経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

手元資金を「技術・知的財産」に活用する

2007-01-11 | 新聞・雑誌記事を読む
 昨日、松下電器が発表した中期経営計画に関する記事の中で、こんな件を見つけました。
 松下は手元資金が豊富で(最新の四季報によると1兆6,000億円以上)、その使い道がかねてより課題となっているそうです。この課題について、昨日の中期経営計画発表の席では、
「株主還元や技術・知的財産、M&Aに活用する」
と説明されたそうです。
 「研究開発に投資する」ではなく、「技術・知的財産に活用する」であるところに目が行きました。この文脈からは、優れた技術さえ開発すればよいというのではなく、権利化が可能な技術のストックを増やしていこうという意図が読み取れます。「研究開発」ではなく「知的財産」である意味をそのように理解していいのか、もしどこかの時点から「知的財産」と説明するようになったのであれば、例えば、研究開発投資の判断基準にも変化が生じたのか、興味のあるところです。一方で、大手電機メーカーはどこも特許出願の件数を大幅に減らしていると言われていますが、一見矛盾しそうなこの点なども、ちょっと突っ込んでみたくなるところです。

右脳に訴えかける

2007-01-08 | 書籍を読む
 お正月休みの間に、「コンサルタントの現場力」と「人は見た目が9割」を読みました。違うジャンルの本ではあるのですが、「プロの仕事」やコミュニケーションスキルという点で共通のものが感じられて、なかなか面白かったです。
 「コンサルタントの現場力」のほうは、優れたコンサルタントは「左脳で仕組み、右脳で仕掛ける」という説明がなるほど、という感じでした。左脳を駆使した精緻な分析は大前提になるものの、コンサルの実効性を高めるためには右脳を刺激するような伝え方が必要だ、というものです。
 「人は見た目が9割」のほうでは、内容は題名そのままのイメージとはちょっと違っていて、ノンバーバル(言葉によらない)コミュニケーションの重要性を説いています。こちらで興味深かったのは、そのノンバーバルコミュニケーションが、実は「技術」(マンガの描き方や舞台俳優のちょっとした仕草etc.)によってかなりコントロールできるということです。
 この両者を読んで考えたことは、
物事を実現するためには右脳に働きかけることが有効であり、その背後には左脳を駆使して積み上げられた理論・技術が必要とされる。
 同じことを逆に言えば、
何かを実現しようと思えば、まず左脳を駆使した理論構成が前提となり、その上で右脳に訴えかけるような実践が必要になる。
ということです。
 知財業務を強化しようとするとき、精緻な分析や戦略の立案は大前提として必要なことですが、それを絵に描いた餅に終わらせないためには、どうやって浸透させるか、現場のメンバーを動かしていくことができるか、という右脳に働きかける部分が、実は一番大切なことであるように思います。特許戦略ということを考えてみても、事業戦略との整合を考える、戦術的にはこういう方法がある、といったことを検討する段階よりも、それをどうやって実践するかというところが本当はネックになっていることが多く、そういう意味ではこの2冊の本には「実践」のために必要なヒントが隠されているような気がします。

官から民へ

2007-01-04 | 知財業界
 新年初回にあたり、ちょっとマクロな視点から我々弁理士(インハウスを除く)の事業環境について考えてみたいと思います。

 弁理士の中心業務は産業財産権に関する代理業務です。産業財産権の設定は特許庁が所管する行政権に関する事項なので、弁理士の業務は、行政手続の一部を行政権の外から支えるものとも言えるかもしれません。
 一方、社会の動きを考えると、官から民へ、行政の担う領域は縮小して、民の自由競争に委ねる、という大きな流れがあります。産業財産権の設定権限が官から離れることはないでしょうが、行政手続は効率化してできるだけ簡素に、民が利用しやすいように、という方向性に変わりはないと思います。三極特許庁の特許の相互承認の動きもその一つでしょうが、この流れから考えると、対行政庁の手続は減少し、その一方で当事者間の調整に対するニーズが高まるという方向に進んでいくのではないかと予想されます。
 以上のように考えると、現在の弁理士の主要業務である対特許庁の代理業務は、マクロな視点で考えると伸びていく方向には進みにくいでしょう。一方で、増加することになりそうなのは、一つは当事者間の紛争を調整する業務であり、もう一つは当事者である企業内の知財業務(特にこの制度をいかにうまく活用するかという戦略的な部分)かと思います。もちろん、代理業務の市場がなくなるわけではないので、ここで費用対効果の高いアウトプットで勝ち残ることも選択肢の一つです。
 どう戦うかは、個々人の見通しや得手不得手によって異なってくるでしょうが、従来どおりの戦い方で安穏とはしていられません。新年早々、ちょっと厳しいテーマですが、自戒の念をこめてということで。