丸山氏戦争発言 憲法への重大な挑戦だ (2019年9月7日 中日新聞)

2019-09-07 08:47:23 | 桜ヶ丘9条の会
丸山氏戦争発言 憲法への重大な挑戦だ 
2019/9/7 中日新聞
 日本の領土が「不法占拠」されている状況は許し難いが、国会議員が戦争で取り戻せと軽々に発言することも聞き捨てならない。国際紛争解決の手段としての戦争を放棄した憲法への重大な挑戦だ。
 NHKから国民を守る党の丸山穂高衆院議員が、韓国の国会議員団が上陸した竹島を「戦争で取り返すしかないんじゃないですか」と自身のツイッターに投稿した。
 丸山氏は五月、北方領土へのビザなし交流訪問団に同行。酒に酔った状態で元島民の訪問団長に、北方領土の返還には「戦争しないと、どうしようもなくないですか」と述べた。それに続く、戦争による領土奪還発言である。
 議員の当落を決めるのは有権者による選挙であり、その地位は重い。しかし、選挙時に想定されていない言動があれば、その都度、議員の資格が問われて当然だ。
 外国の「不法占拠」が長年続く自国の領土を、武力によって奪還することは、国連憲章でも、日本国憲法でも認められていない。
 憲法は「国権の発動たる戦争」と「武力による威嚇又(また)は武力の行使」を「国際紛争を解決する手段として」は永久に放棄している。
 外国の「不法占拠」は許し難くても、武力でなく外交交渉で取り返すのが平和国家・日本の道だ。武力で領土を奪還しようとすれば相手国と戦争状態になるだけでなく、国際的に孤立し、国民の平穏な暮らしは脅かされる。そんな想像力もないのかと愕然(がくぜん)とする。
 国会議員が戦争で取り返すしかないと公に発言することは、戦争放棄の憲法九条と、国会議員の憲法尊重、擁護義務を定めた九九条に反する。一私人のざれ言ならともかく、全国民の代表である国会議員としては不適切極まりない。
 憲法に背く発言を続けた以上、すでに議員としての適格性を失っている。丸山氏には議員辞職という判断を重ねて求めたい。
 衆院では、北方領土訪問の際の丸山氏の一連の言動を「憲法の平和主義に反する」「わが国の国益を大きく損ない、衆院の権威と品位を著しく失墜させた」などとして、進退判断を促す糾弾決議を全会一致で可決している。
 しかし、丸山氏は辞職を拒み、日本維新の会を除名された後、N国に入党した。N国の立花孝志党首は「表現の自由。問題提起の範疇(はんちゅう)」と述べたが、丸山氏の度重なる戦争発言は、問題提起の域を超えている。放置するのであれば、公党としての責任を自覚していないと指摘せざるを得ない。


防犯カメラ増殖、進む監視社会 
2019/9/7 中日新聞

 駅やビル、商店街など、どこにでも防犯カメラがあるのが当たり前になった。電車内にも設置されるなど、来年の東京五輪に向けてその流れは加速している。犯罪捜査・抑止などに効果的なのは間違いないが、果たして現状のままでいいのか。ある日突然、自宅の周りに複数のカメラを設置された男性の話から「監視社会」について考えた。

◆「自宅に向けられ活動萎縮」 マンション建設抗議の男性

 「二十四時間、玄関の出入りを撮影された。誰がいるか常に把握されているようで、とても気持ちが悪かった」。名古屋市瑞穂区の薬剤師奥田恭正(やすまさ)さん(63)は、防犯カメラを自宅に向けられた体験をこう話す。
 二〇一五年秋、自宅向かいの十五階建てマンションの建設計画に反対し、周辺住民約二十人で「住環境を守る会」を結成。日照を遮られる恐れがあるとして、建設業者側に階数を減らすなど見直しを求めたが聞き入れられず、現場周辺にのぼり旗を掲げるなどして抗議を続けた。
 一六年七月に工事が始まると業者は現場に仮囲いをして、防犯カメラ七台を設置。うち何台かは奥田さんら反対する住民の自宅に向けられた。最終的にカメラはダミーを含め十台に増え、マンションが完成した昨年三月までに撤去された。周辺の人通りだけでなく、奥田さんらの抗議活動や、打ち合わせで近所の家に集まる様子も記録したとみられる。
 奥田さんは「もっと大きなマンション建設現場でも防犯カメラはせいぜい二、三台。計画に反対した私たちへの嫌がらせとしか思えない」と憤る。家族は外出するたびに撮影されるのを嫌がり、普段は行かない通りを使うなど不便を強いられた。抗議活動に参加する住民も奥田さんを含め数人に減り、「カメラによって活動が萎縮させられた」という。
 奥田さんら四人は一七年十月、憲法で保障されているプライバシー権や集会の自由を侵害されたとして、精神的苦痛の慰謝料などを建設業者側に求め、名古屋地裁に提訴。五日に判決があり、地裁は奥田さん宅とは別の家に向けられたカメラ一台について「嫌がらせ的な意図で設置したと疑われる」と判断し、賠償を命じた。原告代理人の中谷雄二弁護士は「カメラが野放しに設置されている状況で、画期的な判決だ」と評価する。
 カメラの怖さは監視の圧力だけではない。奥田さんは一六年十月、現場監督の五十代男性を突き飛ばしたとして逮捕、起訴された。取り調べで容疑を否認しても警察官から「カメラに写っとる」と追及された。
 ところが法廷で公開された映像は、奥田さんが腕組みをして工事車両の出入り口に近づき、それを押し返そうとした現場監督がバランスを崩した場面が写っていただけだった。
 同地裁は一八年二月、奥田さんが突き飛ばしたとは認められないとして無罪判決を出した。
 「捜査機関の能力や使い方によっては、防犯カメラで冤罪(えんざい)が生まれる可能性がある」と奥田さん。不当に逮捕されたとして、国や愛知県に損害賠償を求めて係争中だ。

◆顔認証、冤罪招く恐れ 専門家「誰もが追跡対象法整備を」

 防犯機器の情報サイト「カメチョ」によると、日本で防犯カメラが導入されだしたのは一九七〇年代。六八年に起きた三億円強奪事件を機に給与の口座振り込みが一般的になり、銀行の無人窓口(現在のATM)などの利用増加に伴って取り付けられた。八〇年代に入ると商業施設などでも普及。複数のカメラの映像を一つの画面に映して監視する形が浸透した。
 九五年の地下鉄サリン事件やピッキングによる空き巣被害の増加で、駅や個人宅にも設置が進んだ。防犯設備士の資格を持つ、同サイト運営会社の小林義行・営業本部長は「取り付けが簡単で価格も安いカメラが登場し、国内の防犯カメラは今、数百万台規模に上る」と説明する。
 犯罪捜査でも威力を発揮している。ハロウィーン騒ぎに沸く東京・渋谷で昨年十月、軽トラックが横倒しにされた事件。警視庁は防犯カメラや現場に居合わせた人が撮影した映像を解析し、容疑者の足取りを追う「リレー方式」で身元を特定した。今年四月に起きた秋篠宮家の長男悠仁さまが通う中学校の机に刃物が置かれた事件や、七月の京都アニメーションの放火殺人事件で、容疑者と犯行前後の行動の割り出しにもつながった。
 公益社団法人・日本防犯設備協会によると、防犯カメラなど映像監視装置の推定売上高は、二〇一七年度で千五百四十六億円。一五年度(千六百七十九億円)をピークに高止まりだ。小林さんは「最近は『防犯』より『監視』目的が目立つ。留守中のペット、家族の見守り、不法投棄や車へのいたずらの見張りに使う。商店や飲食店では消費行動と客層の分析にも利用している」と説明する。
 ただ、防犯カメラの過度の活用は監視社会化につながり、海外では慎重な動きもある。米サンフランシスコ市議会は五月、「政府の監視なしに生きる自由を脅かす」として、警察当局が防犯カメラと顔認証技術を利用して情報を得ることを禁じる条例案を可決。欧州連合(EU)で昨年施行された「一般データ保護規則」も、氏名やメールアドレス、インターネットの閲覧記録、防犯カメラの映像などを個人情報と捉え、厳格な保護の対象にしている。
 日本でも好意的に受け入れられてきたわけではない。〇二年、警視庁が東京・歌舞伎町の街頭に防犯カメラを設置したときはプライバシー侵害や警察の捜査力低下を危ぶむ声があった。
 関西学院大の阿部潔教授(メディアコミュニケーション論)は「防犯カメラの犯罪抑止効果がきちんと検証されていない。また、現状では犯罪捜査の手がかりにする『監視カメラ』状態。名前と実際の使い方がずれている」と指摘。渋谷のハロウィーン事件について「多くの警察官が警戒していたのに、なぜその場で容疑者を確保しなかったのか。東京五輪を見据え、カメラの威力を見せつけるためでは」との見方を示す。
 阿部教授が恐れるのは、カメラの映像と顔認証が結び付くこと。「やましいことがなくても、誰もが追われる対象になる。個人のプライバシーが侵されかねない。顔認証技術は間違うこともあり、冤罪を招く」と言い、欧米のような法整備が必要だと訴える。
 「公共の場で写された個人の姿は個人情報。本人の知らないところで使うのはおかしい。不利益を被ったときに異議を申し立てたり、カメラ設置者に説明責任を求めたりする仕組みにするべきだ」
 (中山岳、中沢佳子)