はじめに
君は、何歳からが「大人」だと思っているだろうか。民法という法律では、これまで成年は20歳となっていたのが、改正され、令和4年4月から18歳となる。つまり、18歳になれば成人として大人扱いされる。それは、未成年者に与えられていた「未成年者取消権」という法の保護が18歳になることをも意味する。
でも、18歳のころって、多くの人達が、学生で、社会のこともよくわからず、まだまだ子どもじゃないかな。
悪徳業者は、素直で人のいうことを信じやすいお年寄りや若者をターゲットにする。実際に、これまで「悪徳商法」による被害は、20歳前半の若い人たちが多かった。
悪徳業者も、これまでは「未成年者取消権」という武器が怖くて、20歳未満の未成年者には手を出さないようにしていた。ところが、18歳で成人となり、「未成年者取消権」が使えないとなれば、きっと18歳や19歳の若者をターゲットとして狙ってくるだろう。
そこで、18歳になる前に、自分自身の頭で物事を考え、自分自身で身を守ることができるようにしておくことが必要だ。
悪徳業者対策だけではなく、いろいろな人がいる社会の中で自分自身の身を守るためには、法についての基本的な知識、そして「自分の頭で考える姿勢」を身につけることが必要だ。
学校では、善良で優しい子でありなさいと言われてきただろう。それはもちろん大切なことだ。
でも、善良なだけでは、この社会の中を幸せに生きていくことはできない。
私は、弁護士として、人と人との間のトラブルに関与してきたが、この仕事をしていると、人の言うことを信じやすい善良な人ほど、「疑う」ということをしなかったがために、悪い人に騙されたり、トラブルに巻き込まれてきた例も多く見てきた。
学校では「世の中には、騙してお金をとろうとする悪い人もいるから、疑うことが大切だよ」とは、なかなか教えてくれないだろう。
しかし、現実の社会では、悪徳業者や詐欺師のように人を騙してお金儲けをしようという悪い人もいる。悪徳業者は、人の言うことを簡単に信じてしまう人を特に狙う。
人の言うことをそのまま信じるということは、一見よいこと、美しいことのように思えるが、うのみにしてしまうと、自分の大切な財産や友人を失うことにもなりかねない。
この社会の中で、自分の身を守り、幸せに生きるためには、人の話をうのみにすることなく「自分の頭で考えて判断すること」が必要だ。
誰か偉い人がそう言っているから、みんながそう言っているから、友だちがそう言っているから・・・とすぐにうのみにして信じるのではなく、心のどこかで「本当だろうか」と疑いながら話をきく、そして検討する姿勢が大切だ。
他方で、自分とは考え方が違う人、嫌いな人であっても、その話を「違う」と排斥するのではなくて、「そうかもしれない」と受け止めて考える姿勢も大切だ。
ネットにおける攻撃的な書き込みを見ていると、社会全体の中に、自分と立場が同じ人や好きな人の言葉は、うのみにして、吟味することなく同調し、逆に立場が異なる人の意見については、聞く耳をもたずに排斥する不寛容な傾向があると感じる。
しかし、立場が違う人の意見について、なんでもかんでも疑って受け入れない、周りの人はすべて悪人だと思うという考え方は、孤立してしまうし、自分の中によい情報も取り入れることができずに、それはそれで問題だ。
要するに、誰かの意見は、一つの意見として「そうかもしれないけれど、そうでないかもしれない」と受け止めて、参考にするのだ。そして、本を読んで調べたり、裏付けとなる証拠を確認したり、他の人の意見もきいて、よいと思う判断をしていく。
そのような「安易に信じないけど、排斥もしないで検討する」という姿勢が大切なんだね。
この姿勢があると、一見親切に声をかけてくれた悪徳業者の「必ず儲けますよ」という話も「本当にそうかな?」と検討して、断ることもできるはずだ。
そして、自分とは立場が異なる人の意見であっても、排斥することなく、自分の判断の際の参考として取り入れて、よりよい判断をすることができるだろう。
とはいえ、このように「情報を参考にはするが、うのみにすることなく吟味して、自分の頭で考える」ということは、なかなか難しいことだ。しんどいことでもある。誰かの言うことを、うのみにしてそのまま信じ、立場が違う人の意見は無視していれば、考えずにすんで楽だからね。
でも、その先にあるのは、誰かにいいように操られ、他者と協調できない不寛容な人生だ。決して、人として幸せな生き方とは言えない。
そこで、「自分の頭で考える」ために、一定の知識や考え方といった能力を身に付ける必要があるのだ。
この本は、18歳になる前、社会に出る前の若者に向けて、「法的なものの見方や考え方」「健全に疑う力・吟味する力」「自分の頭で考える力」を身に付けてもらい、これから漕ぎ出す社会の荒波を乗り越えてほしいと願って書いたものだ。
法といっても難しく考える必要はない。条文を覚える必要もない。法は専門家だけのものでもない。
法のちょっとした知識や考え方を知っておくだけで、多面的に物事を見ることができるようになり、トラブルを防止し、解決ができ、幸せに生きやすくなるはずだ。
この本を読み進めることで、「他者と共生しながら自分らしく生きるためのヒント」、「情報を吟味して、自分の頭で考えるコツ」が得られるだろう。
さあ、法について、一緒に楽しく学んでいこう!
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本書を通じて、多くの子ども達に「個人の尊重」が浸透していくことを願っております。
「18歳までに知っておきたい法のはなし」(みらいパブリッシング)
神坪浩喜(かみつぼ ひろき)さんのプロフィール
弁護士(仙台弁護士会所属)。あやめ法律事務所所長。
日弁連市民のための法教育委員会副委員長、仙台弁護士会法教育検討特別委員会委員。
1968年北九州市生まれ。東北大学法学部卒。
法の基礎知識、法的なものの見方・考え方を子どものうちから身に着けておくことが、社会で他者と共生しながら自分らしく生きるためには必要と考え、法教育の活動を長年にわたって行う。著書に「弁護士がここまで教える よくわかる離婚調停の本」(同文舘出版)「セクハラ・パワハラは解決できる!~民事調停という選択肢~」「本当に怖いセクハラパワハラ問題」(いずれも労働調査会)がある。
あやめ法律事務所HP
神坪浩喜さん(弁護士)