核廃絶と日本 信頼取り戻す努力を(2017年10月31日中日新聞)

2017-10-31 09:08:36 | 桜ヶ丘9条の会
核廃絶と日本 信頼取り戻す努力を 

2017/10/31 中日新聞
 日本政府の主導で国連に提出された核兵器廃絶決議が、昨年より賛成が二十三カ国も減る百四十四カ国によって採択された。内容への不満が原因だ。唯一の戦争被爆国としての信頼を取り戻せるか。

 決議は、米国やロシアなど核保有国に核軍縮の努力を求める内容で、日本が一九九四年以来、毎年提案し、採択されてきた。日本の決意を、世界に示すものだ。

 昨年までは、「核兵器のあらゆる使用」が「壊滅的な人道上の結末」をもたらすと明記していた。今年の決議は、「あらゆる」という文言が削除されるなど、非人道性に関する表現が大きく後退していた。

 さらに問題視されたのは、七月に国連で採択された核兵器禁止条約(日本は未参加)に、まったく言及していない点だ。

 「まるで核保有国が出した決議のような印象」(長崎市の田上富久市長)といった批判のほか、「核兵器使用もありうるというニュアンスを含んだ、危険な内容」(広島で被爆し、今年国連で自らの体験を語った日本原水爆被害者団体協議会の藤森俊希事務局次長)という怒りの声も相次いだ。

 日本の決議案が提出された国連総会第一委員会(軍縮)では、「核軍縮を後回しにする書きぶりだ」という批判もあったという。

 この決議が最初に国連に提出された時の外相は河野洋平氏だった。息子である河野太郎外相は、採決後に談話を出している。

 この中で外相は、「核兵器国と非核兵器国の立場の違いが顕在化している」と指摘した。決議は「すべての国が核軍縮に改めて関与できる共通の基盤を提供するものであり、幅広い支持を受けたことを心強く思う」と自賛した。

 確かに、核保有国である米英に加え、核兵器禁止条約に参加しなかったドイツ、イタリアなども共同提案国となり、賛成している。

 しかし、ブラジルやオーストリアなど核兵器禁止条約に熱心に取り組んでいる国は棄権に回り、決議の賛成国が、昨年より大幅に減った事実は重い。

 北朝鮮の核問題が深刻化する中で、唯一の戦争被爆国としての信頼や中立性、核廃絶に対する姿勢を疑われたといえよう。

 日本政府は十一月下旬に広島で、核軍縮をめぐって国内外の専門家が討論する「賢人会議」を主催し、具体的な提言をまとめる計画だ。日本が本当に核廃絶に向けた「橋渡し役」になるのか。証明なくして胸は張れない。

第4次安倍内閣 国会軽視してはならぬ(2017年10月30日中日新聞)

2017-10-30 08:37:13 | 桜ヶ丘9条の会
第4次安倍内閣 国会軽視してはならぬ 

2017/10/30 中日新聞
 来月一日に召集される特別国会での首相指名選挙を経て、第四次安倍内閣が発足する。「謙虚」「真摯(しんし)」との言葉を違えず、国権の最高機関である国会を軽視するような政権運営をしてはならない。

 先の衆院選で「勝利」した安倍晋三自民党総裁は一日、首相に選出された後、同日中に第四次内閣を発足させる見通しだ。現閣僚を全員、再任する意向だという。

 現在の第三次安倍第三次改造内閣は八月三日に発足した。しかし、その後、臨時国会が開かれたが冒頭で解散され、各閣僚は所信を語らないままだ。極めて異例である。背景に、国会を軽視する安倍内閣の姿勢があると指摘されても仕方があるまい。

 安倍政権は、安全保障関連法や「共謀罪」法の成立を強行するなど強引な国会運営を続けてきた。首相が野党議員にやじを飛ばしたかと思えば、憲法五三条に基づく野党側の臨時国会召集の要求を無視し、衆院解散に踏み切った。

 一日に召集される特別国会は、衆院選後に開くよう憲法に定められたものだ。しかし、会期はわずか八日間。休日や外交日程を考慮すれば、実質三日間だ。これでは実のある審議は望むべくもない。

 首相が、衆院解散の大義として「国難」に挙げた北朝鮮情勢や少子・高齢化対策はもちろん、経済政策や社会保障、財政規律など、議論すべき課題は山積している。

 加えて、学校法人「森友」学園への国有地売却や同「加計」学園の獣医学部新設も、引き続き国会での解明が必要な問題だ。共同通信社の九月下旬の世論調査では、政府の説明に納得できないとの答えが八割近くに上る。

 森友問題では、国有地売却額の妥当性を調べている会計検査院が値引き額が最大約六億円も過大だったと試算している、という。

 なぜそうなったのか。公平・公正であるべき行政判断が「首相の意向」や忖度(そんたく)で歪(ゆが)められたことはなかったのか。行政への国民の信頼にかかわる問題だ。内閣は国会での解明に進んで協力すべきだ。

 安倍政権は特別国会の会期を延長するか、閉会後、速やかに臨時国会を開き、実質審議の時間を確保すべき必要がある。その際、首相と閣僚が所信を表明し、各党の質問に答えるのは当然だ。

 首相は、衆院選後の記者会見で「今まで以上に謙虚な姿勢で、真摯な政権運営に全力を尽くさなければならない」と語った。

 言葉だけではなく、具体的な行動で示すべきである。

原発にも神鋼製、安全? 圧力容器などに使用(2017年10月28日中日新聞)

2017-10-28 09:00:57 | 桜ヶ丘9条の会
原発にも神鋼製、安全? 圧力容器などに使用 

2017/10/28中日新聞

 神戸製鋼所の製品データ改ざん問題が、原発にも広がりを見せている。同社製品は圧力容器や燃料棒被覆管など原発の重要部分に広く使われており、市民団体などからは「稼働中の原発も停止させて徹底的に調べるべきだ」といった声が上がり始めた。

 「神戸製鋼グループは、素材から機器・システム、プラント・施設建設にいたるまで独自の製品・技術で原子力産業に貢献しています」。同社ホームページ内にある資料には、誇らしげにこう書かれている。原子炉内の核燃料棒の被覆管、圧力容器のふたなどを製造しているほか、同社鋼板や鉄筋が原子炉建屋などで部材として多数使われているようだ。

 すでに、東京電力福島第二原発3号機の熱交換器の交換用チューブの検査データに不正があったことが判明。東電によると、一連の報道を受けて神鋼側に調査を求めたところ、不正の報告を受けたという。

 東電は「神鋼と直接契約した分の調査を求めたもので、他社製品の部材として使われているものは、個別のメーカーを通じて調べているところ」とする。具体的に同社原発のどこに神鋼製品が使われているかは「調査中なので答えられない」と述べるにとどまった。

 原子力規制委員会は、国内各電力会社などに報告を求めており、二十五日には神鋼幹部から調査状況を聴取した。規制委事務局の原子力規制庁担当者によると、「神鋼幹部は、不正があったのは東電のケースのみでそれ以外はないと答えたため、引き続き調査を進めるよう求めた」という。

 ただ、規制庁側は「国内原発のどこにどれくらい神鋼製品が使われているか把握しておらず、規制権限を行使してまで調査する段階ではない。神鋼側や各電力の調査を待つ」とする。

 こうした状況に危機感を持っているのは脱原発系の市民団体などだ。原子力資料情報室やグリーンピース・ジャパンなど六団体は二十五日、規制委に対し、稼働中の原発を停止させるなどして「包括的で確認可能な透明性のある検査」を行うよう求めた。

 現在来日中のグリーンピース・ドイツ核問題シニアスペシャリストのショーン・バーニー氏は「神鋼は国内外の原発に部品を供給してきた。部品は、通常運転や緊急停止の際に原子炉を冷やすために欠かせない。規制委は広範で厳格な調査を実施しなければならない」と話す。

 昨年、フランスで使用中の日本製原発部品に強度不足が発覚した問題で、製造会社が国内の原発にも同種部品を納入していたことから、規制委は電力各社に調査を指示したが、各社の報告書を追認するのみで、あっさり「安全」と結論を出した経緯がある。市民団体側は、規制委がまたこうした調査で済ませるのではないかと懸念しているのだ。

 元原子力プラント技術者の後藤政志氏は「強度は要求通りにあると考えて設計するのが普通。その前提が崩れるのは大変な問題だ」とした上で「規制委はもっと積極的に安全上重要な部分に神鋼製品が使われていないか調べるべきだ」と話している。

 (大村歩)


働き方改革 「数の力」心配になる(2017年10月27日中日新聞)

2017-10-27 08:49:26 | 桜ヶ丘9条の会
働き方改革 「数の力」が心配になる 

2017/10/27中日新聞
 与野党が対立する働き方改革に関する議論は、本来は選挙の争点だったはずだが、低調な論戦に終わった。選挙で語らぬ政策を「安倍一強」政権は今後の国会審議でごり押ししないだろうか。

 そんな争点などなかったかのような盛り上がらない論戦だった。

 時間外労働に上限を設け規制を強化する。一方で、金融ディーラーや研究職など高年収の専門職を時間規制から外すことから「残業代ゼロ法案」と批判される「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」導入という緩和もする。

 両者を抱き合わせる点にも批判がある働き方改革関連法案は、今秋の臨時国会最大の与野党対立法案になる、そう見られている中での衆院解散だった。選挙戦でも争点化が期待された。

 立憲民主党や共産党、社民党は高プロ導入に反対を主張した。

 ところが、自民・公明両党は衆院選公約では、長時間労働の是正こそ掲げているが、「高プロ」の導入については触れずじまいだった。批判を懸念し「争点隠し」をしたように見える。

 雇用政策は社会保障と密接にからむ。現役世代が賃金から支払う保険料は社会保障制度を支える重要な財源だ。賃金が上がれば保険料収入も増える。安定した雇用や子育てなどとの両立が実現し、生活できる賃金が得られるような改革を考えることは、社会保障の将来にとっても重要な議論である。

 だが、論戦は幼児教育・保育の無償化に限られてしまった。

 安倍政権は安全保障関連法や「共謀罪」法など選挙で語らなかった政策を「数の力」で押し通した。労働法制では二〇一五年、改正労働者派遣法を強引に成立させた。派遣という働き方を固定化させると批判があった。

 昨年には、支給額を抑えるルール強化に野党が反対した年金制度改革関連法の国会審議で安倍晋三首相は「私が述べたことを理解いただかないと何時間やっても一緒だ」と突き放し採決を強行した。

 首相は選挙の大勝を踏まえ「今まで以上に謙虚で真摯(しんし)な政権運営に努めていく」と語った。

 立憲民主党の枝野幸男代表は選挙期間中「首相が勝てば『残業代ゼロ法案』が必ず国会に出てくる」と警戒感を示した。力任せの国会運営は許されない。野党の批判にも謙虚に耳を傾けるべきだ。

 希望の党が労働法制や「高プロ」について態度が不明確なことも気になる。働き方の将来像を早く示してほしい。    

アベノミクス 再加速の前に検証せよ(2017年10月25日中日新聞)

2017-10-25 09:06:43 | 桜ヶ丘9条の会
アベノミクス 再加速の前に検証せよ 

2017/10/25 中日新聞
 総選挙に勝利した安倍晋三首相はアベノミクスを再加速させるというが、待ってほしい。物価目標も財政再建目標も達成できず、大企業や富裕層を利して格差を広げる政策を強化していい訳がない。

 選挙で勝利が決まるやいなや、早くも来年の通常国会への補正予算案提出が話題に上っている。

 ある時は景気拡大が戦後二番目の長さで続いていると喧伝(けんでん)する。またある時は国難だとか、少子高齢化が最大の課題だと危機を煽(あお)り、財政出動の必要性を強調する。少子高齢化はもう積年の課題である。ご都合主義も甚だしい。

 第一の矢である異次元緩和は、二年で2%の物価上昇を目標とした。だが、もう六回も達成時期を先送りし、いつ実現するか展望できないままだ。

 第二の矢の機動的な財政出動は、超低金利ですっかり財政規律が緩み、大盤振る舞いが止まらない。国と地方の借金は一千兆円を軽く超えた。赤子からお年寄りまで国民一人八百万円超の借金を背負う状態だ。財政健全化目標だった二〇二〇年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化させる国際公約も達成できない。

 毎年、看板を付け替える成長戦略も、経済の実力を示す潜在成長率が1%に届かない現状をみれば不発だとわかる。

 「成長と財政健全化の両立」をうたったアベノミクスは完全に失速している。再加速させれば、何とかなるとでも思っているのか。

 首相は選挙中、正社員の有効求人倍率が一倍を超え、雇用環境が改善したと胸を張った。だが地域差が大きいうえ、高倍率は警備や建築・土木、接客・給仕、介護、トラック運転手など厳しい労働条件の割に待遇が良くない職種だ。

 そもそも首相が国難と呼ぶ少子高齢化が人手不足を生み、それが雇用の数字を改善させているだけなのではないか。

 企業業績が最高益を記録するのに賃金はほとんど伸びない。金融資産を三千万円以上保有する富裕層の比率が上昇する一方、保有ゼロ世帯は三割を突破した。自らに都合のいい数字ばかり取り出して強調するのではなく、高まる一方の財政や金融のリスクも同時に俎上(そじょう)に載せ検証すべきだ。

 格差を放置せず、効果が見込めないアベノミクスには見切りを付け、労働分配率を高めさせたり所得の再分配に力を入れるべきだ。

 今のままでは確実に主要先進国に置き去りにされる。再加速よりもまず検証と見直しを求めたい。