辺野古基地問題 法治国の否定に等しい(2018年10月31日中日新聞)

2018-10-31 08:54:39 | 桜ヶ丘9条の会
辺野古基地問題 法治国の否定に等しい 

2018/10/31 中日新聞
 法治国の否定に等しい政府内の自作自演に失望する。沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設を巡り、国土交通相は県の承認撤回の効力を停止。工事再開を認めた。民意尊重の誠意こそ必要なのに。

 国交相のきのうの決定は、沖縄防衛局が行政不服審査法(行審法)に基づき行った申し立てを有効とした点でまずおかしい。

 行審法は、国民の権利利益の救済を目的とする。防衛局は国民、つまり私人なのか。

 防衛局は、仲井真弘多元知事から民間の事業者と同じ手続きで沿岸の埋め立て承認を得たことなどを挙げ私人と同じと言うが、新基地建設は閣議決定に基づき行う。私人という強弁が通じるはずがない。

 翁長雄志前知事が二〇一五年に承認の取り消しをした際にも同じ論理で申し立てが行われ、国交相が認めた。しかし、その後の改正行審法施行で、私人とは異なる法的地位「固有の資格」にある国の機関への処分は法の適用外になった。行政法学者らは、今回の申し立ては違法だと批判する。

 効力停止は、防衛局が同時に行った撤回取り消しの訴え(審査請求)の結論が出るまでの緊急避難ともいうが、これも無理がある。

 防衛局は、工事中断で現場の維持管理に一日二千万円かかっているほか、米軍普天間飛行場の返還が進まず日米間の信頼も失うと強調し、国交相も追認した。

 だが、前回の承認取り消し時に防衛省は即刻対抗措置を講じたのに、今回は撤回から申し立てまで一カ月半かかった。県知事選への影響を避けようとしたためで緊急性の主張は説得力を欠く。

 承認撤回は、知事選などで何度も示された辺野古反対の民意を無視して工事が強行された結果だ。普天間の危険性除去や日米同盟の信頼性維持も責任は国側にある。

 却下が相当にもかかわらず、国交相は早期の工事再開を図る国のシナリオ通りに判断した。公平性も何もない、制度の乱用である。

 沖縄では二十六日、埋め立ての賛否を問う県民投票条例が成立し来春までに実施される見込みだ。防衛局は今後、埋め立ての土砂投入に踏み切り、基地建設は後戻りできないとの印象を広めるつもりだろうが、県との対立は決定的となる。

 政府にはその前にもう一度、県側との話し合いを望む。

 法治主義を軽んじてまで基地建設に突き進み、何が得られるのか。日米同盟のために沖縄の民意を踏みにじっていいはずがない。


核兵器禁止条約の発効を見据え、日本政府の課題と宗教者の役割を考える(2018年10月29日法学館法学研究所今週の一事)

2018-10-30 08:59:14 | 桜ヶ丘9条の会
今週の一言

核兵器禁止条約の発効を見据え、日本政府の課題と宗教者の役割を考える 
2018年10月29日



神谷 昌道さん(立正佼成会軍縮問題アドバイザー)

核兵器禁止条約とは
 2017年7月7日、国連で開催された交渉会議において、核兵器禁止条約(以下、核禁条約)が122カ国の賛成を得て採択されました。赤十字国際委員会のケレンベルガー総裁(当時)による「核の時代に終止符を」と題する声明※1をきっかけに展開した「人道的アプローチ」による様々な取組みを経ての歴史的成果でした。
 過去の「対人地雷禁止条約」や「クラスター弾に関する条約」の制定プロセスで見られたように、核禁条約採択への道のりでは、政府のみならず非政府機関(NGO)など市民社会が大きな役割を果たしました※2。その証左と言えましょうが、核禁条約前文の最終段落では「公共の良心の役割」が強調され、国連や主要政府やNGOはじめ、宗教指導者、議員、学術研究者、および被爆者などによるこれまでの努力が評価されています。
 生物兵器、化学兵器、そして核兵器を「大量破壊兵器」と呼びますが※3、前者2兵器に関してはすでに禁止条約が存在する一方※4、核兵器を法的に禁止する条約はこれまでなく、核禁条約が、核兵器を全面的に禁止した初めての条約となりました。
 核禁条約は、幅広い禁止条項を含んでいます。条約第1条は、核兵器の「開発」、「実験」、「生産」、「製造」、「取得」、「保有」、又は「貯蔵」だけでなく、核兵器の管理を「移譲」、「受領」、さらには「使用」や「使用するとの威嚇」を禁じています。全20条からなる同条約はさらに、核兵器保有の申告や保障措置、全面廃絶に向けた措置、国内の実施措置のほか、被害者に対する援助および環境の回復、国際協力のあり方などを条文化しています。

核禁条約に対する日本政府の対応
 核禁条約が採択された当時の報道などでご承知の方もあるかと思いますが、日本政府代表は、交渉会議の第1回会期の初日に登壇し※5、条約交渉に加わらないことを宣言して、その後の条約交渉に加わりませんでした。岸田文雄外務大臣(当時)は、「核兵器禁止条約の交渉会議は、核兵器国と非核兵器国の対立を一層深めるという意味で、逆効果にもなりかねない」と不参加の理由を語りましたが※6、広島と長崎の被爆者をはじめ、核廃絶プロセスにおいて日本が指導的役割を担うべきであると願う人々からは、批判を浴びました。
 他方、北大西洋条約機構(NATO)の枠内で「核のカサ」を享受するオランダは、あえて交渉会議に参加し、条約採択の場では唯一の反対票を投じました。米国の「核のカサ」に依存する両国でありながら、なぜ日本政府がオランダ政府のような対応が出来なかったかについても、疑問が呈されました※7。

日本政府が取り組むべき3つの課題
 「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)関係者によれば、2019年末頃に同条約が発効する見込みであるとのことです※8。条約発効を近い将来に見据え、かつ、日本の安全保障にとって喫緊の課題とされる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核問題、さらには、福島第一原発事故から学ぶべき教訓をも照らし合わせて考えてみると、核のない世界を創造するために、日本が率先して取り組むべき3つの課題が浮かび上がります。
 第1は、現下の政府方針を転換して核禁条約に署名し、批准手続きを進めることです。核兵器による威嚇や使用の脅威から逃れるためには、核兵器を廃絶することが最善の選択肢であるという主張には説得力があります。
 第2は、「核のカサ」に頼らない安全保障政策を検討することです。その答えの1つが、北東アジア非核兵器地帯構想です。自らが米国の核のカサに守られている中で、北朝鮮にのみ核兵器の放棄を要求することは矛盾しています。北朝鮮に核兵器の放棄を求めるに際して、自らもまた核兵器に頼らない姿勢を示すことが、北朝鮮の非核化を促すのみならず、北東アジア全体の非核化実現に貢献するのです。
 そして第3は、日本が保有する47トンもの余剰プルトニウムの削減に取り組むことです。一部を国際的な管理に委ねることも一案でしょう。併せて、核燃料サイクルの方針を再考し、脱原発を推進していくことも検討される必要があります。日本が所有する余剰プルトニウムに対して、国際社会は不安を抱いています※9。また、限られた国土しか有しない日本にとって、原発の運転から出る放射性廃棄物(核のごみ)の処理は、将来の世代にとって大きな負担であり、環境保護の観点から潜在的な脅威でもあります。

実現可能な核兵器の廃絶
 世の中には、「核兵器のない世界を造ることはとてもできそうにない」と思っておられる方が多いかもしれません。しかし私は、「その目標を達成することは、あながち不可能なことではない」と申し上げたいと思います。一つ、具体例を挙げます。1980年代半ばにかけての米ソによる東西冷戦の最中、世界には7万発を越える核兵器が存在していました。しかし1986年10月、米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長がアイスランドの首都レイキャビクで首脳会談を行ったことを契機に、人々の想像を超えた核軍縮の動きが加速していったのです。今や、現存する核兵器の数は14,450発と見込まれています※10。この例が示しているのは、国際政治に影響力のある指導者の決断一つで、大きな成果が生み出されるということです。核兵器の廃絶は、決して夢物語ではありません。
 鍵になるのは、政治指導者による「戦争の文化」から「平和の文化」への改心です。国連教育科学文化機関(ユネスコ)憲章の前文に、「戦争は人の心の中に生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とあります。立正佼成会の庭野日敬開祖は、1978年6月に国連で開催された「国連軍縮特別総会」で、米国のカーター大統領とソ連のブレジネフ書記長(共に当時)に対して「危険を冒してまでも武装するより、むしろ平和のために危険を冒すべきである」と訴えました。核廃絶の問題がいかに複雑な問題でも、究極的には、心の問題であり倫理的な決断に委ねられているのです。核兵器を発明したのが人間であるならば、人間は、それを廃絶することもできるのです。私たちは、人類に内在する本質的な「人間性」に訴え続けなければなりません※11。

核兵器に対する宗教者の共通認識
 核兵器による威嚇またはその使用が国際法に反するかどうかについて、国際司法裁判所が「勧告的意見※12」において、「核兵器の威嚇または使用は(中略)国際法の諸規則に一般的には違反するであろう」と述べてから20周年を記念して、2016年8月に、世界宗教者平和会議(レリジョンズ・フォー・ピース)国際委員会が、東京の国連大学を会場に国際シンポジウムを開催しました。そのシンポジウムには、世界11カ国の宗教指導者はじめ、被爆(曝)者、学者、政治家、NGO関係者、報道関係者、高校生らが出席しました。そこで採択された最終声明文の中に、「核兵器の使用を正当化する道徳、宗教あるいは法律における適法な議論は成り立たず、核兵器の使用は、これまで数世紀にわたって積み上げられてきた国際法と人道法のすべての諸原則に反するということに、私たちは合意した。無差別性を有する大量破壊兵器である核兵器は、本来的に邪悪である。したがって、核兵器の開発ならびに保有さえも道義的に反している」という文言が盛り込まれました。簡潔に言えば、核兵器の存在そのものが、宗教教理に反し、非正当であり、非人道的であり、かつ邪悪であるということです。こうした考え方は、世界の宗教者の共通認識であろうと思います。

日本の宗教者の役割
 「核廃絶は実現可能である」という強い信念のもと、日本の宗教者は何ができるのか、いくつか愚案を列挙させていただきます。
1.日本政府に対して:
 1)核禁条約への署名と批准を訴える。
 2)「核のカサ」から脱却し、北東アジア非核兵器地帯構想が進展するよう働きかける。
2. 世論に対して:
 1)「ヒバクシャ国際署名※13」への協力を求める。
 2)「北東アジア非核兵器地帯の設置を求める宗教者キャンペーン※14」への協力を要請する。
3.宗教者に対して:
 1)核廃絶をいのちの尊厳という視点からとらえ、その必要性を会員・信徒と語る。
 2)宗教施設や礼拝所を「非核兵器地帯」と宣言して、非核化運動を後押しする。
 3) 宗教界において、宗教協力を通じた核廃絶プログラムの企画・実施に取り組む。
 4)核兵器の廃絶に向けて、宗教界の枠を越えて幅広く市民社会と協働する。

 最後に、本年8月6日の広島平和記念式典で、子供代表が世界に発信した「平和への誓い」の一節を紹介して、本稿を閉じたいと思います。式典の中で彼らは、「平和をつくることは、難しいことではありません。私たちは無力ではないのです」と語りました。将来を担う子供たちの期待に応えるためにも、私たちは、人間に本質的に具わっている善なる力を信じて、核兵器のない世界を創造するために共に歩んでまいりたいと思います。



※1 この声明に関しては、同委員会ウェブサイト参照。
※2 そのリーダー的存在だったのが、2017年度ノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)だった。
※3 厳密に言えば、生物兵器・化学兵器・核兵器以外でも、それらと同様の破壊効果を有する兵器も大量破壊兵器の定義に含まれる。
※4 生物兵器禁止条約は1972年4月署名、1975年3月発効。化学兵器禁止条約は1993年1月署名、1997年4月発効。
※5 2017年3月27日に高見澤将林軍縮大使(当時)が演説。
※6 2017年6月16日、官邸エントランスホールでの外務大臣会見での発言。
※7 オランダも当初は交渉会議への出席に躊躇していたものの、国内世論に圧されて出席を決断したとされる。この点に、オランダの市民社会と日本の市民社会の政府に対 する影響力の違いが看取される。
※8 核禁条約第15条で、「50カ国目の批准書が寄託された90日後に条約が発効する」と規定されている。
※9 この保有プルトニウムで、約6,000発の核爆弾が製造できるとされている。
※10 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)が、2018年6月1日に公表した数字。
※11 核廃絶と戦争の防止を人間性に訴えた好例として、1955年7月の「ラッセル・アインシュタイン宣言」が挙げられる。"Remember your humanity,…(あなた方の人間性 を思い起こしてほしい)"は印象深い一節。
※12 「勧告的意見」の公表は、1996年7月8日だった。
※13 2020年までの核禁条約の発効ならびに核廃絶を目指して、広島と長崎のヒバクシャが中心となってすすめる国際的な署名活動。
※14 世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会とNPO法人ピース・デポが協力して、2016年2月に発足させた国内キャンペーン。

◆神谷昌道(かみや まさみち)さんのプロフィール

1957年神奈川県生まれ。1981年立正佼成会奉職。1987年米国タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。1998年10月から2002年3月まで、広島市立大学広島平和研究所・特別研究員として、核軍縮の政策提言に携わる。現在は、立正佼成会軍縮問題アドバイザー。共著に『21世紀の核軍縮−広島からの発信』(法律文化社)がある。



首相の改憲発言 国会では控えるべきだ(2018年10月30日中日新聞)

2018-10-30 08:46:41 | 桜ヶ丘9条の会
首相の改憲発言 国会では控えるべきだ 

2018/10/30 中日新聞
 国会の場では憲法改正の内容についての発言は差し控えると言いながら、お尋ねですのでと自説をとうとうと述べる。安倍晋三首相は、憲法を尊重し、擁護する義務を軽視しているのではないか。

 首相の所信表明演説に対する各党代表質問がきのう始まった。今年、日本各地を襲った災害からの復旧・復興に向けた二〇一八年度補正予算案はもちろん、首相が今の臨時国会に自民党案を示す意欲を示した憲法改正や安倍内閣が来年四月からの対象拡大を目指す外国人労働者の受け入れ問題が主要な論点である。

 冒頭、質問に立った枝野幸男立憲民主党代表は、首相が「国の理想を語るものは憲法」と述べたことを「憲法の本質は国家権力を縛ることにある。縛られる側の中心にいる首相が先頭に立って旗を振るのは論外だ」と批判した。

 首相は改憲を巡る枝野氏の指摘には答えず、続く稲田朋美自民党筆頭副幹事長の質問に「首相としてこの場で答えることは控える」としながら「お尋ねですので、自民党総裁として一石を投じた考えの一端を申し上げる」として、自衛隊の合憲性には依然、議論があり、自衛隊の存在を明文化することは政治家の責任だ、と述べた。

 国民を代表する一国会議員としては、憲法改正の要不要について自らの見解を国会の場で表明することは認められるべきだろう。

 しかし、首相は今、自民党の国会議員、党総裁であると同時に、行政府の長たる総理大臣だ。「憲法を尊重し擁護する義務を負う」と定める憲法九九条の規定を軽んじ、自らの権力を縛る憲法の改正を安易に主張すべきではない。

 議員と首相との厳密な使い分けは難しいとしても、首相として答弁に立っている以上、たとえ質問されても、改憲に関する発言は控えるべきではなかったか。自民党の歴代総理・総裁がなぜ改憲に関する発言を慎んできたのか、首相は思いを巡らせるべきだろう。

 そもそもなぜ枝野氏の指摘には答えず、身内の自民党議員の質問に答えたのか。これでは稲田氏の質問は首相が国会で改憲意欲を重ねて表明するための振り付けと指摘されても仕方あるまい。

 首相は所信表明演説で、在任期間の「長さゆえの慢心はないか」と自問したが、首相の立場で国会で堂々と改憲を主張するのは長期政権ゆえの緩みにほかならない。

 首相の改憲発言は憲法に反するのでは、という国民の指摘や疑問にも真摯(しんし)に向き合うべきである。

核廃絶と日本 被爆国の責務がある(2018年10月29日中日新聞)

2018-10-29 09:28:26 | 桜ヶ丘9条の会
核廃絶と日本 被爆国の責務がある 

2018/10/29 中日新聞
 米国の核廃棄条約の破棄方針で、新たな軍拡競争への懸念が広がっている。唯一の戦争被爆国である日本は、この事態を静観するだけでなく、核兵器なき世界を実現するため、積極的に動くべきだ。

 トランプ米大統領が旧ソ連との中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱する方針を示したことをめぐり、来月、米ロ首脳会談が開かれる見通しとなっている。

 本当に米国が離脱し、条約が破棄されれば、米ロの核秩序が崩れる。さらに、中国も巻き込んだ核開発競争に発展する危険もある。もちろん、日本を含む北東アジアの安全保障への影響も、避けられないだろう。

 しかし、日本政府の対応は鈍い。菅義偉(すがよしひで)官房長官は会見で、破棄方針について「望ましくない」と語ったものの、トランプ大統領を説得する姿勢は見せず、あいまいな物言いに終始した。

 そもそも日本政府は、核廃絶に向けて、核保有国と非保有国との「橋渡し役」を果たすと、繰り返し表明してきたはずだ。

 安倍晋三首相は、トランプ大統領、ロシアのプーチン大統領とも近い関係だ。中国の習近平国家主席とも二十六日に会談したばかり。関係国の調整役になれる立場だが、動きは見えない。

 日本政府が二十五年続けて国連に提出した核兵器廃絶決議案も、国際社会にアピールしていない。

 米国など核保有国の賛同を得るため、核兵器を法的に禁止する核兵器禁止条約(昨年七月、国連で採択)に触れていないためだ。核兵器の非人道性に関する表現も、従来より弱めている。

 昨年も核兵器の非人道性に関する表現を弱めており、賛成は前年の百六十七カ国から百四十四カ国に減少してしまった。

 日本の決議案は来月上旬に委員会通過後、十二月上旬に総会で採択されるが、今年も、幅広い賛成を得るのは難しいだろう。

 確かに日本は米国の「核の傘」に入っている。それでも安倍首相は八月上旬、長崎、広島での平和祈念の式典で「『核兵器のない世界』の実現に向けて粘り強く努力を重ねることは、わが国の使命だ」と明言していたはずだ。

 一方、核廃絶を目指す核兵器禁止条約は、少しずつ批准国を増やしている。二〇一九年後半には、発効に必要な五十カ国・地域に達するとの見通しもある。

 日本政府は、この条約への参加も含め、核廃絶への断固とした姿勢を示し、責務を果たすべきだ。

今度は何が燃えるのか 週のはじめに考える(2018年10月28日中日新聞)

2018-10-28 09:39:33 | 桜ヶ丘9条の会
今度は何が燃えるのか 週のはじめに考える 

2018/10/28 中日新聞
 119は、日本ではピンチの時にすがる数字でしょう。しかし、現代国際政治でみると、世界をピンチへと追いやる数字かも、という気がしてきます。

 来月公開される米国のマイケル・ムーア監督の新作は『華氏119』。あの同時多発テロ後のブッシュ(子)政権を痛撃した『華氏911』でカンヌ国際映画祭最高賞を得たムーア氏が、今度はトランプ大統領をやり玉にあげます。119は、かの人が大統領選で勝利宣言した「11月9日」の謂(いい)。

『華氏119』


 大統領就任後、トランプ氏がやったことを一言で言えば、「離脱(withdraw)」でしょうか。安倍政権が熱心な環太平洋連携協定(TPP)、地球温暖化防止の国際ルール・パリ協定、核兵器開発を停止させたイラン核合意、国連教育科学文化機関(ユネスコ)、国連人権理事会、最近では、ソ連時代に結ばれた中距離核戦力(INF)廃棄条約…。

 この調子だと、国連本体からも離脱すると言い出しかねません。

 ミスター・ウィズドローは何であれ、自国や自分の直接利益にならぬことで他国を助けたり、協力したりするのが気に入らぬようです。「アメリカ・ファースト」とは即(すなわ)ち「自分だけよければ」なのでしょう。

 各国は相互に依存しているのだから、全体のシステムに奉仕せねばならず、どの国であれ他国に対して責任がある。いわば、米国が米国でいられるのは他国のおかげ。それが分からないとしたら笑止です。

 また、この人の「離脱」は多くの場合、「自分の気に入るような見直しがなされないので(あれば)」離脱、という論法です。

 最も「らしさ」があらわれたのは、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への援助停止でしょう。約三割を占める米国の負担金がなければ、パレスチナの子らの教育や健康に人道的危機が広がる恐れが強い。イスラエルが大喜びするような、到底無理な譲歩をパレスチナに迫る圧力なのです。刃物をつきつけ「言うことを聞け」と脅しているようなもの、といえば言いすぎでしょうか。

 
ユダヤ人層の票や資金が魅力でもあるのでしょう、無論、過去の米政権にも、イスラエルへの肩入れがなかったとは言いません。しかし、まだギリギリ、双方の仲介役足り得る程度の慎みはあった。トランプ氏は露骨、国際社会にどう見られようと平気の平左です。

「ライオンの治世」に劣る


 最近も、米国を目指す移民集団の増大を阻止できないから、ホンジュラスなど中米三カ国への援助の停止か大幅減額を始める、と表明しました。ここでも弱者を力で威迫する性向がうかがえます。

 貿易もしかり。北米自由貿易協定(NAFTA)見直しでは、カナダ、メキシコを締め上げて自国有利に改造させ、今は、日本がその俎上(そじょう)にのっています。

 さながら狼(おおかみ)を前にした羊のように、もし安倍首相が震え上がっていたとしても無理からぬこと。安全保障面でも経済面でも日本は米国に依存しているのですから。相対的弱者という意味では、わが国もカナダもメキシコもホンジュラスもパレスチナも同じです。

 しかし、です。強者が力で弱者を支配してよいというのは、人間の世界というより、弱肉強食の動物の世界、まるでジャングルの掟(おきて)ではありますまいか。

 こんな話が、イソップにあります。<万事、力での解決を好まぬ性穏やかなライオンの治世になって、集会が行われ、お互い罪の償いをしたりされたりした。狼が羊の、虎は鹿の裁きを受けるという具合に。臆病者の兎(うさぎ)がしみじみ言う。「この日の来るのをずっと祈っていたのです。弱い者が猛(たけ)き者にも恐れられる、そんな日を」>

 トランプ氏の世界観が、いわば「羊は狼に食われて当然」というものだとしたら、法の支配や公正なルールを重んじる「ライオンの治世」より劣るということになってしまいます。

 人種や宗教に関する差別的言動など、かの人に垣間見える弱者・少数者差別の傾向も同根でしょう。過日も、政権が、心と体の性が異なるトランスジェンダーを行政上認めない措置を検討中だと、米紙が伝えていました。

教育上よろしくない


 大人は子どもに「他者を思いやれ」と教えているはずですから、教育上も大変よろしくない。この超大国指導者が人々の価値観を侵食せぬかと恐れています。

 あのカンヌ最高賞に輝いたムーア作品。日本公開時の宣伝文句は確か、焚書(ふんしょ)を描いた本家F・トリュフォー監督の『華氏451』になぞらえて<華氏911 それは自由が燃える温度>でした。

 『華氏119』では、何が燃えるのでしょうか。