「専守」骨抜きの危うさ 防衛指針と安保法制(2015年4月28日中日新聞社説)

2015-04-28 08:17:25 | 桜ヶ丘9条の会
「専守」骨抜きの危うさ 防衛指針と安保法制
 日米防衛協力指針の再改定と安全保障法制の整備により、自衛隊が海外で武力の行使をする恐れが高まる。戦後日本の「専守防衛」政策は根本から覆る。

 ニューヨークでの日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)。主要議題は自衛隊と米軍の役割分担を定めた「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の再改定である。

 指針は一九七八年、日本への武力攻撃に備えて初めて策定され、九七年には朝鮮半島など日本周辺での緊急事態「周辺事態」を想定した内容に改められた。今回の再改定は十八年ぶりの見直しだ。

 地球規模に活動拡大

 指針は国会での承認が必要な条約とは違い、立法、予算上の措置を義務付けてはいない。しかし、それは建前にすぎない。過去の例では、九七年指針に基づく周辺事態法など、指針に沿って新しい法律がつくられているのが実態だ。

 米国との約束に基づき、日本政府が法整備を進める構図である。

 今回は、指針再改定の日米協議と並行して、安保関連法案づくりが進められた。与党協議もきのう実質合意に達した。五月十四日にも関連法案を閣議決定し、国会提出するという。指針再改定と安保法制整備は、安倍晋三首相の就任に伴って始まった、日本の防衛政策を根本から見直すための「車の両輪」だ。

 背景には中国の軍事的台頭とともに、安倍首相が掲げる「積極的平和主義」の下、自衛隊の軍事的役割を大幅に拡大し、活動地域も地球規模に広げる狙いがある。

 再改定された新指針には、日米両国の活動・行動がおのおのの憲法、法令などに従って行われることに加え、「日本の行動及び活動は、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる」ことも明記されている。

 海外で武力行使に道

 専守防衛とは、政府答弁によると「もっぱらわが国土及びその周辺において防衛を行う」「相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使」することだ。

 海外での武力の行使を放棄した平和憲法に則した抑制的な安全保障政策でもあり、日本国民だけで三百十万人の犠牲を出した先の大戦の深い反省に立脚している。

 しかし、新指針には専守防衛を逸脱する内容が含まれている。

 例えば、新たに項目を立てて明記された「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」である。

 米国や第三国が武力攻撃された場合、日本が直接攻撃されていなくても、日本の存立が脅かされ、国民の生命や権利などが根底から覆される明白な危険がある場合、自衛隊と米軍が共同対処することを定めている。日本にとって「集団的自衛権の行使」である。

 協力して行う作戦例に挙げられているのは、自衛隊による米軍武器の防護や機雷掃海、敵を支援する船舶の阻止、後方支援などだ。

 首相は「受動的、限定的」な活動と説明してきたが、そのような作戦に踏み込めば、自衛隊も攻撃対象となり、応戦を余儀なくされる可能性は排除できない。敵側を殺傷したり、自衛隊側に犠牲者が出ることも覚悟せねばなるまい。

 政府・与党はそうした危険性をどこまで認識しているのか。憲法九条の下で許され、専守防衛にも合致する活動と言い張るのか。

 新指針にも明記された他国軍への後方支援にも懸念がある。「重要影響事態法案」と「国際平和支援法案」だ。

 周辺事態法を改正する重要影響事態法案は現行法から地理的制限を撤廃し、米軍以外も支援対象とする。武器・弾薬補給も可能だ。

 政府が日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」と認定すれば、自衛隊の活動範囲は地球規模に拡大する。平和憲法からも、極東を対象とした日米安全保障条約からも逸脱する。

 国際平和支援法案は、これまで特別措置法で対応していた「国際社会の平和と安全」の確保のために活動する他国軍への後方支援を随時可能にする一般法だ。

 国連決議などを必要とし、例外なき国会の事前承認が前提だ。戦闘現場では実施しないとの制限も付くが、戦闘現場は戦況によって刻々と変わる。専守防衛にそぐわない、犠牲覚悟の危険な任務だ。

 戦後否定、認められぬ

 安保関連法案の内容は膨大、複雑、多岐にわたる。にもかかわらず、政府は新法は別として、現行法の改正案十本を一つの法案にして一括提出するという。高村正彦自民党副総裁は八月上旬までに、という成立期限まで明言した。あまりにも乱暴な進め方だ。

 海外で武力の行使をしないという、戦後日本の生き方を否定する安保政策の変更であり、慎重な検討が必要だ。安易に認めるわけにはいかない。重大な局面を迎えていることを自覚したい。



集団的自衛権行使反対愛知大集会の集会宣言(愛知県弁護士会会報2015年1月(No.645)より

2015-04-21 22:55:52 | 桜ヶ丘9条の会
                    集会宣言

 日本国憲法は、人権保障を中心的原理とする立憲主義の憲法です。


 そして、戦争が最大の人権侵害をもたらすものであることから、前文及び9条を中心に戦争放棄・戦力不保持という恒久平和主義を定めています。日本政府は、これまで一貫して、この日本国憲法の下では、日本が直接武力攻撃されていない場合に武力を行使する集団的自衛権は認められない、としてきました。これは日本国憲法発布後、憲法の条項の中でもっとも議論がたたかわされ、政府及び国会の憲法解釈が積み重ねられた結果、確立した揺らぎない憲法解釈です。
 しかし、2014年7月1日、安部内閣は、日本が直接武力攻撃されていない場合であっても武力を行使することができる、という集団的自衛権行使容認の閣議決定を行いました。

 この安倍内閣による閣議決定は、まず、日本国憲法の恒久平和主義に反するものです。閣議決定では、集団的自衛権を行使できる場面を限定しているかのようにうたわれていますが、実際には、時の政府の判断で日本として他国へ武力を行使できるおそれが極めて大きい内容です。実質的には日本から他国へ先制攻撃を行うことになりかねません。これは戦争を放棄し、戦力を保持せず武力行使以外の方策によって紛争解決を図るべきとした日本国憲法の恒久平和主義に大きく反します。

 のみならず、この閣議決定は、立憲主義を否定するものです。そもそも、憲法とは権力を制限する規範であり、すべての人が個人として尊重されるために最高法規として国家権力を制限するものです。
この立憲主義の立場に立つに日本国憲法について、時の政府が憲法改正手続きを経ることなく閣議決定によって確立した憲法解釈を変更しようとすることは、立憲主義を破壊するにひとしい歴史的暴挙です。


 今、私たちは、平和主義の危機、立憲主義の危機に直面しています。
 本日、ここに平和と自由を愛する多数の市民が集いました。私たちは、平和と自由を愛する者として、次の世代、その次の世代にも、日本国憲法とともに、平和で自由な日本を手渡してゆくことを決意し、そのために今後とも行動してゆくことを、ここに宣言します。

集団的自衛権行使反対愛知大集会 参加者一同

統治の具と成す不見識 権力と放送法(2015年4月16日中日新聞社説)

2015-04-16 08:33:37 | 桜ヶ丘9条の会
統治の具と成す不見識 権力と放送法

2015年4月16日中日新聞社説
 権力者はなぜ、かくも安易に放送法を振りかざすのか。放送内容に誤りなきを期すのは当然だが、放送局側を萎縮させ、表現の自由を損ねてはならない。

 きっかけは三月二十七日夜、テレビ朝日系列で放送された「報道ステーション」だった。

 この日が最後の出演とされたコメンテーター、元経済産業省官僚の古賀茂明氏が「菅義偉官房長官をはじめ、官邸の皆さんからバッシング(非難)を受けてきた」と述べると、菅氏は三十日の記者会見で「事実無根」と反論し、こう付け加えた。「放送法という法律があるので、テレビ局がどう対応するか、しばらく見守りたい」

 表現の自由を目的に

 自民党はあす、テレビ朝日などの経営幹部を呼び、番組内容について説明を求めるという。

 放送事業を規定する放送法は不偏不党、真実、自律を保障することで表現の自由を確保し、健全な民主主義の発達に資することが目的だ。放送番組は法律に基づく以外は誰からも干渉されないことが明記され、同時に政治的な公平、真実を曲げないこと、意見が対立する問題は多くの角度から論点を明らかにすることも求めている。

 放送は、政権や特定勢力の政治宣伝に利用されるべきではない。大本営発表を垂れ流して国民に真実を伝えず、戦意高揚の片棒を担いだ先の大戦の反省でもある。

 政治的に偏ったり、虚偽を放送しないよう、放送局側が自ら律することは当然だが、何が政治的公平か、真実は何かを判断することは難しい。にもかかわらず政治権力を持つ側が自らに批判的な放送内容を「偏っている」と攻撃することは後を絶たない。

 さかのぼれば一九六八年、TBSテレビ「ニュースコープ」のキャスターだった田英夫氏(二〇〇九年死去)がベトナム戦争報道をめぐり「解任」された件がある。

 自民党の圧力で解任

 田氏は前年、北ベトナムの首都ハノイを西側陣営のテレビ局として初めて取材し、戦時下の日常生活を伝えた。以前からTBSの報道に偏向との不満を募らせていた自民党側は放送後、TBS社長ら幹部を呼び「なぜあんな放送をさせたのか」と批判する。

 このとき社長は、ニュースのあるところに社員を派遣し、取材するのは当然、と突っぱねたが、翌六八年に状況は大きく変わる。

 成田空港反対運動を取材していた同社取材班が、反対同盟の女性らを取材バスに乗せていたことが発覚し、政府・自民党側がTBSへの圧力を一気に強めたのだ。

 田氏は自著「特攻隊だった僕がいま若者に伝えたいこと」(リヨン社)で当時の様子を振り返る。

 <当時の福田赳夫幹事長が、オフレコの記者懇談で、なんと「このようなことをするTBSは再免許を与えないこともあり得る」という発言をしたのです。

 これを聞いたTBSの社長は、翌日すぐに私を呼んで、「俺は言論の自由を守ろうとみなさんと一緒に言ってきたのだけれども、これ以上がんばるとTBSが危ない。残念だが、今日で辞めてくれ」と言われ、私はニュースキャスターをクビになりました>

 田氏解任の決定打は権力側が免許に言及したことだ。放送は電波法に基づく免許事業。五年に一度の再免許を受けられなければ事業は成り立たない。同法は放送法に違反した放送局に停波を命令できる旨も定める。権力が放送免許や放送法を統治の具としてきたのが現実だ。

 昨年の衆院選直前、安倍晋三首相はTBSテレビに出演した際、紹介された街頭インタビューに首相主導の経済政策に批判的な発言が多かったとして「おかしいじゃないですか」などと批判した。

 自民党はその後、在京テレビ局に選挙報道の公平、中立を求める文書を送り、報道ステーションには経済政策に関する報道内容が放送法抵触の恐れありと指摘する文書を出した。そして菅氏の放送法発言、自民党による聴取である。

 報道の正確、公平、中立の確保が建前でも、権力が免許や放送法に言及し、放送内容に異を唱えれば放送局を萎縮させ、結果的に表現の自由を損ねかねない。歴代政権は、自らの言動がもたらす弊害にあまりにも無自覚で不見識だ。

 「報道に意気込みを」

 キャスターを解任された田氏は七一年、参院議員となる。二〇〇七年に政界を引退する直前、本紙のインタビューに「メディアはもっと姿勢を正さなくちゃいけないね。報道に意気込みが感じられない。引きずられているんだよ」とメディアの現状を嘆いていた。

 政権による圧力に萎縮せず、それをはね返す気概もまた必要とされている。放送のみならず、私たち新聞を含めて報道に携わる者全体に、大先輩から突き付けられた重い課題である。



高浜3、4号機の再稼働差し止め 福井地裁が仮処分

2015-04-15 16:21:41 | 桜ヶ丘9条の会
高浜3、4号機の再稼働差し止め 福井地裁が仮処分 

2015/4/15中日新聞

高浜原発3、4号機の再稼働差し止めの仮処分が決定し、垂れ幕を掲げて喜ぶ住民ら=14日午後、福井地裁前で(河野光吉撮影)
 福井県や関西の住民ら九人が関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働差し止めを求めた仮処分申し立てで、福井地裁(樋口英明裁判長)は十四日、住民側の主張を全面的に認めて再稼働を認めない決定を出した。原発の運転を禁じる仮処分は全国で初めて。決定はすぐに効力を持つ。司法が原発の再稼働を止めた形となり、再稼働路線に積極的な政府の原子力政策に影響を与える可能性もある。

 高浜3、4号機は原子力規制委員会が今年二月、再稼働を前提とした原発の新規制基準を満たしていると結論。関電は福井県の地元同意などを経て、今年十一月の再稼働を目指していたが、仮処分の決定が取り消されるまでは運転できない。関電は、決定を不服として福井地裁に異議を申し立てることを明らかにした。今月二十二日には九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働差し止めの仮処分の可否決定が鹿児島地裁で予定されており、結果が注目される。

 樋口裁判長は決定で、関電が想定する基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)について「信頼に値する根拠が見いだせない。基準地震動を超える地震が起きれば、炉心損傷に至る危険性が認められる」として、住民側の主張を認めた。

 さらに、政府が「世界で最も厳しい安全基準」とする規制委の新規制基準を「合理性を欠く」と反論。高浜3、4号機は「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険がある」として、規制委の新規制基準を満たしていても安全は確保できないとした。再稼働した場合、二百五十キロ圏内に住む住民は「人格権を侵害される具体的な危険がある」と判断した。

 決定を受け、菅義偉官房長官は十四日の会見で「政府としては規制委の判断を尊重し、再稼働の方針に変わりない」と述べた。

 樋口裁判長は昨年五月、福井地裁で、関電大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転禁止を命じた。判決は現在、名古屋高裁金沢支部で係争中。住民らは昨年十二月、高浜3、4号機と大飯3、4号機の再稼働差し止めを求め、同地裁に仮処分を申し立て、大飯の審理は分離された。

 仮処分をめぐる審尋は三月十一日に結審したが、関電側は「審理が十分につくされていない」などとして、樋口裁判長ら裁判官三人の交代を求める忌避を申し立てるなど異例の展開をたどった。

◆速やかに不服申し立て

 関西電力の話 慎重な審理を福井地裁に強く求めてきたが、合理的な理由なく審理を終結し、申し立てを認める決定をした。主張を理解されず遺憾であり、承服できない。決定文の詳細を確認し、速やかに不服申し立ての手続きを行う。再稼働に向けた影響を最小限にとどめ、早期に仮処分命令を取り消していただくため、今後も安全性の主張・立証に全力を尽くす。

 <福井地裁決定の骨子>

▼高浜原発3、4号機を運転してはならない

▼想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しく、想定に満たない場合でも冷却機能喪失による重大事故が生じうる

▼使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むなどの対策がとられていない

▼原子力規制委員会の新規制基準は合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない

▼原発運転により、住民の人格権が侵害される具体的な危険がある


住民側、全面勝利に喜び 高浜再稼働差し止め 

2015/4/15 中日新聞

 司法が原発再稼働に「待った」をかけた。十四日、関西電力高浜原発3、4号機の運転禁止を命じた福井地裁の仮処分決定。東京電力福島第一原発の事故から四年がたち、政府と電力会社が原発再稼働への動きを加速させる中、「原発運転で人格権が侵害される危険がある」との司法判断に、住民側や脱原発派は「画期的だ」「原発ゼロの社会に踏み出せる」と喜んだ。一方、原発を抱える自治体では歓迎と戸惑いの声が交錯した。

 午後二時すぎの福井地裁前。「全面勝訴。考え得る最高の内容です」。雨の中、集まった支援者の前で、弁護団の河合弘之共同代表が声を張り上げると、涙ぐむ人も見られた。掲げた垂れ幕には、「司法はやっぱり生きていた」。住民側の思いが込められていた。

 近くのホールで開かれた報告集会では、支援者四百五十人が会場に収まりきらず、別室を設けるほど。河合共同代表が「徹底的に戦う最大の武器を手にした。きょうから第二ラウンドが始まる」。自信に満ちあふれた声が響くと、会場は大きな拍手に包まれた。

 今回の決定では、原子力規制委員会の新規制基準について「合理性を欠く」と指摘。再稼働の判断基準そのものに疑問を呈した。河合共同代表は「日本の全原発の再稼働が禁止されたと言って差し支えない」と強調した。

 四年前の福島第一原発事故後、福島県双葉町から福井県坂井市に避難している川崎葉子さん(64)は地裁前で「私たちのように古里を奪われる人が二度と出ないための第一歩。すごくうれしい」と笑顔で語った。

 申立人の一人、大阪府高槻市の水戸喜世子さん(79)は福島の事故を振り返りつつ「原発が止まらない絶望感は大きかった」と吐露。「原発を全部止めたい。これが未来の子どもたちへの最低の義務」と語った。

 市民団体「福井から原発を止める裁判の会」代表の中嶌哲演さん(73)も駆けつけた。「理想と現実が乖離(かいり)するのは世の常だが、理想と現実が一枚になった」と評価。「再稼働を許していくなら第二、第三の福島は必然。あと一、二年が正念場。再稼働を一基も許さなければ、原発ゼロの社会に日本は踏み出せる」と訴えた。

 十五日には大飯原発訴訟の控訴審が名古屋高裁金沢支部で開かれる。審理を前に中嶌さんは電力会社にこう呼び掛けた。「決定に背いて再稼働に暴走していくなら国民の反発を受けるだけ。謙虚に脱原発の一歩を踏み出すなら、どれほど国民の共感と支持を得られるか分かりません」






原発再稼働差し止め福井地裁仮処分決定(2015年4月15日)に関する社説一覧

2015-04-15 08:37:04 | 桜ヶ丘9条の会

高浜原発差し止め―司法の警告に耳を傾けよ
2015年4月15日(水)付 朝日新聞社説

 原発の再稼働を進める政府や電力会社への重い警告と受け止めるべきだ。

 福井地裁が関西電力高浜原発3、4号機の再稼働を禁じる仮処分決定を出した。直ちに効力が生じ、今後の司法手続きで決定の取り消しや変更がない限り再稼働はできなくなった。

 裁判所が仮処分で原発の運転を認めないという判断を示したのは初めてだ。高浜3、4号機は原子力規制委員会が「新規制基準を満たしている」と、事実上のゴーサインを出している。

 福島での事故後、規制当局も立て直しを迫られ、設置されたのが規制委である。その規制委が再稼働を認めた原発に、土壇場で司法がストップをかけた。国民に強く残る原発への不安を行政がすくい上げないとき、司法こそが住民の利益にしっかり目を向ける役割を果たす。そんな意図がよみとれる。

■新規制基準への疑問

 注目したいのは、規制委の新規制基準に疑義を呈した点だ。

 規制委は、最新の知見に基づいて基準を強化した場合、既存原発にも適用して対策を求めることにした。再稼働を進めようとする政治家らからは「世界一厳しい基準」などの言説も出ている。

 しかし、今回の決定は「想定外」の地震が相次ぎ、過酷事故も起きたのに、その基準強化や電力会社による対策が、まったく不十分と指摘している。

 地裁は、安全対策の柱となる「基準地震動」を超える地震が05年以降、四つの原発に5回も起きた事実を重くみて、「基準地震動を超える地震が高浜原発には到来しないというのは楽観的見通しにすぎない」と断じた。再稼働の前提となる新規制基準についても「緩やかにすぎ、これに適合しても原発の安全性は確保されていない」とまで指摘、「新基準は合理性を欠く」と結論づけた。

■燃料プールの安全性

 また決定は、燃料プールに保管されている使用済み核燃料の危険性についても触れた。

 格納容器のような施設に閉じ込められていないことを指摘して、国民の安全を最優先とせず「深刻な事故はめったに起きないという見通しにたっている」と厳しく批判した。

 そして①基準地震動の策定基準の見直し②外部電源等の耐震性強化③使用済み核燃料を堅固な施設で囲む④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性強化――の必要性をあげ、4点が解決されない限り脆弱(ぜいじゃく)性は解消しないと指摘した。

 これらはいずれも全国の原発に共通する問題だ。

 政府内では、2030年に向けた電源構成を決める議論が続いている。電源ごとの発電コストについても再検証中だ。

 04年時に1キロワット時あたり5・9円だった原発コストは、事故直後に8・9円以上とされた。電力各社は規制委の新基準に沿った安全対策費としてすでに2兆円以上を投じてきているが、今回の決定に則して対策の上積みを迫られれば、費用はさらに上昇しかねない。

 関電は決定に対し、不服申し立ての手続きをする意向だ。

 もちろん規制委も電力会社も、専門的な立場から決定内容に異論があるだろう。

 だが、普通の人が素朴に感じる疑問を背景に、技術的な検討も加えたうえで「再稼働すべきでない」という結論を示した司法判断の意味は大きい。裁判所の目線は終始、住民に寄り添っていて、説得力がある。

■立ち止まって考える

 今回のような司法判断が定着すれば多くの原発で再稼働ができなくなる。電力会社にとっては受け入れ難いことだろう。

 だが、原発に向ける国民のまなざしは「福島以前」より格段に厳しいことを自覚するべきではないか。

 今回の決定を導いたのは、昨年5月に大飯原発の運転差し止め判決を出した樋口英明裁判長だ。この判決について、経済界などから「地震科学の発展を理解していない」などと批判もあった。現在は、名古屋高裁金沢支部で審理が続いている。

 しかし、決定を突出した裁判官による特異な判断と軽んじることは避けたい。

 それを考える材料がある。

 昨年11月、大津地裁で高浜、大飯の原発再稼働の是非を問う仮処分申請の決定が出た。同地裁は運転差し止め自体は却下したものの「多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることに、合理性はあるのか」と指摘し、今回と同様、基準地震動の設定のあり方について疑問を呈していた。

 政府や電力会社の判断を追認しがちだった裁判所は、「3・11」を境に変わりつつあるのではないか。

 安倍政権は「安全審査に合格した原発については再稼働を判断していく」と繰り返す。

 そんな言い方ではもう理解は得られない。司法による警告に、政権も耳を傾けるべきだ。



社説:高浜原発差し止め 司法が発した重い警告
毎日新聞 2015年04月15日 02時33分

 関西電力高浜原発(福井県)3、4号機に対し、福井地裁は再稼働を認めない仮処分決定を出した。原子力規制委員会の安全審査に合格した原発の再稼働についての初の司法判断だったが、決定は審査の基準自体が甘いと厳しく指摘した。

 私たちは再生可能エネルギー拡大や省エネ推進、原発稼働40年ルールの順守で、できるだけ早く原発をゼロにすべきだと主張してきた。それを前提に最小限の再稼働は容認できるとの考え方に立っている。

 それに対し、決定が立脚しているのは地震国・日本の事情をふまえると、原発の危険をゼロにするか、あらゆる再稼働を認めないことでしか住民の安全は守れないという考え方のようだ。

 確かに事故が起これば、広範な住民の生命・財産・生活が長期に脅かされる。そうした危険性を思えば、現状のなし崩し的な再稼働の動きは「安全神話」への回帰につながるという司法からの重い警告と受け止めるべきだ。

 決定は新基準に対して、適合すれば深刻な災害を引き起こす恐れが万が一にもないと言える厳格さが求められると指摘した。事実上、原発の再稼働にゼロリスクを求めるに等しい内容だ。

 関電は規制委への申請後、想定する地震の最大の揺れ「基準地震動」を550ガルから700ガルに、最大の津波の高さ「基準津波」を5.7メートルから6.2メートルに引き上げ、安全性を高めたと強調した。

 しかし、決定は全国の原発で10年足らずに5回、基準地震動を超える地震が起きており、高浜でもその可能性は否定できないと指摘。このままでは施設が破損して炉心損傷に至る危険が認められると結論付けた。

 そのうえで、基準地震動を大幅に引き上げて根本的な耐震工事を施し、外部電源と主給水の耐震性を最高クラスに上げ、使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込むことでしか、危険は解消できないと指摘した。

 関電は11月の再稼働を見込んで手続きを進める予定だったが、日程の見直しを迫られかねない。

 今回の決定が示した考え方は、再稼働を目指そうとする国内の多くの原発にあてはまる。関電の大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた昨年5月の福井地裁判決と同じ裁判長の決定で、共通した安全思想が根底にあるようだ。

 原発再稼働の是非は国民生活や経済活動に大きな影響を与える。ゼロリスクを求めて一切の再稼働を認めないことは性急に過ぎるが、いくつもの問題を先送りしたまま、見切り発車で再稼働をすべきでないという警鐘は軽くない。


国民を守る司法判断だ 高浜原発「差し止め」

2015年4月15日 東京新聞・中日新聞社説


 関西電力高浜原発(福井県高浜町)の再稼働は認めない-。福井地裁は、原子力規制委員会の新規制基準を否定した。それでは国民が守られないと。
 仮処分は、差し迫った危険を回避するための措置である。通常の訴訟とは違い、即座に効力を発揮する。
 高浜原発3、4号機は、動かしてはならない危ないもの、再稼働を直ちにやめさせなければならないもの-。司法はそう判断したのである。

 なぜ差し迫った危険があるか。第一の理由は地震である。
 電力会社は、過去の統計から起こり得る最大の揺れの強さ、つまり基準地震動を想定し、それに耐え得る備えをすればいいと考えてきた。
◆当てにならない地震動
 原子力規制委員会は、新規制基準による審査に際し、基準値を引き上げるよう求めてはいる。
 関電は、3・11後、高浜原発の基準地震動を三七〇ガルから七〇〇ガルに引き上げた。
 しかし、それでも想定を超える地震は起きる。七年前の岩手・宮城内陸地震では、ひとけた違う四〇二二ガルを観測した。
 「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と地震学者の意見も引いている。
 日本は世界で発生する地震の一割が集中する世界有数の地震国である。国内に地震の空白地帯は存在せず、いつ、どこで、どんな大地震が発生するか分からない。
 だから基準地震動の考え方には疑問が混じると判じている。
 司法は次に、多重防護の考え方を覆す。
 原発は放射線が漏れないように五重の壁で守られているという。
 ところが、原子炉そのものの耐震性に疑念があれば、守りは「いきなり背水の陣」になってしまうというのである。
 また、使用済み核燃料プールが格納容器のような堅固な施設に閉じ込められていないという点に、「国の存続に関わるほどの被害を及ぼす可能性がある」と、最大級の不安を感じている。
 福島第一原発事故で、最も危険だったのは、爆発で屋根が破壊され、むき出しになった4号機の燃料プールだったと、内外の専門家が指摘する。
 つまり、安全への重大な疑問はいくつも残されたままである。ところが、「世界一厳しい」という新規制基準は、これらを視野に入れていない。
◆疑問だらけの再稼働
 それでも規制委は新基準に適合したと判断し、高浜原発は秋にも再稼働の運びになった。
 関電も規制委も、普通の人が原発に対して普通に抱く不安や疑問に、しっかりとこたえていないのだ。従って、「万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険」があると、福井地裁は判断した。新規制基準の効力や規制委の在り方そのものを否定したと言ってもいいだろう。
 新規制基準では、国民の命を守ることができないと、司法は判断したのである。
 昨年五月、大飯原発(福井県おおい町)3、4号機の差し止めを認めた裁判で、福井地裁は、憲法上の人格権、幸福を追求する権利を根拠として示し、多くの国民の理解を得た。生命を守り、生活を維持する権利である。国民の命を守る判決だった。
 今回の決定でも、“命の物差し”は踏襲された。
 命を何より大事にしたい。平穏に日々を送りたい。考えるまでもなく、普通の人が普通に抱く、最も平凡な願いではないか。
 福島原発事故の現実を見て、多くの国民が、原発に不安を感じている。
 なのに政府は、それにこたえずに、経済という物差しを振りかざし、温暖化対策なども口実に、原発再稼働の環境づくりに腐心する。一体誰のためなのか。
 原発立地地域の人々も、何も進んで原発がほしいわけではないだろう。仕事や補助金を失って地域が疲弊するのが怖いのだ。
 福井地裁の決定は、普通の人が普通に感じる不安と願望をくみ取った、ごく普通の判断だ。だからこそ、意味がある。
◆不安のない未来図を
 関電は異議申し立てをするという。しかし司法はあくまで、国民の安全の側に立ってほしい。
 三権分立の国である。政府は司法の声によく耳を傾けて、国民の幸福をより深く掘り下げるべきである。
 省エネと再生可能エネルギーの普及を加速させ、新たな暮らしと市場を拓(ひら)いてほしい。
 原発のある不安となくなる不安が一度に解消された未来図を、私たちに示すべきである。