民意を後回し、政府に不信 沖縄で増幅「自治権強化」(2015年9月22日中日新聞)

2015-09-29 08:31:51 | 桜ヶ丘9条の会
民意を後回し、政府に不信 沖縄で増幅「自治権強化」 

2015/9/22 中日新聞

琉球王国と米国が結んだ修好条約の原本。沖縄が独立国とみなされていた証しでもある=外務省外交史料館所蔵
 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に伴う新基地建設問題をめぐり、政府と対立する沖縄。地域の課題は地域の責任で解決する「自己決定権」の確立を求める動きが広がっている。県民の民意を無視して名護市辺野古への新基地建設を進める政府への不信が底流にある。自治権の強化、さらには「完全独立」の声も上がる背景を探った。

■国際法

 「水師(海軍)提督被理(ペリー)」の名が読める。下部に大きな朱印とペリーのサイン。一八五四年に締結された琉米修好条約。琉球王国が米国に艦船への補給や遭難救助を行うことを約束した。琉球はフランス、オランダとも条約を結んだ。

 「沖縄が国際法上の主体、独立国として認められていた証拠です」。新垣毅(あらかきつよし)・琉球新報編集委員(44)が指摘する。新垣氏は、昨年五月からこの二月まで「道標(しるべ)求めて-琉米条約160年 主権を問う」と題し百回の記事を同紙に連載。明治政府による琉球処分(琉球併合)は「国際法上、不正」だったと主張した。連載では(1)高度な自治権を持つ沖縄州設置(2)本土との連邦制へ移行(3)独自憲法の制定で独立-など、地元の識者や研究グループが提唱する自己決定権確立の構想も紹介し、県民の論議に一石を投じた。

 自治体職員や議員らの沖縄自治研究会は二〇〇五年、「沖縄自治州基本法試案」を発表。独自の立法、行政、司法権から一部外交権まで持つ具体的な州の姿を提言し、実現への方策を探っている。

■植民地

 琉球民族独立総合研究学会は、独立を模索する有志の会だ。一三年の設立時に約百人だった会員は現在三百人に。共同代表の松島泰勝・龍谷大教授(52)=島嶼(とうしょ)経済=は「沖縄は今も日米の植民地だ」と断言し、県民投票で賛成多数を得て国連から独立国の承認を得る構想を描く。新・琉球国は、非武装中立、国際機関の誘致や近隣国との経済交流で自立、発展を目指すという。

 沖縄独立論は過去にもあったが、一部の識者や運動家の間にとどまっていた。それが新基地建設や安保法制問題を契機に「今では県民に確実な広がりを見せている」(松島教授)。尚巴志(しょうはし)・初代琉球国王の末裔(まつえい)という読谷村の当真嗣清(とうましせい)さん(66)も「そろそろ独立の選択肢が浮上してもいい」と、ウチナーンチュ(沖縄人)の思いを語る。

 草の根運動は他にもある。一九九九年設立の琉球弧(こ)の先住民族会は毎年、国連に会員を派遣して先住民族としての琉球人の権利回復を訴えている。国連は〇七年の「先住民族の権利宣言」で、先住民族には差別を受けず、自らに関する事項の決定に参加する権利があると規定。沖縄の人々を先住民族と認め、〇八年と一四年、権利保護を日本政府に勧告した。宮里護佐丸(ごさまる)代表(49)は「政府に琉球人を先住民族と認めさせることが先決だ」と話す。

 これらの動きについて、我部(がべ)政明・琉球大教授(60)=国際政治学=は「どんな自治の形を選ぶにしろ周囲の理解を得るには内部結束が重要。沖縄のアイデンティティーを掲げる翁長雄志(おながたけし)知事の登場で従来になく県民の一体感は強まっている」と分析。沖縄に米軍基地を置く意味も「今後十年の国際情勢の中で変わり得る」と、政府と沖縄の関係変化を予測する。

(編集委員・白鳥龍也)

米軍Xバンドレーダー 安保法先取り 京丹後ルポ(2015年9月23日中日新聞)

2015-09-21 08:33:37 | 桜ヶ丘9条の会

米軍Xバンドレーダー、安保法先取り 京都・京丹後ルポ 

2015/9/23中日新聞
 安全保障関連法の成立で、日米の軍事的な協力関係はますます緊密になる。京都府京丹後市では安保法を先取りするかのように、2年前から近畿地方で初の米軍基地の建設が進む。敵国から米国の基地などに向けて発射される弾道ミサイルを感知する早期警戒レーダーがすでに配備された。安保法制の最前線に立たされることになった過疎の町を歩いた。

 青い日本海を見下ろす岸壁上の斜面に、日本の棚田百選に数えられる田んぼが広がる。京都府の最北端に位置する京丹後市丹後町宇川地区。過疎化が進み、人口は千六百人ほどで、高齢化率は35%に上る。

 海岸沿いの国道を行くと、「警告」の赤い文字の看板が目に飛び込んできた。建設中の「米軍経ケ岬(きょうがみさき)通信所」だ。敷地内からはゴーという低音と、ザーという耳障りな高音が聞こえてくる。

 「ゴーというのは発電機、ザーというのはレーダーを冷やすファンの音です」と「米軍基地建設を憂う宇川有志の会」事務局長、永井友昭さん(58)が教えてくれた。

 基地の隣に「穴文殊(あなもんじゅ)」と親しまれる九品寺がある。本堂の下に、海から続く洞窟があることが穴文殊の由来だ。米軍の敷地は本堂背後の崖に及び、その縁に「Xバンドレーダー」が設置されている。今は参道の西側でも自衛隊が拡張工事を行っている。地区の農家で生まれた永井さんは「罰当たりだ」と漏らした。

 Xバンドレーダーは、米軍のミサイル防衛(MD)用早期警戒レーダーだ。敵国から発射された弾道ミサイルを正確に捕捉できる。地上や海上からの迎撃ミサイルで撃ち落とすMDシステムの要だ。探知距離は四千キロ以上とされる。

 軍事ジャーナリストの前田哲男氏は「経ケ岬通信所のレーダーは、北朝鮮の弾道ミサイルからハワイやグアムの米軍基地を守るのが主な目的だろう。米国を狙う弾道ミサイルの迎撃は、政府が示した集団的自衛権の行使例として挙げられている。安保法を先取りする形で整備が進められていた」と指摘する。

 今は敷地内を自動小銃などで武装した民間軍事請負会社の警備員が二十四時間態勢で警備する。米軍の生活関連施設などの二期工事が来春以降に始まる。

 基地は宇川地区の集落から数百メートルしか離れていない。永井さんは「レーダーから出る電磁波による人体や環境への影響が心配だが、軍事機密を理由に、性能は公表されていない」と顔を曇らせる。

 レーダーの配備計画を住民が知ったのは、二〇一三年二月。安倍晋三首相とオバマ米大統領の首脳会談で、航空自衛隊経ケ岬分屯基地への配備が決まった。国内では、青森県つがる市の航空自衛隊車力分屯基地に次ぐ二基目だ。

 住民は当初、空自の分屯基地内に米軍のレーダーを設置するだけだと思っていた。だが、ふたを開けてみると、空自基地の隣の農地に、旧国立競技場の建築面積よりやや広い約三・五ヘクタールを米軍が借り受け、軍人、軍属計百六十人が常駐する大掛かりな新基地を建設する計画だと分かった。近畿地方では初の在日米軍基地だ。永井さんは「米軍関係者が地区の人口の一割を占めることになる。まったく寝耳に水の話だった」と振り返る。

 分屯基地は旧日本軍時代、海軍監視所が置かれていた場所。終戦後は進駐軍が駐留し、米軍人の事件事故も起きた。年配の住民の一部には拒否反応もあった。

 一三年三月から防衛省による説明会が始まると、「人の土地を無理やり、取り上げるな」「危機をあおるだけではないか」などの声が相次いだ。しかし、防衛省の担当者は北朝鮮の脅威を繰り返し、米軍については「心配することは何もありません」の一点張りだった。

 永井さんは住民十人ほどで「憂う会」を立ち上げ、「米軍基地の建設が必要なら、安全安心を前提に、納得できる理由を示してほしい」と訴えた。

 建設予定地の主な地権者は約四十人。このうち反対派は十人程度いた。推進派の有力者が毎日のように自宅を訪ねるなどして、一人ずつ切り崩された。同年末までに一区画を除き、全員が仮契約を交わした。

 一三年九月、京都府知事が受け入れを表明。永井さんは「せめて地元の意向をくんでほしい」と市民団体とも協力し、デモや集会で基地問題を広く知ってもらう運動を続けた。

 だが、昨年五月、半ば抜き打ちで着工。十月にレーダーを搬入し、十二月には本格運用を始めた。建設地付近は絶滅危惧種のハヤブサが生息するが、日本の法令が適用されず、環境影響評価(アセスメント)も行われなかった。

 行政の対応も腰が引けていた。京丹後市は、配備に伴う事件事故や健康被害への適切な措置など十項目の約束を防衛相と交わしたが、永井さんは「まったく守られていない」と憤る。

 基地の低周波騒音に対して、米軍は防音マフラーを設置するなど対策を取ったとするが、今も完全には解消されていないという。昨年十二月、基地所属の米軍関係者が起こした事故件数について、防衛省は五件と公表したが、少なくとも九件起きていたことが後に明らかになっている。

 最近も、市内の米軍用住宅の建設をめぐって、付近住民が賛否を問う調査を行い、結果を公表しようとしたところ、中山泰市長が待ったを掛けた。永井さんは「住民自治への介入だ。市に年間六億円以上の米軍再編交付金が国から出るようになり、市長の態度ががらりと変わった」と不信感を募らせる。

 米軍はこの夏、穴文殊祭りの盆踊りに参加するなど、地域住民と交流を深める姿勢を見せた。しかし、永井さんは「友好の押し売りだ。片足を踏んづけておいて握手しようなんて言われても、できるはずがない」と語気を強める。

 北朝鮮を「仮想敵国」としているXバンドレーダーだが、中国外務省が「地域の安定や相互信頼にとって不利益だ」と懸念を示すなど、逆に東アジアの緊張を生む原因にもなっている。

 しがらみが強い地元では声は上げにくい。だが、安保法の成立で自衛隊と米軍との一体化が進み、不安は大きくなる。ある主婦(77)は「米軍基地なんてできていいことない。みんな喜んで引き受けたわけではない」と嘆く。「戦争になったら、まずここが狙われる。地元にお金が落ちるというけど、とても引き合わん。安保法は難しくて分からんけど、戦争はいらん」

 (三沢典丈)









不戦の意志を貫こう (2015年9月20日中日新聞)

2015-09-20 11:38:45 | 桜ヶ丘9条の会
不戦の意志を貫こう 取締役論説担当・深田実 

2015/9/20 中日新聞
 新安保法制が成立しようとも、日本人の心には変わらぬものがあるにちがいない。それは戦後日本の精神、不戦の意志とでもいうべきものだ。

 振り返れば、冷戦が終わってPKO協力法が成立した。国際貢献の名の下「普通の国」へという声が出ていた。しかしながら反対も強かった。とりわけ戦争体験者は自衛隊が海外へ行くことに不安をもった。法律には武力不行使のタガがはめられた。ぎりぎりの不戦である。

 そして今、安保法案に対し戦争世代は無論、戦争を知らない世代も多くが反対した。違憲の疑い、内容のあいまいさ、民主主義の軽視など理由はさまざまだ。だが底流には日本が築き上げてきた有形無形の不戦の意志が働いている。

 有形の部分とは、たとえばアジアの国々への経済支援がある。支援は繁栄を生み、やがて信頼となる。平和醸成である。

 無形の部分とは、不戦・非戦の精神である。武力不行使は世代を超えて引き継がれている。

 アメリカを悪く言いたくはないが、トリガー・ハッピーと俗に呼ばれる。トリガー、引き金をひきたがるとは好戦的ということだ。巨大軍需産業国の宿命かもしれない。不戦の精神の反対だ。新安保法制は不戦の日本をアメリカの戦争の下請けにしかねない。

 政府は日本周辺の緊張をしばしば持ち出した。中国は軍備を強大化させ、北朝鮮は核をもつ。日本は日米同盟を保持すると同時に東アジアの一員でもある。緊張をあおるより融和と秩序形成の役割を果たすべきだろう。

 平和主義は、センチメント、情緒的という見方がある。逆に自衛隊の海外活動が高い評価を得てきたのは武力行使をしないからだという指摘もある。実際、武力はテロを拡散させている。そうならば武力不行使はセンチメンタルどころか平和創出のリアリズムではないか。

 法律が成立しても国民多数が望まぬなら不用にできる。政治勢力は選挙で決まり、違憲の訴えは司法が裁く。不戦の意志を持ち続けよう。日本の針路を決めるのは私たちなのである。

さあ、選挙に行こう 「違憲」安保法制(2015年9月19日中日新聞)

2015-09-19 08:46:44 | 桜ヶ丘9条の会
さあ、選挙に行こう 「違憲」安保法制  

2015/9/19中日新聞社説
 新しい安全保障法制により、日本はこれまでの平和国家とは違う道に踏み出す。この流れを止めるには投票で民意を示すしかない。さあ、選挙に行こう。

 自衛隊が他国同士の戦争に参戦する集団的自衛権を行使できるようになり、これまでの「専守防衛」政策とは異なる道を歩みだす。これが新しい安保法制の本質だ。

 戦争放棄の日本国憲法に違反すると、憲法学者らが相次いで指摘し、国会周辺や全国各地で多くの国民が反対を訴えたが、与党議員が耳を傾けることはなかった。戦後七十年の節目の年に印(しる)された、憲政史上に残る汚点である。

公約集の後ろの方に

 安倍晋三首相が新しい安保法制推進の正当性を裏付けるものとして持ち出したのが選挙結果だ。

 首相は国会で「さきの総選挙では、昨年七月一日の閣議決定に基づき、平和安全法制の速やかな整備を明確に公約として掲げた。総選挙での主要な論点の一つであり、国民の皆さまから強い支持をいただいた」と答弁している。

 確かに、昨年十二月の衆院選で有権者は自民、公明両党に三分の二以上の議席を与え、自民党総裁たる安倍首相に政権を引き続き託したことは事実、ではある。

 とはいえ「アベノミクス解散」と名付け、経済政策を最大の争点として国民に信を問うたのも、ほかならぬ安倍首相自身である。

 首相が言うように、安保政策も主要争点ではあったが、自民党が衆院選公約として発表した「重点政策集2014」で安保政策は二十六ページ中二十四ページ、全二百九十六項目中二百七十一番目という扱いで、経済政策とは雲泥の差だ。

 「集団的自衛権の行使」という文言すらない。これでは憲法違反と指摘される新しい安保法制を、国民が積極的に信任したとはいいがたいのではないか。

「奴隷」にはならない

 もっとも、人民が自由なのは議員を選挙する間だけで、議員が選ばれるやいなや人民は奴隷となる、と議会制民主主義の欠陥を指摘したのは十八世紀のフランスの哲学者ルソーである。


 政党や候補者は選挙期間中、支持を集めるために甘言を弄(ろう)するが、選挙が終わった途端、民意を無視して暴走を始めるのは、議会制民主主義の宿痾(しゅくあ)なのだろうか。

 しかし、二十一世紀を生きる私たちは、奴隷となることを拒否する。政権が、やむにやまれず発せられる街頭の叫びを受け止めようとしないのなら、選挙で民意を突き付けるしかあるまい。

 選挙は有権者にとって政治家や政策を選択する最大の機会だ。誤った選択をしないよう正しい情報を集め、熟慮の上で投票先を決めることは当然だ。同時に、低投票率を克服することが重要である。

 安倍政権が進める新しい安保法制について、報道各社の世論調査によると半数以上が依然「反対」「違憲」と答えている。

 そう考える人たちが実際に選挙に行き、民意が正しく反映されていれば、政権側が集団的自衛権の行使に道を開き、違憲と指摘される安保法制を強引に進めることはなかっただろう。

 昨年の衆院選で全有権者数に占める自民党の得票数、いわゆる絶対得票率は小選挙区で24・4%、比例代表では16・9%にしかすぎない。これが選挙だと言われればそれまでだが、全有権者の二割程度しか支持していないにもかかわらず、半数以上の議席を得て、強権をふるわれてはかなわない。無関心や棄権をなくして民意を実際の投票に反映することが、政治を正しい方向に導く。

 幸い、国会周辺で、全国各地で安倍政権の政策に異議を唱えた多くの人たちがいる。その新しい動きが来年夏の参院選、次の衆院選へとつながることを期待したい。

 まずは自分が声を上げ、共感の輪を広げる。そして多くの人に投票所に足を運んでもらえるようになれば、政治が誤った方向に進むことを防げるのではないか。

 来年の参院選から、選挙権年齢が二十歳以上から十八歳以上に引き下げられる。若い世代には、自らの思いをぜひ一票に託してほしい。それが自分たちの未来を方向づけることになるからだ。

民意の受け皿つくれ

 野党にも注文がある。安保法制反対の共闘で培った信頼関係を発展させて、来年の参院選では安倍自民党政治とは異なる現実的な選択肢を示してほしいのだ。

 基本理念・政策が一致すれば新党を結成して有権者に問えばよい。そこに至らなくても、比例代表での統一名簿方式や選挙区での共同推薦方式など方法はある。

 野党が党利党略を優先させて、選挙にバラバラで臨むことになれば、民意は受け皿を失い、拡散する。そうなれば自民、公明の与党が漁夫の利を得るだけである。