日守麟伍の和歌(うた)日記 Ringo Himori's Diary of Japanese Poetry

大和言葉の言霊の響きを求めて Quest for the sonancy of Japanese word

『花の風』巻頭歌、推敲

2011年09月17日 | 日記
『花の風』の巻頭歌は2首です。

妹や聞く 我が恋ひをれば 言霊の 響きは繁し 憧るるほど

立ち並める 岩屋に注ぐ 花の風 夢の名残を 弔ふ如く


 1首めは、思いが嵩じると、魂が遊離して、病気になるという、いわゆる「かげのわずらい」をもとにした歌です。『源氏物語』やそれを脚色した謡曲『葵上』に、六条御息所が光源氏に執心するあまり、魂が抜け出して、生霊となって苦しい思いをする、という物語があります。謡曲には、このような恋の執着が相手に祟る物語が、おびただしく見られます。「恨めしや」というセリフは、近世に幽霊の決まり文句になりますが、その由来は、謡曲で完成された恋の執心にあるようです。現代語で言えば、死後も続く、来世にも続く、ストーカー的メンタリティ、となるでしょうか。私は最近、このような「恨みがましさ」が、日本的性格の最悪の側面になっている、と思うようになりました。自己主張が強くなく、自制心が強いというのは、美徳でもありますが、「美徳を裏返すと悪徳になる」という通則どおり、気持ちを抑えるだけで浄化できなければ、内圧が高まり、外に対する恨みとなって、噴出、漏洩、浸潤してしまいます。しかし、推敲するのは、この歌ではありません。

 2首めの1句の響きがよくないことは、ずっと感じておりました。巻頭歌にするぐらいですから、自分では気に入っている情景であることは、間違いありません。どうにか推敲して、収まりがいい姿を取りたいと思います。
 「畳なはる」「畳なづく」といった言葉も、考えました。「大和は国のまほろば畳なづく・・・」という日本武尊の歌を、連想するかもしれません。墓石が連なっている様が、表現できるかもしれません。
 墓石の連なる情景ではなく、静かな様子を表すことにして、「人もなき」「音もなき」を考え、最終的には後者にしました。あわせて「岩屋」は「霊屋(たまや)」に、「注ぐ」は清音で「注く」に、「弔ふ如く」は「弔ふが如」としました。推敲後の歌は、つぎのとおりです。推敲前と見比べてください。

音もなき 霊屋に注く 花の風 夢の名残を 弔ふが如


***『歌物語 花の風』2011年2月28日全文掲載(gooブログ版)***






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