「宗務行政の適法性に疑問」消された 2014年、旧統一教会国賠訴訟の和解調書 (2022年8月31日 中日新聞)

2022-08-31 11:56:49 | 桜ヶ丘9条の会

「宗務行政の適法性に疑問」消された 2014年、旧統一教会国賠訴訟の和解調書

2022年8月31日 中日新聞
 「従前の宗務行政の適法性・妥当性に疑問の余地がないわけではない」。二〇一四年、鳥取地裁米子支部がこんな和解調書を決定した。文化庁のこれまでの旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)への対応を批判する内容だ。しかし、国側は猛反発し、この部分をばっさり削除した「更正調書」を裁判所に作らせていた。同庁は、この和解の翌年に、旧統一教会の名称変更を認めた。浮かぶのは、文化庁の不可解な対応の甘さばかりだ。 (宮畑譲、西田直晃)

国側が猛反発…削除

 「被告国においても、従前の宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問の余地がないわけではないことや、今後適切な宗務行政がなされることを期待する」
 二〇一四年七月十日、鳥取地裁米子支部が作成した民事裁判の和解調書に、裁判長が国の旧統一教会への対応を非難する文言が記された。しかし、この和解調書は翌月五日に「更正調書」として訂正されることになる。訂正後の調書では、この裁判長の文言が丸々、削除されてしまった。
 この裁判に原告側弁護団のメンバーとして関わった勝俣彰仁弁護士は「普通だったらありえない。この文言は和解の場で裁判長が口頭で述べたものをそのまま載せただけ。事実に間違いがあるわけではなく、被告側からの不当な削除要求だった」と振り返る。
 和解は七月十日で成立しているにもかかわらず、勝俣弁護士によると、この調書が関係者に配られた後、被告側から裁判所に対して、文言を削除するよう強い要求があり、裁判所が応じたのだという
 

法務省で開かれた旧統一教会を巡る問題についての関係省庁連絡会議第1回会合。奥左端は葉梨法相。肝心の文化庁が入っていない=18日

 勝俣弁護士はこの対応に納得していないが、「原告が高齢だったので被害弁償を優先し和解に応じた。裁判所が示した事実はあるので、しぶしぶ承知した」と訂正に応じた理由を語る。
 この裁判は、中国地方に住む高齢女性が、旧統一教会の霊感商法や献金強要などによって受けた損害賠償などを求めた訴訟で、〇九年に提訴した。国が教団に対して宗教法人法上求められる措置を適切に行っていなかったとして、国の「行政不作為」も問うた。旧統一教会の問題に関連して国賠訴訟を起こした初めての事例だとされる。
 和解は成立しているので、訂正されたとはいえ、当初の調書も記録として残る。訂正後の調書と合わせ、和解に関する文書が最終的に二通残ることになった。勝俣弁護士は「国は文字として残したくなかったのかもしれないが、逆に二通の記録が残ることになった。その事実が国や旧統一教会のやり方のおかしさを浮き彫りにしているのではないか」と話す。
 国と旧統一教会が関係する損害賠償を巡っては、他にも不可解な例がある。
 〇八年、千葉県の女性が献金した約二億二千万円の損害賠償を求めていたところ、教団側は献金額を上回る二億三千万円を支払う内容で示談に応じた。
 〇六年に賠償を求めた当初、教団側は約一億三千万円を提示していたが、被害額と隔たりがあるため、女性側が「国の責任も追及する」との訴状案を送付すると、教団側は歩み寄り、献金額を上回る額で合意に至った。
 女性側の代理人を務めた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の紀藤正樹弁護士は「そのころは、教団の勧誘の違法性などを認める最高裁判決が出そろった時期と重なる。解散命令が出されるといったことを恐れて、国が相手となる訴訟が起きるのはまずいと思ったのかもしれない」と、教団側の対応が変わった背景を推測する。

文化庁翌年、名称変更認める 提訴後は聴取さえせず

 米子の訴訟では、旧統一教会の所轄が都道府県から国に移った一九九六年以降、二〇〇九年までに少なくとも九回、文化庁宗務課が教会から任意聴取していたことなどを示す報告書も提出されていた。だが、そこから浮かぶのも「宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問」だ。
 

「宗務行政の適法性・妥当性に疑問の余地がないわけではない」とする和解調書。国側の抵抗で削除された

 報告書は一二年、当時の宗務課長が提出。「所轄庁の権限は、政教分離の原則から、宗教団体の活動の自由に干渉するようなことがあってはならず(中略)、憲法違反のおそれが生じます」と法の制約を強調した上で、九回の事情聴取では「適正な管理運営や個別事案への誠実な対応をするよう、口頭ではありましたが、明示的に、強く求めてまいりました」などとした。
 一方、この報告書では、全国弁連がたびたび、旧統一教会の収益事業の停止命令▽同会への報告徴収・質問権の行使▽同会の解散命令請求−などを文化庁に求めたのに対し、「慎重な検討が必要」「権限の行使は難しい」などと、拒否していたことも分かる。
 最も不可解なのは、この任意聴取さえも〇九年の提訴後は「無用の誤解を避けるため」として行っていないこと。だが、〇九年といえば、警視庁公安部の強制捜査で、霊感商法を行っていた旧統一教会関連会社の社長らが逮捕され、教会施設も家宅捜索された「新世事件」が発覚した年だ。
 教団の悪質性が注目されていた時期に当たり、むしろ対応を強めてもよかったのではないか。北海道大大学院の桜井義秀教授(宗教社会学)は「訴訟の当事者だから動くべきでないと考えたのだろうが、法廷で問われる責任と所轄庁としての責任は別のもの。何らかの知見や結論を得るまで、聴取を続けるべきだった」と指摘する。
 一方、報告書には「宗教法人法は、宗教団体の行為に対して他の法令の適用を妨げるものではない」とも。特定商取引法違反や刑法上の詐欺に当たる事実があれば、関係省庁が対応するという姿勢を示していた。だが、桜井氏は「霊感商法に関わる信者の多くは、無計画のまま善意で人をだましている。これは詐欺罪に該当せず、マインドコントロール下の信者への対応は従来の法解釈では難しい。被害の現状を見れば、柔軟な法解釈での立件、ひいては解散命令の請求に動くべきだったのではないか」と語る。
 この訴訟が和解終結した翌年の一五年、まさに宗教法人法の制約を逆手に取り、認証しなければ違法になると通告した上で、旧統一教会は名称変更を文化庁に申請した。当時の下村博文文部科学相への事前報告など異例な経過をたどりながらも、十九年越しの名称変更は実現した。
 ジャーナリストの鈴木エイト氏は「〇九年以前、原告側代理人の全国弁連と文化庁は綿密に意見交換していたが、訴訟の原告と被告になったことで溝ができた。文化庁が悪いという空気も醸成され、教会はその隙を突いて名称変更に動いた可能性もある」と話す。
 信教の自由を盾にしてきた旧統一教会と、それがあるから踏み込めないと不作為を重ねた国。一九九〇年代後半に文化庁宗務課長として、教団への解散命令請求を断念したという前川喜平氏は「実際に命令が出たのは、私が課長の時点ではオウム真理教だけ、〇九年でも霊視商法事件の明覚寺を合わせた二件。いずれも教団幹部が逮捕され、そのレベルで解散命令を出すという相場観が固定化していた」と振り返りつつ、こう語る。
 「信者の違法な勧誘について教団の使用者責任を認定した確定判決もあり、解散命令を請求できる余地はあった。『カルト対策をしっかりやれ』というような政治家の主導があれば、違う方角に向かう可能性もあったが、現実には違った」
 
 

 


最終文書、また決裂 NPT体制は形骸化、人類の課題解決策示せず (2022年8月28日 中日新聞)

2022-08-28 23:08:05 | 桜ヶ丘9条の会

最終文書、また決裂 NPT体制は形骸化、人類の課題解決策示せず

2022年8月28日 
 二十六日に閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナに侵攻したロシアが最後まで壁となり、二回連続で最終文書を採択できない最悪の結果に終わった。原発攻撃や核兵器使用への懸念が高まる中で開かれた会議は人類共通の課題への解決策を示せず、ある外交筋は「地に落ちたような気分」と語った。NPT体制は形骸化し、世界は核の軍拡競争に進みかねない危機に追い込まれた。
 二十六日午後、ニューヨークの国連本部の総会議場。集まった各国代表らに、最後の全体会合の開始延期が何度も告げられ、午後三時の予定が同七時過ぎにずれこんだ。
 軍縮外交筋によると、一部では合意に楽観論もあり、「最終的に決裂すると分かったのは議場でロシアが発言してから」。ぎりぎりまで調整を続けたスラウビネン議長が「合意に達することができなかった」と落胆した表情で告げると、議場全体が静まりかえった。
 ロシアが反対を貫いたのは、戦火を交えるウクライナを巡る記述だ。ザポロジエ原発占拠などの問題で、ロシアの責任を示唆するような記述を許せば目下の戦況にも影響を与えかねない。ロシアへの名指しは削除されたが、ロシアは強硬姿勢を崩さなかった。

■不信

 再検討会議が二回連続で決裂したことにより、NPTは最後に最終文書を採択した二〇一〇年以降、十二年以上も目立った成果を出せないことになった。
 核保有国の核弾頭数は減少傾向が続くが、各国は核兵器の更新や近代化を進める。米欧との対立を深める中国は、保有数でも三〇年までに現在の約三倍の千発に増やすとみられる。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は決裂後、記者団に「再検討会議と(核を保有する米英仏中ロの)五カ国だけでは、巨大な安全保障上の脅威に対応できないことがはっきりした」とNPT体制への不信感を口にした。
 実際、最終文書案には当初から核軍縮の期限や具体的な行動計画がなく、改訂の過程で「核の先制不使用」などのリスク低減を図る内容も削除。核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約に参加する非保有国などから不満が相次いだ。
 フィン氏は、核非保有の六十六カ国・地域が批准する核禁条約が、六月の第一回締約国会議で政治宣言を採択した成果を強調。推進国のメキシコは決裂後の会合で「核のない世界を目指すすべての国に対し、核禁条約にただちに参加するよう求める」と訴えた。

■原点

 しかし米英仏中ロは核禁条約に反対しており、保有国と非保有国が一堂に会して核軍縮を議論できるのはNPTの枠組みしかないのも事実だ。日本は岸田文雄首相が会議初日に演説し、核軍縮などについて「NPTが原点だ」と強調した。
 今回の決裂を機に保有国と非保有国の分断が進みかねず、今後は橋渡し役がますます重要となる。会議終盤に現地入りした武井俊輔外務副大臣は記者団に「ロシアもNPT体制は否定していない。核廃絶への歩みは一歩ずつ着実に進めなければならない」と述べた。
 (ニューヨーク・杉藤貴浩)

 核拡散防止条約(NPT)体制 核兵器保有を米ロ英仏中の5カ国に特権的に認める代わりに核軍縮を義務付け、他国の核保有は禁じる国際条約の枠組み。条約は1970年発効、191カ国・地域が加盟。原則5年ごとの再検討会議で核軍縮の進展などを点検する。NPT体制下で核軍縮停滞が続いたため非保有国の批判が高まり、2021年1月に核兵器の全面違法化、廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効した。保有国は反発、米国の「核の傘」の下にある日本も参加していない。 (共同)


一致点見いだす作業を

 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長の話 ロシアによる核のどう喝下でのウクライナ侵攻と原発占拠は現在進行形の重要な問題であり、既に多くの譲歩が重ねられた最終文書案からこれ以上後退させるわけにはいかなかった。現在の国際関係が終始、会議に色濃く反映されたと言える。今後、NPTの存在価値を巡る批判も出てくるだろうが、核保有国が参加するなど核のさまざまな問題に不可欠な条約であることも事実だ。核兵器が使用される可能性が高まる中、これをどう減らすかは各国が喫緊に合意すべき課題だ。冷戦期も米ソはキューバ危機を経て、リスク低減を核軍縮・不拡散につなげた。今後も対話の機会をつくり、まずは小さな一致点から見いだす地道な作業を続けていくしかない。 (共同)

「ロシアだけ悪」は危険

 長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授の話 米国はロシアによる核の威嚇を非難する一方、西側諸国の核抑止は責任ある正しいものだとする二重基準を用いた議論を展開した。最終文書案の作成過程では核兵器国の意向が強く反映され、核軍縮への言及が薄まった。核兵器国が核拡散防止条約(NPT)第6条の核軍縮義務をきちんと履行していないことが大きな問題で、最後に決裂を招いたロシアだけが悪いとする議論に収斂(しゅうれん)するのは危険だ。日本など「核の傘」の下にある国の姿勢が会議の中で非難されたことも忘れてはいけない。核兵器禁止条約の効果で、核の非人道性や被害者への言及など、前回会議と比べ前向きな動きもあったが、被爆地・長崎の私たちが国内外の世論を動かす力がまだ足りないと痛感した。 (共同)
2022年8月28日 
 

26日、米ニューヨークの国連本部で、NPT再検討会議が決裂し疲れた表情を見せる日本代表=共同

 二十六日に閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナに侵攻したロシアが最後まで壁となり、二回連続で最終文書を採択できない最悪の結果に終わった。原発攻撃や核兵器使用への懸念が高まる中で開かれた会議は人類共通の課題への解決策を示せず、ある外交筋は「地に落ちたような気分」と語った。NPT体制は形骸化し、世界は核の軍拡競争に進みかねない危機に追い込まれた。
 二十六日午後、ニューヨークの国連本部の総会議場。集まった各国代表らに、最後の全体会合の開始延期が何度も告げられ、午後三時の予定が同七時過ぎにずれこんだ。
 軍縮外交筋によると、一部では合意に楽観論もあり、「最終的に決裂すると分かったのは議場でロシアが発言してから」。ぎりぎりまで調整を続けたスラウビネン議長が「合意に達することができなかった」と落胆した表情で告げると、議場全体が静まりかえった。
 ロシアが反対を貫いたのは、戦火を交えるウクライナを巡る記述だ。ザポロジエ原発占拠などの問題で、ロシアの責任を示唆するような記述を許せば目下の戦況にも影響を与えかねない。ロシアへの名指しは削除されたが、ロシアは強硬姿勢を崩さなかった。

■不信

 再検討会議が二回連続で決裂したことにより、NPTは最後に最終文書を採択した二〇一〇年以降、十二年以上も目立った成果を出せないことになった。
 核保有国の核弾頭数は減少傾向が続くが、各国は核兵器の更新や近代化を進める。米欧との対立を深める中国は、保有数でも三〇年までに現在の約三倍の千発に増やすとみられる。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は決裂後、記者団に「再検討会議と(核を保有する米英仏中ロの)五カ国だけでは、巨大な安全保障上の脅威に対応できないことがはっきりした」とNPT体制への不信感を口にした。
 実際、最終文書案には当初から核軍縮の期限や具体的な行動計画がなく、改訂の過程で「核の先制不使用」などのリスク低減を図る内容も削除。核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約に参加する非保有国などから不満が相次いだ。
 フィン氏は、核非保有の六十六カ国・地域が批准する核禁条約が、六月の第一回締約国会議で政治宣言を採択した成果を強調。推進国のメキシコは決裂後の会合で「核のない世界を目指すすべての国に対し、核禁条約にただちに参加するよう求める」と訴えた。

■原点

 しかし米英仏中ロは核禁条約に反対しており、保有国と非保有国が一堂に会して核軍縮を議論できるのはNPTの枠組みしかないのも事実だ。日本は岸田文雄首相が会議初日に演説し、核軍縮などについて「NPTが原点だ」と強調した。
 今回の決裂を機に保有国と非保有国の分断が進みかねず、今後は橋渡し役がますます重要となる。会議終盤に現地入りした武井俊輔外務副大臣は記者団に「ロシアもNPT体制は否定していない。核廃絶への歩みは一歩ずつ着実に進めなければならない」と述べた。
 (ニューヨーク・杉藤貴浩)

 核拡散防止条約(NPT)体制 核兵器保有を米ロ英仏中の5カ国に特権的に認める代わりに核軍縮を義務付け、他国の核保有は禁じる国際条約の枠組み。条約は1970年発効、191カ国・地域が加盟。原則5年ごとの再検討会議で核軍縮の進展などを点検する。NPT体制下で核軍縮停滞が続いたため非保有国の批判が高まり、2021年1月に核兵器の全面違法化、廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効した。保有国は反発、米国の「核の傘」の下にある日本も参加していない。 (共同)


一致点見いだす作業を

 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長の話 ロシアによる核のどう喝下でのウクライナ侵攻と原発占拠は現在進行形の重要な問題であり、既に多くの譲歩が重ねられた最終文書案からこれ以上後退させるわけにはいかなかった。現在の国際関係が終始、会議に色濃く反映されたと言える。今後、NPTの存在価値を巡る批判も出てくるだろうが、核保有国が参加するなど核のさまざまな問題に不可欠な条約であることも事実だ。核兵器が使用される可能性が高まる中、これをどう減らすかは各国が喫緊に合意すべき課題だ。冷戦期も米ソはキューバ危機を経て、リスク低減を核軍縮・不拡散につなげた。今後も対話の機会をつくり、まずは小さな一致点から見いだす地道な作業を続けていくしかない。 (共同)

「ロシアだけ悪」は危険

 長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授の話 米国はロシアによる核の威嚇を非難する一方、西側諸国の核抑止は責任ある正しいものだとする二重基準を用いた議論を展開した。最終文書案の作成過程では核兵器国の意向が強く反映され、核軍縮への言及が薄まった。核兵器国が核拡散防止条約(NPT)第6条の核軍縮義務をきちんと履行していないことが大きな問題で、最後に決裂を招いたロシアだけが悪いとする議論に収斂(しゅうれん)するのは危険だ。日本など「核の傘」の下にある国の姿勢が会議の中で非難されたことも忘れてはいけない。核兵器禁止条約の効果で、核の非人道性や被害者への言及など、前回会議と比べ前向きな動きもあったが、被爆地・長崎の私たちが国内外の世論を動かす力がまだ足りないと痛感した。 (共同)

旧統一教会と政治 関係を断つ意志見えぬ (2022年8月18日 中日新聞)

2022-08-18 16:31:44 | 桜ヶ丘9条の会

旧統一教会と政治 関係を断つ意志見えぬ

2022年8月18日 

旧統一教会と政治 関係を断つ意志見えぬ

2022年8月18日 中日新聞

 内閣改造後も、閣僚らと世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や接点が次々と明らかになっている。岸田文雄首相は、教団との関係見直しを起用条件としたが、閣僚らの発言を聞く限り、関係断絶の意志は疑わしい。
 閣僚十九人のうち八閣僚に教団との接点があったことが判明し、計五十四人の副大臣や政務官のうち二十人以上が関係を認めた。
 首相が九月前半を想定していた内閣改造を前倒ししたのは、閣僚らと教団との不透明な関係により内閣支持率が下落したため、体制を刷新することが狙いだったが、完全に裏目に出た形だ。
 首相は起用の打診に当たり、教団との関係を点検し、厳正に見直すことを条件とし、「了解した者のみ任命した」と説明した。
 しかし、首相は教団との接点や関係のある者は閣僚らに起用すべきではなかった。改造後、教団との接点や関係が次々と明らかになるのは、首相の判断が甘かったからと指摘せざるを得ない。
 高市早苗経済安全保障担当相は二〇〇一年、教団の関連団体「世界日報」発行の月刊誌上で対談したが、教団との関係を「知らなかった」と話した。事実なら政治家として資質が問われて当然だ。
 豊田俊郎国土交通副大臣は一七年十月、教団のイベントに出席。教団総裁の名を挙げてあいさつしていたにもかかわらず、教団のイベントとは知らなかったと、事務所を通じて言い放った。
 杉田水脈総務政務官に至っては一六年、教団との関連が指摘される施設で講演し、自身のツイッターには当時「統一教会の信者の方にご支援いただくのは何の問題もない」と投稿していた。
 首相がこうした陣容で政治への信頼を回復できると考えるなら、国民を愚弄(ぐろう)するに等しい。
 旧統一教会と政治との関係が再び問題視されるきっかけは、安倍晋三元首相への銃撃事件だが、安倍氏がビデオメッセージを送った教団の関連団体はソウルでの催しで安倍氏を追悼し、同氏との親密さを依然、アピールしている。
 首相が自民党と教団との関係を断ち切るというなら、安倍政権の政策決定や政権運営に教団の影響力は及ばなかったのか、徹底的に検証することが先決だ。
 それ抜きに安倍氏の歴史的評価は定まらず、安倍氏の国葬に疑問を抱く国民の理解は得られまい。
 
 

 


犠牲はいつも無辜の民 戦争と平和を考える (2022年8月13日 中日新聞)

2022-08-13 17:03:36 | 桜ヶ丘9条の会

犠牲はいつも無辜の民 戦争と平和を考える

2022年8月13日 
 本紙が募った「平和の俳句」には今年六千二百二十二句が寄せられました。昨年より三割増です。紹介が始まった八月一日朝刊に掲載されたのは東京都町田市、篠田守弘さん(83)の作句でした。
 俳人、黒田杏(もも)子さんは「沖縄やウクライナを想(おも)うたびに、母上の遺(のこ)された空襲メモがよみがえる。日本中に空襲のあった日々を忘れてはなりません」と記します。
 今年、太平洋戦争終結から七十七年を迎えます。無謀な戦争により、日本人だけで三百十万人という膨大な命が失われました。交戦国や日本が侵略した近隣諸国を含めれば、犠牲者数はさらに膨れ上がります。
 戦争末期、本土決戦を遅らせる盾とされ、激烈な地上戦となった沖縄戦では、沖縄の一般県民九万四千人が犠牲となりました。
 空襲被害は四十七都道府県すべてに及び、犠牲になった非戦闘員は五十万人に上ります。原爆が投下された広島、長崎の犠牲者は合わせて二十万人以上です。

平穏な暮らしが奪われ

 日本が戦後、戦争放棄と戦力不保持を憲法に明記したのも、二度と戦争を起こしてはならない、犠牲者を出してはならない、との反省と誓いにほかなりません。
 しかし、世界を見渡すと戦火が絶えません。今年に入り、ロシアがウクライナに侵攻しました。日常の平穏な暮らしが突如失われ、戦闘に駆り出され、逃げ惑い、傷つき、命が奪われる…。現地からの報道には胸が痛みます。
 そして強く思うのです。戦争で犠牲となるのはいつの世も、何の罪もない「無辜(むこ)の民」だ、と。
 攻め込んだロシアに非があることは言うまでもありません。ウクライナが応戦するのも当然の権利です。でも、このまま戦闘が続けば、民間の犠牲者は増えるばかりです。どこかに和平の糸口はないのか、国際社会が乗り出して、何か打つ手だてはないのか、そう思わざるを得ません。
 太平洋戦争当時の日本もそうでした。戦時色が強まるにつれて人々から自由も、財産も、食べるものさえ奪われ、いつ終わるともしれぬ戦争に協力させられる。
 男たちは戦地に赴き、残った者は空襲に逃げ惑い、ある者は命を失い、ある者は傷つき、かろうじて生き残った者も、乏しい食料のひもじい生活を強いられる。
 こんなこともありました。終戦直前の青森でのことです。
 米軍機の空襲予告ビラを見た市民は郊外に避難し始めましたが、当時の県知事と市長が物資の配給停止を突き付け、市民を引き戻します。根拠は退去を禁じて消火活動などを義務付けた防空法です。
 市民が戻った青森の街を、米軍機は焼夷(しょうい)弾で焼き払い、千人を超す市民が犠牲となりました。
 防空法は当初、空襲被害を防止・軽減するためのものでしたが、その後の改正で空襲時の退去禁止や消火義務が新設され、罰則規定も強化されました。
 本来、国民の命や財産を守るために存在する法律が、戦時には命を奪う根拠となったのです。

戦傷市民には補償なく

 しかも、空襲被害者には、国から恩給が支給される旧軍人・旧軍属やその遺族とは異なり、今では何の補償もありません。
 戦中には空襲などの被害者と遺族への補償を行う「戦時災害保護法」がありましたが、戦後廃止されました。戦傷市民が国に補償を求めて起こした訴訟は、すべて敗訴に終わります。最高裁が示した、国家の非常事態に受けた被害は等しく我慢すべきだという「受忍論」がその根拠です。
 名古屋空襲=写真=で左目を失った杉山千佐子さんは「全国戦災傷害者連絡会」を組織して国会への働き掛けを続けましたが、議員立法による空襲被害者を援護する法律は成立に至らず、政府も「民間人は国と雇用関係がなかった」として救済を拒み続けています。
 為政者が起こす戦争で犠牲となるのは市井の人たちです。だからこそ戦争を始めない、戦争を止めるためには、私たち一人ひとりが声を上げる必要があるのです。
 今年、平和の俳句への応募数が増えたのは、ロシアの無法やウクライナの苦境を目の当たりにし、皆さんの平和を思う気持ちがより強まったからだと推察します。
 この社説の見出しは<犠牲はいつも無辜の民>と七五調としてみました。冒頭に<戦争の>と加えてみてください。私たち論説室の「平和の俳句」です。
 
 

 


疑念を払拭できるのか 岸田改造内閣が発足 (2022年8月11日 中日新聞)

2022-08-11 22:53:46 | 桜ヶ丘9条の会

疑念を払拭できるのか 岸田改造内閣が発足

2022年8月11日 
 
 岸田文雄首相が内閣改造と自民党役員人事を行った。山積する内外の懸案を処理するには自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を徹底的に調べ、関係を断つことが前提だが、首相はその姿勢に乏しく、国民の疑念を払拭(ふっしょく)するには程遠い。
 安倍晋三元首相銃撃事件を機に霊感商法などの不法行為を行った旧統一教会が百人規模の国会議員と接点を持つことが次々と明らかになった。教団が選挙などの支援を通じて政治家に影響力を行使しているのではないかとの疑念が、国民の政治不信を生んでいる。
 首相は役職への起用に当たり、旧統一教会との関係を「自ら点検し、厳正に見直すことが新閣僚、党役員の前提となる」と述べた。改造前の内閣で教団との関係を認めた閣僚七人は閣外に去った。

教団との関係断たねば

 しかし、改造内閣でも少なくとも四閣僚が教団と関係を持つことが明らかになった。党政調会長に起用された萩生田光一氏も教団関連のイベントであいさつするなど関係が深いとされる。
 最大派閥安倍派の有力議員であることが起用理由でも、党三役に教団と接点を持つ議員を起用するなら、党として「一切の関係を持っていない」(茂木敏充幹事長)と強調しても説得力を欠く。
 国民の疑念は今回の人事では払拭できず、政権として教団との関係を断つ意思を明確にしなければならない。自民党と教団との関係をすべて明らかにし、これまでの政策決定や政権運営に教団の影響力が及んでいなかったか、徹底検証の必要がある。さもなければ、問題を封印するに等しい。
 例えば、安倍政権下の二〇一五年、世界基督教統一神霊協会から現在の名称への変更を文化庁が認めた問題だ。名称変更の申請を拒んできた文化庁がなぜ姿勢を転じたのか、そこに政治家の介入はなかったのか。行政文書の全面開示も含めて調査を尽くすべきだ。
 また、自民党の改憲草案は旧統一教会系政治団体の改憲案と類似していると指摘され、選択的夫婦別姓や同性婚への反対でも軌を一にする。こうした党の政策に教団の影響はなかったのか、国民への説明を尽くすべきだ。政治信条の近さを背景に教団の不法行為を不問に付していたのなら、国民への背信行為にほかならない。
 自民党は党所属の全国会議員に教団との関係を点検し、適正に見直すよう要請したというが、党執行部主導で調査する姿勢を欠く。
 与党の公明党や立憲民主党など野党各党が党として調査し、結果を公表する中、個々の議員任せでは無責任のそしりは免れない。首相は党総裁としての指導力を発揮すべきである。
 今回の人事は旧統一教会との関係清算に加え、安倍氏の強い影響下にあった経済財政や安全保障政策を巡り、首相が独自色を発揮できるか否かの試金石でもある。
 閣僚の顔触れを見ると、首相が看板政策に掲げる「新しい資本主義」担当の山際大志郎氏は続投させる一方、厚生労働、経済産業、防衛、経済安保担当、デジタル担当には安倍・菅政権で閣僚や党幹部を務めた議員を起用した。
 一気に安倍・菅路線からの脱却を図るのではなく、党内の各派閥に配慮して政権基盤を固める必要があるとの判断だろう。
 とはいえ、いつになれば「岸田色」が見えるのか。漫然と政権運営を続けるなら、そもそも首相には成し遂げたいことがあるのか、との疑問が募るばかりだ。
 岸田政権が直ちに取り組むべき課題は山積している。ロシアによるウクライナ侵攻や円安による物価高、新型コロナウイルス感染症の第七波対策、台湾情勢を受けた日中関係の悪化などだ。

国会で議論・説明尽くせ

 しかし、首相は「戦後最大級の難局に直面している」と言いながら、参院選から一カ月がたっても課題審議のための国会は開かず、国論を二分する安倍氏の国葬についても説明を尽くしていない。
 先の臨時国会では、野党が十分な会期を確保して諸課題を審議するよう求めたが、与党が拒否し、三日間で閉会してしまった。
 首相は参院選結果を受け「与野党問わず幅広い視点や現場のさまざまな意見を踏まえ、大胆で機動的な政策を立案する」と述べた。ならば、内閣改造を機に臨時国会を早期に召集すべきだ。国民の意見に耳を傾け、国民への説明を尽くす。それが政治への信頼を取り戻す唯一の道である。