加計学園問題 国民に真実を知らせよ(2017年5月27日中日新聞)

2017-05-28 08:38:25 | 桜ヶ丘9条の会
加計学園問題 国民に真実を知らせよ 

2017/5/27 中日新聞
 学校法人加計学園の獣医学部新設には、安倍晋三首相の意向が働いたのか。文部科学省の前川喜平前次官はそう記載された文書の存在を認めた。政府と国会は、国民に真実を知らせねばならない。

 加計学園の理事長は、安倍首相の友人が務めている。その系列大学の獣医学部を国家戦略特区に新設する計画に絡み、「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと記された文書の存在が明るみに出た。

 先日、前川氏は記者会見し、内閣府から文科省に伝えられたことを示すその記録文書について「確実に存在していた」と証言した。

 昨年九月から十月にかけて、獣医学部新設を担当する文科省専門教育課から受け取り、幹部間で共有したと説明した。「あったものをなかったことにはできない」と述べ、文書の信ぴょう性をかたくなに否定する政権を批判した。

 「公平、公正であるべき行政の在り方がゆがめられたと認識している」とさえ語っている。

 国家戦略特区制度を隠れみのにして、加計学園への利益誘導を強いられた。言外にそうした重大な疑義を差しはさんだ形である。

 当時の事務方トップの身を賭しての実名証言は極めて重く、文書の存在は裏づけられた。前川氏は、国会での証人喚問の機会があれば応じるという。国民の疑問に対して、政府と国会は事実をつまびらかにする責務がある。

 二年前に閣議決定された日本再興戦略では、生命科学などの新分野の獣医師が求められ、既存の獣医学部では間に合わない場合に限り、獣医師の需要の動きを考えて新設を検討するとなっていた。

 にもかかわらず、どんな獣医師がどの程度必要なのか見通しすら示されないまま、加計学園を前提とした「暗黙の共通理解」のもとで物事が運んだという。前川氏はそうした経緯を証言している。

 天下りあっせん問題の責任を取り、辞職した前川氏について、菅義偉官房長官は「地位に恋々としがみついていた」と攻撃し、記録文書を「怪文書」扱いしている。卑劣なレッテル貼りによる問題のすり替えというほかない。

 松野博一文科相は、職員七人への聞き取りとパソコンの共有フォルダーの調査だけで文書の存在を否定した。再調査を拒み、明らかに幕引きを図ろうとしている。

 森友学園問題に続き、真相を隠ぺいしようとするような政権の姿勢は、国民感覚から懸け離れ、政治不信を深めるばかりである。

東京五輪、政治利用に懸念 改憲・「共謀罪」・国威発揚・弱者排斥(2017年5月27日中日新聞)

2017-05-27 09:07:19 | 桜ヶ丘9条の会
東京五輪、政治利用に懸念 改憲・「共謀罪」・国威発揚・弱者排斥 

2017/5/27 中日新聞

 安倍政権は二〇二〇年東京五輪を日本の「生まれ変わり」の機会とし、改憲、「共謀罪」法案、東京電力福島第一原発事故の決着などと結びつけている。ただ、五輪憲章は大会の政治利用を禁じている。かつてベルリン五輪(一九三六年)がナチス・ドイツの国威発揚に利用されたことを省みて、一段と強調された原則だ。そんな歴史的教訓が軽んじられていないか。

 ヒトラーの開会宣言とともに、ハトが上空を舞い、聖火が点灯される。三六年八月一日、ベルリン。リーフェンシュタール監督のドキュメント映画「オリンピア」の開会式シーンだ。

 東京大の石田勇治教授(ドイツ近現代史)は「聖火リレーが初めて採用され、開会式で大規模にハトを飛ばす演出も、後の五輪の基本形となった」と語る。

 ドイツは第一次世界大戦で敗戦国となり、ベルサイユ条約で領土割譲や軍備制限、巨額の賠償を負った。五輪への参加も二〇年のアントワープ(ベルギー)と二四年のパリの二大会では拒否された。この低迷期、ドイツでは少数政党が乱立し、政治は混迷。世界恐慌は国民不満に拍車をかけた。そうした状況下「誇りあるドイツを取り戻す」ことを掲げたナチスが急伸。指導者のヒトラーは三三年、政権の座に就いた。

 当初、ヒトラーは五輪開催に乗り気でなかったという。諸民族の融合を訴える五輪の理念が、ドイツ民族を優性人種とするナチスのイデオロギーと矛盾したためだ。だが、側近から「ドイツ再生を世界にアピールできる機会」と説得され、開催を決定。巨大スタジアムや豪華な選手村の公共工事で、景気も浮揚した。

 一方、国内では職業官吏再建法により、ユダヤ人の公務員からの排除が始まっていた。国際オリンピック委員会(IOC)は懸念を伝えたが、ナチス政権は五輪でユダヤ人選手を原則、排除しないと明言。それ以上は干渉できなかった。

 ナチス政権は三五年三月、ベルサイユ条約を無視し再軍備と徴兵制を始め、同年九月にユダヤ人の公民権を剥奪。翌年三月に、フランス国境のラインラントに軍を進駐させた。「ヒトラーは平和愛好家を自称したが、その平和は『ドイツが列強と平等に軍備を整えて達成される』と考えていた。偉大なドイツを取り戻すことを掲げ、国民もその対外政策を歓迎した」と石田氏。

 五輪が始まってみると、国内でユダヤ人迫害をうかがわせるものは何もなく、ホームレスも一人もいなかった。しかし、それも「演出」の産物だった。

 石田氏は「五輪の期間中だけ、国内でユダヤ人排斥の看板が取り外された。移動民族のロマ人は、治安強化を名目に郊外の収容所に移され、やがてアウシュビッツ(強制収容所)に送られた」と解説する。

 五輪初の聖火リレーの出発点がギリシャだったことも、ドイツ民族こそが古代ギリシャ文明を最も純粋に現代に受け継いでいると印象づけるためだった。

 競技の模様は三十七カ国にラジオなどで実況中継され、冒頭の映画も宣伝に大きな役割を果たした。石田氏は「当時、ヒトラーは人気絶頂期。五輪はユダヤ人迫害などはうそだと、世界に向けて宣伝する絶好の機会となった」と話す。

 こうしたベルリン五輪での苦い経験からIOCは五輪の政治利用を禁じ、あくまで都市とアスリートの祭典と位置付けた。

 だが、その原則に触れかねない事態が起きた。昨年八月、リオデジャネイロ五輪の閉会式で安倍晋三首相が人気キャラクター「マリオ」にふんして登場した一幕だ。スポーツライターの玉木正之氏は「五輪式典のパフォーマンスに国家の首脳自らが登場するなど、知る限り過去にはなかったこと」と批判する。


 だが、安倍首相は五輪と反発の強い諸政策を結びつけ、強引に押し通そうとしている。

 代表格が改憲だ。首相は三日、「夏季のオリンピック、パラリンピックが開催される二〇二〇年を日本が新しく生まれ変わる大きなきっかけ」とし、「新しい憲法が施行される年にしたい」と宣言、自民党内の改憲案作りを加速している。

 「共謀罪」法案も五輪と結び付けた。与党は国連の国際組織犯罪防止条約の締結に不可欠とするが、首相は今年一月、衆院本会議でテロ対策の観点から「(同条約を)締結できなければ、東京五輪・パラリンピックを開催できないと言っても過言ではない」と発言している。

 福島原発事故も、五輪を機に「過去」のものにしたいようだ。そもそも五輪招致段階のIOC総会で「汚染水は完全にコントロールされている」と事実に反するアピールをし、現在も続く被災者たちの苦悩も「復興五輪」の名目によって、打ち消そうとしている。

 さらには天皇の代替わりも、五輪と同時に演出されようとしている。現在のところ、一八年十二月に皇位継承する案が有力視されている。その後、多くの重要儀式が続き、それらの終わるのが一九年末。五輪は新天皇の登場と交錯する。

 こうした国民的議論のある複数の大きな問題を、自らの路線で決着させていく推進力として、五輪は利用されようとしている。メディアの一部もそれに乗っている。昨年八月、NHKの解説委員が番組で、五輪開催のメリットに「国威発揚」を掲げたのが好例だ。

 「反東京オリンピック宣言」の共著者の文芸評論家の石川義正氏は「一九六四年の東京五輪は、いまも高度経済成長神話の象徴だ。政府はその印象を利用して五輪をアピールし、社会の側も錯覚する空気が広がっている。それに対し、大手メディアは五輪のスポンサーシップ契約があり、批判しづらい」と指摘する。

 五輪の主会場などとなる新国立競技場予定地の明治公園は昨年閉鎖され、野宿者らが排除された。だが、それへの抗議の声も大きく広がることはなかった。

 石田氏はベルリン五輪当時のドイツと、東京五輪を控えた日本の現状に、相似点があると話す。「取り戻す」という国威発揚の気分のみならず、公園から排除された野宿者とロマの人びと、ナチスの力による平和主義と安倍政権が掲げる積極的平和主義などだ。

 「ヒトラーは少数者を敵として排除することで『安心・安全な秩序』をつくった。当時のドイツ人の大多数は治安管理の強化も『私には関係ない』と考えた。いまの日本とそっくりだ」

 石田氏はベルリン五輪の「罪」をこう語った。

 「ヒトラーはその後、第一次大戦で失った領土の回復と新たな領土の獲得に乗り出していった。彼は戦争をしつつ、それを『平和』という言葉で正当化し続けた。そうした彼の強引さを支えた一因が、ベルリン五輪によって世界的評価を得たという自信だった」

 (白名正和、三沢典丈)

「共謀罪」書簡の国連特別報告者 日本政府の抗議に反論(2017年5月23日東京新聞)

2017-05-26 14:54:44 | 桜ヶ丘9条の会
「共謀罪」書簡の国連特別報告者 日本政府の抗議に反論

2017年5月23日 東京新聞


ジョセフ・ケナタッチ氏=国連ホームページから

 【ロンドン=小嶋麻友美】安倍晋三首相宛ての公開書簡で、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案に懸念を表明した国連のプライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏は二十二日、菅義偉(すがよしひで)官房長官が同日の記者会見で抗議したと明らかにした日本政府の対応を「中身のないただの怒り」と批判し、プライバシーが侵害される恐れに配慮した措置を整える必要性をあらためて強調した。電子メールで本紙の取材に答えた。
 ケナタッチ氏によると、「強い抗議」は十九日午後、国連人権高等弁務官事務所を訪れた在ジュネーブ日本政府代表部の職員が申し入れ、その後、約一ページ余りの文書を受け取った。しかし、内容は本質的な反論になっておらず「プライバシーや他の欠陥など、私が多々挙げた懸念に一つも言及がなかった」と指摘した。
 抗議文で日本側が、国際組織犯罪防止条約の締結に法案が必要だと述べた点について、ケナタッチ氏は「プライバシーを守る適当な措置を取らないまま、法案を通過させる説明にはならない」と強く批判。法学者であるケナタッチ氏自身、日本のプライバシー権の性質や歴史について三十年にわたって研究を続けてきたとし、「日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入することで、世界に名だたる民主主義国家として行動する時だ」と訴えた。
 ケナタッチ氏は日本政府に引き続き、法案の公式な英訳文とともに説明を求めている。菅官房長官は二十二日、ケナタッチ氏の書簡に「不適切だ」と反論していた。
◆与党きょう衆院採決方針

 犯罪の合意を処罰する「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案を巡り、衆院議院運営委員会は二十二日の理事会で、衆院本会議を二十三日に開くことを佐藤勉委員長(自民党)の職権で決めた。与党は「共謀罪」法案を採決し、衆院を通過させる方針。二十四日の参院での審議入りを目指している。
 与党が理事会で「共謀罪」法案の採決を提案したのに対し、民進、共産両党は、与党が衆院法務委員会で法案の採決を強行したことに反発して拒否。双方が折り合わず、佐藤氏が本会議開催を決めた。「共謀罪」法案を採決するかどうかは与野党の協議に委ねた。
 法案を巡っては、安倍晋三首相(自民党総裁)が二十二日の党役員会で「今国会での確実な成立を目指す」と強調。高村正彦副総裁も「二十三日に間違いなく衆院通過させる」と話した。民進党の野田佳彦幹事長は記者会見で「審議は不十分だし、この間のやり方は極めて遺憾だ」と与党の国会運営を批判した。
 与党は法案の成立を確実にするため、来月十八日までの今国会の会期延長も検討している。  
<国連特別報告者> 国連人権理事会から任命され、特定の国やテーマ別に人権侵害の状況を調査したり、監視したりする。子どもの人身売買や、表現の自由に関する人権状況などの報告者がいる。政府や組織などから独立した専門家で、調査結果は理事会に報告する。


共謀罪に関する国連報告書全訳(2017年5月18日国連人権高等弁務官事務所)

2017-05-25 09:22:55 | 桜ヶ丘9条の会
プライバシーに関する権利の国連特別報告者 ジョセフ・ケナタッチ氏
共謀罪法案について安倍内閣総理大臣宛の書簡全体の翻訳


 翻訳担当 弁護士 海渡雄一・木下徹郎・小川隆太郎(質問部分の翻訳で藤本美枝弁護士の要約翻訳を参照した)


 国連人権高等弁務官事務所
 パレスデナシオンズ・1211ジェネバ10、スイス
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プライバシーに関する権利に関する特別報告者のマンデート

参照番号JPN 3/2017

2017年5月18日

内閣総理大臣 閣下


 私は、人権理事会の決議28/16に基づき、プライバシーに関する権利の特別報告者としての私の権限の範囲において、このお手紙を送ります。


 これに関連して、組織犯罪処罰法の一部を改正するために提案された法案、いわゆる「共謀罪」法案に関し入手した情報について、閣下の政府にお伝え申し上げたいと思います。もし法案が法律として採択された場合、法律の広範な適用範囲によって、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性があります。


 入手した情報によりますと次の事実が認められます:


 組織的犯罪処罰法の一部を改正する法案、いわゆる共謀罪法案が2017年3月21日に日本政府によって国会に提出されました。


 改正案は、組織的犯罪処罰法第6条(組織的な殺人等の予備)の範囲を大幅に拡大することを提案したとされています。
 手持ちの改正案の翻訳によると、新しい条文は次のようになります:


6条
(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)
次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。


安倍晋三首相 閣下
内閣官房、日本政府


 さらにこの改正案によって、「別表4」で新たに277種類の犯罪の共謀罪が処罰の対象に加わることになりました。これほどに法律の重要な部分が別表に委ねられているために、市民や専門家にとって法の適用の実際の範囲を理解することが一層困難であることが懸念がされています。


 加えて、別表4は、森林保護区域内の林業製品の盗難を処罰する森林法第198条や、許可を受けないで重要な文化財を輸出したり破壊したりすることを禁ずる文化財保護法第193条、195条、第196条、著作権侵害を禁ずる著作権法119条など、組織犯罪やテロリズムとは全く関連性のないように見える犯罪に対しても新法が適用されることを認めています。


 新法案は、国内法を「国境を越えた組織犯罪に関する国連条約」に適合させ、テロとの戦いに取り組む国際社会を支援することを目的として提出されたとされます。しかし、この追加立法の適切性と必要性については疑問があります。


 政府は、新法案に基づき捜査される対象は、「テロ集団を含む組織的犯罪集団」が現実的に関与すると予想される犯罪に限定されると主張しています。
 しかし、「組織的犯罪集団」の定義は漠然としており、テロ組織に明らかに限定されているとはいえません。
 新たな法案の適用範囲が広い点に疑問が呈されていることに対して、政府当局は、新たな法案では捜査を開始するための要件として、対象とされた活動の実行が「計画」されるだけでなく、「準備行為」が行われることを要求していると強調しています。
 しかしながら、「計画」の具体的な定義について十分な説明がなく、「準備行為」は法案で禁止される行為の範囲を明確にするにはあまりにも曖昧な概念です。


 これに追加すべき懸念としては、そのような「計画」と「準備行動」の存在と範囲を立証するためには、論理的には、起訴された者に対して、起訴に先立ち相当程度の監視が行われることになると想定されます。
 このような監視の強化が予測されることから、プライバシーと監視に関する日本の法律に定められている保護及び救済の在り方が問題になります。


 NGO、特に国家安全保障に関する機密性の高い分野で活動するNGOの業務に及ぼす法律の潜在的影響についても懸念されています。政府は、法律の適用がこの分野に影響を及ぼすことがないと繰り返しているようです。
 しかし、「組織的犯罪集団」の定義の曖昧さが、例えば国益に反する活動を行っていると考えられるNGOに対する監視などを正当化する口実を作り出す可能性があるとも言われています。


 最後に、法律原案の起草に関する透明性の欠如と、今月中に法案を採択させようとする政府の圧力によって、十分な国民的議論の促進が損なわれているということが報告で強調されています。


 提案された法案は、広範な適用がされる可能性があることから、現状で、また他の法律と組み合わせてプライバシーに関する権利およびその他の基本的な国民の自由の行使に影響を及ぼすという深刻な懸念が示されています。
 とりわけ私は、何が「計画」や「準備行為」を構成するのかという点について曖昧な定義になっていること、および法案別表は明らかにテロリズムや組織犯罪とは無関係な過度に広範な犯罪を含んでいるために法が恣意的に適用される危険を懸念します。


 法的明確性の原則は、刑事的責任が法律の明確かつ正確な規定により限定されなければならないことを求め、もって何が法律で禁止される行為なのかについて合理的に認識できるようにし、不必要に禁止される行為の範囲が広がらないようにしています。現在の「共謀罪法案」は、抽象的かつ主観的な概念が極めて広く解釈され、法的な不透明性をもたらすことから、この原則に適合しているようには見えません。


 プライバシーに関する権利は、この法律の幅広い適用の可能性によって特に影響を受けるように見えます。更なる懸念は、法案を押し通すために早められているとされる立法過程が、人権に悪影響を及ぼす可能性がある点です。立法が急がれることで、この重要な問題についての広範な国民的議論を不当に制限することになります。
 マンデートは、特にプライバシー関連の保護と救済につき、以下の5点に着目します。


1 現時点の法案の分析によれば、新法に抵触する行為の存在を明らかにするためには監視を増強することになる中にあって、適切なプライバシー保護策を新たに導入する具体的条文や規定が新法やこれに付随する措置にはないと考えられます。


2 公開されている情報の範囲では、監視に対する事前の令状主義を強化することも何ら予定されていないようです。


3 国家安全保障を目的として行われる監視活動の実施を事前に許可するための独立した第三者機関を法令に基づき設置することも想定されていないようです。このような重要なチェック機関を設立するかどうかは、監視活動を実施する個別の機関の裁量に委ねられることになると思われます。


4 更に、捜査当局や安全保障機関、諜報機関の活動の監督について懸念があります。すなわちこれらの機関の活動が適法であるか、または必要でも相当でもない手段によりプライバシーに関する権利を侵害する程度についての監督です。この懸念の中には、警察がGPS捜査や電子機器の使用の監視などの捜査のために監視の許可を求めてきた際の裁判所による監督と検証の質という問題が含まれます。


5 嫌疑のかかっている個人の情報を捜索するための令状を警察が求める広範な機会を与えることになることから、新法の適用はプライバシーに関する権利に悪影響を及ぼすことが特に懸念されます。入手した情報によると、日本の裁判所はこれまで極めて容易に令状を発付するようです。2015年に行われた通信傍受令状請求のほとんどが認められたようです(数字によれば、却下された令状請求はわずか3%以下に留まります。)



 私は、提案されている法改正及びその潜在的な日本におけるプライバシーに関する権利への影響に関する情報の正確性について早まった判断をするつもりはありません。ただ、閣下の政府に対しては、日本が1978年に批准した自由権規約(ICCPR)17条1項によって保障されているプライバシーに関する権利に関して国家が負っている義務を指摘させてください。
 自由権規約第17条第1項は、とりわけ個人のプライバシーと通信に関する恣意的または違法な干渉から保護される権利を認め、誰もがそのような干渉から保護される権利を有することを規定しています。
 さらに、国連総会決議A/RES/71/199も指摘いたします。そこでは「公共の安全に関する懸念は、機密情報の収集と保護を正当化するかもしれないが、国家は、国際人権法に基づいて負う義務の完全な履行を確保しなければならない」とされています。


 人権理事会から与えられた権限のもと、私は担当事件の全てについて事実を解明する職責を有しております。つきましては、以下の諸点につき回答いただけますと幸いです。


1.上記の各主張の正確性に関して、追加情報および/または見解をお聞かせください。


2.「組織犯罪の処罰及び犯罪収入の管理に関する法律」の改正法案の審議状況について情報を提供して下さい。


3.国際人権法の規範および基準と法案との整合性に関して情報を提供してください。


4.法案の審議に関して公的な意見参加の機会について、市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会があるかどうかを含め、その詳細を提供してください。


 要請があれば、国際法秩序と適合するように、日本の現在審議中の法案及びその他の既存の法律を改善するために、日本政府を支援するための専門知識と助言を提供することを慎んでお請け致します。


 最後に、法案に関して既に立法過程が相当進んでいることに照らして、これは即時の公衆の注意を必要とする事項だと考えます。したがって、閣下の政府に対し、この書簡が一般に公開され、プライバシーに関する権利の特別報告者のマンデートのウェブサイトに掲載されること、また私の懸念を説明し、問題となっている点を明らかにするために閣下の政府と連絡を取ってきたことを明らかにするプレスリリースを準備していますことをお知らせいたします。


 閣下の政府の回答も、上記ウェブサイトに掲載され、人権理事会の検討のために提出される報告書に掲載いたします。


閣下に最大の敬意を表します。


ジョセフ・ケナタッチ
プライバシーに関する権利の特別報告者


戦前の悪法を思わせる 「共謀罪」衆院通過(2017年5月24日中日新聞)

2017-05-24 08:08:26 | 桜ヶ丘9条の会
戦前の悪法を思わせる 「共謀罪」衆院通過 

2017/5/24 中日新聞
 「共謀罪」法案が衆院を通過した。安倍晋三政権で繰り返される数の力による横暴だ。戦前の治安維持法のような悪法にならないか心配だ。

 警察「自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることをご存じか」

 電力会社子会社「以前、ゴルフ場建設時にも反対派として活動された」

 警察「自然破壊につながることに敏感に反対する人物もいるが、ご存じか。東大を中退しており、頭もいい。しゃべりも上手であるから、やっかいになる」

監視は通常業務です


 岐阜県大垣市での風力発電事業計画をめぐって、岐阜県警が反対派住民を監視し、収集した情報を電力会社子会社に提供していた。二〇一四年に発覚した。

 「やっかい」と警察に名指しされた人は、地元で護憲や反原発を訴えてもいる。ただ、ゴルフ場の反対運動は三十年も前のことだった。つまりは市民運動というだけで警察は、なぜだか監視対象にしていたわけだ。この問題は、国会でも取り上げられたが、警察庁警備局長はこう述べた。

 「公共の安全と秩序の維持という責務を果たす上で、通常行っている警察業務の一環」-。いつもやっている業務というのだ。

 公安調査庁の一九九六年度の内部文書が明らかになったこともある。どんな団体を調査し、実態把握していたか。原発政策に批判的な団体。大気汚染やリゾート開発、ごみ問題などの課題に取り組む環境団体。女性の地位向上や消費税引き上げ反対運動などの団体も含まれていた。

 日本消費者連盟。いじめ・不登校問題の団体。市民オンブズマン、死刑廃止や人権擁護の団体。言論・出版の自由を求めるマスコミ系団体だ。具体的には日本ペンクラブや日本ジャーナリスト会議が対象として列挙してあった。

監視国家がやって来る


 警察や公安調査庁は常態的にこんな調査を行っているのだから、表に出たのは氷山の一角にすぎないのだろう。「共謀罪」の審議の中で繰り返し、政府は「一般人は対象にならない」と述べていた。それなのに、現実にはさまざまな市民団体に対しては、既に警察などの調査対象になり、実態把握されている。

 監視同然ではないか。なぜ環境団体や人権団体などのメンバーが監視対象にならねばならないのか。「共謀罪」は組織的犯罪集団が対象になるというが、むしろ今までの捜査当局の監視活動にお墨付きを与える結果となろう。

 国連の特別報告者から共謀罪法案に「プライバシーや表現の自由の制限につながる。恣意(しい)的運用の恐れがある」と首相に書簡が送られた。共謀罪は犯罪の実行前に捕まえるから、当然、冤罪(えんざい)が起きる。政府はこれらの問題を軽く考えてはいないか。恐るべき人権侵害を引き起こしかねない。

 一九二五年にできた治安維持法は国体の変革、私有財産制を否認する目的の結社を防ぐための法律だった。つまり共産党弾圧のためにつくられた。当初はだれも自分には関係のない法律だと思っていたらしい。

 ところが法改正され、共産党の活動を支えるあらゆる行為を罰することができるようになった。そして、反戦思想、反政府思想、宗教団体まで幅広く拘束していった。しかも、起訴されるのは少数派。拷問などが横行し、思想弾圧そのものが自己目的化していったのだ。

 共謀罪も今は自分には関係がないと思う人がほとんどだろう。だが、今後、法改正など事態が変わることはありうる。一般人、一般の団体なども対象にならないと誰が保証できようか。国会審議でも団体の性質が一変すれば一般人も対象になるとしている。何せ既に警察は一般団体を日常的に調査対象にしているのだ。

 少なくとも「内心の自由」に官憲が手を突っ込んだ点は共謀罪も治安維持法も同じであろう。

 捜査手法も大きく変わる。共謀となる話し合いの場をまずつかむ。現金を下ろすなど準備行為の場もつかむ。そんな場面をつかむには、捜査当局は徹底的に監視を強めるに違いない。政府は「テロ対策」と言い続けたが、それは口実であって、内実は国内の監視の根拠を与えたに等しい。

「デモはテロ」なのか


 何よりも心配するのが反政府活動などが捜査当局の標的になることだ。「絶叫デモはテロ行為と変わらない」とブログで書いた自民党の大物議員がいた。そのような考え方に基づけば、反政府の立場で発言する団体はテロ組織同然だということになる。共謀罪の対象にもなろう。そんな運用がなされれば、思想の自由・表現の自由は息の根を止められる。
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