軍事ドローン、恐怖ばらまく サウジの石油施設攻撃
2019/9/21 朝刊
サウジアラビアの石油関連施設攻撃で、軍事ドローン(小型無人機)の脅威が注目されている。以前は大型の機種が偵察などに使われていたが、近年のIT革命で劇的に小型、低価格化。レーダー網をかいくぐり、複数機の群れで攻撃するケースもあるという。狙われる側から見ればロボット兵器同然で、多くの死傷者を出しているが、拡大は止まらない。空爆の歴史の転換点といえる動きを野放しにしていいのか。
サウジアラビアの石油関連施設が攻撃されたのは今月十四日。イエメンの反政府武装組織フーシ派は「無人機十機で大規模な作戦を実施した」と声明を出した。しかし、米国やサウジの担当者は「攻撃はイラン国内から行われた可能性が高い」と述べ、十八日に会見したサウジ国防省のマリキ報道官も無人機十八機と巡航ミサイル七発が使われたとするなど、食い違う。
曖昧な点が多いが、無人機、つまり軍事ドローンによる被害は近年、急速に増えている。
サウジでは今年五月と八月にも油送管や油田が狙われた。近年、百五十回以上の無人機攻撃に見舞われている。レバノンでも八月、イスラエルのものとされる無人機の爆発が起き、「自爆による明確な攻撃」と非難された。南米のベネズエラでは昨年八月、マドゥロ大統領の演説中にプラスチック爆弾を積んだドローンが上空で爆発する暗殺未遂事件があった。
自爆型と呼ばれるドローンは特に高性能化している。軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんは「時速は二百キロから三百キロで、飛行距離が千五百キロになるケースもある」と語る。巡航ミサイル並みとまでは言えないが、「製造費は百万円程度で、この安さが特徴。その気になれば普通の人でも入手可能で、テロ組織にとって使いやすい存在」。
プロペラ式で飛行するタイプが多い。運べる弾薬の量は十キロ程度のため、狭い範囲をピンポイントで狙う場合に用いられる。「目標物の経度や緯度を入力した上、飛行するルートや高度を設定して発射する。加速度などから位置情報をつかむ『慣性航法装置』や衛星利用測位システム(GPS)により、自律的に運行してターゲットに向かう」
十メートル前後の超低空で飛行させ、障害物の陰に隠れさせることも可能で、レーダーにも捉えられにくい。そうして目標物に激突する姿は「カミカゼドローン」とも呼ばれる。
軍事ジャーナリストの竹内修さんも「全長二メートルほどの小さいサイズもあり、搬送しやすい。大々的な発射基地もいらず、敵方の攻撃を避けるにはドローンを飛ばした後にその場から逃げればいい。まさにテロ組織向き」と言う。「先端にカメラを搭載すれば、目標物に激突した瞬間までの映像を受信できる。テロ組織にとってプロパガンダで使いやすい。物理的に攻撃する以上の意味がある」
こうした攻撃は阻止できるのか。前出の黒井さんによれば、上空の早期警戒機からレーダー波を発し襲来を把握する方法もある。ただ「警戒機が飛んでいない時を狙われることもあり得る」。対空ミサイルなどによる迎撃は可能だが、「一機百万円の無人機を一発数百万円のミサイルで迎撃する経済的な矛盾が生じる。守備側の消耗感が強くなる」。妨害電波や迎撃レーザーの活用など、試行錯誤が続いている。
◆米が開発促進、誤爆も相次ぐ
軍事ドローンの源流はどこにあるのか。軍事ジャーナリストの前田哲男さんは「『目を持った爆弾』だと考えるなら、ベトナム戦争末期に攻撃に使われた小型カメラ付きの『スマート爆弾(賢い爆弾)』が相当する」と話す。重力で落下させる従来の爆撃のあり方を、こうした精密誘導技術が変えていった。
技術が本格的に進化したのは、クウェート侵攻をきっかけにした一九九一年の湾岸戦争だ。「米国の国防総省は、がん細胞の切除手術のように軍事目標を攻撃できると言った」。大型の無人機「プレデター」などが登場し、二〇〇一年の米中枢同時テロ以降のアフガン戦争やイラク戦争、シリア内戦で、軍事ドローンが多用されてきた。米国の基地から遠隔操縦して掃討作戦を行うこともある。
国連報告によると、現在ドローン兵器を持っている国は七十数カ国に上る。世界各地の武器見本市で商談が盛んに行われている。日本の防衛省も、米国の無人偵察機「グローバルホーク」の購入を決めた。
近年はドローン自体の自律性も高まっている。「人間には良心があり、抑制する気持ちも働くが、ドローンには意志がない。プログラミングされた通りに、どんな残虐なこともできる。疲れを知らず、働ける。狙われた者にすれば、殺人ロボットそのものだ」と前田さんは言う。
だが、攻撃目標があらかじめプログラムされ、命中するとされるドローンも、実際には「誤爆」が相次ぐ。一三年にはイエメンで米軍の無人機が結婚式に向かう車列をミサイルで攻撃し、少なくとも十三人が死亡したと同国政府が発表。ロイター通信はイエメン警察当局の発言を引用し、結婚式の車列は「アルカイダの車列と間違えられて標的にされた」と報じている。
こうした軍事ドローンについて、国際的な批判は高まるばかりだ。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは一三年、「米国の無人攻撃は国際法違反の疑いがある」と非人道性を指摘。米国に対し、テロリストと認定し、標的と選定した基準を説明するよう求めた。
しかしこうした批判にもかかわらず、米政府は一五年、無人攻撃機の輸出拡大を進めるルールを発表した。
今年二月には、「キラーロボット」兵器に反対するNGOらが東京都内で集会を開いた。米国やロシアなどが開発中の自律型致死兵器システムの実戦導入に反対し、国際条約の策定を訴えた。軍事ドローンについても規制するよう求めている。
武器取引反対ネットワークの杉原浩司代表も「ドローン開発国が自らの利権を優先してきたつけがドローン拡散につながった。民間人を犠牲にした戦争犯罪を野放しにせず、人道的観点から世界全体で取り組むときだ。米国やロシアなど規制を阻んできた国が、議論の土俵に乗るべきだ」と話す。
日本では一五年に首相官邸でドローンが見つかった事件を機に民生用ドローンも規制されたが、杉原さんは「民生用に過度な規制は必要ない。そもそも軍事用のドローンを輸入しないとか、技術開発をしないことが先決だ」と訴える。
前出の前田さんは言う。「米国の同盟国のサウジで起きた今回の事件を歴史の流れで見れば、ドローン兵器を開発した米国が、手痛いしっぺ返しを受けているということ。兵器開発には反作用があり、絶対的に主導権を握り続けることはできない。対抗相手が必ず模倣し、報復する。核兵器もそうだった。米国は考え直すときだ」
(榊原崇仁、佐藤直子)