危機にある国会の統制 安保法施行4年
2020/3/28 中日新聞
安全保障関連法の施行から、あす二十九日で四年。安倍政権は国会での審議や議決を経ず、自衛隊の中東派遣を決めた。国会による文民統制は瀕死(ひんし)の危機にある。
× ×
先月二日、安倍晋三首相は神奈川県横須賀基地での護衛艦「たかなみ」の出国行事に出席し、乗組員約二百人を前に訓示した。
「(自衛隊が派遣される中東海域は)年間数千隻の日本関係船舶が航行し、わが国で消費する原油の約九割が通過する大動脈・命綱と言える海域だ。日本関係船舶の安全確保は政府の重要な責務であり、必要な情報収集を担う諸官の任務は国民の生活に直結する、極めて大きな意義を有する」
自衛隊、重責担い中東へ
今回、派遣されたのは「たかなみ」と、P3C哨戒機二機。
今月十三日の防衛省発表によると「たかなみ」は二月二十六日から二十九日までの間、オマーン湾とアラビア海北部の公海で約五百隻の船舶を確認。海賊対処を兼務するP3C哨戒機は一月二十日から二月二十九日までの間、アデン湾とアラビア海北部西側の公海で約二千五百隻の船舶を確認した。
ともに、自衛隊への救援要請など特段の異常は確認されなかったが、米・イランの対立により緊張が高まる海域だ。
トランプ米政権が提唱した有志連合軍には加わらない、日本独自の派遣だとはいえ、他国の派遣軍に、船舶の航行情報などの「軍事情報」を提供する関係にある。
自衛隊の海外派遣は、国家として重い意思表明だ。首相が出国行事に出席し、訓示して隊員を送り出したことがその証左だろう。
にもかかわらず、国会承認の必要がない防衛省設置法の「調査・研究」を根拠とした。国民の代表で構成する国会の審議や議決を経ない閣議のみの決定だ。国会の関与が十分とはとても言えない。
「調査・研究」を根拠に
自衛隊は憲法上「軍」ではないが、世界有数の「武力」を有する実力組織である。その活動には慎重を期さねばならない。それを担保する仕組みが、主権者たる国民の代表で構成する国会が、実力組織を統制する文民統制(シビリアンコントロール)である。
国会は、自衛隊組織の在り方を法律や予算の形で議決し、活動の是非も決める。自衛隊の指揮監督権は首相が有し、隊務は防衛相が統括しているが、自衛隊の活動はすべて国会の統制に服する形だ。
日本への武力攻撃に反撃する防衛出動も原則、事前の国会承認を必要とする。自衛隊を国会の統制下に置く意味はそれだけ重い。
特に、災害派遣を除く海外派遣は、その都度、法律をつくり、国会での審議や議決を経てきた。
国連平和維持活動(PKO)協力法や、インド洋で米軍などに給油活動するテロ対策特別措置法、イラクでの人道支援や多国籍軍支援を行うイラク復興支援特措法、アデン湾で外国籍を含む船舶を警護する海賊対処法である。
国会が認めなければ、自衛隊は海外で活動できない仕組みだ。
国会による文民統制が、戦後日本の民主主義体制で採用されたのは、かつて軍部の独走を許し、国内外に多大な犠牲を強いた先の大戦の反省からにほかならない。
安倍政権は今回、新規立法によらず、自衛隊を調査・研究規定で派遣したことについて、国民の権利義務にかかわらず、実力の行使を伴わないため、と説明する。
しかし、この手法は拡大解釈の危険性を秘める。米中枢同時テロが発生した二〇〇一年、当時の小泉純一郎内閣が法律に定めのない米空母護衛を、この規定を根拠に行ったことがある。
調査・研究規定に基づく派遣決定は、国会審議を回避することで野党の反対や批判を避け、政府の判断だけで自衛隊を運用する狙いがあると疑われても仕方がない。
国会を軽視し、回避する傾向は安倍内閣で顕著になっている。
歴代内閣が違憲としてきた「集団的自衛権の行使」の容認に転じた安倍内閣の閣議決定も、長年の国会審議などを通じて確立した政府見解を顧みず、一内閣の一存で決めたものである。この閣議決定が、他国同士の戦争への参加に道を開く安保法の根拠となった。
平和主義の根幹蝕む
調査・研究規定に基づく自衛隊の中東派遣は、憲法解釈の変更や安保法の成立強行から続く、安倍内閣の国会軽視の表れでもある。
首相が総裁として率いる自民党は、国会に代わり、内閣に法律と同じ効力を持つ政令の制定権を一時的に与える「緊急事態条項」を設ける改憲案を打ち出した。そこにも国会軽視の地金がのぞく。
国会による文民統制は、専守防衛や非核三原則などとともに憲法九条の平和主義の根幹を成す。その文民統制が失われれば、戦後日本の平和主義も蝕(むしば)まれることになる。憲法の危機にほかならない。