ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

グランド・マスター

2013-05-31 22:17:20 | か行

美しかった。
でも、ワシにはそれだけだった。

「グランド・マスター」60点★★★


**********************

1936年、中国。

北の武術界の宗師(=グランド・マスター)である
パオセン(ワン・チンシアン)は

南との武術界の統一を目指し
南北で試合をし、
自分に勝った“真のグランド・マスター”に後を任せようとする。

パオセンは弟子マーサン(マックス・チャン)を
跡継ぎに指命していたが、

野望を抱くマーサンは
パオセンの怒りに触れ、流派を追われる。

そしてパオセンは
南の武術界が送り込んだ
グランド・マスター=イップ・マン(トニー・レオン)と戦うことに。

その様子をパセオンの娘で武術家のルオメイ(チャン・ツィイー)が
見守っていた――。

**********************


ブルース・リーの師として知られる
伝説の武術家、葉問(イップ・マン)の
知られざる実話を基にした作品です。

ウォン・カーウァイ監督の
「至高の映像美」によるアクションが話題で、


確かに美しかった。

ひとつひとつの動きも技も
トニー・レオンの指先まで神経の行き届いた立ち振舞いも

スーパースローで滴る水滴も

チャン・ツィイーの黒衣に舞い落ちる
雪の結晶の一粒も。

完璧な美学を見るのは
確かに楽しいです。

アクション好き、中国武術の歴史好きには
たまらないのかもしれませんが

フツーの観客(ワシ)にとっては
人間描写にも特に見どころなく

美学の合間に
「ストリートファイター」なバトルが挟まる繰り返し。

重要そうな
この時代の歴史的背景も
イマイチよくわからなかった・・・。

トニー・レオンの眼力に
うっとりはしたんですけどね・・・。


★5/31(金)から全国で公開。

「グランド・マスター」公式サイト
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イノセント・ガーデン

2013-05-29 20:08:57 | あ行

パク・チャヌク監督が
ニコール・キッドマンとミア・ワシコウスカを料理するなんて
期待度MAX!

「イノセント・ガーデン」69点★★★★


*************************


孤独な18歳のインディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)は
誕生日に父を事故で亡くしてしまう。

葬儀の日、
未亡人になった母(ニコール・キッドマン)とインディアの前に
長年行方不明だった
叔父のチャーリー(マシュー・グード)が現れる。

どこか怪しい叔父の振るまいに
敏感なインディアは不審を抱くのだが

叔父を気に入った母は
聞く耳を持たない――。


*************************


「オールド・ボーイ」パク・チャヌク監督×
「ブラック・スワン」のスタッフによるミステリー。

そりゃ、期待値高いのは当然ってものです。


で、結果はですねえ・・・

デティールに凝った映像で
視覚的にはめちゃくちゃ楽しめるのだけど、

ミステリアスに盛り上げるはずの
肝心の話が
なんてことなさすぎて残念すぎる。

脚本は
「プリズン・ブレイク」の主演で有名な
あのウェントワース・ミラー。

正体を明かさずにこの脚本を書き、
評価されたっていうのはスゴイんだけど

けっこう、ダークな人だったのね・・・(笑)
それに、あんまり深くはないよね・・・(苦笑)
と、初脚本作らしく
もう少しブラッシュアップが必要そうな感じでした。

ただ、パク・チャヌクの
怪しい「まやかし」のような映像を楽しむのには十分。

壁に飛び散った血がシュワシュワと音をたてるシーンとか
もう悪趣味と紙一重で(苦笑)

あのミア・ワシコウスカを黒髪の陰気な娘に仕立てあげ
(不機嫌で、とにかく無愛想。
学校でいじめられる「キャリー」みたいなシーンもある!笑)

さらにニコール・キッドマンをもてあそぶなんて、

最高のお膳立てをされて、
ホントに楽しかったんだろうなアと。

エンドロールもなんか
“トンガリ”感バリバリで、それはそれで
なんかいいじゃん、と。

ちなみにワシは
最初のチラシの雰囲気が好きす。



★5/31(金)から全国で公開。

「イノセント・ガーデン」公式サイト
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オブリビオン

2013-05-27 23:43:36 | あ行

twitterで
「SFって言うな(ウケが悪くてヒットしないから)」とか
映画会社が言ってるとかいうつぶやきみたけど

なんで?
いいSF、最高じゃん?


「オブリビオン」73点★★★★


**********************

2077年の未来。

地球はエイリアンの侵略を受け、
戦いには勝ったものの、土壌は汚染され壊滅。

生き残った人類は、ほかの惑星に移住している。

そんななか
地球をパトロールするため
ジャック(トム・クルーズ)と妻(アンドレア・ライズブロー)は
唯一、地球に残って仕事をする日々。

そんなある日、
パトロール中のジャックは
地上に墜落した宇宙船を発見する。

そのなかには
なぜか見覚えのある美女(オルガ・キュリレンコ)が眠っていた――。

**********************


ワシ好みの古典派&切ない系SFで
想像以上によかった。

いろんな過去SFの要素が入ってはいるんだけど、
うまく消化し、きれいにまとめている。

大きな舞台装置に、きちんと魂が入ってる感じしましたね。


舞台となるのは
大きな戦いのあと、静かに荒廃する地球。
「ナウシカ」のような、暗示的でもある未来。

そのなかで
徹底的にクリーンで無味乾燥な未来住宅で、日々を過ごす主人公たち。

白物家電のようなスッキリした綺麗さが
独特の世界をまとっていて
すごく印象に残ります。

シチュエーションが
ピクサーアニメの「ウォーリー」に似てるよな、とか

そこに大友克洋のマンガそっくりの
ポット型無人兵器が登場したり、

もうとにかくいい意味で
いろんな
「おっ」に包まれるんですよ。

そして主人公の信じていた世界が逆転する事実が明らかになり、
さらに主軸となるのは、ラブストーリーだという。


ちょっとネタバレかもしれないけど
SFへの思いや精神性も含め、

ダンカン・ジョーンズ監督の「月に囚われた男」を
潤沢な予算を使って作った感じ、という印象が
すっごくしました。もちろんいい意味でね。

いつも熱いトム・クルーズも
ここではCOOLな印象でしたねえ。


大仰なディザスター系&終末系が好きな番長ですが
そうしたテイストにさらに、こういう魂が入ってるSFを
もっともっと望んでいます、ハイ。


★5/31(金)から全国で公開。

「オブリビオン」公式サイト
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

セレステ∞ジェシー

2013-05-24 23:57:37 | さ行

これはね
漫画『にこたま』じゃん!とワシは思いましたよ。


映画「セレステ∞ジェシー」69点★★★☆


***********************

セレステ(ラシダ・ジョーンズ)と
ジェシー(アンディ・サムバーグ)は
高校時代からのつきあいを経て、結婚したカップル。

あうんの呼吸で、ノリツッコミもバッチリ。
周囲をあきれさせるほどの名コンビ・・・

なのだが

実は二人はけっこう前から、
離婚を前提に別居していた。

ビミョーにつかず離れず、
保たれていた二人の関係だが、

しかし、ある事件で事態は一転することに・・・!

***********************

離婚前提で別居しながらも、
相性のよさも、おふざけ合いの呼吸もピッタリなカップル。

しかし彼と別の女性に「子ども」ができて
事態は一変・・・という
実に、いまどきありそうな友達夫婦の設定とテーマに

「おお、どこの国でも同じやん!」と
うめき声が漏れました(笑)

ジェシーより早く仕事で成功したセレステの隠れた優越感と、
それに甘んじつつ負い目のあったジェシーの心理とか、

なんか・・・あるよねそういうの。

それに映画の雰囲気は終始明るく、
セレステのキャラの洞察が深く、共感できるのもいい。

スタバで注文を待ってるときに
列に割り込む人に注意せずに気がすまない“正しさ”は
実はごう慢さの裏返しでもあり、

「あなたは人より賢いと思ってるところがダメ」と
若い娘にダメ出しされるところとか
痛いとこついてる、ついてる(笑)

ヨガなどヘルシーな生活を送りつつ、
ヤケになるとすぐジャンクフードに走る
人間臭さもいい(笑)

と、なかなか魅力あるヒロインなんですが、

映画全体として、もうひとつ、
なんか物足りないのが惜しい。

十分、楽しめますけどね。


★5/25(土)から渋谷シネクイントほか全国で公開。

「セレステ∞ジェシー」公式サイト
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

三姉妹~雲南の子

2013-05-23 23:16:25 | さ行

開始1時間で席を立った人、もったいなかった。
そこからが、おもしろかったのですよ。


************************


「三姉妹~雲南の子」70点★★★★


************************


「無言歌」のワン・ビン監督が
中国・雲南地方に暮らす幼い三姉妹を
ひたすら映した153分のドキュメンタリー。


標高3200メートル、
常にガスっていて、岩だらけの過酷な環境で
母親おらず、父親も出稼ぎでおらず
三人だけで生きる10歳、6歳、4歳の姉妹。

カメラは彼女たちに話しかけるわけでもなく、
ひたすら無言で、まっすぐに、その姿を映し出す。

冒頭、10歳の長女がブツブツ言いながら
妹たちの面倒をみるシーンなんて
完全に中年のおかんそのもので(苦笑)

なんだか哀れを感じてしまうが、
本人たちにそんな気持ちはまったくないだろう。

過酷ななかで、しかし“それを普通に”暮らす彼女たちの暮らしぶりは
最初こそ興味深いのだが

さすがに賑やかなガキんちょたちの日常を
延々と観るのは苦痛でもあり

ここで退席した年配の男性もいて、
気持ちがわかる気がすごくしました。

が、しかし、
実はこの後からがおもしろかったんですねえ。


出稼ぎからいったん戻ってきた父が
妹2人を連れて、また出稼ぎに出てしまう。

10歳の長女インインが一人残されてからが
俄然おもしろいんですわ。

近くに住む祖父や叔母が、最低限の様子こそ見てはいるものの
そうそう甘くなく、

インインの
小学校でも、親戚の集まりでも
誰とも交わろうとしない孤高さが
凜として、観る人の目をそらさせない。

その運命を受け入れたおかん顔は
中国版ジェニファー・ローレンスにも見えました。

その後、また「え・・・」という展開が待っているのだけど、
そうなっても
彼女の孤独は増すばかりなのである。

がんばれ、インイン!


それにしても。
風がびゅうびゅうと吹き付ける過酷な環境は
「ニーチェの馬」といい、
どうしても、我々の未来の暗示のように
思わずにはいられないワシなのでした。


★5/25(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「三姉妹~雲南の子」公式サイト
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする