奨学金取り立て被害救え 保証人は半額返済義務なのに全額請求
2022年10月22日
日本学生支援機構の奨学金制度で学生の保証人になった親族二人が、半額しか返済義務がないのに全額を請求されたとして、過払い分の返還を求めた訴訟は十三日、東京地裁で和解が成立した。機構が利息を含む計六百二十一万円を支払う。経済低迷で取り立てに苦しむ社会人が少なくない中、支援者は全国的な被害の掘り起こしに乗り出す。
和解したのは、姪(めい)の保証人になった山梨県のパート男性(75)と、弟の保証人になった埼玉県の介護職男性(40)が二〇一九年に東京地裁で起こした訴訟。
大学生らが機構から奨学金を借りるには、連帯保証人(親)と保証人(四親等内の親戚)を付ける必要がある。卒業後、何らかの事情で返済が困難になった場合、機構はまず親に返済を求め、親も払えなければ保証人になった親戚に督促する。
この際、本来保証人には連帯保証人を含む人数分、つまり半分しか返済義務がない民法の「分別の利益」が適用されるが、機構は保証人が言い出さない限り全額を請求。このため、原告の二人はいずれも全額を返済していた。
和解成立後の十三日の記者会見で、原告のパート男性は「機構がもっと早く対応してくれたら良かったのに」と話した。介護職男性は「収入が多くない中で返済した。保証人制度は廃止すべきだ」と訴えた。
和解の背景には、同様の訴訟で札幌高裁が今年五月、機構の超過請求分を「不当利得」と認定し、返還を命じた判決が確定したことがある。機構はその後、一七年四月以降の対象者約二千人について過払い分を返す方針を示し、八月から返還を始めている。担当者は取材に対し「札幌高裁判決を受けて、原告の方と和解に至った。真摯(しんし)に受け止め、今後も法令を順守していく」とコメントした。
原告代理人を務めた岩重佳治弁護士(奨学金問題対策全国会議事務局長)は、機構が和解の際の文書で、個別に過払い分の返還通知をすることや、返金申請の期限について柔軟対応することを示した点を評価。「訴訟で奨学金制度の問題点が明らかになった。無理なく返済、回収できる制度にしていくため、保証人制度をなくし、今もある保証機関の活用に一本化していくことを目標としたい」と話す。
若者の貧困問題に取り組むNPO法人POSSEの渡辺寛人事務局長も「取り立てを最優先に考える体質が明らかになった」と和解を評価。そのうえで「こちらにも『急に請求が来て困った』という保証人や、『保証人に迷惑をかけるので自殺を考えている』と追い詰められた返済者など、保証人制度にからむ相談が多い。親族を巻き込んで苦しめる仕組みになっている」と指摘する。
同会議は全国に埋もれている被害者がいるとみて、二十一日に続き、二十二日(午前十時〜午後七時)も、弁護士らが無料で相談に応じる「奨学金問題ホットライン」を開設する。電話番号は050(3188)5022。通話料は相談者負担。
岩重氏は「過払い分の返還を求めたいという人のほか、奨学金の利用に不安を感じる人、返済に苦しんでいる人など、遠慮なく相談してほしい」と話している。
(大杉はるか)
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