ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

斬、

2018-11-23 12:20:45 | さ行

 

「鉄男」(89年)「野火」(14年)の塚本晋也監督が

初の時代劇に挑戦す。

 

「斬、」74点★★★★

 

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江戸時代末期。

250年のあいだ、戦のなかった世。

農村に身を寄せる若き浪人・杢之進(池松壮亮)は

農家の手伝いをし、住まいと食を得ていた。

 

武士に憧れる農家の息子・市助(前田隆成)に稽古をつける姿は

一流の剣士だったが

市助の姉・ゆう(蒼井優)は複雑な思いで二人を見ている。

 

そんなある日、村に

腕の立つ浪人・澤村(塚本晋也)が現れる。

 

杢之進の腕に尋常でないものを感じとった澤村は

彼を京都の動乱に参戦しないかと誘う。

 

ようやく、武士たる仕事ができる・・・・・・と

自らを奮い立たせる杢之進だったが――?!

 

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塚本晋也監督、初の時代劇。

 

「野火」のあとだけにかなり身構えましたが

思ったほどにザックザックの血しぶきではなかった。

 

刀を扱う所作も、ただ者ではない感を漂わせる

杢之進(池松壮亮)氏ですが

そこに大きな「仕掛け」があり、それが映画のミソであり、問いかけなのだ。

 

 

血は最小限でホッとしましたが、伝わるものはしっかり重い。

 

特に塚本監督らしいのは「音」。

刀の重さ、つかの重さがガッシャガシャと感じられ、

そこに、命の重さ、というものも感じる。

 

我々はこれまで

時代劇でいとも簡単に刀を扱う人々を見てきたけれど、

しかし、刀を扱い、人を斬ることは、

人の命を奪うことは、そんなに簡単なのか?

杢之進も、ゆうも

知らぬまま、引き返せない「時代の空気」に巻き込まれようとしているのではないか?――

 

その問いは、まさに

不穏がどんどん増幅していく

いまの時代にガンガンと響きます。

 

監督と蒼井優さんに「AERA」(こちらから読めます)でインタビューさせていただきましたが

監督は「野火」を作ったあとも、時代がどんどん「不穏」に加速する状況を前に

この映画を作らざるを得ない、と思ったそうです。

 

そして蒼井優さんはなんと15歳のときから

塚本作品を「こっそり」見ていたという筋金入り。

池松氏と蒼井氏、素晴らしいキャストを得て

監督の伝えたかったものは、見事かたちとなり、観客に伝わるはず。

 

幕末の浪人に現代に通じる感覚を持ち込んだ池松壮亮氏もさすがですが

山に響く

蒼井優氏の叫びに、のまれそうです、はい。

 

★11/24(土)から渋谷・ユーロスペースほか全国で公開。

「斬、」公式サイト

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鈴木家の嘘

2018-11-16 23:30:09 | さ行

 

もしやと思ったが

やはり監督の体験が基なのか!

 

「鈴木家の嘘」71点★★★★

 

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その日、鈴木家の長男、浩一(加瀬亮)は

自室で自ら命を絶った。

 

何も知らずに買い物から帰った母・悠子(原日出子)は

部屋に入り、長男の変わり果てた姿を発見してしまう。

 

長女(木竜麻生)が家に帰ったときには

母も倒れ、意識不明だった。

 

その後、長く昏睡状態だった母が

病院で目覚める。

 

喜ぶ長女と夫(岸部一徳)だが、

悠子は息子が死んだ日の記憶を、完全に失っていた。

 

「浩一は?」と無邪気に聞く母に、長女は思わず言う。

「お兄ちゃんは・・・・・・アルゼンチンにいるよ!」

 

母を思ってついた嘘が

次第に鈴木家の運命を動かしていく――。

 

 

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力作、と賞賛したい。

 

でも

いつもどおり予備知識ゼロで観に行ったので

タイトルの「嘘」の中身があまりに「え?」で、

実際、すぐに心に入りきれませんでした。

(いえね、よくある「夫の浮気」とか、「息子や娘の恋人がどうだ」・・・とかの

すったもんだ劇、くらいに思ってたんです。スミマセン

 

自ら命を絶った兄。

残された家族は記憶を失った母に

「お兄ちゃんは、生きてる」と嘘をつく、というストーリー。

 

しかもアルゼンチン、て。(笑)

 

身近な人の自死が

残された人々にどれだけ傷を与えるのか。

それは、まさに生き地獄なんだと、

 

映画は

淡々とユーモアすら交えつつ

そのつらさに正面から向き合う。

 

「え」と見る人を戸惑わせつつ、

嗚咽のような痛みと、人間のおかしみのギリギリのバランスを保っている。

なかなか見事な悲喜劇だと思いました。

 

そして、もしやと思いましたが

やはり監督・野尻克己氏の体験が基だそう。

 

 

経験した人にしか描けない、この物語は

同じ経験をした人に、手を差し伸べ、

あらゆる人に、「もしも、自分の身近な人にそれが起こったら?」を想像をさせ、

そのときを支える、大切な杖になるのではと思います。

 

発売中の週刊朝日、「もう一つの自分史」連載で

お父さん役の岸部一徳さんにお話を伺っています。

映画にも絡め、自身の「家族」をも振り返ったお話、

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~

 

★11/16(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「鈴木家の嘘」公式サイト

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十年 Ten Years Japan

2018-11-03 00:59:30 | さ行

 

是枝裕和監督が総合監修。

 

「十年 Ten Years Japan」71点★★★★

 

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5人の新鋭監督が

日本の“十年後”をテーマにした短編オムニバス。

 

75歳以上に安楽死が推奨された日本を描く「PLAN75」(早川千絵監督)、

徴兵制が始まった日本が舞台の「美しい国ニッポン」(石川慶監督)――など

 

現代社会への問題提起を含む5作品。

 

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是枝裕和監督が総指揮を取り、

5人の監督が日本の十年後をテーマに、5つの短編を製作したもの。

 

5作品とも揃ってアイデアのリアルさに驚かされ、

また、その未来が見事になまでに暗いことに

苦笑してしまうという、おもしろ哀しな感じでした(笑)。

 

 

75歳以上に安楽死が推奨される制度を描く

「PLAN75」(早川千絵監督)は特にリアル!

ああ、自分がいま75歳だった全然ありかも・・・・・・と思いつつ、

身寄りのない老人や低所得者をターゲットにしているというえげつなさ

そして、その勧誘にあたる若手公務員が

妻との間に新しい命を授かる、という展開に

「終わりが決まっている世界に生まれるって、どうなん――?」と

虚しさと怖さがヒヤリと漂い、考えさせます。

 

 

亡くなった母のデータベースのキーを

父(田中哲司)にナイショで手に入れた娘(杉咲花)を描く

「DATA」(津野愛監督)もなるほど。

 

死後、メールやSNSの膨大な自分情報がどうなるのか、

残された人がそれを見たら――?のゾッとするリアル。

それでいて、演じる杉咲花の伸びやかさで

唯一、明るい兆しがある作品でもあります。

 

 

「美しい国ニッポン」(石川慶監督)は

徴兵制が始まったニッポンで、その広告キャンペーンをする

広告代理店の社員(太賀)が主人公。

これまた絶妙にリアルで、いや~~なことこの上ない。

 

と、

テーマもキャストも実にビビッドな意欲作ばかりですが

実は「政治的テーマはちょっと・・・・・・」と株主やスポンサーに敬遠され

資金集めに非常に苦労されたのだとか。

 

それを乗り越え、作られた作品たちに敬意を表すとともに、

そんな状況じゃ、本当に日本版マイケル・ムーアなんて、まだまだだなあ・・・・・・と

焦りと怒りも感じるのでした。

 

★11/3(土)からテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開。

「十年 Ten Years Japan」公式サイト

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search/サーチ

2018-10-23 23:56:02 | さ行

 

アイデアが傑出!

「search/サーチ」73点★★★★

 

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デビット・キム(ジョン・チュー)は

妻に病気で先立たれ、

高校生の娘マーゴット(ミシェル・ラー)と暮らすパパ。

 

思春期の娘とは、最近まともに会話もせず

連絡はFacetimeかメールだ。  

 

その日も娘に連絡を入れると

「今日は友達の家で勉強会。徹夜になるかも」とすげなく言われる。

 

が、翌朝からデビッドは

娘とまったく連絡が取れなくなってしまう。

 

娘を探すため、奔走するデビッドが目にしたのは

まったく知らなかった娘の一面だった――!

 

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サンダンス映画祭2018で、観客賞を受賞!

斬新!フレッシュ!と話題の映画です。

 

たしかに、これは斬新。

1時間42分、スクリーンに映し出されるのは

ホントにPCの画面の中のみ、なんだもの。

 

なのにこんなにスリリングなサスペンスが成立するなんて!

 

しかも展開も練ってあって

しっかり怖いんですわー。

 

27歳のインド系アメリカ人、アニーシュ・チャガンティ監督、

新しいツールを、それを使う理由と意味をちゃんと踏まえて、存分に利用してて

旧人類にも、やるう!と思わせるあたり、うまいです。

 

ただね

途中で、知らないSNS「ユーチャット」?ってのが出てきて、

「主人公の娘マーゴットは顔出してチャットしてるのに

相手がアイコンのみ、って、なんで?それで成立するの?」とか

よくわかんなくなった(苦笑)

 

でも、見終わったあと

大大先輩の映画評論家・渡辺祥子さんに

「あの本人の顔映像は、自分のPCのカメラに写ってたものが残っていただけで

会話はアイコンのみのチャットだったんじゃなーい?」と言われ

あーそうなのかー・・・・・・とか(だいじょぶか、ワシ!笑)

 

映像の転換スピードも速いし、

あと10年経ったらついていけるかしら・・・・・・と一抹の不安が。

いや、もうすでに、ついていけてない?!

 

★10/26(金)から全国で公開。

「search/サーチ」公式サイト

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世界で一番ゴッホを描いた男

2018-10-14 22:35:32 | さ行

 

ひゃ~、こんな人、こんな村、こんなビジネスがあるなんて

知らなかったなあ!

 

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「世界で一番ゴッホを描いた男」70点★★★★

 

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中国、広東州にある「油画村」というところで

ゴッホの複製画を20年間、描き続けている男性のドキュメンタリー。

 

贋作話か?と思うけど

これは完全に「複製画」というジャンルで売られている「商品」。

印刷でなく、油絵で描かれているところに価値があるんでしょうね。

 

彼は主に海外から注文を受け、

彼のほか、家族や弟子大勢が寝泊まりする工房で

月に700枚!も量産している!

 

下書きもなしに、キャンバスに絵の具を置いて描く

そのスピードとテクニックにも驚嘆だけど

そんな彼が取引先である画廊に招待され、

憧れのオランダに渡航するあたりから、物語は転調する。

 

さぞや高級画廊かと思っていた取引先は、しがないお土産屋。

しかも絵が彼らの売値の、8倍の値段で売られている、そのショック。

 

そして現地のゴッホ美術館で

本物の「ひまわり」と対面した彼に変化が・・・・・・?!

 

 

何事も、一心不乱に極めれば、そこに積み重なったものがある。

それを目の当たりにするおもしろさ。

 

 

ゴッホの墓の隣にあるテオの墓にも、ちゃんとお供えをする

主人公の心の正しさ。

どんなときも、家族や大勢で食卓を囲む様子も

いいなあと思いました。

 

★10/20(土)から新宿シネマカリテ、伏見ミリオン座ほか全国順次公開。

「世界で一番ゴッホを描いた男」公式サイト

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