ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

17歳の瞳に映る世界

2021-07-23 17:10:35 | さ行

ぜひ若い世代に伝えたい映画。

 

「17歳の瞳に映る世界」76点★★★★

 

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ニューヨークのすぐ下にある

ペンシルベニア州。

 

なんだか時が止まったような風情の小さな町で

17歳のオータム(シドニー・フラニガン)は

母と義父と、年の離れた妹と暮らしている。

 

地元のスーパーでレジ打ちのバイトをし

セクハラされながらも

「世の中なんて、こんなものよ」と

どこか割り切ってる。

 

が、オータムは最近、体の不調を感じていた。

 

地元のウィメンズクリニックで

まさか、と試した妊娠検査薬の

結果は陽性――。

 

悩んだオータムは

仲良しのいとこ、スカイラー(タリア・ライダー)に

状況を打ち明ける。

 

そして早朝、二人は

ある決断をするために

NYへと向かうのだが――?!

 

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「ティーンの予期せぬ妊娠」という

題材は、そう珍しくないかもしれない。

 

でも、この映画はすごく新しく

かつ「いま」だと思いました。

淡々と、どこかドキュメンタリーのようで

リアルな17歳のヒロインに、多くの女性の思いが重なるような。

 

といっても「現代の話」って

最初はわかんなかったんですよ(苦笑)

 

冒頭、

ヒロインのオータム(シドニー・フラニガン)が

高校の文化祭で歌ってる。

そこに男子生徒がヤジを飛ばしてくる。

 

カントリーチックな人々の服装、ファミレスや町の風景、

なにより男たちのマチズモ感に

1980年代くらいが舞台なんだと思って観てた。

 

しばらくしてメルアド、と会話があり、

Google検索してるし、あ、スマホが出てきた!で

ようやく、いまの話だってわかった。

 

このタイムスリップ感は、多分に意図的だと思う。

 

ニューヨークまで長距離バスで数時間、という場所なのに

この時の止まった感はなに?

いや、これが現実で

#MeTooやTime's Upにほど遠いアメリカが

まだまだたくさんあるんだ、と痛感させられました。

 

日本だって、同じだよね。

 

で、そんな世界で

17歳のオータムが予期せぬ妊娠をする。

 

このオータム、なかなか地に足ついた感じのキャラで

決して愛想がいいわけじゃないけど

そこそこしっかりしてて(歌もうまい!)

すごく魅力的。

 

でも妊娠のことは、親にも言えないし

しかもペンシルベニア州では「未成年の中絶には親の同意が必要」。

そこで

彼女はいとこに相談し、

二人でニューヨークに行くことにするんです。

 

オータムが経験する、こうしたことすべてが

女性が被る理不尽や不利益の象徴であり

彼女が被る心の傷も、身体的な傷も重い。

 

重いけど

彼女は自分で行動し、自分で決断する。

 

その一歩一歩が、力強く

こちらも力をもらえる。

 

それにそこには女性たちからのヘルプがたしかにある。

いとこのスカイラーとのシスターフッドをはじめ、

地元のウィメンズクリニックの様子や

NYの医師やカウンセラーたちのサポートなどなど。

 

「こういうときに、こういうヘルプがあるよ」

同じ思いをするかもしれないティーンに向けての

メッセージが多分に含まれていると感じました。

 

エリザ・ヒットマン監督は

2012年、中絶が違法なアイルランドで

体調を崩した女性が中絶手術を受けられずに

亡くなった事件をきっかけに、本作を生み出したのだそう。

込められた想いが、よく伝わってきました。

※ちなみにその後、国民投票の結果

2018年にアイルランドでは妊娠24週までの中絶は認められているそうです(映画プレスより)

 

★7/16(金)からTOHOシネマズ シャンテほかで公開中。

「17歳の瞳に映る世界」公式サイト

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スーパーノヴァ

2021-06-30 22:06:12 | さ行

スタンリー・トゥッチも素晴らしいが

コリン・ファースが最高に素敵だ。

 

「スーパーノヴァ」77点★★★★

 

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イギリスの田園地帯を走る、古びたキャンピングカー。

ハンドルを握るのはサム(コリン・ファース)。

助手席にはタスカー(スタンリー・トゥッチ)。

 

けっこうひねくれ者っぽいタスカーの繰り出す皮肉や軽口を

サムは自然にさばきつつ、

旅をしている。

 

二人はこんなやりとりをしながら

20年来をともにしてきたパートナーなのだ。

 

が、実はタスカーはだんだんと記憶と体力を失っていく

病と闘っている。

 

サムは「ちょっと混乱しただけだよ」とタスカーをはげますが

タスカーには、この旅においての、ある覚悟があったーー。

 

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最近「人生の終わりを、自分で選択する」テーマの映画がめっちゃ多い。

 

「やすらぎの森」しかり、「海辺の家族たち」しかり、

「椿の庭」しかり、

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」もそう。

いままでに、ワシに最もそれを考えさせたのは

「母の身終い」(13年)だった。

 

全てにおいて、ワシはその選択に肯定派だし

「自分もそのときは、そうしたい」と

いまもそう思ってるんですが

でも、この「スーパーノヴァ」ほど、共振したのは初めてだと思う。

 

だって、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチ。

二人の演技が最高なんだもん。

 

病を抱える側・タスカーを演じるトゥッチももちろんいいけれど、

さまざまな思いを胸に秘め、相手を包み込む

相方・サム役のコリン・ファースが最高に素敵なんですよ。

(もうね、男性のカップルだとか、そんなところは

映画も飛ばしてるし、

ワシも飛ばしてるんですみません。笑)

 

こんな人に見守られながら、「ごめん、お先に!」といきたいけど

いや、違うだろ?

こんな人だからこそ、別れるのイヤじゃん!? (泣)って

タスカーの揺れる気持ちが、痛いほどわかる。

でも、それを超えて、タスカーは言うんですね。

「君が好きだった私を憶えていて欲しいんだ。”私じゃなくなった”私じゃなくて」

 

――いままで、いろんな映画や小説などで

同じ意味合いの言葉を聞いてきた。

でも、トゥッチの発するこの言葉は

これまでになく深いところにグサッと突き刺さって

めちゃくちゃ、腑に落ちたんですよ。

 

だからこそ、そのとき「そんなの絶対にイヤだ!ダメだ!」と抵抗していたサムも

気づくんだよね。

 

それを実行しようとする、タスカーのほうが

どれだけつらく、恐怖であることか、と。

 

そして、お互いを思いやるからこその、この結末。

 

悲しいだけじゃなく

全編をとおして

二人の穏やかで深い愛が伝わってくる。

そのぬくもり、不思議なやすらぎが残像のように残って

どこか、安らかな気持ちにもなる

ホントにいい映画っす(思い出すだけで、泣けてくるさ)。

 

これを観てから

「自分がもしものときに、その決断をできるか」じゃなく

「それを相手が望んだときに、自分はしてあげられるだろうか?」に

視点が変わってます。

映画ってすごいよね。

 

★7/1(木)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「スーパーノヴァ」公式サイト

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幸せの答え合わせ

2021-06-09 23:36:13 | さ行

アネット・ベニング×ビル・ナイ。

こりゃ、見たくなる夫婦なんですが――。

 

「幸せの答え合わせ」69点★★★☆

 

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イギリス南部の海辺の町シーフォード。

美しい景色のこの街で暮らす

妻グレース(アネット・ベニング)と、夫エドワード(ビル・ナイ)。

 

妻グレースは、芸術家肌でややエキセントリック。

そんな妻の要求に

夫エドワードは常に静かに応え、

夫婦はもうすぐ結婚29周年を迎えようとしていた。  

 

が、独立した一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)が

久し振りに帰郷したある日。

 

夫エドワードは突然、

「家を出て行く」と言い出した。


その理由を聞いて耳を疑う妻と息子だったが――?!

 

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結婚29年め夫婦の終わりとその先を描いた作品。

アネット・ベニングが妻でビル・ナイが夫、と

いや~、これだけで観るでしょ!って

役者は最高です。

 

夫婦のじわじわとした破綻もリアルなんだけど

――う~~~む、これはどうにも気が滅入る。

 

29年の結婚生活を「好きな人が出来た」と、終わらせようとする夫。

マジ?酷い!と思いたいところですが

うーむ、そうではないところが複雑で。

 

どんな夫婦にも型にはまらないイロイロがあるのは承知ですが

このカップルはけっこう、映画で描かれてきたなかでも

珍しいかもしれない。

 

というのは、

夫はすごーく”いい人”なんですよ。

妻に献身的にお茶を淹れ、

妻の言うことになんでもYES、でやってきた。

 

妻のほうがややエキセントリックで

そんな夫を引っ叩いたり、テーブルをひっくり返したり――

DVまではいかないと思うんだけど、ある種のモラハラが蓄積されていたと思われる。

 

で、そんな妻にさすがに愛想をつかした夫が

好きな人を作って出て行ってしまう、という話なんです。

 

女性に非がある、という点を

ちょっと意外に思ってしまうあたりが

ワシもまだある種、固定観念にとらわれているのか――とか

いろいろ考えさせるんですが

 

気が滅入る、というのは

あまり話にスカッと!な展開がないから。

 

夫が29年間、我慢していた、というのは

理解できる。

 

でもねー

そんな状況で夫に去られた妻が

いつまで経っても立ち直らずグズグズするのが

観ていてかなりモヤッとする。

それに

夫婦の間に立つ一人息子も、出来すぎってほどに

いいヤツ過ぎるんだよね――。

 

それでも映画の端々に、

演技派ふたりの厚みと、それを生かした演出は光ります。

 

例えば、夫が紅茶を入れるとき

毎回ティーバックを潰して「絞り出す」ようにする、ちょっとセコい感じとか。

彼に捨てられて一気に抜け殻になる

妻=アネット・ベニングの老けっぷりの凄まじさとか。

 

そして、観る誰もが思うと思うけど

夫と、新しい相手とのヤサを探し出した妻が

その家を急襲するシーン。

 

修羅場を想定した、そのときの

夫のカノジョの応対が

見事すぎて笑える(笑)。

 

いわく

「不幸な人間が3人いた。でも今は1人になった」――

暗に、いやズバリ突き刺す、この冷静な反撃がたまらん(笑)

 

失意の妻の、その後の乗り越え方も

時間はかかったけど、納得はできるもので

 

欧米人の「詩」好きの理由が

初めて、腑に落ちたりもしたのでした。

 

★6/4(金)からキノシネマほか全国順次公開中

「幸せの答え合わせ」公式サイト

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戦火のランナー

2021-06-06 02:34:34 | さ行

決して五輪賞賛映画ではないよ。

 

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「戦火のランナー」71点★★★★

 

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南スーダンの難民として生まれながら

その才能を開花させ、2012年ロンドン五輪でマラソン選手になった

実在ランナーのドキュメンタリーです。

 

1984年、内戦の続くスーダンで生まれた

グオル・マリアル。

自分の村が襲われ、家は燃やされ、

人々が皆殺しにされるような状況のなかで

両親は、8歳の彼を村から逃がした。

 

一時は敵の武装勢力に捕まった彼だけれど

しかしそこから走って逃げ出し、16歳で幸運にもアメリカに渡ることになる。

 

そして異国の地で高校に入学した彼は、

そこで「走る」才能を見出されていき――?という話。

 

本人の出自の壮絶さについては

もちろん言及されるのですが

思ったより、そこはサラッとしてるんです。

(それでも、彼の苦労は十二分に伝わるけどね)

 

アメリカにたどり着くまでの数年の経過が

バッサリ飛んでるあたりに

むしろ、語り尽くせない、つらさをおもんばかってしまった。

 

さらに映画は

その後、異国の地でオリンピック選手へと成長していく彼の

不屈の精神や努力の素晴らしさ――だけでなく

 

 

南スーダンという国の現状

――内戦の末に独立をし、つかの間の平和を得たものの、また内戦が起き、

いまなお混乱が続く――

世界に知らせる、という意図を強く感じる構成で

そこがいいんですね。

 

いま、この状況で「オリンピック」を語ることの

難しさは重々承知の助。

(もちろん、ワシ個人は招致当時から一度も賛成してないし!!

 

さらに、この状況でも来日せなあかん選手たちの

複雑な心中は、察してはいたつもりだったんですが

 

本作を観て改めて

「みんな、それぞれに、想像もできないほど

さまざまな背景を(しかも、ごっつ重く)背負っているのだ――」と

考えさせられました。

 

 

そして映画からはグオル氏の不屈のモチベーションが

間違っても名声などにあるのではなく、

「自分の成功が、祖国の次の世代の道しるべに、希望になれば」

にあることが、よく理解できる。

てか、

その目標にこれほど実感がこもる例を見たことがない。

 

そう、これは、決してオリンピック賞賛映画ではないのです。

 

かえって、こんな思いをしている選手たちを

IOCはどう考えてるのか?!と

怒りも沸いてくる。

 

オリンピックという祭りの意義をも

考えさせられる映画なのでした。

 

★6/5(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「戦火のランナー」公式サイト

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猿楽町で会いましょう

2021-06-04 23:59:25 | さ行

また、新たな才能に出会えて

嬉しいです。

 

「猿楽町で会いましょう」76点★★★★

 

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小山田(金子大地)は駆け出しのカメラマン。

雑誌編集部に売り込みに行くも

編集者の嵩村(前野健太)に

「で、君は何が撮りたいの?」と

ななめ~な感じの視線にさらされ、辛い日々。

 

だが、そんな小山田に嵩村は

撮影を希望しているという、ある読者モデルを紹介する。

 

渋谷で待ち合わせた小山田の前に現れたのは

ユカ(石川瑠華)だった。

一目見たときからユカに「ハッ」とした小山田は

自然な彼女の表情を引き出し、いい写真を撮る。

 

そしてユカに彼氏がいないと聞き出した小山田は

写真チェックを口実に、猿楽町のアパートに彼女を誘うのだが――?!

 

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1979年生まれ、あの林海象監督に師事したという(マジ?いいなあ!w)

児山隆監督の長編デビュー作。

 

東京・渋谷の街で

何者かになりたいと願う

あらゆる若者たちが100億回繰り返してきたであろう、物語。

なのに抗いがたい魅力があるんですよね。

 

チャプター1、2、3で語られる少しトリッキーな構成。

過度にエキセントリックだったりせず、

ごく普通に傷つきやすく、流されやすい

自然な登場人物たちの造形。

 

そして、役者たちが実際に

そのどこかを、自分の経験に重ねているようなたしかな存在感。

 

すべてが結実し

透明にして立体感のある、いい映画でした。

 

カメラマン志望の主人公・金子大地氏もよかったけれど

ベビーフェイスで華奢で、フツーそうな女の子なのに

セクシャルにもなんともいえない魅力を放つ

石川瑠華がとても良い!

 

渋谷区アドレス、猿楽町の小さなアパートからスタートし

カメラマンとして立身出世を夢見る主人公。

地方から上京し、女優を目指すヒロイン。

 

誰もが経験するであろう

「何者かになりたい」情熱と、もがきは

あたかも

遠い昔の自分の青い野望をなぞるようで

(いや、まだ野望あんねんけど?!笑

でも、これは観ながら

痛みよりも、愛おしさが先に立つ。

 

そこが、うまいなあと思いました。

 

同時に思ったのが

若者が、未来を夢見て手がかりにしようとするその手段が

 

「読モ」とか、雑誌のカメラマンとかである時代は

もうすぐ、なくなるかもしれないなあということ。

 

なんだか、(いつも以上に)細~い目で

遠くを見てしまうのでありました。

 

 

★6/4(金)から渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開。

「猿楽町で会いましょう」公式サイト

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