オンブズマン 市民の支えが原動力だ (2020年11月30日 中日新聞))

2020-11-30 09:44:12 | 桜ヶ丘9条の会

オンブズマン 市民の支えが原動力だ

2020年11月30日 中日新聞
 官官接待やカラ出張など公務員や議員による税金の使途を鋭く監視してきた市民オンブズマンが名古屋に生まれ三十年。存在感やその役割は一段と増す中、資金や人材の確保に頭を悩ましている。
 オンブズマンはスウェーデン語で「代理人」を意味する。日本では代理人ではなく市民自らが行政を監視しようと、大阪の弁護士らが一九八〇年代に「市民オンブズマン」を名乗ったのが最初とされる。名古屋市民オンブズマンは弁護士や税理士ら十数人が九〇年、大阪に続いて立ち上げた。
 「官官接待」の追及で一躍名をはせ、名古屋に続く団体が全国各地に生まれた。名古屋は、七十余団体でつくる全国オンブズを事務局として束ね、カラ出張や談合、裏金、政務活動費など、税金の使途に目を光らせてきた。
 オンブズ活動を巡って、愛知県弥富市議会は九月、「議員活動とは両立できない」として新人市議に辞職を勧告した。名古屋オンブズの批判を受け、市議会は今月二十四日、事実上、勧告を撤回したが、議員を含む誰もが住民監査請求や住民訴訟を起こすことができ、税金の使い方を正そうとする権利を有することは自明の理だ。
 もっとも、住民監査や、住民訴訟で勝訴してもオンブズ側に現金が入るわけではない。不適切に使われた税金を自治体に戻させるだけだ。昨今は会員の高齢化や活動資金の先細りが顕著という。
 名古屋オンブズを例に挙げると、昨年度の収入は会費と市民からのカンパなど計三十九万円にとどまる。ピーク時は百人を超えた会員は現在、四十人ほど。会員も支援者も高齢化が進み、会員数、収入ともに右肩下がりが続く。
 お膝元の名古屋市はコピー代が一枚十円かかる。年二万枚に及ぶ政活費の領収書をコピーしようとすると二十万円必要だ。情報公開度で先行する自治体のように領収書や視察報告書などをネット公開していれば別だが、名古屋分は一枚一枚精査する金銭的な余裕がないという。全国オンブズが毎年公表する情報公開度ランキングでは百点満点中十二点しかなく、全政令指定都市、中核市で最下位である。名古屋市の公開度の低さは「痛い腹を探られたくないためか」と皮肉りたくもなる。
 名古屋オンブズの担当者は多くの市民に活動に関心を持ってもらい、「できればカンパを」と頭を下げる。その存在は、これからの地方自治にも不可欠であることを改めて強調したい。

 


冬がくる前に 週のはじめに考える (2020年11月29日 中日新聞))

2020-11-29 11:26:49 | 桜ヶ丘9条の会

冬が来る前に 週のはじめに考える

2020年11月29日 中日新聞
 ギリシャ神話によると、女神ペルセポネは、冥界のザクロの実を十二粒中、四粒食べてしまったことで、年の三分の一を冥界で暮らすはめに。母親の豊穣(ほうじょう)の女神デメテルはそれを嘆き、その間、地上に実りをもたらさないと決めてしまう。それが「冬」の始まり…。
 暦の上ではもう冬ですが、気象学的には十二月からです。つまり今は、ぎりぎり、冬が来る前、というタイミング。

感染が広がりやすい季節

 「冬が近づくと…」と専門家らの恐れていたことが、このごろ、北半球各地で現実化しています。わが国でも、新型コロナの一日感染者数が過去最多を更新するなど「第三波」を認めざるを得ない状況ですが、欧州、そして米国での瀰漫(びまん)は目を覆いたいほど。
 米紙のコラムニストでもあるノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン氏は、過日の記事に「どれほど恐ろしい冬になり得るかを、どれぐらいの人が理解しているか確信がない」と、「コロナの冬」への恐れをつづっています。
 米国を「コロナ大国」にしてしまったトランプ大統領や共和党の姿勢の特徴とは、科学の否定でしょう。クルーグマン氏の表現を借りれば、例えば「最も基本的で安上がりな予防策であるマスクの着用を人々に求めることさえ、否定し、拒否する」ものといえます。
 トランプ氏が「暖かくなればウイルスは消える」など科学的根拠のない楽観、さらには事実と異なる主張を披歴してしばしば国民をミスリードしたことも思い出されます。国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長が科学的見地から何度も苦言を呈するのが気に食わず、「間抜け」呼ばわりしたことさえありました。
 コロナの件に限らず、トランプ主義の正体とは、自分が見たくない、自分に不都合な事実や科学的知見をフェイクだ、嘘(うそ)だといって否定、拒否することだったといえるでしょう。地球温暖化を「でたらめ」と決めつけ、パリ協定から離脱した愚挙もしかり。

都合悪いと「事実」も拒否

 そしてそれは、批判者には攻撃や脅し、異論を言えば排除というお得意の振る舞いとも通底しています。反対を言ったがために、一体、何人の側近が馘首(かくしゅ)されたことか。「粛清」や「収容所送り」こそないものの、やっていることの根本は権威主義国の独裁者と大差ない。大統領選後でさえ、人種差別抗議デモへの軍の動員に反対した国防長官を解任しています。
 似通ったことは、わが国でも起きています。菅首相は就任早々、「政策に反対する官僚は異動してもらう」と堂々明言。学術会議会員の任命拒否も、要は安保関連法制や軍事研究に批判的−即(すなわ)ち、政権に都合の悪そうな学者を排除したいだけ、との見方が専らです。
 事ほど左様、他国にも影響が及んだ節がある、トランプ氏の時代とは、いわば「事実の冬」。意に沿わねば、事実も科学も異論も退ける。そんな風潮も大統領もろとも早々退場願いたいものです。
 科学といえば、このごろしきりに思い出すのが、戦争映画の傑作『プライベート・ライアン』。ライアン二等兵の救出という危険な特命を受けた兵士たちは途中、仲間の一人カパーゾを失います。そんな犠牲を払ってまで助ける価値があるのかと自問する兵士の間でこんなやりとりが交わされます。
 「そいつ(ライアン)は、どんなやつなんだろう」
 「難病の特効薬や、切れない電球を発明するようなやつだと思おう。それでないとやりきれない。カパーゾの十人分に値するやつでなきゃ」
 確かに創薬とはそれほど崇高な仕事。それでも、今ほど切実にそう思ったことはありません。人類がコロナ禍というトンネルを抜け出すには多分、トランプ氏が軽んじた科学の力に頼るほかない。科学者たちがワクチンや特効薬の開発に夜も日もなく取り組んでくれているのを世界中が祈るように見守っています。幸い、最近、開発中のワクチンに臨床試験で高い効果が確認されたとの吉報が相次いでいます。闇の先に光が差した思いです。

されど、春は遠からじ

 でも無論、楽観は早計。何よりまずは正念場の冬です。わが国でも第三波の襲来で、医療機関の対応力が逼迫(ひっぱく)してきているような危険な状態ですが、私たちは少し、「コロナずれ」した感じもあります。紙ふうせんの名曲『冬が来る前に』を借りるなら、●冬が来る前にもう一度、半年ほど前の警戒心を思い出したい、ところです。
 寒く、暗いイメージの季節にコロナ警戒が重なりますが、「事実の冬」同様、「コロナの冬」もいつまでもは続きません。ペルセポネは必ず地上に戻ってきます。英国の詩人シェリーの有名な詩句を●冬が来る前にもう一度、かみしめておきたい、と思います。
 冬来りなば春遠からじ−。

 


「技能実習制度=国際協力」ほど遠く (2020年11月27日 中日新聞))

2020-11-28 17:04:44 | 桜ヶ丘9条の会

「技能実習制度=国際協力」ほど遠く

2020年11月27日 中日新聞
 コロナ禍で仕事や住まいを失い、外国人技能実習生の苦境が続く中、実習制度そのものの矛盾点が浮き彫りになってきた。制度の建前は、発展途上国に技能を伝える国際協力。だが、それを「フィクション」と疑問視し、撤廃を求める声も出ている。
 「スリッパで頭、たたかれた。髪の毛、引っ張られた」。六月まで名古屋市内の内装業者で技能実習をしていたミャンマー人の二十代の女性二人が、十月末に参院議員会館で開かれた集会で実態を訴えた。
 日本語をうまく話せない二人から、「ものづくり産業労働組合JAM」アドバイザーの小山正樹さん(69)がヒアリングした。二人の実習は壁紙を張る作業で、時給は最低賃金の九百円程度。月二万円の家賃のほかに電気代二万円を徴収された。六十時間以上残業した月は手取りが二十万円だったが、コロナの影響を受けた四月は十万円だった。
 社長に電気代を指摘すると髪を引っ張られ、仕事でミスをしたらスリッパでたたかれた。「おまえ、帰れ」と言われたり、事務所に呼び付けられて社長の肩もみをさせられたりしたことも。小山さんは「社長の言うことが絶対で、逆らうことができない」と指摘した。
 二人は実習生を受け入れ支援する監理団体の研修施設に保護され、コロナ禍を受けた一人十万円の特別定額給付金で食いつないだ。コロナ対策で認められた在留資格の特例適用を受け、別の職場に移っている。
 劣悪な実習環境が問題となって三年前に施行された技能実習法によれば、制度の目的は「人材育成を通じた開発途上地域などへの技術や知識の移転による国際協力の推進」。監理団体を許可制、実習先を届け出制にするなどして実習の適正化を図り、受け入れを拡大してきた。実習生は昨年末現在で四十一万人に上り、前年より25%増えた。
 その多くが母国の送り出し機関に現地の平均年収の数倍にも上る手数料を、借金で用立てて来日する。そして、コロナ禍の特例以外では法律上、違う業種の職場に移れない。「これでは実習先の言うことを聞かざるを得ず、我慢して働くことを強いられる。対等であるはずの雇用契約が隷属的だ」と小山さん。
 「実習生はお金を稼ごうとやってくる。実習先は安い労働力として利用する前提で雇う。技術移転だなんて、誰も思っていない。建前と実態の差が激しく、根本的におかしな、国際的にも恥ずかしい制度だ」
 ベトナム人技能実習生や留学生を支援する東京都港区のNPO法人「日越ともいき支援会」には、コロナの影響を受けて行き場を失ったベトナム人実習生ら三十人超が身を寄せている。
 技能実習の実態に詳しい神戸大の斉藤善久准教授(アジア労働法)は「技能実習は事実上、職場を限定した出稼ぎ制度になっている。それを国際協力とする制度全体がフィクションだ」と指摘し、制度がはらむ危険性をこう解説した。
 「雇う側は安くて辞めない労働力を確保できるので、賃上げを考えない。そんな条件では日本人を雇えないから、実習生が日本を見限れば労働力を失う。介護や農業など安定的に存続させなければならない産業の労働力を、技能実習制度のような出稼ぎ、使い捨ての方法に頼るのは、やめた方がいい」
 (大野孝志)
 

 


「桜」めぐる疑惑 安倍氏は国会で真実を (2020年11月26日 中日新聞))

2020-11-26 09:34:11 | 桜ヶ丘9条の会

「桜」巡る疑惑 安倍氏は国会で真実を

2020年11月26日 中日新聞
 「桜を見る会」前日の夕食会を巡る安倍晋三前首相の国会答弁は虚偽だった可能性が出てきた。森友問題でも事実と異なる政府答弁が百三十九回もあった。安倍氏は進んで国会で真実を語るべきだ。
 激しい憤りを禁じ得ない。国会はいつから「虚偽答弁」がこれほどまかり通るような場に堕落したのか。三権分立や議会制民主主義を脅かす重大事である。にもかかわらず、政府や与党の危機感があまりにも乏しい。
 安倍氏の後援会が主催した夕食会を巡り、安倍氏側が二〇一九年までの五年間、費用の不足分として総額約八百万円を補填(ほてん)していた疑いがあることが分かった。安倍氏周辺は東京地検特捜部の任意の事情聴取に補填を認めているという。
 また、特捜部はホテル側から、安倍氏側の費用補填をうかがわせる領収書を入手したという。
 この問題を巡り、安倍氏は在任中、国会で「安倍事務所が補填した事実は全くない」と断言し、費用は個々の参加者とホテルの直接契約により支払われ「後援会としての収入、支出は一切ない」とも主張していた。
 補填が事実なら、政治資金規正法(不記載)や公職選挙法(寄付行為の禁止)違反に当たるばかりか、安倍氏は国会で虚偽の答弁を繰り返したことになる。
 夕食会に限らず「桜を見る会」を巡っては、会の招待者を安倍氏が「政治家枠」を使って増やし、自身の支持拡大に利用した「私物化」疑惑や、巨額詐欺事件で逮捕されたジャパンライフ元会長が招待された経緯、招待者名簿の短期間での廃棄など、多くの問題が解明されていない。
 一連の問題は政府や政治に対する信頼を著しく損ねる。国会は放置せず、行政監視機能や国政調査権を駆使して事実関係を徹底解明すべきだ。安倍氏には国会で説明責任を果たすよう求めるべきであり、虚偽答弁をすれば罰せられる証人として喚問してはどうか。
 学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る問題では、安倍前政権下の一七〜一八年に国会で行われた政府答弁のうち、事実と異なる答弁が計百三十九回に上ることも明らかになった。
 政府が虚偽答弁を繰り返せば、国会は正しい法案審議ができず、行政監視機能や国政調査権を適切に行使できない。唯一の立法府であり、国権の最高機関である国会の存在意義を脅かす重大事態であるとの問題意識を、与党を含む全国会議員が持つべきである。

 


「核」疑惑で聴取 検察の独立を示すとき (2020年11月25日 中日新聞))

2020-11-25 10:18:46 | 桜ヶ丘9条の会

「桜」疑惑で聴取 検察の独立を示すとき

2020年11月25日 中日新聞
 「桜を見る会」をめぐる疑惑で、安倍晋三前首相の秘書らが事情聴取された。前日の夕食会の費用負担では前首相の国会答弁と矛盾する新疑惑も浮かんだ。権力に対峙(たいじ)する検察力を発揮してほしい。
 事態は深刻だ。安倍前首相の後援会が二〇一三年から一九年にかけ、「桜を見る会」の前日に、東京都内の高級ホテルで前夜祭を開催した。地元支援者が集まり、会費は一人五千円だった。だが、「安すぎる。安倍氏側が費用を補填(ほてん)したのではないか」との疑惑が国会で追及された。
 前首相の答弁はこうだ。「安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」「収入、支出は一切なく、政治資金収支報告書への記載は必要ない」「安倍事務所が補填した事実は全くない」と。
 市民団体などが政治資金規正法違反や公職選挙法違反の罪で告発したのを受け、東京地検が公設第一秘書や会計責任者らへの任意での事情聴取を進めてきた。その結果、安倍事務所側が数年間で約八百万円の補填をしていた疑いが新たに判明した。
 夕食会にかかった費用は集めた会費だけでは到底、足りなかったのだ。前首相の答弁とは明らかに食い違う。政治団体の収支の記載を義務づけた規正法にも、選挙区内での寄付を禁じた公選法にも反する可能性がある。
 前首相が補填の事実を知っていれば、虚偽の国会答弁をしていたことにもなる。仮に知らなかったとしても、野党が「ホテル側などに確認を」などと求めていたのだから、前首相側はいくらでも事態を把握できたはずである。どちらであっても議会や国民への背信行為には違いなかろう。
 もはや言い逃れはできない。誠心誠意の気持ちで国民に説明すべきであるし、東京地検には粛々と調べを尽くすことを求める。何より東京地検には過去にロッキード事件やリクルート事件など政界腐敗に切り込んだ歴史がある。
 それゆえなのか、安倍氏は首相時代に検察幹部の人事に介入しようとした。いわゆる黒川検事長問題である。
 検察官の定年を定めた検察庁法があるのに、国家公務員の定年延長規定を用いるという解釈変更を強行したが、世論の猛反発もあって挫折した。
 検察が独立していないと政治権力へのチェックはできない。「桜」の疑惑解明は、検察の独立と良心を示す機会でもある。