絶えぬ踏切事故、対策は 年間死者100人超 (2019年9月10日 中日新聞)

2019-09-10 08:31:29 | 桜ヶ丘9条の会
絶えぬ踏切事故、対策は 年間死者100人超 
2019/9/10 中日新聞

 横浜市神奈川区の京浜急行線で五日に快特電車とトラックが衝突する事故が起きた。電車も車もひっきりなしに通る首都圏で、踏切の危なさは何度も指摘されてきた。しかし、事故は繰り返される。防止策はどうなっているのか。踏切をなくす取り組みは難しいのか。

◆今もダッシュで横断 05年に4人死傷・東京都足立区

 「十二時二十八分発上り始発(竹ノ塚駅発)が通ります」。東京都足立区の東武伊勢崎線竹ノ塚駅南側の踏切に声が響く。十四年前の二〇〇五年三月十五日夕方に二人が死亡、二人がけがをした事故の現場だ。この時は、遮断機が上がって渡り始めた女性四人が準急電車にはねられた。
 六日昼に訪ねると、警備員四人がマイクで歩行者らに注意を促していた。警報機が鳴り、女性のような機械音で「踏切のくぐり抜けはおやめください。お急ぎの場合は地下自由通路をご利用ください」と流れた。遮断機が下りると、車が並び、歩道は自転車や歩行者でいっぱいになった。
 この踏切では約三十二メートルで五本の線路を渡る。徒歩で渡り切るのに三十秒弱かかる計算だ。「開かずの踏切」として有名で、朝には五十分近く閉まりっぱなしになることがある。
 「この踏切はいつもせわしない。警備員の人の注意する声が飛んだり、警笛が鳴ったり。朝夕のラッシュ時間はすごい。みんなすごい勢いで走る」。居合わせた女性(41)はこう語り、「踏切がなくなれば、事故が減るんでしょうけど…」。
 自転車で通り掛かった近くに住む角田美幸さん(37)は、京浜急行線の事故で十四年前を思い出した。「ここでも事故があったから。危ないので、小学生の子どもたちには地下道を通るように言っている」
 「開いたらすぐ閉まります」と警備員の声が響き、遮断機が上がった。通行人や自転車が急いで渡り始めた。踏切内でブレーキをかけた車を見て、警備員が急いで通るように促した。
 区内に住む春日イクさん(80)は「急がないと。焦っちゃう。渡る途中で閉まりそうになったときもあって」と小走りで立ち去った。踏切を急いで渡ってきた会社員の田島四郎さん(70)は「結構走ってる。地下道があるけど自転車に乗っている時は面倒くさくて」。
 保安係が手動で行っていた遮断機の上げ下げは、事故後に自動化された。警備員は二人一組の六人体制で、常時二組が踏切に立つ。その一人の男性(20)は「時刻表はだいたい覚えている。朝夕は踏切両側で計八十人ぐらいが待つ。真ん中の遮断機の空いている所を擦り抜けようとするから、気を付けないと」と言う。
 地元の人たちは線路を高架にし、踏切をなくす抜本的な対策を求めた。事故後、高架化を望む区民ら二十一万人の署名が区に提出された。工事が進み、踏切は二二年三月になくなる予定。費用は約六百三十億円に上る。
 近くで生花店を営む石割正三さん(74)は「構想は前からあったけど、金がかかるから。事故がなければ高架化されなかった。自転車など急いで通ろうとして危ない。踏切はない方がいい」と早く工事が終わることを願っていた。

◆「開かず」全国に532カ所

 踏切は全国に三万三千カ所ある。五十年前から半減したが、東京二十三区内だけでも二〇一四年度末時点で六百二十カ所。これはニューヨークの十三倍、ロンドンの四十八倍で、東京は世界的に見て極めて多い。ちなみに、パリに踏切は七カ所しかない。
 国土交通省のまとめで、全国の踏切事故は一七年度に二百五十件。百十一人が死亡した。〇〇年の四百六十八件、百四十人に比べて減ってはいるものの「依然として事故は多数発生」(国交省)という状況だ。
 中でも危険なのが列車が頻繁に通り、一時間のうち四十分以上閉じる「開かずの踏切」。十四年前の竹ノ塚駅南側も、今回の京急の事故現場もそうだった。全国に五百三十二カ所。このうち三百七十一カ所が東京、神奈川、埼玉、千葉の一都三県にある。
 国交省は一六年、千四百七十九カ所の踏切について「安全通行カルテ」を作成した。路面の色を変えて歩行者やドライバーの注意を促したり、踏切の道幅を広げたり。鉄道会社は三次元で障害物を検知する機械(障検)に更新している。
 列車側の対策では、無線で列車の位置を把握する「ATACS=アタックス」や、自動列車制御装置(ATC)など、異常があった場合に自動でブレーキをかける装置がある。首都圏では山手線、京浜東北線、池袋-大宮のJR埼京線に導入された。ただ、大半の路線では異常を信号で運転士に知らせ、手動で急ブレーキをかけるシステム。信号に気付くのが遅れれば、ブレーキも遅れてしまう。
 踏切事故防止の特効薬では、立体交差にして踏切をなくす方法がある。
 ある程度の区間の線路を高架や地下に移す「連続立体交差」にすれば、事故も渋滞もなくなる。ネックはカネと時間。国交省の資料によれば、平均六百億円、十六年かかる。
 大田区の京急蒲田駅とその周辺では、計六キロの連続立体交差で二十八カ所の踏切をなくした。計画決定から完成まで十三年。世田谷区の小田急線東北沢-世田谷代田の一・六キロの地下化・複々線化は完成まで半世紀を要した。
 ならば、連続でなく一カ所だけ立体交差にという選択肢もあるが、それでも平均四十億円、九年。山手線で唯一の東京都北区の第二中里踏切は撤去を検討中。ただ、近くに回り道できるコースがなければ撤去は難しい。踏切は当面、なくなりそうもない。
 ドライバー側はどう防衛するか。「トレーラーでは、車体が踏切の盛り上がった部分に触れて動けなくなる」「車体後部が踏切内に残っていて事故になった」。全日本トラック協会はテキストにこれらの「事故パターン」を示してドライバーに注意を促している。
 事故防止のポイントは「一時停止」「左右の確認」「踏切の先に自分の車が入るスペースがあるか注意する」など。油断せず初心に帰ることが必要だ。
 (片山夏子、大野孝志)