小さな骨が訴えること 沖縄慰霊の日に (中日新聞)

2022-06-23 23:27:56 | 桜ヶ丘9条の会

小さな骨が訴えること 沖縄慰霊の日に

2022年6月23日 中日新聞
 太平洋の潮騒が絶え間なく聞こえてきます。沖縄本島南部糸満市の「平和創造の森公園」。丘の頂に、沖縄戦や南方方面で戦没した東京都関係者十万三千五百柱を慰霊する「東京之塔」があります。
 黒御影石でできた塔の背後にはガジュマルやテリハボクが生い茂る崖が迫ります。四月下旬、沖縄戦遺骨収集ボランティア団体「ガマフヤー」代表の具志堅隆松(たかまつ)さん(68)が小柄な体でこの崖を下りていきました。琉球石灰岩に囲まれた中腹の窪地(くぼち)まで来ると、ヘッドランプをつけ地面を探ります。
 「これが足の指、こちらはすねの骨ですね」。収集歴四十年の具志堅さんは、腐葉土の下から小石と区別がつかない数個のかけらをすぐに見つけ出しました。言うまでもない、沖縄戦の犠牲者とみられる遺骨です=写真。

迫撃砲弾がここで炸裂

 はっきりと形が分かったのは、人の歯。「このすり減り方からすると高齢の住民でしょう」
 次に拾って見せてくれた長さ七〜八センチの金属片の説明には身震いしました。「米軍の六〇ミリ迫撃砲の砲弾の羽根です」。ここで砲弾が炸裂(さくれつ)したのだ! 窪地は身を隠すのに適した場所だったけれど、米軍は見逃さなかった。骨や歯は砲弾に吹き飛ばされた兵士や住民のものかもしれません。
 「鉄の暴風」と形容された米軍の激烈な砲撃を想像しました。
 糸満市など本島南部は約三カ月に及んだ沖縄戦の後半、日本軍が司令部を置いた首里(那覇市)から撤退する道筋に当たり、住民を巻き込む激戦地となりました。沖縄戦跡国定公園に指定され、東京之塔以外にもひめゆりの塔や魂魄(こんぱく)之塔などの慰霊塔が多数あります。
 七十七年後の今、具志堅さんら多くの沖縄県民が強く抗議しているのが、一帯の鉱山開発による土砂を防衛省が名護市辺野古沿岸の米軍新基地建設現場で埋め立てに使おうとしていることです。
 具志堅さんが遺骨を拾って見せてくれたのは、その鉱山開発予定地に接した場所でした。一帯に散乱し、風化した遺骨を土砂から取り除くことなど不可能です。
 「戦没者への冒瀆(ぼうとく)」「死者を二度殺すことになる」
 二〇二〇年に計画が明らかになって以来、具志堅さんら有志は沖縄や東京でハンストを行ったり、全国の地方議会に土砂の使用中止を求める意見書採択を求めたりしていますが、国側は本島南部の土砂を実際に使うか否かは未定として何も手を打とうとしません。
 防衛省は当初、現在採掘している本島北部と県外から土砂を持ち込む計画でしたが、県が外来生物侵入を防ぐための土砂搬入規制条例を設けたため、ほぼ全量を県内から調達する方針に転換し、南部をその候補地としたのです。
 一六年に施行された戦没者遺骨収集推進法が遺骨収集を「国の責務」としているにもかかわらず、地上戦の戦場となった沖縄への配慮はまったく感じられません。
 南部の土砂使用には県も「(沖縄戦で)多くの犠牲者を出した県民の心を深く傷つける」(玉城デニー知事)と反対の立場です。
 昨年五月、業者に対し採掘前に遺骨の有無を確認することなど自然公園法に基づく権限内で精いっぱいの措置命令を出しましたが、業者側は命令撤回を求めて国の公害等調整委員会に裁定を申請し、審理が行われています。

未完のままの平和の礎

 辺野古埋め立て土砂は国の調達価格が割高なので、早く参入したいのが業者の本音でしょう。
 沖縄平和市民連絡会員で、辺野古の軟弱地盤の問題をいち早く指摘した土木技術者の北上田毅(つよし)さん(76)は「このままでは県全土の乱開発に歯止めがかからなくなる」と危惧しています。
 県内全域での土砂採掘に遺骨の有無などの調査を義務付ける条例制定を県側に働きかけているのも「戦場になったのは本島南部だけではない」との思いからです。
 沖縄戦の組織的戦闘が終わった慰霊の日のきょう、県の式典が行われる糸満市の「平和の礎(いしじ)」には新たに判明した五十五人の戦没者の名前が石碑に刻まれ、刻銘者数は米兵らを含む沖縄県内外の二十四万一千六百八十六人に上ります。
 県保護・援護課によると、沖縄戦の日本人戦没者のうち、いまだ二千七百十九柱(暫定値)の遺骨が未収集といいます。
 すべての遺骨が収集され、平和の礎に名が刻まれるまで、沖縄の土が無造作に扱われることがあってはならない。崖に散らばる小さな骨はそう語りかけてきます。 
 

 


核禁条約初会議 日本不参加でいいのか (中日新聞)

2022-06-20 10:04:37 | 桜ヶ丘9条の会

核禁条約初会議 日本不参加でいいのか

2022年6月20日 中日新聞
 昨年発効した核兵器禁止条約の初めての締約国会議が二十一日から三日間、ウィーンで開かれる。核兵器使用が現実味を帯びる中、禁止を訴える意義は大きい。
 日本政府はオブザーバー参加の見送りを正式表明したが、唯一の戦争被爆国である日本の知見が今こそ、求められているのではないか。再考を促したい。
 核兵器を巡る環境は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、大きく変わった。ロシアのプーチン大統領は核兵器使用を示唆し、核の恐怖が世界を覆っている。
 北朝鮮は七回目の核実験の準備を終え、指導者の指示を待っているという。日本では米国の核兵器を日本が共有する「核シェアリング」も浮上している。
 核兵器を巡るこうした緊張の高まりを反映して、スウェーデンのシンクタンクは近ごろ、核兵器の使用リスクが冷戦後で最も高くなり、これまで削減が進んできた核兵器の数が、今後は増加に転じるとの予測を発表した。
 核廃絶に向けた具体的な行動をとらなければ、核軍拡が加速し、核兵器が多くの人命を奪う最悪の事態を引き起こしかねない。
 今回の締約国会議では、核廃絶の手順や核実験を含む被害者への支援、環境汚染の修復を巡って討議する。締約国を増やす方策なども話し合われる見通しだ。
 日本からは被爆地広島と長崎の市長が出席、演説し、若者らも締約国関係者と意見交換する。
 「核軍縮がライフワーク」とする岸田文雄首相は核禁条約を評価しつつも、条約加盟やオブザーバー参加には一貫して否定的だ。
 首相は日本が議長を務める来年の先進七カ国(G7)首脳会議を広島で開催することを決め、今年八月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議には自ら参加することを検討中とされるが、核廃絶に向けた本気度は伝わってこない。
 締約国会議へのオブザーバー参加は二十カ国以上で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェー、NATO加盟を申請したばかりのフィンランドとスウェーデンも含まれる。
 米国の「核の傘」の下でもオブザーバー参加は不可能でない。
 核兵器廃絶を訴える日本政府が核禁条約会議だけを無視するのは矛盾する。国際社会の理解を得るためにも、せめて次回からオブザーバー参加するよう求めたい。

核禁条約初会議 日本不参加でいいのか

2022-06-20 09:59:06 | 桜ヶ丘9条の会

核禁条約初会議 日本不参加でいいのか

2022年6月20日 
 昨年発効した核兵器禁止条約の初めての締約国会議が二十一日から三日間、ウィーンで開かれる。核兵器使用が現実味を帯びる中、禁止を訴える意義は大きい。
 日本政府はオブザーバー参加の見送りを正式表明したが、唯一の戦争被爆国である日本の知見が今こそ、求められているのではないか。再考を促したい。
 核兵器を巡る環境は、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、大きく変わった。ロシアのプーチン大統領は核兵器使用を示唆し、核の恐怖が世界を覆っている。
 北朝鮮は七回目の核実験の準備を終え、指導者の指示を待っているという。日本では米国の核兵器を日本が共有する「核シェアリング」も浮上している。
 核兵器を巡るこうした緊張の高まりを反映して、スウェーデンのシンクタンクは近ごろ、核兵器の使用リスクが冷戦後で最も高くなり、これまで削減が進んできた核兵器の数が、今後は増加に転じるとの予測を発表した。
 核廃絶に向けた具体的な行動をとらなければ、核軍拡が加速し、核兵器が多くの人命を奪う最悪の事態を引き起こしかねない。
 今回の締約国会議では、核廃絶の手順や核実験を含む被害者への支援、環境汚染の修復を巡って討議する。締約国を増やす方策なども話し合われる見通しだ。
 日本からは被爆地広島と長崎の市長が出席、演説し、若者らも締約国関係者と意見交換する。
 「核軍縮がライフワーク」とする岸田文雄首相は核禁条約を評価しつつも、条約加盟やオブザーバー参加には一貫して否定的だ。
 首相は日本が議長を務める来年の先進七カ国(G7)首脳会議を広島で開催することを決め、今年八月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議には自ら参加することを検討中とされるが、核廃絶に向けた本気度は伝わってこない。
 締約国会議へのオブザーバー参加は二十カ国以上で、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェー、NATO加盟を申請したばかりのフィンランドとスウェーデンも含まれる。
 米国の「核の傘」の下でもオブザーバー参加は不可能でない。
 核兵器廃絶を訴える日本政府が核禁条約会議だけを無視するのは矛盾する。国際社会の理解を得るためにも、せめて次回からオブザーバー参加するよう求めたい。

週のはじめに考える 何を守る「安全保障」か

2022-06-19 11:12:49 | 桜ヶ丘9条の会

週のはじめに考える 何を守る「安全保障」か

2022年6月19日 

 ロシアによるウクライナ侵攻の渦中で迎える参院選。政権与党が戦禍に乗じて問いかけるのは日本の「安全保障」です。防衛費の倍増を主軸に、国の責任として、仮想敵国の脅威から国民の「命と暮らし」を守るため、と。

 でも、そうでしょうか。
 外敵に備えるまでもなく、戦禍の脅威は既に国境の内に来ています。小麦などの供給危機に端を発した食料価格の急騰は、何より人の「命」に必須の食料だけに節約も厳しい。「暮らし」への打撃は低所得層ほど深刻です。
 だけど、国の対策は輸入肥料価格の補填(ほてん)など、供給側向け一辺倒。消費者の苦しい家計には支援の気配すらありません。
 底流には、いびつな金融緩和政策の傍ら、長らく放置された格差社会が広がります。増える低所得層に公助が十分届かない。新たな脅威が来るとしわ寄せは弱者に行き、守られるべき「命と暮らし」が守られない。コロナ禍でも見た日本政治の酷薄です。

次世代の命も守る責任

 この内なる「安全保障」の無策にこそ、私たちは目を見開かねばなりません。
 例えば、国の想定より六年も早いペースで進む「少子化」です。
 若い人々が将来に明るい展望を開けず、家族を持つことへの期待がうせる。その少子化がまた、社会や経済の活力をそぎ、将来を一層暗くする。悪循環です。
 無論、生涯子どもは持たないという個々人の自由は尊重されなければなりません。
 しかしながら、人間社会で世代の「命」をつなぐ子どもを産み、育てる営みは、その社会を末永く守り継ぐための根幹でしょう。
 ならば国の責任として今なすべきは、次世代にも向けて「命と暮らし」を守るため、少子化の悪循環を断つことです。日々の暮らしに窮する弱者にこそ、将来を明るくする公助が必要なのです。
 なのに、これほどの脅威を差し置いて、それでもなお防衛費倍増なのでしょうか。
 いや、単に少子化か防衛かの政策論ではありません。ここで私たちが問い直すのは「命と暮らし」を守る政治の責任の果たし方。ひいては国際社会で日本に求められる平和外交の理念です。
 話は二〇〇〇年の前後に遡(さかのぼ)ります。国連で新千年紀の一目標として「人間の安全保障」を惹句(じゃっく)とする取り組みが動きだしました。
 自国を敵国から守る国家の安全保障とは別に、世界で人々の命や暮らしを貧困、疫病、飢餓などの脅威から守る考え方です。
 実は、当時の小渕恵三首相が構想し、国連に設けた基金と有識者委員会が礎になりました。
 ノーベル経済学賞のアマルティア・セン教授と、緒方貞子・元国連難民高等弁務官(一九年、九十二歳で死去)=写真=が共同議長を務めた委員会は、〇三年の報告書で弱者を包括的に守る活動を方向付け。これを骨格にした「人間の安全保障」は一二年、国連の行動として定義付けられました。
 その理想は「持続可能な開発目標(SDGs)」の基盤ともなって、今に息づいています。

平和外交の意義と誇り

 再び遡って〇一年。年初にその共同議長に就いていた緒方さんは九月十一日。まさにニューヨークのビル四十階の部屋にいて「貿易センタービルが炎に包まれ、倒壊していく様子」を目撃しました。
 その恐怖が冷めやらぬ中で、自問を繰り返すシーンが自著の講演録などに出てきます。テロとの戦いが始まろうとしていました。
 いつどこで暴発するかもしれぬテロを相手に、国家の安全保障だけで国民を守れるか。テロの温床ともなり得る脅威から弱者を解き放ち、尊厳ある人生に導く「人間の安全保障」こそが今後、国際活動の主流になるのだろうと。自問は確信へと変わります。
 緒方さんはまた「人間の安全保障」が日本主導で提起されたことに、格別の意義を見いだしてもいました。平和憲法の下で経済発展を遂げ、その成果を基に政府開発援助(ODA)などで平和外交に尽くしていた、母国への「誇り」だったかもしれません。
 けれども、いつしか近隣国との間に疎通を欠き、近年「内向き」の外交姿勢に傾く日本に対して、緒方さんは独善をこうたしなめていました。「自分の国だけの平和はあり得ない。世界はつながっているんだから」…。
 もう一度、問い直します。
 それでもやっぱり、防衛費倍増でしょうか。近隣の仮想敵国に備える国境の守りですか、と。
 

 


原発避難者訴訟 納得しがたい判断だ

2022-06-18 09:47:23 | 桜ヶ丘9条の会

原発避難者訴訟 納得しがたい判断だ

2022年6月18日 

 福島原発事故での避難者の訴訟で、焦点の国の責任を最高裁は認めなかった。「仮に東京電力に対策を命じても事故は避けられなかった」との結論にはただ驚く。この初判断には到底納得しがたい。
 原発事故は被災者たちに「ふるさと喪失」などの深刻な事態を招いた。他県などに避難を余儀なくされた人々が起こした訴訟だ。
 注目の判決で最高裁は「実際の津波は想定より規模が大きく、仮に国が東京電力に必要な措置を命じていたとしても事故は避けられなかった可能性が高い」とした。
 この判断には疑問を持つ。
 まず国の地震調査研究推進本部が二〇〇二年に公表した「長期評価」についてだ。マグニチュード(M)8クラスの津波地震が三十年以内に発生する確率は20%程度だった。実際の地震はM9・1だから確かに想定より大きい。
 しかし、当時の福島第一原発の津波想定は五・七メートルしかなかったから、原子力安全・保安院(当時)が東電に対し、津波高の計算を求めていた。保安院内部でも後に組織横断的な勉強会を開いた。
 〇四年にはインドネシアのスマトラ島沖で巨大地震があった。遠く離れたインドのマドラス原発にまで津波が押し寄せ、運転不能になる事態が起きた。ポンプ室が水没したのだ。
 〇六年には勉強会に電力会社も参加させ、五・七メートルを超える津波だと同様の事態を招く恐れが、関係者の間で把握されたとされる。つまり巨大地震が起きると、原発には大津波が押し寄せ、建屋が水没する危険がある−。
 そのような事態は予想できたはずである。ならば防潮堤を高くしたり、原子炉建屋の防水対策をしたり、電源車を高台に配置するなど、全電源喪失の事態に陥らないための対策は十分、考えられたのではないか。そもそも「危険」と考えれば、原発の運転停止の判断もありうるはずである。
 実際に日本原子力発電の東海第二原発(茨城)の場合は、「最も危険な想定」で津波高を一二・二メートルとし、〇九年に従来の倍になる高さの盛り土工事や建屋扉の防水工事などをした。その結果、大津波の被害から免れたのである。
 「対策をしてもムダ」とでも言うような論法を許すならば、地震の巣と呼ばれる日本列島の上で原発を運転させること自体がもはや犯罪的ではないだろうか。