政府、国会への影響回避狙う 統計不正(2019年1月18日中日新聞)

2019-01-18 09:07:25 | 桜ヶ丘9条の会
政府、国会への影響回避狙う 統計不正 

2019/1/18 中日新聞

 毎月勤労統計の不正調査問題で、調査に基づいた雇用保険などの過少支給の対象が二千万人を超えた。影響が広がり、政府は早々に厚生労働省幹部を処分して幕引きを狙う方針だが、肝心の真相は見えない。通常国会への波及を最小限にとどめる思惑が見え隠れする。

■裏切り

 「極めて遺憾だ。裏切られた気持ちにならざるを得ない」。十七日に開かれた臨時の総務省統計委員会で西村清彦委員長が批判した。雇用保険などの過少給付の対象は当初、延べ千九百七十三万人の見込みだった。その後、推計を進めると二千十五万人に増え、追加支給に絡む費用は総額約七百九十五億円に膨張。二〇一九年度予算案を十八日に決め直す事態となった。政府は監督責任を問う形で、近く鈴木俊彦事務次官ら厚労省幹部を懲戒処分とする方針だ。

 統計法によると、勤労統計のような「基幹統計」の調査方法を見直す場合、総務相に申請し承認を得る必要がある。それなのに、全数調査が求められる従業員五百人以上の事業所に関し、厚労省は〇四年から東京都分で一部抽出へ勝手に変更。菅義偉官房長官は十六日の記者会見で「統計法規定に則していなかったと考えられる」と踏み込んだ発言をした。

■急展開

 根本匠厚労相は当初、一連の問題の経緯を調べた後に関係者の処分を検討する考えを示していた。だが野党は、二十八日召集予定の通常国会が迫る中、不正調査問題の追及を最重要テーマに設定。「野党の前に官邸と与党が率先して厚労省をたたいた方がいい」(官邸筋)と政権が判断し、処分を急ぐ展開となった。与党幹部からは「給与返納など根本氏自身のけじめも避けられないだろう」との声が出ている。

 国会への影響回避に向けた動きが先行する半面、不正手法が始まった動機や目的などを弁護士ら外部有識者が調べる「特別監察委員会」は、十七日にようやく初会合を開いたばかり。根本氏は「政府統計の信頼回復に取り組む」と徹底調査に期待を示したものの、真相の解明がないがしろにされる懸念が残る。

 勤労統計に関する一五年以降のマニュアルから、抽出調査を容認する文言が削除されていたことが判明し問題が表面化しないよう隠蔽(いんぺい)工作が施された疑いが浮上している。厚労省幹部は「問題は長年にわたり、退職者もいる」と指摘した。

■悲愴感

 安倍政権にとって国会で野党側から攻撃されれば「政権へのダメージになる」(閣僚)のは必至。夏の参院選を控え、影響をできる限り抑えたいのは間違いない。社民党の又市征治党首は十七日の記者会見で「とんでもない話だ。第二の『消えた年金』問題になる」と徹底追及へ気勢を上げた。

 当初は雇用保険の失業給付の過少支給について、政府高官から「一人当たり千四百円程度だ」と軽口も。だが実態が明らかになるにつれ「延べ二千万人全員に支給し直すのは不可能に近い」(官邸関係者)と、悲愴(ひそう)感が漂う。政権幹部も「年金問題のように国民の怒りに火が付いてしまう」と危機感を募らせる。

 連立を組む公明党も事態を深刻視する。抽出調査に切り替えた当時の厚労相が同党出身の坂口力元衆院議員だった事情を抱え、批判の矛先が公明側に向かわないよう神経をとがらせる。


政府、米軍訓練で馬毛島買収へ 


2019/1/18 朝刊

 米軍空母艦載機の陸上空母離着陸訓練(FCLP)の移転先候補地である鹿児島県西之表(にしのおもて)市の馬毛島(まげしま)について、政府と地権者の売買が成立する見通しになった。訓練場所を米軍に提供するため、国が地権者に支払う買収額は以前の四倍近くに高騰。激しい騒音を伴う艦載機の受け入れに、周辺住民は憤りを隠さない。巨額の費用をつぎ込んでまで、移転に突き進む日米両政府の狙いとは。 

◆当初の4倍、160億円

 「何で当初四十五億円と査定したものが、百六十億円にまで増えるの。そんなに米国に(訓練施設という)お土産をあげたいのか。おかしいでしょ」

 「戦争をさせない種子島の会」のメンバーの山内光典氏は、こう憤る。嫌な予感は昨年十月、離島奪回を想定した日米共同訓練が、馬毛島から約十二キロしか離れていない種子島で行われたときから感じていた。

 買収報道後の島内の様子について「表面的には静か」と、西之表市議の和田香穂里氏は語る。ただ、「戦闘機の訓練が行われるようになれば、騒音で平穏な暮らしが壊されてしまうのではないか」と心配している人は多いと話す。

 「防衛省は当初、説明会で、年間延べ三十日間としていたが、米軍は約束なんて守らない。住民が『通らないで』という場所をバンバン通るし、夜間も行うだろう。危険なオスプレイも当然来ることになる。冗談じゃない」

 FCLPは空母艦載機を操縦するパイロットが、限られた面積しかない空母に安全に着艦できるようにする離着陸訓練。上空から飛んできた戦闘機の脚が地面に着いた瞬間、再びエンジンを最大出力にして飛び立つ「タッチ・アンド・ゴー」を繰り返す。

 米空母「ミッドウェー」が横須賀基地(神奈川県)を母港化した一九七三(昭和四十八)年に三沢基地(青森県)と岩国基地(山口県)で始まり、八二(同五十七)年からは主に厚木基地(神奈川県)で実施。騒音がひどく、周辺住民が怒りの声を上げたため、九一年以降は硫黄島(東京都)で暫定的に行われてきた。現在は原子力空母「ロナルド・レーガン」の艦載機が使っている。

 その新たな訓練場所にされようとしている馬毛島は戦後、農業開拓団が入植し、サトウキビ栽培や牛の放牧をしていた。小中学校も開校し、最盛期の五九年には五百二十八人が住んでいた。その後、レジャー施設の誘致話などが持ち上がったが実現せず、農業が行き詰まった八〇年ごろに無人島化した。土地の99%は開発会社「タストン・エアポート」(東京都)が所有している。

 「エンジンがうなる『ゴー』とか『ガー』という爆音が空から降ってくる。家の窓ガラスもがたがたと震える。もう耐えられないほど」。かつてFCLPの被害を受け、現在も騒音に悩まされている厚木基地爆音防止期成同盟の石郷岡忠男委員長は語る。

 「FCLPだけでなく、戦闘機が他の訓練に行く時や帰ってくる時もうるさい。馬毛島で訓練をするようになっても、硫黄島を全く使わなくはならないだろう。厚木のようにオスプレイがしょっちゅう立ち寄るのも確実。結局、基地が一つ増えるだけ。たらい回しは何の解決にもならない」

◆自衛隊利用視野?

 厚木基地の艦載機部隊は昨年三月までに岩国基地に拠点を移した。田村順玄・前岩国市議は、多いときは空中で数機が待機し、タッチ・アンド・ゴーを繰り返すと証言する。「至近距離で雷が鳴るような音が、夕方から夜九時まで続いたこともあった。種子島のような静かな場所では体感音はもっとひどいだろう」

 馬毛島の南西約四十キロには世界自然遺産の屋久島も。二十五年ほど前に移住した作家の古居智子氏は「観光で生きている屋久島の上空を戦闘機やオスプレイが飛ぶ影響は計り知れない。世界の宝と基地は共存できない」と話す。

 馬毛島でFCLPの話が持ち上がったのは二〇〇七年ごろ。厚木基地から硫黄島まで約千二百キロ離れているため、米側は日本政府に恒久的な訓練施設を確保するよう要求し、日米安全保障協議委員会(2プラス2)は馬毛島を移転先候補にすることで合意した。

 日本政府と、大半の土地を所有するタストン・エアポートとの交渉が長引く中、米軍は艦載機部隊の拠点を岩国基地に移駐。硫黄島から岩国基地までは約千四百キロとさらに遠くなり、同基地から約四百キロほどの馬毛島への移転を急ぐよう求めていた。

 菅義偉官房長官は今月十一日の記者会見で「着陸訓練の確保は安全保障上の重要な課題。早急に恒久的な施設を整備できるよう取り組む」と説明。防衛省も「南西地域における防衛体制充実のため、自衛隊施設を整備するとともに、FCLPを実施するため検討を進めている」とする。

 日米安全保障に関する著作があるジャーナリスト大内要三氏は「米軍は岩国から訓練に向かう際に無駄な燃料を使いたくないので、できるだけ近い場所に訓練地を求める。近ければ訓練の時間も多く確保できる」と話す。

 防衛省は馬毛島について「(米軍による)FCLPを実施するための候補地」で、自衛隊の利用について「お答えできるものはない」とするが、大内氏は「自衛隊も将来的には使い勝手が良くなる」とみる。政府は昨年の「防衛計画の大綱」などに海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」の事実上の空母化を盛り込んだ。「空母化すれば艦載機の訓練場所が必要になる。自衛隊もいずれはFCLPをできるようなるべく早く馬毛島を押さえておきたいのだろう」

 政府は将来的に米軍普天間飛行場(沖縄県)の垂直離着陸輸送機オスプレイの訓練も馬毛島に移転させ、沖縄の基地負担を軽減させるともしている。だが、流通経済大の植村秀樹教授(国際政治学)は「訓練や飛行中にトラブルが起きた場合の緊急着陸場所として活用するかもしれないが、沖縄の負担軽減にはほとんどならないだろう。馬毛島を含め日本本土に負担が広がるだけ」とみる。

 種子島の住民らが騒音や観光への影響を懸念する声に日本政府が正面から答えないのは、沖縄県名護市辺野古(へのこ)で米軍新基地建設を強行する姿勢と共通していると指摘する。「政府は米軍の要求を満たすことが第一で、地元住民らの反対や懸念は二の次。各地の騒音問題などでも何か被害が出れば、事後的に補償するだけにとどまってきた」

 米軍の基地負担について検証する必要性をあらためて訴える。「馬毛島でも沖縄でも、米軍の要求を満たそうとするあまり、過去の合意を強引に進めようとして、国内で負担を押しつけ合う構図になりつつある」

 (石井紀代美、中山岳)

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1 コメント

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どこのドイツ (ガーゴイル)
2020-09-05 09:53:19
基地の話は馬毛島ではなく、薩摩硫黄島での話である。本当の馬毛島は種子島西小島に登録されている。
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