本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

直木賞受賞作「蜩ノ記」

2012-12-28 13:50:50 | Weblog
 2か月以上前に、直木賞作家葉室麟氏のサイン会があった。本を買ってサインを求める行列ができていた。私は本もサインも関心なかった。

 新聞記者OBと呑んだ際、受賞作の『蜩ノ記』は面白いと言う。ブン屋さんの言い分だから読むにあたいすると思った。だが、私には面白味がわからなかった。

 消極的だった直木賞選者の選評を引用する。
 宮城谷昌光:小説としては、風致にすぐれ、ずいぶん目くばりがよく、瑕瑾も減ったが、惜しいことにおどろきがない。良く書けている、というのは、創作へのほめことばにならないときが多い。氏は、「人を愛する」という点において、デモーニッシュな面をもっており、それが作品のバランスをくずしたことがあるので、自制し、自粛したのかもしれないが、行儀のよさは魅力にはならない。むずかしいところである。

 桐野夏生:秋谷が死を賜る理由が、高潔な人柄に似合わない出だしに強く惹かれた。だが、物語は次第にお家騒動的な、既視感に満ちた話に転換していく。秋谷をもっと魅力的にするには、監視役として遣わされた庄三郎の圧を高め、板挟みとなった懊悩をもっと描くべきだったと思う。読み手は死を避けて貰いたいと願っている。ために、秋谷の悟りが逆にリアリティを感じさせない。

 宮城谷氏は減ったと言うが、私には瑕瑾が目立った。例を挙げると、身分制度の厳しい時代、仲が良いとはいえ百姓の子が武士の子を呼び捨てにするものか。フキノトウとタラの芽が同じザルにあるが、採れる時期が全然違う。ほかにもたくさんある。

 桐野さんの考えと違って、小説の中核となる男秋谷の行動に死を賜る理由は解せない。主君の側室を暗殺から守って罰せられる。これ、理不尽でしょう。