経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「知的財産」とは何か?

2007-01-14 | 知財発想法
 前回の記事では、松下の中期経営計画の席で語られたという「技術・知的財産に活用する」とは何かについて書きましたが、「知的財産」という言葉が実際のところは一義的でないことが、この意味をわかりにくくしているように思います。
 「知的財産」の語は、大きく分けて次の3つの意味で用いられているように思います。

① 特許権・商標権等の知的財産権により独占権の保証された発明・商標等
② 特許権・商標権等の知的財産権の対象になる可能性がある発明・商標等
③ 発明などの知的創作物や商標などの営業標識

 これらは、①<②<③ の順で、対象が広くなっていきます。知的財産基本法では②であると定義されていますが、「財産」という言葉自体が多義的ですし、どれも広く使われている言い方なので、どれが正しくどれが間違いというわけではなさそうです(因みに、yahoo!辞書では「知的財産」としてはヒットしません)。
 私の印象では、一般的に、知的財産権の実務に携わる人は①の意味で、他の分野の一般的なビジネスパーソンは③の意味で捉えていることが多いように感じます(②のように説明する人は、この部分を論じることに結構こだわりのある人であるように思います)。

 独占権が保証できないものが「財産」と言えるのか、と考えると①が最も矛盾がなくなりますし、「知的財産権」=「知的財産」という関係で捉えられるという意味でもすっきりする考え方です。しかしながら、この説で行くと「知的財産の創造」とは「特許権を取得する手続」のことであるといった話になってきて、「知的創造サイクル」の意味を説明することができません。また、この考え方だと「権利先にありき」の発想になりがちなので、権利を抑えないとビジネスとして成立しない製薬系などであればこの考え方でOKでしょうが、知的財産権でビジネスの成否が決まるわけではない(知的財産権は優位性の一要素)ようなケースでは、ことの優先順位を見誤るリスクが生じやすいように思います。
 ③の場合、まずは何らかの価値のある発明等が生み出され、それをできるだけ権利として括っていくというビジネスの実態にあった考え方であるように思いますが、属人的なノウハウや曖昧なイメージなども含めて「知的財産」と表現して、あたかも会社の「財産」であるかのような錯覚を与えてしまうリスクがあります。このような曖昧なものは、人の異動やイメージの変化によって簡単に消失してしまうものであるため、会社の「財産」とは区別して考えるべきでしょう。また、これらを含めたものを「知的資産」と呼んで、区別することも可能になっています(「資産」と呼んでいいのか、という同じような疑問がなくはありませんが)。
 そうなると、知的財産基本法にある②の考え方が最も妥当である、ということになりそうです。但し、この考え方の問題点は、ある程度の知的財産法に関する知識がないと、無形の資産のうち「知的財産」に当たるものとそうでないものの区別がつきにくく、議論が面倒になりやすいということでしょう。

 尤も、重要なことは議論の相手との間でその意味が正確に伝わることなので、その考え方が正しいかということよりも、「知的財産」について議論する場合に、どの考え方に従って定義するのかを明確にしておくよう留意することが肝要であるように思います。因みに、拙著においては、「知的財産の分析手法」では③、「知的財産のしくみ」では②の意味で、「知的財産」を説明しています。