民意を後回し、政府に不信 沖縄で増幅「自治権強化」
2015/9/22 中日新聞
琉球王国と米国が結んだ修好条約の原本。沖縄が独立国とみなされていた証しでもある=外務省外交史料館所蔵
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に伴う新基地建設問題をめぐり、政府と対立する沖縄。地域の課題は地域の責任で解決する「自己決定権」の確立を求める動きが広がっている。県民の民意を無視して名護市辺野古への新基地建設を進める政府への不信が底流にある。自治権の強化、さらには「完全独立」の声も上がる背景を探った。
■国際法
「水師(海軍)提督被理(ペリー)」の名が読める。下部に大きな朱印とペリーのサイン。一八五四年に締結された琉米修好条約。琉球王国が米国に艦船への補給や遭難救助を行うことを約束した。琉球はフランス、オランダとも条約を結んだ。
「沖縄が国際法上の主体、独立国として認められていた証拠です」。新垣毅(あらかきつよし)・琉球新報編集委員(44)が指摘する。新垣氏は、昨年五月からこの二月まで「道標(しるべ)求めて-琉米条約160年 主権を問う」と題し百回の記事を同紙に連載。明治政府による琉球処分(琉球併合)は「国際法上、不正」だったと主張した。連載では(1)高度な自治権を持つ沖縄州設置(2)本土との連邦制へ移行(3)独自憲法の制定で独立-など、地元の識者や研究グループが提唱する自己決定権確立の構想も紹介し、県民の論議に一石を投じた。
自治体職員や議員らの沖縄自治研究会は二〇〇五年、「沖縄自治州基本法試案」を発表。独自の立法、行政、司法権から一部外交権まで持つ具体的な州の姿を提言し、実現への方策を探っている。
■植民地
琉球民族独立総合研究学会は、独立を模索する有志の会だ。一三年の設立時に約百人だった会員は現在三百人に。共同代表の松島泰勝・龍谷大教授(52)=島嶼(とうしょ)経済=は「沖縄は今も日米の植民地だ」と断言し、県民投票で賛成多数を得て国連から独立国の承認を得る構想を描く。新・琉球国は、非武装中立、国際機関の誘致や近隣国との経済交流で自立、発展を目指すという。
沖縄独立論は過去にもあったが、一部の識者や運動家の間にとどまっていた。それが新基地建設や安保法制問題を契機に「今では県民に確実な広がりを見せている」(松島教授)。尚巴志(しょうはし)・初代琉球国王の末裔(まつえい)という読谷村の当真嗣清(とうましせい)さん(66)も「そろそろ独立の選択肢が浮上してもいい」と、ウチナーンチュ(沖縄人)の思いを語る。
草の根運動は他にもある。一九九九年設立の琉球弧(こ)の先住民族会は毎年、国連に会員を派遣して先住民族としての琉球人の権利回復を訴えている。国連は〇七年の「先住民族の権利宣言」で、先住民族には差別を受けず、自らに関する事項の決定に参加する権利があると規定。沖縄の人々を先住民族と認め、〇八年と一四年、権利保護を日本政府に勧告した。宮里護佐丸(ごさまる)代表(49)は「政府に琉球人を先住民族と認めさせることが先決だ」と話す。
これらの動きについて、我部(がべ)政明・琉球大教授(60)=国際政治学=は「どんな自治の形を選ぶにしろ周囲の理解を得るには内部結束が重要。沖縄のアイデンティティーを掲げる翁長雄志(おながたけし)知事の登場で従来になく県民の一体感は強まっている」と分析。沖縄に米軍基地を置く意味も「今後十年の国際情勢の中で変わり得る」と、政府と沖縄の関係変化を予測する。
(編集委員・白鳥龍也)
2015/9/22 中日新聞
琉球王国と米国が結んだ修好条約の原本。沖縄が独立国とみなされていた証しでもある=外務省外交史料館所蔵
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に伴う新基地建設問題をめぐり、政府と対立する沖縄。地域の課題は地域の責任で解決する「自己決定権」の確立を求める動きが広がっている。県民の民意を無視して名護市辺野古への新基地建設を進める政府への不信が底流にある。自治権の強化、さらには「完全独立」の声も上がる背景を探った。
■国際法
「水師(海軍)提督被理(ペリー)」の名が読める。下部に大きな朱印とペリーのサイン。一八五四年に締結された琉米修好条約。琉球王国が米国に艦船への補給や遭難救助を行うことを約束した。琉球はフランス、オランダとも条約を結んだ。
「沖縄が国際法上の主体、独立国として認められていた証拠です」。新垣毅(あらかきつよし)・琉球新報編集委員(44)が指摘する。新垣氏は、昨年五月からこの二月まで「道標(しるべ)求めて-琉米条約160年 主権を問う」と題し百回の記事を同紙に連載。明治政府による琉球処分(琉球併合)は「国際法上、不正」だったと主張した。連載では(1)高度な自治権を持つ沖縄州設置(2)本土との連邦制へ移行(3)独自憲法の制定で独立-など、地元の識者や研究グループが提唱する自己決定権確立の構想も紹介し、県民の論議に一石を投じた。
自治体職員や議員らの沖縄自治研究会は二〇〇五年、「沖縄自治州基本法試案」を発表。独自の立法、行政、司法権から一部外交権まで持つ具体的な州の姿を提言し、実現への方策を探っている。
■植民地
琉球民族独立総合研究学会は、独立を模索する有志の会だ。一三年の設立時に約百人だった会員は現在三百人に。共同代表の松島泰勝・龍谷大教授(52)=島嶼(とうしょ)経済=は「沖縄は今も日米の植民地だ」と断言し、県民投票で賛成多数を得て国連から独立国の承認を得る構想を描く。新・琉球国は、非武装中立、国際機関の誘致や近隣国との経済交流で自立、発展を目指すという。
沖縄独立論は過去にもあったが、一部の識者や運動家の間にとどまっていた。それが新基地建設や安保法制問題を契機に「今では県民に確実な広がりを見せている」(松島教授)。尚巴志(しょうはし)・初代琉球国王の末裔(まつえい)という読谷村の当真嗣清(とうましせい)さん(66)も「そろそろ独立の選択肢が浮上してもいい」と、ウチナーンチュ(沖縄人)の思いを語る。
草の根運動は他にもある。一九九九年設立の琉球弧(こ)の先住民族会は毎年、国連に会員を派遣して先住民族としての琉球人の権利回復を訴えている。国連は〇七年の「先住民族の権利宣言」で、先住民族には差別を受けず、自らに関する事項の決定に参加する権利があると規定。沖縄の人々を先住民族と認め、〇八年と一四年、権利保護を日本政府に勧告した。宮里護佐丸(ごさまる)代表(49)は「政府に琉球人を先住民族と認めさせることが先決だ」と話す。
これらの動きについて、我部(がべ)政明・琉球大教授(60)=国際政治学=は「どんな自治の形を選ぶにしろ周囲の理解を得るには内部結束が重要。沖縄のアイデンティティーを掲げる翁長雄志(おながたけし)知事の登場で従来になく県民の一体感は強まっている」と分析。沖縄に米軍基地を置く意味も「今後十年の国際情勢の中で変わり得る」と、政府と沖縄の関係変化を予測する。
(編集委員・白鳥龍也)