消費増税、本当にいい❓ あと1ケ月切るも3つの疑問 (2019年9月6日 中日新聞)

2019-09-06 08:26:20 | 桜ヶ丘9条の会
消費増税、本当にいい? あと1カ月切るも3つの疑問 
2019/9/6 中日新聞

 消費税が8%から10%に増税されるまであと一カ月を切った。だが、交通機関や公共料金などの値上げが直撃する庶民の反対は根強い。米中貿易戦争の影響で世界同時不況の恐れも指摘される中、景気動向指数など国内の経済指標も良くない。こんな状況で、本当に増税していいのか。
 安倍政権は過去二回、「増税延期」の表明で、国政選挙の勝利につなげてきた。二〇一五年十月の増税予定を一七年四月に先送りした一四年十二月の総選挙では、与党で全議席の三分の二を上回って圧勝。一六年七月の参院選公示前にも、世界経済の危機回避を理由に引き上げの再延期を決めた。
 経済ジャーナリストの荻原博子さんは「選挙の『鬼門』とされてきた消費税を先送りして長期政権を築いてきた。賃金が上がらず、家計がより過酷となった今になって、増税なんてとんでもない」と批判する。
 荻原さんは、増税で導入される軽減税率にも厳しい目を向ける。飲食料品や新聞の税率を8%に据え置く制度だが、コンビニなどのイートインは外食と見なされ、持ち帰りは8%、店内飲食は10%と混乱が予想される。
 分かりにくさ解消のためケンタッキーフライドチキンの運営会社は、税抜きの本体価格を調整し、店内飲食と持ち帰りの税込み価格を一律にして販売する方針を決めた。主力のオリジナルチキンは税込み二百五十円で据え置く。荻原さんは「これは実質値下げ。複雑な税制のせいで企業が負担をかぶることになる」とみる。
 電子マネーやクレジットカード決済など現金以外で買い物をするキャッシュレス決済の場合に、原則5%のポイントが戻るポイント還元制度も来年六月まで行われるが、荻原さんは「カードを持てる層は限られる。軽減税率もポイント還元も、高い買い物ほど得をする『金持ち優遇』制度で、低所得者ほど負担が大きい消費税の逆進性の改善にはならない」。
 一方、暮らしと経済研究室を主宰する経済評論家の山家(やんべ)悠紀夫さんは「過去二回の増税延期と比べ、米中貿易摩擦が泥沼化した今が最も危うい。延期の理由に十分なり得る」と世界経済の状況の悪さを指摘する。
 そもそも日本経済自体が減速傾向だ。三月の景気動向指数は六年二カ月ぶりに「悪化」に転じ、政府の景気に対する公式見解を示す月例経済報告も五月に下方修正。経済協力開発機構(OECD)が五月に発表した経済見通しによれば、一九年の実質成長率は世界の3・2%に対し、日本は0・7%の低成長にとどまる。「国内消費の長期低迷は中国などへの輸出が補ってきたが、それも不透明になった。10%となれば格差が増大し、零細企業で倒産や廃業が相次ぐ恐れもある」とも。
 金子勝・立教大特任教授(財政学)も「消費税を引き上げるには最悪のタイミング」と嘆く。米中貿易摩擦に加え、韓国輸出規制の長期化、英国の「合意なき欧州連合(EU)離脱」、イタリア銀行危機など、世界はいくつも景気後退リスクを抱えているからだ。
 共同通信社が八月中旬に実施した全国電話世論調査によれば、消費税率の10%引き上げに「反対」の回答は51・3%、「賛成」は43・3%だった。立憲民主や国民民主の各野党は、早期の臨時国会の召集を求め、増税の凍結法案を提出する方針を示している。
 すでに増税を前提とした各省庁の概算要求も始まり、「今から増税延期は無理」と諦めムードも漂うが、このまま10%になっていいのか。
 金子さんは「政府は消費税引き上げの大義名分として社会保障の充実を掲げるが、その裏で法人税減税分として穴埋めされたのも実態だ。今回も景気対策として効果の薄い軽減税率やポイント還元に消えてしまう」と疑問符を投げかける。前出の山家さんもこう語る。「8%に据え置き、米中関係改善を待つべきだ。5%に消費税率を下げる選択も、回復のめどがつかない国内消費の喚起には有効。国会で議論し、今からでも止めるべきだ」
 (榊原崇仁、安藤恭子)