ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ル・アーヴルの靴みがき

2012-04-24 23:26:32 | ら行

アキ・カウリスマキ監督、
5年ぶりの長編新作です。

「ル・アーヴルの靴みがき」74点★★★★


北フランスの港町ル・アーヴルで
靴みがきをする初老の男マルセル(アンドレ・ウィルム)。

暮らしは決して楽ではないが、
気心知れたご近所さんに囲まれ、

家に帰れば妻(カティ・オウティネン)と愛犬ライカが
待っていてくれる。

そんなささやかな幸せを噛みしめるマルセルは、
あるとき、
不法難民として警察に追われるアフリカの少年に出会う。

そしてマルセルは、
少年を助けてやろうとするのだが――。


フランスの端から、
海をまたいだロンドンを目指す不法難民という題材は
「君を想って海をゆく」と同じ。
なのに風合いがこうも違うってのが、
映画の面白いところ。


本作は市井の人を描く達人、
カウリスマキ監督ならではの味わいで、

貧しい人が、困った人に手を差し伸べる。
周囲の人々も、黙ってその味方をする。

そしてみんながだんだん優しくなっていく。

そんななんのてらいもない、自然な善意が、
真っ直ぐに見る人の目を射るんですねえ。

甘ったるさではなく、淡泊な筆遣いが、
人の世の情を、まこと見事に映し出しており、

また独特の色使いと間合い、
ユーモアもさすがです。


こういう映画を観ると、素直に
「世の中、捨てたもんじゃないよ」って思えます。


「もっといい職もあるだろうが、
靴みがきと羊飼いが、より人々に近いのさ」という
主人公マルセルのつぶやきが好き。


貧しくとも愛する家族と、
少しのワインがあればいい。

幸福度の高い暮らしの大切さを
しみじみ感じますねえ。

そう、コレですよ、コレ!(笑)




★4/28(土)から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。

「ル・アーヴルの靴みがき」公式サイト
コメント (4)
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わが母の記

2012-04-23 22:30:34 | わ行

昭和な家族のかしましく、切ない肖像が
愛おしかったです。

「わが母の記」82点★★★★

井上靖氏の自伝的小説を
基にした映画です。


1959年。小説家の伊上(役所広司)は、
幼いころ、ひとりだけ両親と離れて育てられた。

「僕だけが母に捨てられた」と軽く話す伊上だが、
実はその思いをずっと引きずっていた。

そんな彼の思いを
妹たち(キムラ緑子、南果歩)らは軽く受け流している。

そんななか
母(樹木希林)の物忘れが激しくなり、
伊上は母に思わぬことを言われる。

そして彼は、自分が引きずってきた思いと
向き合わざるを得なくなり――。


うん、いい映画でした。

原田眞人監督は、
映画と俳優の間にうまい空気感を作り出し、
自然な呼吸からリアリティーを生み、画面にその風をのせるのがうまい。


多層なひだのある小説に
その手腕はピタリはまるようで、
「クライマーズ・ハイ」にもやられたけど、
これも面白かった。


母の記であると同時に、家族の記であるのがよく、
伊上とその妹たちとのやりとりは、
まるでサザエさん一家のような
昭和らしい、かしまし家族の微笑ましさがあり
ユーモアに満ちていて素敵。

そして
樹木希林氏のボケ芸が芸術の域!(笑)

キムラ緑子氏も見事だし、
役所広司氏も、全然顔つきも似ていないのに
夜の書斎で井上靖その人に見える瞬間があり、
“役者”ぶりにハッとさせられます。

しっかし
「シミチョロ」って懐かしいなあ!(笑)


最近、取材で70歳以上の方にお話を聞くことが多いのですが、
この時代の人には、いろいろ「家族の事情」ってもんがあって
なかなか複雑なんですよね。

またそれが本人の人格形成に、
大きな影響を及ぼしていたりする。

画一ではない育ち方が、
後世に名を残す、才能の土壌になっていたりするんだなあと
改めて思い、

いまの時代を、ふと考えたりもしました。

★4/28(土)から全国で公開。

「わが母の記」公式サイト
コメント (2)
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モンスターズクラブ

2012-04-22 20:14:13 | ま行

雪山とオペラと瑛太。そしてピュ~ぴる。
それだけで絵になってはいるんですけどねえ。

「モンスターズクラブ」41点★★★


凍てつく雪山の山小屋で
一人暮らしている良一(瑛太)。

薪を割り、獣をしとめて食事をし、
寝床では夏目漱石を読む。

そんな彼の使命は腐敗した現代社会に反旗をひるがえし、
産業テクノロジー社会のシステムを壊すこと。

そのために彼は小屋で爆弾を作り、
企業などに送りつけていた。

しかし、孤独な生活のなかで
彼は次第に幻影とも現実ともつかないものを見るようになり――?!


1978年から18年間に渡って
全米を震撼させ続けた爆弾魔ユナボマー。

「産業社会の破壊」を目的にしていた彼に
インスパイアされたという物語です。


凍てつく雪山での孤高の生活という
舞台装置はすごくよく、
いまも頭にシーンが焼き付いている。

瑛太のナレーションによる
現代産業社会に反発する青年の内面も、
自然に耳を貸せるものでした。

ピュ~ぴるの登場も、
彼じゃなきゃ!という感じでいいし。

しかし、
死者の幻影らが登場すると陳腐でがっかり。

主人公は混乱していくし、
さらに窪塚洋介演じる、主人公の兄の言ってることが
まったくもって意味不明!(苦笑)


72分という短さも、
この尻切れトンボでは納得できないでしょう。

がっくりしました(苦笑)

聞けば元々ある企業のPR用から始まった企画らしい。

これで1800円払ったら、正直泣くに泣けない。
もう少しブラッシュアップするか、
別の形態として見せたほうがよかったのではないでしょうか。


★4/21から渋谷ユーロスペースほかで公開。


「モンスターズクラブ」公式サイト
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捜査官X

2012-04-21 23:07:21 | さ行

カンフーアクション好きには
たまらない、のかなア。

ちょっと番長にはわかりませんでした。

映画「捜査官X」33点★★


1917年、牧歌的な雲南省の村で、
不可解な事件が起きた。

強盗目的で両替商を襲った悪人二人組が、
謎の死を遂げたのだ。

特異な推理力を駆使して事件を調べる
捜査官シュウ(金城武)は

その場に居合わせて、
悪人に必死に抵抗したという
平凡な男ジンシー(ドニー・イェン)に目を留める……。


カンフーアクションに
最先端な映像技術を加えたバイオレンス活劇です。


ドニー・イェンの化け方に
ゾクッとしたり、

また
金城武演じる捜査官が
どこか金田一耕助のような、刑事コロンボのような
ひょうひょうとしたキャラで魅力があり

彼の脳内で行われる推理を映像化するなど、
実に凝っている。

体内を駆け巡る血や神経の動き、
滴り落ちる雨粒やバトル中のストップモーション、
時間を遡る映像表現などなど……

しかし、凝ってはいるんですが、
どうもどこかで見たようなものの寄せ集めな気がして
次第に辟易してしまった。

カンフー好きかどうかとか、
残虐なのがいやだとか、
刃物の音が神経に障るとか、

好みはあるでしょうが、
それを差し引いても
意味深すぎる絵作りに比べて、
中身がもう一歩、伴っていない落差が大きかったです。

金城武のコミカルさが、最初は悪くなかったのになあ。

シリーズ化してもよさそうなんで、
もうちょい歯ごたえのある話、期待してます。


★4/21(土)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「捜査官X」公式サイト
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刑事ベラミー

2012-04-19 23:43:50 | か行

フランス映画未公開傑作選の1本。
「引き裂かれた女」クロード・シャブロル監督の
遺作となった作品です。

「刑事ベラミー」72点★★★★

フランスのとある海岸で
黒こげの車と遺体が発見される。

そんなとき
フランスのある町で休暇中のベラミー警視(ジェラール・ドパルデュー)を
ある男が訪ねてくる。

ノエル(ジャック・ガンブラン)と名乗る彼は
ベラミーに1枚の写真を見せ、
自分がその写真の男を殺したと告白する。

だがその写真の男はノエル自身にうり二つだった――。


男に興味を持ち、調べ始めたベラミー。
それは例の海岸での事件に関連があるようで――?!



ゴダールやトリュフォー、エリック・ロメールなどとともに
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する作家とされ
2010年、惜しくもこの世を去った
クロード・シャブロル監督。

“フランスのヒッチコック”と呼ばれるほどの
香り高いミステリーの名手であります。


そんなシャブロル監督が
実際に起こった保険金詐欺事件の三面記事にアイデアを得て、
プラス
作家ジョルジュ・シムノンの「メグレ警視」シリーズに
「さりげないオマージュを捧げたいと思った」という遺作です。

さりげない、っていうのが
またカッコイイじゃあーりませんか。

そして映画はというと
スリリングながらいささかも大騒ぎすることのない
流石の手さばきで「大人」を魅せてくれる
上質な刑事モノ。


さまざまなオマージュや含みがありますが、
特別なツウでなくとも“見ていればある程度わかる”な優しさがあり、

そして「引き裂かれた女」もそうでしたが
元が実際にあった三面記事事件だという
メロドラマチックな大衆性といい

それこそ大人、という感じ。


いまどきのわかりやすい謎解きではないので
ややとまどうかもしれませんが

冒頭の口笛から、ラストまで、
ちゃんと目を見開き、耳をかっぽじって観ていれば
あらゆるものに意味がありますぞ。


★4/21から渋谷イメージフォーラムで公開。

「刑事ベラミー」公式サイト

「フランス映画未公開傑作選」では
このほか
この4月に無くなったクロード・ミレール監督「ある秘密」
エリック・ロメール監督「三重スパイ」も公開されます。
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