ケイの読書日記

個人が書く書評

桐野夏生 「錆びる心」

2017-02-04 08:58:58 | その他
 表題作を含め6編の中短編集。みな粒ぞろいで読み応えあるが、特に印象に残ったのが「月下の楽園」。

 荒廃した庭園に異常に惹かれる35歳の男を主人公にした作品。
 彼は、きちんと手入れされた名園には魅力を感じない。かつて栄華を誇ったであろう名家が没落し、昔は大勢の客が愛でたであろう庭が、荒れ果てているのが好きなのだ。そういった物件を探し出し、その離れを借りるのに成功したが、離れと母屋の屋敷との間に高いコンクリートの壁があるので、庭を散歩するどころか、眺めることもできない。しかし、どうしても壁の向こう側の庭に行きたい男は、壁の際をうろついていると、戦時中に作ったと思われる防空壕の跡を見つけ出した。そして…。

 悲劇的な結末で終わる。自業自得だという人も多いだろう。
 しかし、私がショックを受けたのは、その結末ではなくて、この短編の中に「廃墟が好きな人は、死体愛好家だ」という意味の記述があったのだ。がーーーーん! 
 うっそぉぉぉぉ!!!

 廃墟マニアって結構いると思うけどなぁ。誰でも、友達と一緒に夕暮れ時に、町はずれにある廃屋を探検したことってあるんじゃない?!
 「なつくさや つわものどものゆめのあと」だったっけ?かって素晴らしく壮麗だったものが、落剝した姿って風情があってグッとくるけどなぁ。

 以前、クリスティの「スリーピング・マーダー」を読んでいた時、その中に出てくる広大な敷地だが荒れ果てた庭園、特に朽ちた温室の描写が好きだったなぁ。特にイギリスは、ガーデニングが盛んな国だから、お金持ちは庭師を何人も雇って、素晴らしいお庭と温室を整え、お客さま達を招待したんだろう。

 この「月下の楽園」の寂れた庭の描写も素晴らしい。特に、雪の降った後、月が出て、雪景色の庭を青白く幻想的に見せている。そういえば、雪見酒っていう娯楽も昔はあったそうな。時代劇に出てくる。雪景色のお庭を眺めながら、熱燗をキュッと一杯。


 日本庭園って手入れを怠ると、すぐに荒れるだろうね。日本家屋もそう。なんといっても木と紙の家だから。そして、ちゃんと維持しようと思うと、べらぼうにお金がかかるのだ。

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