サツマイモの原産地はメキシコ海岸を含む中央アメリカから南アメリカにわたる地域といわれています。そこにいけば,原生種が自生していて,盛んに花を付けています。わたしはテレビ番組で見ただけですが,ほんとうにふしぎな光景でした。ヒルガオ科の植物ですから,ヒルガオやアサガオに似たピンクの花でした。花後,種子がふつうにでき,そこら辺りに散らばっていきます。原産地がそこだというのは,風土との関係が深いことを示しています。
手許になかなかおもしろい読み物があります。それは『野菜探検隊世界を歩く』(池部誠著/文春文庫)です。サツマイモの原生種が一帯に広がり,花で覆われた写真は圧巻です。原生種が人の移動とともに太平洋を渡り,途中の島々に伝播していったと推測されています。西太平洋に位置するニューギニアでは,一説によると2500種もの品種が栽培されているという話も紹介されています。
我が国には江戸時代のはじめ,まず沖縄,九州に持ち込まれました。それで,今でも琉球芋,薩摩芋などと呼ばれています。甘藷という別名も耳にします。漢字名から,導入地や植物としての特性を感じとることができます。
はじめは飢饉の際の救荒作物として重宝にされながら栽培地が北上していき,お馴染みの農作物になりました。しかし持ち込まれた品種がそのまま普及したわけではなく,広く普及するまでに農事試験場を中心にして品種改良が地道に行われたのです。その結果,今の普及種が生まれ,主要野菜の一つになるに至ったわけです。
忘れてはならないのは,各地で栽培されるようになった段階ではサツマイモ自身が大変貌を遂げていたという点です。主な改良点を思いつくままにまとめてみましょう。
- 味がよい。
- 舌触りがよい。
- 病気に強い。
- 暑さ,寒さに強い。
- イモが大きく,かたちがよい。
- 収量が多い。
- 煮崩れしにくい。
このような観点から品種改良を重ねるのに,当然,花を咲かせ別品種を交配させるわけです。
サツマイモは短日性植物で,我が国の自然環境では花がほとんど咲かないとされています。さらに,普及している品種は,もともと開花しにくい種類なので,一層花を見る機会が少なくなります。それなのに,「花を咲かせるだなんて」「交配させるなんて」という疑問が浮かんでくるのではないでしょうか。わたしもはじめそうでした。調べてみて,すこし謎が解けてきました。
たとえば,『ウィキペディア フリー百科事典』によれば,採種の効率を高めるために,アサガオなどヒルガオ科植物を台木にして接木をするといいます。すると,台木から接ぎ穂に養分や植物ホルモンが送られ,成長して開花が促進されるらしいのです。そういえば,台木と接ぎ穂を逆にして,水栽培をしているサツマイモにアサガオを接ぐと,アサガオの接ぎ穂が成長して花が咲き続けます。これとちょうど反対の技術を採用しているのです。
これは,納得の技です。
余談になりますが,先にご紹介した『野菜探検隊世界を歩く』に,コロンブスが航海した際に西インド諸島で書き記した手記が掲載されていますので,載せておきます。とても参考になります(太字はわたし)。ただ,『コロンブス航海誌』(岩波文庫)には種子の記述がなく,このまま紹介してもいいのか戸惑いもあります。
「彼らは彼らの食物であるニアメスのパンを持って再びやってきた。それは大きな大根のような根で,この地方ではどこででもこの種をまいて栽培しており,彼らの生命なのである。またこの同じ茎を他の場所へ植え付けて,4回も5回もその根を収穫するが,非常に美味で,これでパンを作ったり,あるいはそのまま煮たり,焼いたりして食べるが,味は栗とそっくりで,これを食べて栗だと思わないものはないほどである」
よく似たことが,じつはジャガイモにもいえるのです。