私がまだ学生で、舞踏の稽古場に通っていた頃に出会った彼女のこと。
彼女は私よりいくつか歳上だったが、私と同じか少し小さいくらい小柄で華奢な体つきだった。出会ったばかりのころは印象的なロングヘアだったが、いつからかばっさり切ってショートになっていた。
紫色の服が似合っていた。
稽古場で彼女が動いているのを見ながらよく体が軽いなと思っていた。軽やかに舞っているというような意味の軽いでなくて、物体としての彼女の質量のイメージが軽い感じがした。
稽古では大気、水、雷、植物、獣、共感、反感、などさまざまの動きのメソッドやっていたが、水や大気が親和する体だと思って見ていた。
彼女はsoftというミュージャンが好きだと言っていた。
私はまだ聞いたことがない。
稽古場意外で会ったりことはなかったが、一度だけ、彼女が遊ぼうと誘ってくれたことがあった。それでうちに来ることになった。
その頃私はまだ実家で暮らしていた。家までの道のりを説明し、その日の午後彼女を待っていた。でも約束の日になって、お腹が痛くなってしまったので日を変えてほしいとメールがあった。そういうことが数回あったのち、ようやく会うことができた。
季節は夏だった。
実家の2階のお稽古部屋に机を出して母が作った冷やし中華をふたりで食べた。お稽古部屋とは祖母が元気な頃、お茶とお花の稽古に使っていた部屋のこと。私が小さい頃、月曜の夜は草花の切り口のにおい、土曜は沈香のにおいが立ち込めていた。
冷やし中華を食べてから、夕方まで彼女の話しを聞いていた。
彼女の彼氏はじつは宇宙人で、目が光っていた、一昨日彼氏のうちに遊びに行ったら夜だったのに急に昼になった。 といった不思議な内容だった。肯定も否定もしないまま聞いていた。
大学での公演が忙しくなり、舞踏の稽古場に通わなくなり、何度か携帯を落としたりして彼女の連絡先はわからなくなっていた。
姿を見なくなって数年経つが時々彼女を思い出すことがあった。
一昨日人づてに彼女が2年前に亡くなっていたことを聞いた。
精神的に困難なものを抱えていることは彼女から聞いてはいた。亡くなる前はかかりつけの病院と薬が変わって調子が良くない状態が続いていたそうだ。
ふとしたときに思い出していた相手がもういなくなっていたこと、彼女が抱えていたものが彼女の生の均衡を完全に壊してしまうほどのものだったということ、歩いたり電車に乗ったりしながら考えていた。何をというわけでもなく。
彼女は私よりいくつか歳上だったが、私と同じか少し小さいくらい小柄で華奢な体つきだった。出会ったばかりのころは印象的なロングヘアだったが、いつからかばっさり切ってショートになっていた。
紫色の服が似合っていた。
稽古場で彼女が動いているのを見ながらよく体が軽いなと思っていた。軽やかに舞っているというような意味の軽いでなくて、物体としての彼女の質量のイメージが軽い感じがした。
稽古では大気、水、雷、植物、獣、共感、反感、などさまざまの動きのメソッドやっていたが、水や大気が親和する体だと思って見ていた。
彼女はsoftというミュージャンが好きだと言っていた。
私はまだ聞いたことがない。
稽古場意外で会ったりことはなかったが、一度だけ、彼女が遊ぼうと誘ってくれたことがあった。それでうちに来ることになった。
その頃私はまだ実家で暮らしていた。家までの道のりを説明し、その日の午後彼女を待っていた。でも約束の日になって、お腹が痛くなってしまったので日を変えてほしいとメールがあった。そういうことが数回あったのち、ようやく会うことができた。
季節は夏だった。
実家の2階のお稽古部屋に机を出して母が作った冷やし中華をふたりで食べた。お稽古部屋とは祖母が元気な頃、お茶とお花の稽古に使っていた部屋のこと。私が小さい頃、月曜の夜は草花の切り口のにおい、土曜は沈香のにおいが立ち込めていた。
冷やし中華を食べてから、夕方まで彼女の話しを聞いていた。
彼女の彼氏はじつは宇宙人で、目が光っていた、一昨日彼氏のうちに遊びに行ったら夜だったのに急に昼になった。 といった不思議な内容だった。肯定も否定もしないまま聞いていた。
大学での公演が忙しくなり、舞踏の稽古場に通わなくなり、何度か携帯を落としたりして彼女の連絡先はわからなくなっていた。
姿を見なくなって数年経つが時々彼女を思い出すことがあった。
一昨日人づてに彼女が2年前に亡くなっていたことを聞いた。
精神的に困難なものを抱えていることは彼女から聞いてはいた。亡くなる前はかかりつけの病院と薬が変わって調子が良くない状態が続いていたそうだ。
ふとしたときに思い出していた相手がもういなくなっていたこと、彼女が抱えていたものが彼女の生の均衡を完全に壊してしまうほどのものだったということ、歩いたり電車に乗ったりしながら考えていた。何をというわけでもなく。