「国民の間に空気として自主規制のようなムードが広がっている」「明確な意識を持たないうちに自主規制が広がっているのは大きな問題」として現状への危機感をあらわにした。

【インタビュー詳報】

 -「うないぐみ」とのコラボレーションで10月に発売したシングル「弥勒世果報(みるくゆがふ)-undercooled」の「undercooled」(冷やし足りない)に込められた思いを聞かせてください。

 「ご承知のように9・11の米同時多発テロ後のイラク戦争が始まる時、復讐(ふくしゅう)だという風に米国や世界の人々の頭に血が上り、闘いモードになっている時に、不幸なことだ悲しいことだと思って作った曲です。頭を冷やせよという意味で作りました」

 -楽曲制作でどのような点を意識されましたか。

 「去年の時点でうないぐみの歌はもう録音されていたんですね。僕も参加しようと思っていたら病気が分かり、1年くらい空いてしまって。ことし体調が良くなったので曲を取り出して音を足したわけです。三線と歌で、一つの素晴らしい音楽の世界ができているので、僕が足すのは最小限にしようと。歌を引き立たせる役割として音を足そうということで歌ありきのアレンジになりました」

 「(歌手の)UA(ウーア)さんは沖縄に何年間か住んでいて独特の思い入れがあると思いましたので、何かトークを入れてほしいと思ったんです。お子さんの声まで入ったのはUAさんのアイデアで強いメッセージ、思い入れの強さを感じました。映画でも音楽でも子どもが入るとすべて負けてしまうというか、子どもの勝ちになってしまうわけです(笑)」

■お隣の文化

 -沖縄民謡や沖縄のミュージシャンとの共作を多く手掛けられていますが、沖縄の音楽や文化について感じることは。

 「僕が最初に沖縄の音楽や文化に興味を持ったのはもうずいぶん前になりますが18歳くらいですか。それまでは西洋音楽を勉強していたんですけども、その限界を強く感じて、他の所に目を向け始めたころでした。世界中には無数の素晴らしい民族音楽があり、沖縄やアイヌの音楽など、日本にも多様で素晴らしい音楽があるということに気が付きました」

 「琉球音楽は日本列島の音楽とは大きく違うものですね。民族音楽的な目で学者として調査するならば、琉球音楽は同じ国とは言えないくらい違っています。まず音階が大きく違います。琉球民謡で使う音階に近いものは、遠く何千キロも離れたインドネシアのバリ島にありますけど、世界的に見ても非常にユニークな音階ですね。同じ日本語を話して政治的には日本の一部ですけれども、文化的には全然違う。韓国や中国よりも日本に一番近い、お隣の文化という意識を僕は持っています」

 「古謝美佐子さんたちと1980~90年代にワールドツアーに行って非常に楽しかったんですけど、ヨーロッパやアメリカなどで古謝さんたちが歌ったり踊ったりすると、普通のお客さんは『日本の歌、踊りだ』と思うわけですね。それでステージからは言えませんけど、インタビューを受ける時に『これは日本じゃないんだ。沖縄という独特の文化で日本文化と思ってもらっちゃ困る』と、すごくカッカして(笑)。当時は分からなかったけど、最近だと音楽好きの人は沖縄といえば独特の文化だと分かる人も多くなりました。沖縄の立場に立って日本だと思って誤解されるととても腹が立つというか。僕は日本人ですけど、気持ちはウチナーの気持ちになっちゃって(笑)、すごく腹立たしい気持ちがしたことを覚えています」

 -なぜ沖縄は独特の文化になったと思われますか。

 「ご承知の通り、歴史的に見れば琉球王朝は日本とは違う独立した国を長く保っていたわけで、地理的にも中国と日本の影響を受けているし、南からの影響も大きい。非常に独特だと思います。東アジアの列強の下で非常に苦しい歴史を持っていますし、島々の関係も非常に複雑ですよね。大きいのは、日本は長く鎖国をしていましたが、沖縄は開いていました。さまざまな影響を受けるということは、沖縄が日本以上に世界性や国際性を持つということですから、音楽や踊りも外からの影響を元にユニークな文化ができたと思っています」

 -「弥勒世果報-undercooled」の発表と同時に、坂本さんは「僕も、うないぐみの皆さんも、アメリカ軍基地の辺野古移設で沖縄の海と貴重な生態系が壊されることに反対です。この曲の売り上げはコストを除いた全額を辺野古基金に寄付します」とのコメントを発表しました。寄付の提案は誰がされたんですか。

 「私が古謝さんに提案しました。それで(古謝さんらが)『願ってもない』ということで、そういう風に進めようということになりました」

国民に主権

 -政府が進める現在の辺野古基地建設について、どうお考えですか。

 「僕は法律的なことは全く分からないですが、その素人が見ても日本政府がやっていることは法に基づいておらずそれを無視したやり方だなと思います。逆に損害を被っている沖縄の方が、あくまでも冷静に法律に基づいて手続きを進めているのに、米国にしろ日本にしろ、大きな力を持っている側が凶暴なまでに法を無視して強行しているというのはとても理不尽なことだと思いますね。歴史的に見ても第2次世界大戦で本当に大きな犠牲を払った沖縄ですが、また戦後何十年もアメリカの基地を押し付けられて大きな損害を受けている。沖縄には罪がないのになぜ犠牲を払わなきゃいけないのかということを強く感じます」

 「やっと雪解けが来るのかと思ったら、また新たに軍事基地を建設して貴重な自然を壊す。何でそこまでして沖縄が犠牲を払わなければいけないのか。本土の人間としても全く不可解です。いろんな記事を読むと米軍は、海兵隊は沖縄から出て行きたいけど、止めたのは日本政府だと。防衛ということはあるんでしょうけど。沖縄の貴重な自然を壊してまで米軍に居てもらうことで、そんなに大きなメリットがあるんでしょうかね。よく分かりませんけど全く不可解としか言いようがないですね」

 -世論調査では沖縄県民の約7~8割が辺野古新基地建設に反対。県内主要選挙でも辺野古の基地に反対する候補者がずっと当選していますが、その民意が政治に反映されていません。

 「この夏に注目を集めた安保法制にしても、民意が反映されない民主主義というか疑似民主主義がこのところ目立っていますよね。だけども少なくとも沖縄に関して言えば選挙結果と民意は一致しているわけですね。しかしそれを中央政府は認めない。中央と地方の問題ということになりますが、翻って中央の安保法制を見ると、政府寄りと言われる新聞まで安保法制に反対という民意の方が大きいのに採決を強行してしまった。完全に民意と国会や政府がねじれて、反映されていないという状態です。今の日本の民主主義に疑問を抱かざるを得ない状況が続いていますね」

 -辺野古で続く市民の抗議集会やデモなどの意思表示について。

 「政府がきちんと法律に基づき、民意に基づいて行動してくれるならばそういうことはする必要はないんでしょうけども。先方がそうしないもんだから。選挙結果もきちんと出している、世論調査のアンケートでも結果もはっきりしているのにそれを無視するんだから、それ以外の他の方法を取らざるを得ないというのは当然のことです。民主主義というのは何年に1回ある選挙の1票だけというのは全く間違った考えです。民主というのは国民が主権であるということです。『デモクラシー』の語源をたどれば『デモス』(民衆)の『クラシー』(政治を統べる)ということですから、本来なら『民衆が政治をやる』という意味なんですよ。ですが1億人が寄ってたかってワーワー言っても収拾がつかないので代表制ということになっているわけです。でも、それは現実的にそうせざるを得ないからというあくまで仮の姿であって、本来は民衆一人一人が自分の意見を述べることが本来の民主主義です。だから1人でも10人でも100人でも、意見があれば堂々と言うということは当たり前のことなんです」

■危機的状況

 -ご自身もこれまで原発や安保法制の反対集会に参加するなど、積極的に社会的な発言を繰り返されています。現在の日本で「平和」や「言論の自由」はどのような状況にあると思いますか。

 「非常に危機的な状況にあると思います。昨今、急にそういう記事を目にしますけど、例えば憲法9条の『9』と書かれたTシャツを着ていたら警官に呼び止められたとか、学校で『平和』とか『peace』というタグをかばんに付けていたら先生に注意されたとか。まるで平和とか自由とかいう言葉が悪いかのように。戦前は『社会主義』じゃなくて、ただ『社会』という言葉の付いた本を持っているだけで特別警察とか憲兵が来て捕まえていくというひどい状態だったわけですけど。そんなことにもなりかねないような兆しがもう既に始まっています。これがどこに向かうのか、非常に不安だし、良くない」

 「しかもそれは、誰かが命令してそうさせたのかっていうと、なんとなくなんですよね。安倍首相が一つ一つ命令したわけではないのになんとなくそういう空気が広がっていく。あぁこうやってファシズムって広がっていくんだなと感じます。しかもそれは恐ろしい勢いで短時間に進んでいく。副総理が『ナチスに学べ』と言ったらしいですけども、ナチスがやったことと非常に似ていることが今起きていて、ナチスが全権を取るまでに非常に短期間で、1年以内にやっている。その前段として徐々にだんだん党員を増やしたりということはあるんですけど、いざ始まったらすべての反対意見はシャットアウトする、というファシズム体制が1年以内に築き上げられた。今から来年というのがそうなりかねない状況なので、私は非常に大きな危機感を持っています」

 -6月に自民党の若手勉強会であった一連の報道圧力や百田発言などについて。

 「政府に反対する意見を述べるメディアや個人は全部しょっぴく、あるいは潰(つぶ)してしまうという体制は全体主義ですよね。明確に自民党の人たちがそういう意識を持っているということがはっきりしている。面と向かってそういう体制が好きですか? そうなってほしいですか? と聞けばまだほとんどの人は嫌だ、困ると言うでしょう。ただ、そう単刀直入には聞いてこないで、じわじわと自主規制させるような空気がすでに気が付かないうちに始まっている。自分たちが明確な意識を持たないうちに自主規制が広がっているのは非常に大きな問題です。敏感にそういうことに目を向けてできるだけ明確に反対意見を言わないと、全体主義体制になってしまうでしょうね」

 -県民へメッセージを。

 「これからも沖縄の音楽や文化と親しんでいくと思いますし、久しぶりに今回、古謝さんたちと仕事をして、やはり沖縄、琉球の文化が好きだと思いました。自然を守ると同時に文化も守ってほしいですね。沖縄県がずっと長寿1位だったのに長野県に負けちゃったということがありましたが、これは『食』の変化ですよね。西洋式の食が沖縄に入ってきて伝統的な食を食べる人が少なくなってきたせいかとも思うんですけど。食も大事な文化なので、たまにはハンバーガー食べるのもいいかもしれませんが(笑)、やはり伝統的なものをぜひ守ってほしいですね。一度壊れたら取り戻せませんから。自然と同じですね」(聞き手=学芸部・与儀武秀)

 さかもと・りゅういち 音楽家。1952年生まれ。76年、東京藝術大学大学院修士課程修了。78年、細野晴臣、高橋幸宏とともに「イエロー・マジック・オーケストラ」(YMO)を結成し社会現象となる。YMO「散開」(解散)後、84年に映画「ラスト・エンペラー」でアカデミーオリジナル作曲賞受賞。平和、環境、社会問題でも積極的に発言する。2014年7月に中咽頭がん治療のため活動を一時休止。今年8月に活動を再開した。

平和の祈りと希望届け 菅原文太さん1周忌 妻文子さんが本紙に投稿(2015年11月29日琉球新報)

2015-11-29 08:46:37 | 桜ヶ丘9条の会
平和の祈りと希望届け 菅原文太さん1周忌、妻・文子さんが本紙に寄稿
2015年11月28日 琉球新報

 沖縄に思いを寄せた俳優菅原文太さんが他界して28日で1年。妻で辺野古基金の共同代表を務める菅原文子さんが1周忌に当たり、本紙に寄稿した。
 フランスの悲しみや怒りを世界に届けるメディアは数多くある。彼らの声は大きく、よく響く。悲しみの場所に花束が集まり、ローソクの灯が連なる。その明るさは遠い日本まで届く。ビールやワインを片手に、存分に語り合う自由も、そこにはある。
 しかし、多くの市民たちを殺害し、自らの若い生命もその場に捨てたイスラームの人たちの声を届けるメディアの声は、あまりにも小さい。だから私たちには、世界の半分しか見えていない。半分は明るく、半分は暗い半月を見るようだ。
 欠けた半月の暗闇に生きる人々の声が伝わらない限り、犯人たちの母や妻、きょうだいや子供たちの悲しみと嘆きが聞こえてこない限り、私たちは明るい半分の月が伝えることのすべてが真実なのかどうか、信じて良いのかを決めることはできない。
 半月の暗闇では、パリでそうであったように、倍返しの空爆で殺された人々に花束が積まれているのか、ローソクが惜しみなく燃えているのか、かつて私たちの国の暗い戦争の時代に、妻や母や子が、夫や息子や父の死を悲しみ嘆くことが許されなかったように、半月の片側では今も許されていないのか、有無を言わせず赤紙一枚で戦地に引き立てられていったように、同じように命じられて死んでゆくのか、それらを知ることなしに、安全な場所から明るい半月の片側にだけ花束を捧げることはできない。
 そこにも富と自由が、ここと同じようにあるなら裁きのつけようもあるが、富も自由も乏しいなら、私たちはそれを痛み、悲しむことしかできない。アジアの辺境の島国から届けるのは爆音ではなく、平和への願いと祈りであり、それを力強いものにするために戦っている者たちが少しでもいるという希望だけだ。
 大国の軍需産業の強欲の前に、世界の理性と叡智(えいち)は声もなく色褪(いろあ)せる。テロに軍事力で臨む時、その爆音の大きさに大義は吹き飛び、憎悪と復讐(ふくしゅう)の灰が地にも心にも積もり続ける。




実戦負傷、備え先行 自衛隊病院、新設計画(2015年11月27日中日新聞)

2015-11-27 09:07:41 | 桜ヶ丘9条の会
実戦負傷、備え先行 自衛隊病院、新設計画 

2015/11/27 中日新聞

 海外での戦闘参加に道を開いた安保関連法の成立と前後し、自衛隊の医療・衛生態勢が強化されている。埼玉県入間市の国有地には航空自衛隊の自衛隊病院の新設計画が浮上した。心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのメンタル対策や、感染症への準備も進む。足元では実戦に備えた動きが急ピッチで進んでいる。

 「見事でしょう。いずれ自然公園として、市民に戻ってくると楽しみにしていたのですが…」。埼玉県入間市の元市議、山下修子さん(70)はそう話す。

 入間市と同県狭山市にまたがる空自入間基地。南端にある入間市の二十八ヘクタールの国有地に空自の自衛隊病院建設計画が浮上している。西隣の「彩の森入間公園」からフェンス越しに、モミの巨木や美しく紅葉した雑木林が見えた。

 一帯は戦中、旧陸軍の航空士官学校だった。戦後は米軍基地となり、一九七八年までに全面返還。大半は空自基地となったが、米軍の住宅があったこの一角は放置されていた。

 二〇〇三年、国は同市に利用計画策定を要請。同市は〇八年、「緑地を主体とした公園が望ましい」との基本方針を示すと同時に、「自然と調和したまちづくり」を目指し、環境基本条例も制定した。市民はいずれ公園になると考えた。

◆公園化計画押しのけて

 ところが昨年九月、防衛省からの病院建設の申し入れがあった。「大規模災害等への対応拠点」をうたっていたが、山下さんは「隣の彩の森入間公園が避難・防災拠点として整備済みなのでまやかし。なぜ、いま市民が受診できない病院を新設するのか。安保関連法が成立し、自衛隊員が負傷したり、感染症にかかるケースが増えかねない。それを見越した措置では」と懸念する。

 市の審議会は今年八月、市民が敷地内の運動場を限定的に使えることなどを評価、計画容認の答申を出した。これを受け、田中龍夫市長は九月、受け入れの意向を示した。病院は六十床程度で、教育棟が併設されるという。

 これに対し、同市内の市民団体などは計画容認は市の基本計画や条例に反するとして、「ストップ入間基地拡張!市民の会」を設立。同会は二十六日、七千九百人分の署名を集め、病院の建設計画に反対し、自然公園化を求める請願を市議会に提出した。山下さんは「自衛隊の土地は戦中、旧日本軍が住民から接収したもの。市民に返すべきものだ」と訴える。

 市民の会に参加した団体の一つ「平和の声 行動ネットワーク入間」の石毛拓郎代表(69)は「防衛省は海外で負傷した隊員をいったん運ぶ拠点にしたいのだろう。だが、基地の周囲は学校など文教施設が集中している。傷病隊員を乗せたオスプレイが頻繁に飛来するような事態になれば、事故の危険性も増す」と心配する。

 一般の市民に自衛隊病院はなじみが薄い。自衛隊法などによれば、隊員や家族らの診療のほか、診療や看護に携わる隊員の養成、医療関連の調査研究を進める場とされている。陸海空の各自衛隊が設けており、全国に計十六カ所ある。

 防衛省は〇九年、自衛隊病院のあり方に関する報告書をまとめている。そこでは「弾道ミサイル攻撃やゲリラ、国際平和協力活動、テロへの対応などで自衛隊の任務が多様化」したことに伴い、「人的戦闘力」を維持・増進する自衛隊の衛生機能の強化を提言する。

 医官らの臨床体験を増やすべく一部の病院で実施されていた一般患者の受け入れ拡充を挙げたほか、特性を明確にした形での自衛隊病院の整理・統合、新たな病院の設置を求めた。いま、入間で問題となっている計画はこれだ。

◆安保関連法成立前から

 この報告書には、安保関連法成立を先取りしたような記述もある。例えば、メンタルヘルスの問題だ。

 インド洋での給油活動やイラク復興活動支援に派遣された自衛隊員のうち、五十六人が在職中に自殺している。報告書ではメンタルヘルス対策の重要性を認め、自衛隊病院などに専門家を派遣することなどを提案している。

 実戦部隊化に備えた動きはそれだけではない。例えば、陸自は〇一年に「生物兵器対策」という名目で、「部隊医学実験隊」を新設している。活動内容は機密性が高く、見えにくい。

 ただ、一般財団法人・防衛技術協会の専門誌「防衛技術ジャーナル」の一〇年九月号は、この実験隊がコンピューター断層撮影(CT)装置を搭載した大型トラックを導入したことや、放射線や爆風が人体に及ぼす研究などを進めていることなどを報じている。

 防衛技術協会が防衛省と近い関係にありながらも、執筆者は「(取材する前まで)海上自衛隊の潜水医学実験隊は聞いたことがあったが(中略)陸海空それぞれに医学実験隊があったとは、恥ずかしながらまったく承知していなかった」と記しており、その機密性の高さがうかがえる。

 このように医療・衛生面からも、安保関連法成立前から、自衛隊の実戦部隊化の進行が垣間見えるが、同法成立により、目に見える変化も出てきている。

 防衛省は四月から、有事の最前線で自衛隊員が負傷者を救護する上での課題を扱う有識者会議を開催する。さらに来年度予算の概算要求では感染症対策の人材育成費を計上。これはアフリカなどでの活動拡大を踏まえた対応とみられる。

 陸自のレンジャー隊員だった井筒高雄さんは「安倍政権は戦争に手を染めようと、前のめりで準備を加速させている」とみる。一方、入間市の山下さんは「戦中、入間周辺には旧陸軍の狭山飛行場など軍事拠点が多数あった。戦災で死亡した人の多くは、その周辺に集中している。入間基地には地対空誘導弾パトリオット(PAC3)も配備され、戦争になれば標的になる可能性が高い」と不安げな表情を見せた。

 (榊原崇仁、三沢典丈)

フリーター激増、非正規4割 その先は下流中年(2015年11月26日中日新聞)

2015-11-26 09:17:14 | 桜ヶ丘9条の会
フリーター激増、非正規4割 その先は下流中年 

2015/11/26 中日新聞朝刊

「下流中年」の増加は社会全体に大きな悪影響を及ぼす=東京都千代田区で(本文と関係ありません)
 パートや派遣社員など非正規社員の割合が初めて労働者の4割に達した。中でも深刻なのは、就職氷河期世代などで「中年フリーター」とも呼ばれる人たちが激増していることだ。低賃金で社会保険に未加入の人も多く、生活が破綻すれば、一気に「下流中年」となる恐れもある。生活困窮者層の増大は、社会全体にツケとなって跳ね返る。

◆背景に氷河期の就職、リストラ

 厚生労働省が今月四日に発表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」。パートや契約社員、派遣社員など正社員以外の労働者の割合は40・0%(昨年十月一日時点)で、一九八七(昭和六十二)年の調査開始以来、初めて四割に達した。

 パートの増加などの要因もあるが、とりわけ深刻な問題となりつつあるのは、働き盛りの世代で非正規社員が急増していることだ。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの推計によると、三十五~五十四歳の非正規雇用の職員・従業員(学生と既婚女性を除く)が、二〇〇〇年の百六万人から一五年は二百七十三万人に増加。これらのいわゆる「中年フリーター」は非正規の一割以上を占める。

 九〇年代後半から〇〇年代前半の「就職氷河期」に学校を卒業したが、就職口がなく、正社員になれないままずっと非正規でやってきた人たちが、続々と四十代を迎えている。

 もともとは正規で働いていたものの、〇八年のリーマン・ショック後の不景気でリストラされたことをきっかけに非正規に変わらざるを得なかった人もいる。

 正社員と非正規社員の収入の差は歴然としている。厚労省の「賃金構造基本統計調査」(一四年)によると、二十~二十四歳では正社員が月額二十万二千四百円で、非正規は十七万百円とその差は三万円ほど。

◆年齢上がるほど広がる格差

 だが、年齢が上がるにつれ格差は拡大。五十~五十四歳では、正社員は三十九万八千七百円なのに対し、非正規が十九万七千円と差は二倍にまで広がる。非正規は年を重ねても給与の上昇は見込めない。

 非正規にとっては、アベノミクスが目指す賃上げの恩恵も薄い。厚労省の毎月勤労統計調査(確報、従業員五人以上の事業所)では、一四年度の正社員などフルタイムで働く一般労働者の給与総額が前年度比1・0%増だったのに対し、パートタイム労働者は0・4%増にとどまった。

 社会保障に目を向けても、非正規では雇用保険の加入こそ七割近くあるが、健康保険や厚生年金の加入は五割強にとどまる。低賃金で貯金もない状態で、病気や事故、親の介護など不測の事態が起きた場合、一気に生活の困窮に陥る恐れがある。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平研究員は「年齢が上がるほど非正規から正規に転じるチャンスは少なくなっていく」と中年フリーターの厳しい現実を指摘。「企業はコストが低い非正規社員を増やしたい。今後も非正規社員の増加が緩やかになることはあっても、減ることはないだろう」とみる。

 現時点で正社員の立場にいる人も人ごとではない。「今のところは景気がいいが、いったん景気が悪くなると再びリストラなどが起こり、非正規に転じざるを得ない人が出てくる。いったん非正規になれば、なかなか正社員には戻れない」

 「下流老人」の著書がある藤田孝典・聖学院大客員准教授は「いわば『下流中年』で、下流老人の予備軍とも言える。深刻な状況だ」と危ぶむ。

◆消費低迷、少子化…負の連鎖に

 NPO法人・ほっとプラスの代表理事でもある藤田准教授はこれまで、中年フリーターらの悩みにも耳を傾けてきた。結婚して家を買い、子どもを持つといった「これまでの日本社会で普通だったことが享受できなくなった」ことから、自分はダメなんだと思い込み、うつ病になったり自殺したりするケースがあったという。

 就職氷河期に卒業時期を迎えて正社員から漏れ、そのまま中年フリーターとなった人たち。田中俊之・武蔵大助教(男性学)は「ここ二十年、いずれ景気が良くなれば正社員の道もあるだろうと考えられてきた。でもいつまでたっても景気は回復せず、いつの間にかフリーターが中年世代に入ってしまったのが現状」と説明する。

 九月に施行された改正労働者派遣法では、これまで派遣期間に上限がなかった専門職二十六業務が撤廃された。派遣期間の上限は一律三年となり、企業は三年ごとに人を入れ替えれば、無制限に派遣社員を使えるようになった。

 派遣法では、派遣会社に対し、派遣先に直接雇用の依頼をすることなどが義務付けられたが、あくまで「お願い」ベース。直接雇用してくれる保証はない。

 藤田准教授は「改正派遣法により、生涯派遣でしか生きられない人は確実に増える」とみる。

 働き盛りの世代で、非正規が増大すれば、どうなるか。消費は落ち込み、景気はいつまでたっても上向かない。結婚したくてもできないから少子化も進む。生活保護を受けざるを得ない人も増えるだろう。社会全体が大きな悪影響を受ける。

 藤田准教授は「結果的に国民の税負担は増すばかりで、そのツケは未来の若い世代が負うことになる」と警告する。

 ではどのような対策が求められるのか。大内裕和・中京大教授(教育学)は「日本の企業は、高校や大学を卒業する際に新規一括採用する土壌が根づいており、中途入社のハードルが高い。これをあらためるべきだ」と指摘する。

 安倍晋三首相は二十四日、最低賃金を年3%をめどに引き上げるよう指示、将来的には千円を目指すと表明したが、大内教授は「千五百円程度まで引き上げるべきだ」とする。

 大内教授は「政府は規制の強化によって、非正規の増加に歯止めをかけなければいけない」と指摘する。「社会保険への加入を促し、自立を可能にする社会的条件を整えることが重要だ」と提案する。

 九月に同一労働同一賃金推進法が成立したが、浸透するかは不透明だ。

 藤田准教授は「国は将来の税負担を増やさないための先行投資と考え、たとえ低賃金でも暮らせる仕組みづくりを考える必要がある。住宅の家賃補助や医療費の窓口負担の無償化など、やれることはいくらでもある。十年、二十年後に下流老人を生み出してからでは遅い」と話した。

(木村留美、池田悌一)

集団的自衛権 容認の正当性が揺らぐ

2015-11-25 09:28:35 | 桜ヶ丘9条の会

集団的自衛権 容認の正当性が揺らぐ
2015年11月25日(水)付朝日新聞

 政府の憲法解釈の正当性をいっそう揺るがす事実が、明らかになった。

 政府解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた昨年7月の閣議決定について、内閣法制局が内部での議論の過程を文書に残していなかった。朝日新聞の情報公開請求に対し、該当文書が示されなかったのだ。

 先の国会で、日本の安全保障政策の歴史的転換となる安保法制が成立した。そのもととなった閣議決定を法的に問題なしとしたのが内閣法制局だ。

 そこにいたる経緯が文書に残されていなかった事実は重い。解釈変更が妥当だったのかどうか、主権者である国民が検証できないことになるからだ。

 公文書管理法は、行政機関が意思決定にいたる過程を合理的に跡づけ、検証することができるよう、文書の作成と保管を義務づけている。「事案が軽微なもの」は除かれているが、憲法解釈の変更がこれにあたるとはとうてい思えない。

 解釈変更にあたって内部議論をしていたことは、横畠裕介法制局長官自身が国会答弁で認めている。あえて記録を残さなかったとすれば、国民に対する説明責任の放棄であり、歴史への背信と言われても仕方がない。

 さらに重大なのは、法制局内で本当に詳細な法的検討がなされたのか、あるいは政府内における「法の番人」として機能したのか、という疑問だ。

 集団的自衛権は保有しているが行使できないとの政府解釈は、長年の政府内での議論や国会での質疑によって積み重ねられてきた。だから政府は「行使を認めたいのであれば、憲法改正という手段をとらざるをえない」と説明してきた。

 これを政府の解釈変更で可能だと一変させる閣議決定にむけては、自民、公明による与党協議と、一部の与党幹部と法制局長官ら官僚による水面下での協議が並行して進められていたことが明らかになっている。

 解釈変更が法制局による組織的な検討を離れ、一握りの政治家らと長官の手で実質的に進められていたのなら、法制局の存在意義そのものが問われる。

 今後の政府の意思決定においても、法的妥当性よりも政治的要請が優先されてしまう前例を残すことになりかねない。

 限定的な集団的自衛権の行使は認められるとの政府の説明は、安保法制が成立したいまもなお、多くの国民の納得をえられたとは言い難い。

 政府は事実関係を国民に説明する責任があるし、国会は一連の経緯を詳細に検証すべきだ。