来館者の立場をできるだけ大切にして,小回りの利く対処をするのがわたしたち小さなミュージアムの心得です。大きなミュージアム,デーンと構えているミュージアムのスタンスじゃ,とてもではありませんができない話。来館者の所望に応じて満足感を味わっていただけるのなら,融通を利かせて喜んでそうしたいと思います。
昨日(第1土曜),県外からの来館者から「火起こし情報を見たのでぜひやってみたい。火起こしのできる土曜日ではないが,なんとかできないか」と受付をとおして伝えられました。じつは,発火法体感は第2・第4土曜に実施しているので,予定外なのです。わたしは別の仕事をしていたのですが,めったに来ていただけないお客さまでもあり,なんとかしようと判断。会って話してみると,火起こしをした経験がないので,ぜひ2組の親子で一緒にしたいという話でした。両家族とも5年生の男の子と父親という構成です。
それで,しばらく待っていただいて準備。
準備が整うと,まず火起こしの要領を理解してもらうために,マイギリ式で2人のお子さんに挑戦していただきました。マア,なんとか発火にこぎつけ,炎をつくってもらいました。これが感動的だったようで,「すごい!」と声が上がりました。
手順がわかると,次のキリモミ式に挑んでもらいました。火切り棒の回し方,手のひらの使い方,交代の仕方など基本的な事柄を説明して,いよいよチャレンジです。当初,どのくらい時間がかかるか予想してもらうと,30分とか1時間とかという返答。わたしが「マア,3分か5分でやらないとダメですね」というと,4人はびっくり。
「5年生2人,“元5年生”2人の4人でやりましょう」と冗談交じりに会話しながら,やってもらいました。わたしは「5年生なら3人でできます」といったものですから,4人は俄然がんばろうという気持ちになられたようです。結局,お父さんたちの力で発火。それも5分で!
これで「火が起こせるんだ」という気持ちになられたようで,大人だけでやってもらうことに。子どもたちは「じゃ,時間を計ろう」と提案。そうすることになりました。
1人のお父さんは煙が出てあとほんのわずかというところで発火に至りませんでした。それでも1分がんばられました。
もうお1人のお父さんは57秒で発火! 初めての体験で,このタイム! 大したものです。
4人は握手して,できた喜びを分かち合っておられました。わたしには,じゅうぶん充実感に浸っていただけたと思われました。「また来ますから」といいながらミュージアムを後にされました。その姿を見て,「小回りの利くミュージアムとしてはこれでよかったのだ」と感じました。