ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ヒッチコック

2013-03-31 21:22:33 | は行

なにより99分という尺に
最高のリスペクトを感じるのです。

「ヒッチコック」74点★★★★

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1959年、
「北北西に進路を取れ」が大ヒットした
60歳のヒッチコック(アンソニー・ホプキンス)は

実在の大量殺人鬼の物語
「サイコ」に魅了される。

しかし陰惨な内容ゆえ、
映画会社はどこものってこない。

ヒッチコックは
信頼をよせる最大のパートナー
妻アルマ(ヘレン・ミレン)に助言を仰ぐが・・・?!

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冒頭から人を喰ったようなユーモアがあり、
期待以上の感触で
おもしろかったです。

まずは
上映時間2時間3時間越えの
壮大な伝記などにせず
「サイコ」製作の話に的を絞ったセンスに拍手。

よき時代の映画は、みなだいたい90分だった。
そこにこそ、
往年の映画へのリスペクトが表れているじゃありませんか。

そして
ヒッチコック演じるアンソニー・ホプキンス。

ファーストシーンではさほど似てなく感じるのですが、
いやあどんどんヒッチコックその人にしか見えてこなくなって
不思議だなあ。

さらに
軽妙で笑える会話のおかしさ。

映画化候補の台本を持ち込まれたヒッチコックが
「ワシが『アンネの日記』を撮る?
屋根裏部屋に死体が隠されてると思われるぞ」とか(笑)


お話は
すでに名声を手に入れている巨匠が
「映画を撮るワクワクをもう一度味わいたい」と、
周囲は大反対のなか
自己資金で「サイコ」を撮り始めるというもの。

そんな彼を長年支えてきた
妻アルマの小さな反抗が
現実でのサスペンスとなって盛り込まれる趣向で、

「巨匠の陰には偉大なるサポーターがいるのだ」と
改めてわかり、アルマさんに敬意を捧げたくなります。

スカヨハがジャネット・リーを演じたりと
いろいろ豪華で見どころがありますが
一番びっくりするのは
アンソニー・パーキンスを演じる
ジェームズ・ダーシー!これはすごい・・・。

映画好きなら3倍、5倍楽しめる映画だと思います。

プレスの表紙もよかったなー。





ちなみに。
おなじみ『週刊朝日』ツウの一見で
手塚眞さんにお話を伺ったところ

正直
ヒッチコキアン(ヒッチコックの熱烈ファン)にとって
すごい「新ネタ」はないんだそう。

でも
ヒッチコックの名前と映画くらいしか知らない人には
よりいっそう楽しめるはず、とのことでした。

本当に同感でございます。

詳しい話は4/2発売号(だと思う)に掲載。

ヒッチコックと手塚治虫氏の類似性についても言及されています。
どうぞお手にとってみてください。


★4/5(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ヒッチコック」公式サイト
コメント (2)
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グッバイ・ファーストラブ

2013-03-29 22:20:25 | か行

「あの夏の子どもたち」(09年)
ミア・ハンセン=ラブ監督の新作です。

「グッバイ・ファーストラブ」71点★★★★


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1999年、パリ。

15歳の少女カミーユ(ローラ・クレトン)は
17歳のシュリヴァン(セバスティアン・ウルゼンドフスキー)と
真剣に愛し合っていた。

だが若い二人に
やがて別れのときが訪れる。

4年後、
建築を学ぶ大学生になったカミーユは
教師であり建築家のロレンツ(マーニュ・ハーバード・ブレック)に
好意を抱くが

どこかでシュリヴァンを忘れられない――。

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ある少女の
15歳の初恋から、23歳までの恋と人生を描く作品。

1999年~2007年までという年代といい
監督自身の経験が反映されているんでしょう。


恋の情熱と、別れ、
そして人生を賭すことのできる仕事探しなど

さらさらと流れるように描かれる
人生のスケッチは

だれにでも共通する
爽やかで懐かしい
シャボンのような甘い香りを持っていて

どこか切ない青春の記憶を
呼び覚ます気がします。

カップルがケンカして、仲直りする甘い瞬間など
「うっ」とくる抜群のセンスなんだよね。

主人公に同化して
パリで青春を送ったような気になれるし

南仏の陽光溢れる別荘など
フランスのライススタイルもうらやましいかぎり。

劇的なカタルシスや感動とは無縁の
「どこにでもある、日常であり青春」だろうけど
好きな人にはハマると思います。

フランス映画界注目の
女性監督たちの作品を集めた
「フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ」の1作品として公開されます。


★3/30(土)から渋谷シアターイメージフォーラムで公開。

「フレンチ・フィーメイル・ニューウェーブ」公式サイト
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ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの

2013-03-26 18:25:41 | は行

こんな時代に
こんな贈り物をもらえるなんて

なんて素敵なことだろう。

「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」72点★★★★


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元郵便局員のハーブと
図書館司書のドロシー。

仲良し夫婦がつつましい給料のなか
その審美眼で、世界屈指のアートコレクションを築くまでを紹介した
ドキュメンタリー「ハーブ&ドロシー」(08年)の続編です。

2008年、二人は
全米50州の美術館にコレクションを寄贈するという
素敵なプロジェクトを始めることに。

なぜそんなことをするのか?

作品を送られた地方美術館の人々の言葉などから
二人の思いが明らかになる――。

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前作ほどのインパクトはないけれど、
続編として、これほど適切なものはないと思います。


よき市井の人々の代表のような二人が
なんの迷いもなく
自分たちの集めた価値あるコレクションを社会に還元する。


その姿勢の崇高さ、心の美しさ
今回もバッチリ映っていて
それが一番素晴らしいことだと思う。


夫妻が各地の美術館に出向き、
生き生きとアートに向き合う様子も
とても楽しそうだしね。


なぜアートを地方の美術館に贈るのか?

ひとつには
一ヶ所に保管してなかなか展示されないよりも、
分散させることで多くの人が見ることが叶うから。

それにこんなご時世、美術館の運営は
やっぱり楽じゃない。

そんなとき
「アートをプレゼントします」なんて
サプライズな電話を受けた
各美術館の担当者たちの驚きや悦びを想像するだけで
豊かな気持ちを分けてもらえるんですよね。


さらに
各美術館のアート紹介の様子も興味深い。

とかく「わかりにくい」とされる
コンセプチュアルアートについて

「なるほど」と腑に落ちる解説をしてくれる
ホノルル美術館館長の弁など、見応えがありました。


高齢の夫婦には
悲しい出来事も訪れるけど、
そのへんをしつこく描かないのも監督の敬意の現れだと感じます。

人生の仕舞い仕度の見本としても、
とても参考になりました。


★3/30(土)から新宿ピカデリー、東京写真美術館ほか全国順次公開。

「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」公式サイト
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キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け

2013-03-24 14:30:55 | か行

リチャード・ギアの近年の最高傑作って
「クロッシング」(08年)だとワシは思ってます。

「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」64点★★★


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ニューヨークに暮らす
実業家のロバート・ミラー(リチャード・ギア)は
2008年のリーマン・ショックも生き延びたリッチマン。

大邸宅に暮らし、よき妻や子どもたちに囲まれ、
可愛い孫もいて
幸せの見本のような人生を送っている。

だが、あることから
ロバートの人生の歯車が狂い始め――。

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リチャード・ギアが上質のシルクを着こなすように、
さらっと“カリスマ大富豪”という役を身にまとっている。

品のよい、コロンの香りすら漂ってくるようで
やはりすごいと思いました。

しかし内容は定番すぎる“転落劇”。


非の打ち所なさそうな男が、実は愛人に溺れており
会社の内情も火の車。

自業自得ともいえることから
さらに運命の歯車が狂っていく――という話で

テーマの古さは否めず、
展開も平凡で残念。

ただ監督は本編が初長編作で
しかも
「低予算でいかに億万長者の世界を創造するか」が課題だったんだって。

そう聞くと「へえ」と思う。
けっこうリアルにリッチな映像になってるから。

ロケ場所の選び方もうまいし
なによりやはり
リチャード・ギアの優雅な所作とたたずまいに
プライスレスな価値があったんでしょうね。


★3/23(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」公式サイト
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相棒シリーズ X DAY

2013-03-22 19:18:28 | あ行

言っちゃっていいですか。
右京さんはほとんど出てきません(笑)

でも相棒ファンのうちの母は
「うん、伊丹さんが主人公なんでしょ?」だって。
わかってんじゃん(笑)


「相棒シリーズ X DAY」68点★★★☆


***********************

ビルから男が転落死する事件が発生した。

男は大手銀行のシステム部に所属し、
死の直前、謎のデータをネット上にばらまいていた。

警視庁捜査一課の刑事・伊丹(川原和久)は
サイバー犯罪対策課の専門捜査官・岩月(田中圭)と
ときにいがみ合いながら捜査を開始する。

そこには驚くべき真相が――?!

***********************

右京さんは残念ながら休暇中(笑)
ほとんど出てきません。

でも
筋書きは身近な警鐘としておもしろかった。


現実に相次ぐ金融システム障害が
実は仕組まれたものだった……?という話で、

サイバー犯罪捜索課の冷静な頭脳担当(田中圭)と
強面の現場刑事(川原和久)という凸凹コンビが主役。

この二人、定番な“水と油”の構図ながら
その掛け合いで引っ張ってくれます。

立場的には現場のデカより
田中圭みたいな専門捜査官が上なのかな、と思ってたんですが

捜査官らは彼らで
「現場は異分野からきた自分たちを“道具”としか見ていない」と
不満を持っていたりと

ふうんなるほどね、と思いました。

あと
国仲涼子が不幸役なのも定番(笑)

と、まあ楽しんでいたんですが
しかし終盤のパニック描写は小規模すぎ(失笑)

こういうところでスケールがガクンと落ちるのは
邦画にはありがちですが、残念。

表現に工夫が欲しいところですね。


★3/23(土)から全国で公開。

「相棒シリーズ X DAY」公式サイト
コメント (2)
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