『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  262

2014-05-01 07:17:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ちょっとという時に使う手持ちの船を持たない不便を感じていました。そのようにしていただければ幸いです』
 『アレテス、判った。早速やろう。何事も迅速に解決していく、これをモットーとして事をやる。しかしだ、修理にちょっと時間を要する、これは堪えろ。お前が調査に出る前に方針をはっきりさせておく』
 『ありがとうございます』
 『まあ~、以上だ。俺は帰る。もうそろそろ、キドニアへ行っている連中も帰ってくる頃だ。それにレフカオリ山ろくの樹木調査隊も帰ってくる。このクレタが少しづつだが見えてくる。まあ、そういったところだ』
 アレテスとあれこれと話し合ったパリヌルスは、浜に帰った。キドニアからの連中がまだ帰ってきていない、昨日に比べて帰りが遅い、それを思いながら東のほうへ目を移した。
 彼方に、こちらに向かっている2隻の船を目にした。
 『誰かが来る?果たして誰だ』
 彼は一瞬、訝ったが、スダヌスかもしれないと気がついた。
 イリオネスの許から樹木調査隊の帰投が知らされた。心中から気がかりがひとつ消えた。
 彼は心中ひそかに想った、『身が二つほしい』であった。調査隊の帰投、訪問者の来駕、このふたつに同時にあたりたいが、身がひとつである、訪問者と会うことを優先した。
 あれこれ考えているうちに2隻の船は指呼の距離に迫っていた。大型の漁船はスダヌスの船であることが見てとれた。船上で手を振っている。スダヌスである。かすかに声が届く、例のガラガラ声である。彼らの船が浜に着いた。パリヌルスは歓迎した。
 船から飛び降りたスダヌスは、パリヌルスとの間隔が短いにもかかわらず、10数歩足らずを小走りに駆けて、しっかりとパリヌルスの肩を抱いた。二人の間に言葉を必要とはしなかった。二人は、しっかと肩を抱き合った。肩に手を置いて、目と目を見つめ合った。
 『おう、パリッ!元気であったか』
 『スダヌスッ!元気だったか』
 ふたたび、二人は肩を抱き合った。