自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

ヒイラギの花

2013-11-01 | 

ヒイラギの漢字表記は“柊”。葉の鋸歯に触れると「ひりひり痛む。ずきずきする」(広辞苑)ことから,“柊(ひいら)ぐ”の文字が当てられたそうです。ヒイラギ自身は,これによって動物から食材にされることを防いでいるのでしょうか。

さて,集落公民館のグラウンド片隅に植えられているヒイラギを見ると,小さな小さな白い花を付けています。剪定して整枝されているので,花の数はわずか。それでも目立つのです。なにしろ,純白で清楚そのものの姿なのですから。

傍に寄ると,ほのかに芳香が漂ってきました。「あれっ!? もしかすると,ヒイラギが放っている匂いなのかも」。そう思って,鼻を近づけ匂いを嗅ぎました。やっぱり,です。ヒイラギの花はキンモクセイに似た,なんともかぐわしい香りを放ちます。その匂いに誘われてか,偶然ハチが一匹訪れました。

帰ってすぐヒイラギの花について調べました。結果,わたしがこれまでに知らなかった事柄がいくつかわかってきました。たとえば,モクセイの仲間に属していること。道理で,よく似た匂いを放つわけです。たとえば,雌雄異株であること。雄株に付く花には,発達した二本のオシベがあり,雌株のそれには長い花柱を持つメシベがあるそうなのです。そして,ヒイラギは実生で殖えていくといいます。

「だったら,グラウンドのヒイラギはどちらか。これまでに実が生っているのを見たことがない。雄株ではないだろうか」。そんな想像をしながら,花を撮影にもう一度出かけました。撮った写真が下のものです。

 

見ると,長い蕊が二本。だったら,雄花のようです。葯に詰め込まれた花粉はまだ出てきていません。

 

 

熟した葯,または弾けてから時間が経った葯には,多量の花粉があります。 

 

花を見ていると,不可解な点が一つ気になります。誰もが感じることでしょう。オシベの間に,背の低いメシベのような器官があります。メシベとオシベが同居せず,雌花(メシベ)だけを付ける雌株,それに雄花(オシベ)だけを付ける雄株に分かれているのが,この木の大きな属性といいます。それなら,メシベ状のこの器官はいったいなになのでしょう。やはり,持ち合わせの知識からいえばメシベとしかいいようがありません。

ヒントを得るために,同じモクセイ科に属するキンモクセイを検索して調べました。すると,意外なことが見えてきたのです。

キンモクセイもまた雌雄異株で,我が国には雄株しかないために結実しないのだそうです。ところが雄株に付く雄花には,二本のオシベと不完全なメシベがあるといいます。雄花にも,メシベがちゃんとあるのです。そういえば,ずっと以前にわたしはキンモクセイの芳香のことが気になって,どんな虫が訪れて,どんな実ができるのか,関心をもって探した経験を思い出しました。

「そうか,実はできないのか!」。今になって,やっとわかりました。ということは,ヒイラギの雄花にあるメシベ状の蕊は「不完全なメシベ」と考えてよさそうです。では,ヒイラギの雌株の雌花はどんな姿をしているのでしょうか。なんだか,気になってきました。

ついで話を一つ。オシベと,不完全なメシベを比較すると,オシベがずっと長くなっています。そうしたタイプは草でもずいぶんあります。逆にメシベがずっと長いものもあります。極端に長さが異なるのは,同じ一つの花で受粉がなされるのを避けるためなのです。つまり,近親結婚を避け,できるだけ多様な遺伝子を種子に託そうとする生き残り戦略です。

ヒイラギの花は,遠い昔に行っていた戦略の名残りをちゃんと残しつつ,雄株と雌株に分化するという,より高度な生き方を選んだといえます。その結果を,今わたしたちは見ているわけです。

匂いと蕊に秘められた姿には,ヒイラギの生命史が凝縮されていることがよく理解できます。ヒイラギはあっぱれです。匂いを嗅ぐだけで終わらせなかったことで,お蔭で新たな事実と出合うことができました。 

 


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