<いま読む日本国憲法>(2) 第1条 天皇権限ない「象徴」(2016年4月30日中日新聞)

2016-04-30 07:07:07 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(2) 第1条 天皇権限ない「象徴」 

2016/4/30 中日新聞
 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 一条から八条の一章は、天皇についての規定です。

 現在の憲法と旧憲法(大日本帝国憲法)は、天皇のあり方について大きく異なっています。

 旧憲法は、天皇を「統治権の総攬(そうらん)」者と規定。つまり、国の意思を最終決定する最高権力者(主権者)は天皇としていたのです。現行憲法は、前文に続いて一条でも主権者は国民と宣言。天皇は国政に関する権限を持たず、国事行為のみを行う「象徴」的存在としました。

 天皇を巡っては、「元首(げんしゅ)」と位置づけるかどうかという議論があります。現行憲法には、元首とは何かを定めた規定はありません。

 元首とは「対外的に国家を代表する地位にある国家機関」などを指し、天皇は該当しません。しかし憲法は七条で、天皇が外国の大使・公使を接受(せつじゅ)することなどを定めています。このため、天皇を元首と位置付けるべきかどうか、元首と位置付けても憲法に記述するかどうかなど、さまざまな意見があります。

 旧憲法は、天皇は元首と明記していました。自民党改憲草案も天皇を「日本国の元首」としていますが、護憲派などから「戦前回帰」との懸念が出ています。主要国で、憲法に明確に元首を規定している国は必ずしも多くありません。

 一方、自民党改憲草案は一章で、国旗・国歌についての規定を新設しました。「国旗は日章旗、国歌は君が代」とした上で、「尊重しなければならない」と国民に求めています。

 自民党は「教育現場で混乱が起きていることを踏まえ明文規定を置く」と説明します。でも教育現場には日の丸・君が代の押しつけに強い反発があるだけに、慎重な議論が必要です。

(随時掲載します)

◆自民改憲草案、旧憲法と同じ「元首」

 <改憲草案の関連表記>天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

◆用語解説 

 元首=国家の首長。米国は大統領、英国は国王とされる

 接受=外国の使節らを受け入れ、もてなすこと

<いま読む日本国憲法(1)前文 不戦の決意(2016年4月29日中日新聞)

2016-04-29 07:44:55 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(1) 前文 不戦の決意 

2016/4/29 中日新聞
 今、憲法が問われている。夏の参院選では、改憲問題が大きな焦点となる。安倍晋三首相らは改憲を訴えるが、憲法は本当に変える必要があるのか。守らなければならないものではないのか。施行から六十九年となる憲法を今こそ読み、主な条文の意味や価値を考えてみたい。

 戦争は国家権力が引き起こすもの。国民が主権を持って国家権力の暴走を抑えることで、戦争を二度と起こさせない-。

 日本国憲法全体を貫くこの思想を、最初にはっきりと宣言したのが前文です。第一段落の「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」「主権が国民に存することを宣言」というくだりに、端的に表現されています。多大な犠牲を生んだ先の大戦への反省が込められています。憲法によって権力を抑える「立憲主義」を言い表した文章とも言えます。

 第二段落の「日本国民は、恒久の平和を念願し」以下は、軍事的手段ではなく、諸国民を信頼することで自国の安全を保つという決意を示しています。戦争放棄や戦力不保持を定めた九条につながる考え方です。「全世界の国民」以下は、日本国民だけでなく人類全体に平和が保障されるべきだとうたっています。

 ちなみに憲法は連合国軍総司令部(GHQ)が起草を進めたため、前文は英文を直訳したような表現が多いです。「そもそも国政は」以下は、十六代米大統領リンカーンの演説「人民の、人民による、人民のための政治」を引いたと言われます。

 自民党は前文を「翻訳調で違和感がある」「ユートピア的発想による自衛権の放棄」と批判。二〇一二年四月に決定した党の憲法改正草案(改憲草案)では全面的に書き換えました。草案には国民主権という言葉はありますが、政府が戦争を起こさないように国民が抑えるという考え方は見当たりません。諸国民への信頼によって安全を保つとの決意も削られ、国民が国と郷土を自ら守ると定めています。

 現行憲法より短い割に、「国家」という言葉や、歴史・文化を誇る表現が目立ちます。総裁の安倍首相は前文について、敗戦国の「わび証文」のような宣言があると自著で評したことがあります。

  ◇ 

 「いま読む日本国憲法」は、憲法の主な条文を解説し随時掲載します。

可児市民憲法講座、受講生を募集 毎月一回全10回

2016-04-25 07:47:29 | 桜ヶ丘9条の会
 市民と選挙権の行使を控えている高校生の皆さんへ
         憲法を政治や生きる羅針盤に
    「みんなで学ぶ憲法講座」の受講生を募集します。
 

 いま、国会では憲法「改正」の論議がされています。「改正」の狙いはなんでしょう。憲法の前文には「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理念と目的を達成することを誓う」とあります。今年は、憲法が公布されて70年です。いま、私たちがすべきことは、憲法の理念である平和、基本的人権、民主主義を暮らしのなかにいかすため、全力を尽くすことではないでしょうか。私たちの生きる羅針盤として、政治を判断する指針としての日本国憲法を学びましょう。
 たくさんの方からの応募をお待ちします。 
      
開講日時(予定)第4土曜日 10時から12時 10回
 4月23日、5月28日、6月25日、7月23日、8月27日、9月24日、10月22日
 11月26日、1月28日、2月25日
 
場所 可児市文化創造センター (4・5・6月は確定)
   〒509-0203 可児市下恵土3433-139
 TEL.0574-60-3311 
   最寄駅
・名鉄 日本ライン今渡駅 徒歩10分
   
講師 青年法律家協会岐阜支部所属の弁護士さんたち

講座の内容 ①今、何故、憲法を学ぶことが大切か ②立憲主義とは何か。 ③憲法はどうしてできあがったか ④憲法の理念は。平和、人権、主権とは。 ⑤憲法と基本的人権 ⑥憲法と平和・民主主義 ⑦憲法と地方自治 ⑧憲法と未来社会への展望 ⑨9条の誕生と意義 ⑩18歳選挙権と憲法 ⑪夫婦別姓と憲法 ⑫沖縄基地問題と憲法 ⑬マイナンバー制度と憲法等を検討しています。

受講料 10回 3000円 1回500円 高校生は無料

申込はメール、電話などでお願いします。
 E-mail vyx05047@nifty.ne.jp 電話:090-7860-4898  FAX 0574-62-2658


                 主催 「みんなで学ぶ憲法講座」実行委員会


自衛隊制服組の研究報告(後編)2016年4月23日中日新聞)

2016-04-23 08:42:35 | 桜ヶ丘9条の会
自衛隊制服組の研究報告(後編) 

2016/4/23 中日新聞


 自衛隊制服組の上級幹部教育機関「統合幕僚学校」が、二〇一一年度にまとめた部内研究の報告書。そこに記されていた集団的自衛権の行使容認などの提言がその後、安倍政権によって着々と実現されたことを十四日付の特報面でお伝えした。ただ、提言はそこにとどまらず、改憲も射程に入れている。「偶然の一致」にせよ、これまでの経緯を見る限り、それらを現政権が施策化する可能性は否定できない。

 問題の報告書は、「『諸外国の最新の軍事戦略の動向に関する調査・研究』研究成果」。統合幕僚長への決裁文書に「将来の防衛諸計画策定の資とすることを目的とし」と書かれている。

 中国の軍事的脅威を前提に、それへの対抗上、米国防総省が二〇一一年に打ち出した「統合エアシーバトル構想(JASBC)」への自衛隊の積極的な貢献を提言の骨子としている。

 そのために集団的自衛権の行使容認をはじめ、武器輸出の解禁、国連平和維持活動(PKO)での武器使用基準の緩和、民間人「徴用」などを提言。これらはその後誕生した安倍政権により、実現された。

■緊急事態条項

 だが、提言内容はそれらにとどまらない。事実上の改憲も示されている。

 その一つが戦争や内乱、大災害の際に憲法を一時停止し、内閣が国会の関与なく、法律に等しい政令を出せる国家緊急権(緊急事態条項)の導入だ。

 提言には「我(わ)が国においても、『国家緊急事態法』を整備し、有事において、防衛省が他省庁等を活用して任務を遂行できる態勢を整えることが望まれる」とある。ここでの「等」という官僚用語は、自治体や民間を指すとも読める。だとすれば、想定されるのは国家総動員のような体制の構築だ。

 自民党は一二年の憲法草案で、緊急事態条項の新設を明記した。熊本県などでの地震発生の翌日、菅義偉官房長官は同条項の設置について「極めて重く大切な課題」と意欲を示した。

 予算の単年度主義についても「防衛費に関しては単年度予算要求方式を廃止し…」と提言している。憲法八六条は「内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない」と定めている。

 単年度ごとでは高額な兵器の一括発注がしにくく、兵器産業も生産計画が立てにくい。戦前の反省もあって、八六条は軍備増強の歯止めになってきた。

 ただ、財政法は例外として、複数年度にまたがる国庫債務行為を認めている。防衛省はこれを使い、武器を購入してきた。昨年四月にはその期間を従来の五年から十年に延ばす防衛調達特措法が成立している。

 だが、例外扱いは変わらず、その憲法による制約の撤廃を提案している。

 提言は、沖縄についても触れている。宜野湾市の米軍普天間基地移転問題については「十五年以上も伸展のない基地移転は、アメリカ側の疑念と諦念を招き、日米同盟の大きな障害」と判断。名護市辺野古の米軍新基地建設を念頭に「十分な住民保障(原文通り)と沖縄県に対する産業インフラの振興(中略)税制上の優遇等」を訴えている。

 加えて「米側にはいっそうの(県民の)雇用の拡大」を求め、「予算は我が国負担であるため、米側も取り組みやすい施策である」と説明している。

 この報告書は、朝鮮有事に端を発した米中の軍事衝突や台湾有事を想定している。九州南端から台湾までの南西諸島を「主戦場」と位置付け、この地域での日本の防衛力強化の必要性を強調している。

 沖縄県与那国島に先月、陸上自衛隊の「与那国沿岸監視隊」が復帰後初めて編成されるなど「南西防衛」は現実に進んでいるが、報告書はさらに那覇市に司令部を置く陸自第一五旅団の師団への昇格や、下地島空港(宮古島市)の自衛隊基地化がうたわれている。

■下地島に拠点

 下地島空港には民間のパイロット訓練場として使用されてきた三千メートルの滑走路があり、以前から軍事利用がささやかれてきた。〇一年には米国の有力シンクタンク「ランド研究所」が、米軍基地の候補地として下地島を挙げている。

 日米両国は昨年再改定された防衛協力指針(ガイドライン)に沿って、平時の自衛隊と米軍の運用一体化を進めている。仮に航空自衛隊が下地島に拠点を置けば、米軍への便宜も図れるという見方がある。

 他にも、積み残されたままの提言がある。「PKO参加五原則の見直し」もその一つだ。

 報告書はPKOを米軍を日本につなぎ留める手段と位置付け「(PKOへの)参加拡大のためには、任務の拡大、地域の拡大及び規模の拡大を伴うためPKO参加五原則の見直しが望まれる」と説く。

 五原則のうち、武器使用基準は昨年の改正PKO協力法で「駆け付け警護」などが認められ、事実上緩和された。しかし、参加条件として、紛争当事者間で停戦合意が成立していることや、派遣先国と紛争当事者の同意が必要といった原則はまだ生きている。

 こうした原則が「PKOへの参加拡大の足かせ」とされ、骨抜きされていく可能性は否定できない。

 また、国が防衛産業の再編・育成を促す必要性も報告書は主張している。国産の戦闘機開発を目指し、防衛省の発注で三菱重工業などが製造したステルス実証機「X-2」が二十二日、初飛行を果たした。国が民間の軍需技術や武器輸出の促進を図る動きは、今後も加速すると予想される。

 軍事評論家の前田哲男氏は「部内研究(報告書)が示すJASBCへの自衛隊の作戦参加は政府方針を超えており、日中米の全面戦争を意味するもの。外交上の配慮もなく、文民統制の観点から問題がある」と指摘。「このような行きすぎた議論が、制服組の提言として当然のように社会に定着し、なし崩し的に政策として醸成されることが怖い。あらためて国会で中身を徹底的に検証、追及するべきだ」と語った。

 (安藤恭子、田原牧)

論説委員のワールド観望 原発狙う 「天空の蜂」(2016年4月19日中日新聞夕刊)

2016-04-21 17:23:33 | 桜ヶ丘9条の会
<論説委員のワールド観望> 原発狙う「天空の蜂」 

2016/4/19 中日新聞 夕刊
■テロ脅威現実味

 二月に起きたベルギー連続テロの容疑者が、原子力施設の技術者を監視していた疑いが出てきた。原発を標的にしたテロの脅威が、にわかに現実味を帯びてきた。

 原発テロの恐怖を描いたのが、東野圭吾氏が一九九五年に発表した小説「天空の蜂」(講談社)だ。

 「天空の蜂」とは、無人操縦が可能な超大型特殊ヘリコプター。ヘリを奪った犯人が、高速増殖炉の真上でホバリングさせて墜落させると脅迫し、国内の全原発の稼働停止を要求する-原発を人質に取った犯行だった。

 原発の危険性、原発作業員、地元感情など、東京電力福島第一原発事故でクローズアップされた問題を先取りした作品だった。しかし、当時は注目されなかったという。東野氏は「本当に自信作なんですよ。なのに無反応だった。…わざと黙殺されたなっていう気がしました」(講談社「東野圭吾公式ガイド」)と振り返る。福島の事故後、書店の店頭に並ぶようになり、昨年、映画化もされた。

■不十分な対策

 荒唐無稽な物語との指摘もある。しかし、考えたくはないが、無人小型機ドローンの普及で、犯行は容易になっている面もある。

 脅威は「天空の蜂」だけではない。テロリスト潜入など「地上のアリ」たちだって原発を狙う可能性がある。

 原子力規制委員会の新規制基準でも、航空機が原子炉建屋に衝突することへの抜本的対策はない。

 それまで電力会社任せだったテロ対策として、特定重大事故等対処施設の設置を義務付けてはいる。緊急時制御室や予備電源などを備え、テロで原発の中央制御室が破壊されても、原発の暴走を止められるようにするという。

 しかし、対処施設の設置には審査合格から五年の猶予が設けられ、直ちに対応すべき緊急対策としては考えられてはいない。

 ベルギーの事件後、欧州のメディアは、原発テロの脅威を論じている。

■やっかいな存在

 パナマ文書の報道で一躍名をはせる南ドイツ新聞(電子版)は、コンクリートで二重に覆われた原発しか航空機墜落には耐えられないと指摘。独有力週刊紙ツァイト(同)は、テロリストの潜入を防ぐため、原発のすべての作業を下請けに出さずに、電力会社が直接管理することなどを提言するが、百パーセントの安全はあり得ないと強調。ドイツだけでなく欧州全体の脱原発が必要と訴える。

 たとえ停止して、廃炉になっても、使用済み核燃料がある限りテロ対策を考えなくてはいけない。原発のやっかいさはここでも際立つ。

 安全対策が甘い国も、テロリストに狙われやすい国もある。汚染は国境を超え、リスクは拡散しかねない。

 「天空の蜂」は墜落した。犯人からは「今回の試みは、我々からの忠告である」とのメッセージが届く。しかし、今、跋扈(ばっこ)しているのは、そんな親切なテロリストばかりではない。
    (熊倉逸男)