日本は支持した責任ある イラク戦争の違法性(2016年5月21日中日新聞)

2016-05-22 09:16:23 | 桜ヶ丘9条の会
日本には支持した責任ある イラク戦争の違法性 

2016/5/21中日新聞

 二〇〇三年のイラク戦争を「違法」と考える国際法学者は多い。安全保障関連法の審議で政府は「国連憲章に基づいて運用する」と強調したが、そもそも憲章に反すると指摘されるイラク戦争を支持した実績があるのではないか。この国の安保政策が大きく転換する中、専門家や市民グループなどが今月末から独自の「検証公聴会」と銘打った取り組みを実施。日本が加担した「米国の戦争」をあらためて問う。

 「昨年の安保法制をめぐる審議で、安倍政権の説明があまりにもひどかった。紛争地の実態を反映していない。それもこれも『米国の戦争』に協力した直近の失敗に学んでいないからだ」

 こう危機感を募らせるのは、イラク戦争などを取材してきたジャーナリストの志葉玲氏だ。問題意識を共有する専門家らと、今春からイラク戦争検証公聴会の準備を進めてきた。

■欧では徹底検証

 〇三年三月に米英軍の攻撃で始まったイラク戦争では、開戦の理由となった大量破壊兵器は見つかっていない。オランダ政府は〇九年に独立調査委員会を設け、一〇年に五百ページを超える報告書を発表。「法的に正当化できない」と結論づけた。英国政府も〇九年に調査委員会を設置。これまでブレア元首相をはじめ政府高官らを喚問し、証言などを公開してきた。検証結果は今年七月六日に公表される。報告書は二百六十万語もの膨大なものになるという。

 各国の徹底ぶりに比べお粗末なのが日本政府。外務省も一二年に「検証結果」を公表したが、A4判でわずか四枚。「当時、イラクに大量破壊兵器が存在しないことを証明する情報」を確認できなかった、と自らを正当化した。

 志葉氏は「政府がまともな検証をしないなら、自分たちでやるしかないと考えた」と話す。

 検証公聴会の開催は、志葉氏やドイツ文学翻訳家の池田香代子さん、作家の鎌田実さんらが呼びかけた。現在二十五人の検証委員には超党派の国会議員や民間の専門家、非政府組織(NGO)メンバーなどが名を連ねる。

 英政府の調査にならい、イラク戦争を巡る政府資料や内部文書の開示を求めるほか、外務省や防衛省の担当官など当時の政府関係者から聴取。今後、月に一~二回の公聴会を開き、一~二年で報告書をまとめるという。第一回公聴会は今月三十一日に予定している。

 戦争を支持した日本の政治過程や、自衛隊のイラク派遣の実態など調査内容は多岐にわたる。

 航空自衛隊の活動を「違憲」と判断した〇八年の名古屋高裁のイラク派遣差し止め訴訟で、原告弁護団の事務局長を務めた川口創(はじめ)弁護士も検証委員の一人。

 「当初は米兵らを空輸した事実も伏せ、医療機器などの輸送だと発表していた。イラク戦争で自衛隊が何を行ったのかを、政府は何も説明してこなかった」と憤る。

 裁判では、兵士輸送の事実を米軍の情報や新聞報道で裏付けて追及した。「裁判そのものも検証の過程だったが、自衛隊が他国の武力行使とどこまで一体化していたかという実態はいまだ見えない。安保関連法が施行された今、隠されてきた事実を明らかにしなくては、自衛隊の活動が際限なく広がりかねない」

 国際NGOの推計によると、〇三年のイラク戦争開戦から一一年の米軍撤収までのイラク側の死者は民間人だけで約十一万四千人。英米などの占領統治中にイラクは泥沼化し、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭を招く一因にもなったとされる。

 劣化ウラン弾の影響とみられる小児がんの子どもを支援している東京のNPO法人「日本イラク医療支援ネットワーク」の佐藤真紀事務局長は「イラク戦争を支持した日本には、被害に遭った人たちを支える責任もある。苦しんでいる患者の姿を見ると、日本が加担した戦争だという思いが込み上げ、心が痛む」と話す。

 イラク国内の混乱は続いており、市民に医療が行き届いていない。医療支援に加え、近年はシリアや国内の紛争から逃れてきた避難民に義足や食料も提供している。〇四年に活動を始めた当初は五年ほどで支援を終える予定だったが、終了のめどは立たないという。

■「政府は米優先」

 現地の人々の多くは自衛隊とイラク戦争の関わりを知らず、日本への印象は良いというが、佐藤氏は「米兵を輸送したという事実は語りづらい」とも。

 佐藤氏も公聴会の検証委員に加わる。「日本政府は、米国との関係強化を優先させてばかりで、イラクに何をしたかという視点が抜け落ちている」と繰り返し、こう訴えた。「自衛隊派遣でさらに日米関係を強め、日本製の武器を売れば自国の経済は潤うのだろうが、その先にある多数の死に対する認識が欠けている。イラク戦争を支持した当時の政府関係者らの判断を問いたい」

◆「米の理屈への賛同者少ない」 松井芳郎・名古屋大名誉教授

 日本政府は現在も米国の説明に従って対イラク武力行使は「国連憲章にも合致する正当なもの」との立場を崩さないが、日本の国際法学者たちは「武力行使は違法」とする声明を出している。その呼び掛け人の一人の松井芳郎・名古屋大名誉教授は「国際法学者でこの米国の理屈に賛同する人は当時から少ない」と指摘する。

 国際法で武力行使が許されるのは自衛権の行使と、国連安全保障理事会の決議がある場合のみ。それ以外は国連憲章違反だが、イラクへの武力行使をはっきり認める安保理決議は存在しない。

 米国が武力攻撃を「正当」とする理屈は複雑だ。

 イラクの武装解除を求める二〇〇二年の「安保理決議一四四一」に違反があったと判断。それを根拠に湾岸戦争の停戦条件を定めた一九九一年の「安保理決議六八七」にイラクが違反していると主張。そのため停戦が無効となる-という論法を展開した。

 これに対し、松井氏は「武力行使は安保理の統括を前提とする。少なくとも武力行使の目的や期限などを明記する必要がある。安保理決議一四四一には明文がないばかりか、違反があったらまた安保理で協議すると書かれている」と説明。「イラクへの武力行使に反対だったフランスやロシア、中国などが決議に賛同したのはそのためだ。決議文をみても、決議採択の経過からも、違反が認定されたら自動的に武力行使ができるという解釈にはならない」と語った。

 当時の米国のブッシュ政権は「先制的自衛」も主張したが、これもほとんどの学者が「違法」と断じている。

 三月に施行された安保関連法について、松井氏は「国際法に基づく議論が不十分」と憂慮する。「政府は『違法な攻撃には協力しない』と繰り返すが、イラク戦争ではまったく根拠のない米国の武力行使に協力した。本来、イラク戦争の検証なしに安保法制の議論などできないはずだ」と危ぶんでいる。

 (安藤恭子、中山洋子)

<いま読む日本国憲法>(11)第19条 内心の自由を規定

2016-05-20 08:53:12 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(11) 第19条 内心の自由を規定 

2016/5/20 中日新聞

 日本国憲法は表現の自由や信教の自由など「精神的自由権」と呼ばれる人権を多く定めています。人生観、価値観など心の中のことは外部の干渉を受けないとした一九条は、その根幹と言えます。表現の自由などと区別して、内心の自由を特に規定した憲法は世界的にも少ないそうです。

 旧憲法は「法律ノ範囲内」で言論や集会の自由を認めただけで、思想及び良心の自由は保障しませんでした。結果として思想統制が行われ、国民を苦しめたという反省から、国家は人の内心に立ち入らないという原則を一九条で定めたのです。

 具体的には、国家が個人の思想を告白するよう強制したり、交友関係の調査や密告によって思想を調べたりすることを禁じていると解釈されます。

 この条文を巡っては「君が代」斉唱時に教職員を起立させる校長の職務命令が違憲かどうかが裁判で争われるなど、論争が起きています。

 思想及び良心の自由について、自民党の改憲草案は「侵してはならない」を「保障する」と直しました。表現が弱まったようにも映ります。

 また、一九条の二として、個人情報の不当な取得を禁止する条文を新設しました。草案Q&Aでは「プライバシー権の保障に資する」と説明していますが、「何人も」で始まる書きぶりは国民に対する禁止規定であり、新たな権利保障のようには読めません。

 権力者にとって都合の悪い情報を国民が集めることを制約することにでもなれば、民主主義の根幹が侵害されます。

<いま読む日本国憲法>(10) 第18条 不当な拘束・労働禁止(2016年5月17日中日新聞)

2016-05-17 08:37:19 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(10) 第18条 不当な拘束・労働禁止 

2016/5/17中日新聞

 先の大戦前や戦争中、政府による不法な逮捕・監禁や拷問、恣意(しい)的な警察権行使が繰り返されました。この反省から、国家権力などによって個人が不当に拘束されたり、労働を強制されたりしないよう「人身の自由」を定めたのが一八条です。

 この条文に基づき、労働基準法が強制労働を禁止し、人身保護法は違法に身体を拘束されている人の救済手続きを定めています。

 自民党の改憲草案は、条文のうち「いかなる奴隷的拘束も受けない」を、「その意に反すると否とにかかわらず、社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」という表現に改めました。

 草案Q&Aは奴隷的拘束という言葉について、奴隷制を採っていた国に由来する表現と考えられるため、日本の憲法になじむよう「分かりやすい表現で言い換えた」と説明。社会的関係とは「カルト宗教団体のようなもの」、経済的関係は「身売りのようなこと」を想定しており、意味は変わらないと強調しています。

 それでも草案は拘束されない場合を限定的にしたという印象がぬぐえません。例えば政治的・軍事的な理由で拘束される可能性はないのか、懸念があります。

 一方、一八条は徴兵制を巡ってよく引き合いに出されます。

 徴兵制について、歴代内閣は一八条が禁じる「意に反する苦役」に当たるとし、安倍政権もこの立場をとっています。しかし、安倍政権が二〇一四年七月、歴代内閣の憲法解釈を変えて他国を武力で守る集団的自衛権行使を容認した際、「同じように、将来の首相が『徴兵制は憲法に合致している』と解釈変更することにならないか」などと懸念の声が上がりました。

<いま読む日本国憲法(9)第15条 民主的な選挙を保障(2016年5月16日中日新聞)

2016-05-16 08:55:22 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(9) 第15条 民主的な選挙を保障 

2016/5/16 中日新聞

 日本国憲法の「三原則」の一つである国民主権を、公務員と国民の関係という側面から定めた条文です。

 旧憲法は、天皇が文武官の給与を定めたり任免したりすると規定し、公務員は基本的に「天皇の官吏」という存在でした。これを改め、公務員を選んだり辞めさせたり(罷免)するのは主権者である国民の「固有の権利」だと明記したのです。ここでいう公務員は官僚だけでなく、閣僚や国会議員、裁判官なども含まれます。

 憲法は、国民・住民が国会議員や地方自治体の首長や議員を選ぶことができ、最高裁判所の裁判官を罷免できるとも定めています。一五条はそうした具体的な規定に先立ち、公務員の地位は国民の信任に基づくという基本理念を定めているのです。

 公務員を「全体の奉仕者」と定めたのは、特定の政党や利益団体のためでなく、国民全体のことを考えて仕事をしなくてはならないという意味です。

 一方、一五条は選挙の原則も定めています。だれに投票したか秘密にできること、投票行動について責任を問われないこと-。当たり前のことのようですが、これらが保障されていないと民主的な選挙は成り立ちません。

 選挙に立候補する権利も、一五条を根拠に認められているという判例があります。

 自民党の改憲草案は、普通選挙が保障される人について「日本国籍を有する」という条件をつけました。外国人への地方参政権付与を否定する意味を持ちます。

 そもそも憲法で定めるべき問題なのかどうかも含め、議論が必要です。

<いま読む日本国憲法>(8)第14条 差別認めず平等誓う(2016年5月15日中日新聞)

2016-05-15 08:43:05 | 桜ヶ丘9条の会
<いま読む日本国憲法>(8) 第14条 差別認めず平等誓う 

2016/5/15 中日新聞

 自由と並んで、近代憲法にとって不可欠な原則である「平等」について定めた条文です。

 特権的な華族制度や、女性に選挙権が与えられない男女差別など、旧憲法下で残っていた封建的な制度や差別から国民を解放し、だれもが等しく尊重される社会をつくろうという誓いが込められています。

 こうした考え方に反していると最高裁が判断した例として、結婚していない男女間の子(婚外子)の遺産相続を結婚した夫婦の子の半分と最近まで定めていた民法の規定があります。二〇一三年九月、最高裁が一四条違反との判決を下し、法律が改正されました。

 一四条を巡っては、国政選挙の「一票の不平等」もよく話題になります。議員一人当たりの有権者が多い選挙区ほど一票の価値が軽くなるのは法の下の平等に反するとし、最高裁は最近の衆院選、参院選について立て続けに「違憲状態」との判断を示しています。ただ、選挙制度は政党の利害が絡んで調整が難しく、不公平は依然残っています。

 自民党の改憲草案は、差別が許されない具体的ケースに「障害の有無」を加えました。一方、栄典の授与について「いかなる特権も伴はない」という現行の文言は削除しています。

 栄典の授与は天皇の国事行為(憲法七条)。草案は天皇を「元首」と位置づけるなど、天皇の機能強化を図るような表現が目立ちますが、これもその一環ではないかという指摘があります。一代限りでも何らかの特権が認められれば、法の下の平等が損なわれる恐れがあります。