起きる。
昨夜、家の裏から縁の下に入って引きこもっていた小麦。朝には定位置の夫の作業場のイスの上にいた。起きて一階に降りると朝ごはんと知っている小麦は、ごは---んと鳴く。小豆を思い出す。小梅はそれを見ている。小麦が来てそろそろひと月になる。
アイホールが開く時間に電話をかけて、月の岬の当日券があるか問い合わせると、あるということだったので、久々に伊丹に行くことにする。
鶏そぼろとかつぶし昆布おにぎりを作り、しょっちゅう仕事先からもらってくるダースが現在2箱、冷蔵庫で冷えているので、それを使ってチョコチャンクスコーン焼く。
焼いてる間に身支度、伊丹へ向かう。
松ヶ崎から地下鉄、四条から阪急、十三で乗り換えて塚口、また乗り換えて伊丹。十三から塚口までの電車の中、ドア付近に立って外を見ていたら、豚肉と玉ねぎのにおいがしてきた。肉まん、と思って振り返るとドアの反対側に寄っかかり551の紙袋をさげた金髪ギャルが肉まんにかぶりついていた。十三のホームの中に蓬莱の店があるので、そこで買ったと思われる。背中がほとんど丸見えのヒョウ柄のタンクトップとジーンズのショートパンツが辛うじてむっちりした体を覆っている。腕にハスのタトゥーを入れ、黒でまぶたを塗りつぶしまつ毛を貼り付け、カバンの中をちょっと探ろうものならポロポロ取れそうなプラスチックの飾りですべての爪がデコレーションされている。
電車のなかで他人が飲食するもののにおいに酔いそうになることはよくあるが、このギャルが肉まんを頬張る姿とそのにおいはそれほど不快にならず、むしろ旺盛に肉まんを食べる様子が痛快で、そうだよな、肉まん食べるよな、と同意させてしまう意味不明の力すら感じた。
伊丹に着く。
しばらく来ないうちにアイホールに向かう酒造通りには、沖縄料理やバル風の居酒屋などが出来て賑やかになっている。
当日券を買って、道のパン屋で買った明太子とジャガイモ入りフォッカチオをかじって会場を待つ。
月の岬、学生の頃、授業発表公演でひとつ上の回生がやっているのを見た。随分前のことなので、方言と四角い卓袱台と喪服のイメージが残っているくらいで、戯曲の細かな内容はもう忘れてしまっていた。
冒頭、黒留に割烹着姿の内田淳子さんあらわれる。
内田さんがお膳を上げ下げする所作を見ているのがおもしろい。映画でも舞台でも小説でも食事風景というのが好きだ。
月の岬は長崎の離島で暮らす一族の物語。
正装が暑苦しい真夏の結婚式、よく冷えた麦茶、蚊取り線香の渦、姉弟、姉妹、夫婦、男女の事情が交差して緩く首の絞まっていくようだった居間に誰もいなくなったときの風鈴の音が心地よい。縁側の開け放たれた風通しのよい家、だけどムラ社会的閉塞感がずっと傍らにある。逃れたいもの、逃れ難いもの。居場所。居場所から消え去る者。抜けたところを満たす者。生まれたり死んだり生まれなかったり。
アフターパフォーマンスで内田さんによる太宰治の「皮膚と心」のリーディングがあった。
たまたま数日前に野渕さんとの稽古中話題にあがり、目を通したテキストだった。
『ぷつッと、ひとつ小豆粒に似た吹出物が、左の乳房の下に見つかり、よく見ると、その吹出物のまわりにも、ぱらぱら小さい赤い吹出物が霧を噴きかけられたように一面に散点していて…』と始まる、ある女の体に発疹ができる話し。
太宰治が女の目線でものを書くときの、なぜそれがわかるのかと驚いてしまう描写の中には、時々ほんとうに突かれたくない図星を突いてくるところがあって、そのときこの人は男だ、と思い、うっすら腹が立つ。
リーディングが終わり、京都に戻る。
少し買い物して帰宅。朝のスコーン4つもあったのに甘党の胃に難なく収まっていた。
夕飯は米を炊いてなかったのでパスタ。
鶏肉と壬生菜のにんにくバター醤油。バターは、バタと表記するほうがおいしそうに感じる。牛酪ならパンに薄くのばしたい贅沢な感じがする。
パスタは私より夫の方がうまく作る。久々に私が作ったので、どうでしょうと出したら、最初にパスタを一本食べて固さを確認して、ふん、と通の役で言った。食べながら何かスパイス的なものが足りない気がするが、七味でも山椒でも胡椒でもない、なんだろうと相談したら、わさびはどうかと言われ、そうめんのわさび麺薬味というのがあったのでそれをふりかけたら、物足りなさが見事解消された。
スーパーで見かける安いわらびもち、時々50円くらいで売っている。私は毎日でもいいくらい好きだが夫にとってわらびもちは然程テンションの上がらない菓子に区分されるらしい。あまり安くされると見る度に買ってしまうので困る、と毎年思う。
小梅、目にゴミか何か入ったらしく、右目をしばしばしている。そんな様子をはじめてみた。あんなに大きな目をして今までそうならなかったことも不思議だった。目を近くで見ても異物は確認できないが、気になるらしく手で目のところをくるくる触ろうとしたり首を振ったりしていた。しばらくすると取れたらしい。
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