「専守」変質を止めねば 安保法成立4年 (2019年9月19日 中日新聞)

2019-09-18 09:44:02 | 桜ヶ丘9条の会
「専守」変質を止めねば 安保法成立4年 
2019/9/19 中日新聞
 安全保障関連法成立から四年がたつ。違憲の疑いが指摘されながら既成事実化が続き、「専守防衛」の変質も進む。放置していいのか、重ねて問いたい。
 安全保障関連法の成立を、安倍政権が強行したのは二〇一五年九月十九日未明のことだった。
 あれから四年。歴代内閣が「憲法上許されない」としてきた「集団的自衛権の行使」を可能とする安保法は、当初から違憲の疑いが指摘され、全国二十二カ所で違憲訴訟も起きている。
 しかし、安倍政権は意に介すことなく、成立後は戦争放棄、戦力不保持の憲法九条を形骸化させるような防衛政策を続けてきた。

宇宙でも防衛力を整備

 安倍晋三首相は十七日、自衛隊幹部が一堂に会する「高級幹部会同」での訓示で、先端的な軍事技術の開発競争など安全保障環境が厳しくなっているとして「新たな防衛大綱は、こうした安全保障環境の変化の中にあって、従来の延長線上にない防衛力のあるべき姿を示したものだ。できる限り早期に実行に移し、万全の体制を築く必要がある」と強調した。
 防衛大綱(防衛計画の大綱)は安全保障や防衛力整備の基本方針を示すもので、今後五年間の装備品の見積もりを定めた「中期防衛力整備計画(中期防)」と合わせて昨年、改定された。
 新しい防衛大綱と中期防は、宇宙・サイバー・電磁波という新たな領域利用が急速に拡大しているとして、その変化に対応するため「多次元統合防衛力」という新たな概念を設け、陸・海・空各自衛隊の統合運用を進めるとともに、新たな領域での対応能力も構築・強化する内容である。
 日本を取り巻く安全保障環境の変化に応じて、防衛政策を適切に見直す必要性は認める。

「空母」は米軍のため?

 しかし、特定秘密保護法に始まり、「集団的自衛権の行使」を可能にした安保法、トランプ米政権が求める高額な米国製武器の購入拡大など、安倍政権の下で、戦後日本が堅持してきた「専守防衛」政策を変質させる動きが続く。
 新大綱と中期防も、そうした流れの中にあり、防衛予算の増額や自衛隊増強、日米の軍事的一体化の延長線上にあるのは、安倍首相自身が悲願とする憲法九条の「改正」なのだろう。
 どこかで歯止めを掛けなければ日本は軍事大国への道を再び歩みだしてしまうのではないか。
 首相は訓示で「来年、航空自衛隊に『宇宙作戦隊』を創設する。航空宇宙自衛隊への進化も、もはや夢物語ではない」とも語った。
 宇宙空間の利用について衆院は一九六九年、「平和目的に限る」と決議し、政府は「平和目的」を「非軍事」と説明してきた。
 その後、二〇〇八年成立の宇宙基本法で方針転換し、防衛目的での利用を認めたが「専守防衛」の範囲を厳守すべきは当然だ。「航空宇宙自衛隊」などと喜々として語る性質のものではあるまい。
 新大綱と中期防には、ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」型の事実上の「空母化」が明記され、二〇年度予算概算要求には改修費用が盛り込まれた。通常、潜水艦哨戒や輸送、救難のためのヘリコプターを搭載し、警戒監視や災害支援などに当たる「いずも」型の甲板を、短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機F35Bを搭載できるよう、耐熱性を高めるという。
 歴代内閣は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機などと同様、「攻撃型空母」の保有は許されないとの政府見解を堅持してきた。「いずも」型の改修でも「従来の政府見解には何らの変更もない」としているが、攻撃的兵器として運用されることは本当にないのか。
 防衛省は「いずも」型改修後、米海兵隊のF35Bによる先行利用を想定しているという。航空自衛隊へのF35B配備に時間を要するためとしているが、これでは、米軍のための「空母化」ではないのか、という疑念が湧く。
 「殴り込み」部隊とされる米海兵隊と一体運用される「いずも」型が、どうして攻撃型空母でないと言い張れるのか。

「非軍事大国」の道こそ

 戦後日本の「専守防衛」政策は先の大戦への痛切な反省に基づく誓いでもある。他国に脅威を与えるような軍事大国にならない平和国家の歩みこそが、国際社会で高い評価と尊敬を得てきた。この国家戦略は変えるべきではない。
 安倍首相は「専守防衛」に「いささかの変更もない」と言いながら、「集団的自衛権の行使」を容認し、防衛費を増やし続け、日米の軍事的一体化を進めている。
 安保法を含む安倍政権の防衛政策が、憲法を逸脱して、「専守防衛」をさらに変質させることはないのか、絶えず監視し、問い続けなければならない。










原発事故の責任どこに 東電旧経営陣強制起訴、あす判決 (2019年9月18日 中日新聞)

2019-09-18 09:34:17 | 桜ヶ丘9条の会
原発事故の責任どこに 東電旧経営陣強制起訴、あす判決 
2019/9/18 中日新聞

 安全軽視、利益優先、準備不足…。2年に及んだ東京電力福島第一原発の事故を巡る刑事裁判では、「人災」とも言える東京電力の姿勢が次々と明らかになった。この裁判の判決が19日に迫っている。業務上過失致死傷の罪に問われた東電の旧経営陣3人に対し、司法はどのような判断を下すのか。
 「原発事故から八年六カ月、本当に長かった。ようやく判決が出る」。八日に東京都内で開かれた集会で、福島原発刑事訴訟支援団長で福島県いわき市議の佐藤和良さん(65)は、感慨深く話した。
 佐藤さんや被災者約千三百人は、東電幹部らの刑事責任を問うため二〇一二年六月に告訴、告発した。告訴団はその後一万四千人余に増えた。東京地検は一三年と一五年に「刑事責任は問えない」と不起訴に。一方、市民から選ばれた検察審査会は二度にわたり「起訴すべきだ」と判断した。
 その結果、東電の勝俣恒久元会長(79)、武藤栄元副社長(69)、武黒一郎元副社長(73)の三人が一六年二月、検察官役の弁護士によって強制起訴された。指定弁護士はそれぞれに禁錮五年を求刑している。
 三人は「津波は予測できなかった」などと無罪を主張。しかし、津波の予測を巡っては東電の子会社が〇八年三月、福島県沖で起こりうる津波を最大一五・七メートルと試算していた。政府の地震調査研究推進本部が公表した「マグニチュード8級地震の可能性」という長期評価を踏まえたものだ。
 公判では、試算を受けて進み始めた津波対策が、東電の社内会議で先送りされた経緯が明らかになった。
 「力が抜けた」
 一八年四月、証人として出廷した男性社員は法廷でこう述べた。〇八年七月の社内会議で、防潮堤建設などの対策が武藤氏の判断により見送られた。その時の心境だ。科学ジャーナリスト添田孝史さんは八日の集会で男性社員の証言を紹介。「衝撃的だった。ここまで正直に言うとは思わなかった」と述べた。
 なぜ、津波対策が先送りされたのか。経営悪化が影響していたとみられる。
 社内会議の少し前に公表された〇八年三月期決算で、東電は二十八年ぶりに赤字転落していた。新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が停止した影響が重くのしかかっていたのだ。防潮堤建設には百億円ほどかかり、原子炉停止が必要になることもある。先送りの動機になった可能性は十分にある。
 また公判では、別の東電幹部が収支悪化のため「福島第一の停止はなんとか避けたかった」という供述調書も明らかになった。
 こうした東電の姿勢に、福島の被災者からは憤りの声が上がる。いわき市の木村亜衣さん(40)は「被災地に住む私たちは目に見えない、におわない、感じない放射能と、これから何十年と戦っていかなければならない。事故の責任を明確にしてほしい」と訴えた。
 佐藤さんも「政府は東京五輪にかまけ、復興を加速させるとして高レベルの汚染地に人々を帰還させている。原発事故の原点に立って被害救済を進めるために、刑事裁判に勝たないといけない」と語気を強めた。
 東電の利益優先の姿勢は、他の電力会社と比べても際立っていた。一例が、八六九年に仙台平野などを襲った貞観地震の津波への対応だ。
 内陸深くまで浸水した巨大津波だったのにあまり知られてなく、研究が進んだのは二〇〇五年以降だった。これを受け、東北電力女川原発(宮城県)は〇八年には津波想定の見直しを進めていた。
 一方の東電は、こうした研究成果をすぐ取り入れなかった。それどころか東北電にメールを送り、津波対策を見直す報告書を書き換えるよう圧力をかけた。
 こうした両社のやりとりが公判で明らかになった。添田さんは「東電は、科学の不確実性を原発事故の責任逃れの言い訳にしている疑いが濃厚だ」と語った。
 対策の不十分さは政府、国会、民間、東電の四つの事故調査委員会もそれぞれ指摘している。とりわけ国会事故調は「明らかな人災」と強い言葉で批判している。
 設備面での備えだけでなく、原発を運転する東電の能力面でも問題があったとみる人がいる。「東電は過酷事故に備えた準備・訓練ができていなかった」。こう語るのは、元原子炉設計技術者で国会事故調委員だった田中三彦さんだ。
 原発事故前、東電は事故時の対応を定めた運転操作手順書を三通り用意していた。事故の進行状況に応じて、手順書を切り替えて対応しなければならなかったが、福島の事故ではこの手順書の移行がうまくいかなかった。
 事故当時の福島第一原発所長で一三年に死去した吉田昌郎さんは、政府事故調の聴取に「全交流電源を喪失した時点で、これはシビアアクシデント事象に該当し得ると判断しておりますので、いちいちこういうような手順書間の移行の議論というのは、私の頭の中では飛んでいますね」と述べていた。
 事故時の対応のまずさが被害を大きくした可能性もある。田中さんは「東電は手順書をつくっても生かせなかった。これは経営側の問題。原発を運転する資格があったとは言えないだろう」と批判。その上で、事故を防げなかった国の責任も挙げる。「規制する側の国も東電に忖度(そんたく)して一体となり、安全対策がゆるんでいたことが問題だ」
 刑事裁判のほかに、福島から避難した人たちは東電や国に損害賠償を求めて各地の裁判所で民事訴訟を起こしている。福島原発被害弁護団幹事長の米倉勉弁護士は「刑事裁判で東電トップの過失責任が認められれば、民事上の責任を認める上でも重い意味がある」と語る。十九日の判決は、その後の損害賠償訴訟を占う上でも注目される。
 ただ、米倉弁護士は企業トップの刑事責任を追及するだけでは、再発防止は果たせないと考えている。必要なのは大規模な事故を起こした企業そのものを罰することだという。
 英国は、そんな仕組みを整えている。事故を起こした企業など法人に巨額の罰金を科す「組織罰」という方法だ。米倉弁護士は「事故の再発防止につなげ、被害者や遺族の憤りを和らげられる意味で組織罰の導入は一案。処罰の仕組みを議論する必要もあるのではないか」と語る。
 事故から八年半が過ぎても原因究明はまだ道半ば。原子力規制委員会は事故原因の調査を再開し、二〇年中に報告書をまとめる方針を示した。米倉弁護士は「原発を動かしていた国や東電がどうしてこんな無責任な体制になったのか。組織の意思決定が誤った背景を調べるために、今後も事故原因を広く調査してほしい」と求めている。
 (中山岳)