ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

Our Friend/アワー・フレンド

2021-10-17 03:00:17 | あ行

決してお涙話じゃないんだけど、うっ、とくる・・・(泣)

 

「Our Friend/アワー・フレンド」78点★★★★

 

**************************************

 

ジャーナリストのマット(ケイシー・アフレック)と

舞台女優の妻ニコル(ダコタ・ジョンソン)は

まだ幼い2人の娘を育てる夫婦。

 

そんなある日、ニコルが末期がんの宣告を受けたことで

一家の暮らしは一変する。

 

マットが妻の介護と子どもたちの世話に

押しつぶされそうになっていたそのとき

手を差し伸べたのは

二人の共通の友人であるデイン(ジェイソン・シーゲル)だった――。

 

**************************************

 

妻の病気をきっかけに、

その夫と、夫婦共通の友人である男性の人生が交差するお話。

 

パッと聞いて

「ちょっといい話すぎね?」くらいに

最初は思ったのですが、

 

泣いた・・・(苦笑)。

 

しかも、あるジャーナリストのエッセーをもとにした実話だそうで

泣けた・・・(笑)

 

でも、決して「病気で亡くなる妻の涙、涙の物語」じゃないんですよ。

乱暴に言えば、病気は、ひとつのきっかけでしかない。

 

全体に、どこか

少し俯瞰したような死との向き合い方があって

味わったことのない領域へと、

さりげなく、自然に導いてくれるんです。

 

 

主人公はまだ若い夫婦、マットとニコル。

妻ニコルが、突然の余命宣告を受け、

それを知った夫婦共通の友人・デインがヘルプにやってくる。

 

住み込みで、夫婦と子どもたちのケアをし

一家に溶け込んでいくデイン。

 

一見、献身的な友情!って思えるし、それは間違ってはいないんだけど

実はデインにとってそれは

完全な「献身」だけではなく

自身の問題(仕事や恋愛など)から

一種、逃げる口実にもなっていた、ということが明かされていく。

 

同時にニコルとマットの夫婦も

出会ったころの激情を経て

最近はちょっとしたズレを生じさせていたことが  

わかっていったり。

 

ひとつの「死」という試練を前に

3人の男女がそれぞれの人生を振り返り、

あるときはズーンと落ち込み、のろのろと起き出し、

少しずつ踏みだし、去っていくのです。

 

登場人物の些細なリアクションにも、起こる出来事にも

ラフでざっくりとしつつ

計算されつくした技があって。

 

映画全部から

この世を去るあらゆるものへの、感謝と讃辞を感じました。

 

 

ケイシー・アフレックも、ダコタ・ジョンソンもいいけど

デイン役のジェイソン・シーゲルがめっちゃいい。

角度によって、ビミョーにライアン・ゴズリング入ってるようで

でもいい感じに三枚目にもなるんだよなー。

 

★10/15(金)から新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「Our Friend/アワー・フレンド」公式サイト

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アイダよ、何処へ?

2021-09-19 01:26:47 | あ行

「サラエボの花」(06年)「サラエボ、希望の街角」(10年)

ヤスミラ・ジュバニッチ監督の新作です。

 

「アイダよ、何処へ?」72点★★★★

 

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1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争。

セルビア人勢力に包囲されたボスニアの町・スレブレニツァは

国連によって、攻撃してはならない「安全地帯」とされ

国際保護軍のオランダ軍も派遣されていた。

 

だが、1995年7月。

スレブレニツァを包囲した

セルビア人勢力のトップ、ラトコ・ムラディッチ将軍は

市長以下、住民もあっさり「殺れ」と命令を下す。

 

命の危機に、2万人を超える市民が

国連の施設に押し寄せてきた。

 

現場は国連本部に応援を頼むが

全然話は進まず、助けがこない。

 

国連の通訳として働くアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は

市民たちを助けるべく奔走しながらも

夫や二人の息子が心配でならない。

 

そんななかセルビア軍が

「バスで市民を移送する」と言い出し――?!

 

*************************************

 

 

これまでも一貫してボスニア紛争の悲劇を描いてきた

ヤスミラ監督の最新作。

 

ボスニア紛争末期の1995年7月、

約8000人ものボシュニャク人(イスラム教徒)が、敵対するセルビア人勢力に殺害された

「スレブレニツァの虐殺」を

そのただ中にいる女性アイダの視線で描き

 

極限の状況がスリリングにサスペンスフルに描写され

高い評価を受けています。

 

まず1995年って、ホントに、つい最近ですよ?っていうのがショック。

ボスニア紛争については、少しはかじってきたつもりでしたが

この虐殺については知らなかった。

 

しかも

その場所には国連によって「安全地帯」が作られ

国連保護軍であるオランダ軍も駐留していた。

なのに

助けてくれると思った国連がまったくダメ――というこの絶望感。

そして、こんな惨劇が起きていたなんて――

 

 

町が包囲され

恐怖のあまり、国連施設に逃げてくる市民たち。

しかし、あまりの多さにまず施設には入りきれない。

 

現場は国連本部に援軍や物資補給を頼むのだけど、

どうにもまったくスムーズにいかない――という

もうギシギシと歯ぎしりしたくなる苛立ちと

恐怖のただなかに、身を置かれる。

 

そのなかで

国連の通訳として、懸命に住民を助け、働いていたアイダ。

 

そんな彼女が、ヤバくなっていく状況で

「せめて、自分の家族だけでも・・・・・・」と次第に利己的になっていく。

裏の手で夫と二人の息子を施設に招き入れ、

なんとか"特権”で彼らを逃がそうとする。

 

決して「ヒーロー」だけではない彼女の行動に

実際、複雑な気分にもなるんです。

 

が、しかし

いや、そうならざるを得ない状況こそがおかしいのであって。

 

そんなアイダの生身の人間っぷりこそが

常識を逸した現実を、その理不尽を写しているんだと。

 

そして

他国が他国を助けようとしても

こうもうまく機能するのが難しいのか・・・・・・と

その状況をリアルに知らしめたことも、本作の大きな意義だと思います。

 

国連施設に押し寄せる市民たちの姿は

まさにいまタリバン復権下のアフガニスタンで

空港に押し寄せた人々にも重なってつらい。

 

轍を踏まず、国際社会がうまく機能するすべはないのか?

重い問いが残るのでありました。

 

★9/17(金)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「アイダよ、何処へ?」公式サイト

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アナザーラウンド

2021-09-04 21:42:15 | あ行

ステイホームで酒量が増えていませんか?

ちょっとアイタタタ・・・・・・かもしれません

 

「アナザーラウンド」73点★★★★

 

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デンマークの高校に務めるマーティン(マッツ・ミケルセン)は

どうにも冴えない教師。

 

教えることに飽きてしまったのか

はたまた中年クライシスなのか

授業は支離滅裂で、

生徒や親たちに呼び出され

「先生の授業では進学できない」と直訴される始末。

 

そんな彼は、あるとき同僚の教師から

「人間は血中アルコール濃度を常に0.05%に保つのが理想。

さすれば活力がみなぎり、能力が発揮できる」という

ある学者の理論を聞き

仲間と4人で、その実験をすることになる。

 

すると、たしかにヤル気が湧いてきて

生徒たちを惹きつける魅力的な授業ができるのだが――?!

 

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第93回アカデミー賞®国際長編映画賞受賞作。

「偽りなき者」(12年)も素晴らしかった

トマス・ヴィンダーベア監督×マッツ・ミケルセンのタッグです。

 

飲酒にまつわるこの手の話は

かなりシャレにならないので

よくこの題材を描こうと思ったなと感じましたが

さすがヴィンダーベア監督、

ちゃんと伝えるべきことがあり

シャレにならん、では終わらないので

ホッとしました。

 

で、アルコール人体実験に取り組んだマーティン先生(マッツ・ミケルセン)は

ノリもよく、人当たりも堂々し、

生徒たちを魅了する授業をしていく。

倦怠気味だった奧さんともうまくいっちゃったり

たしかに、学術論文どおり「仕事もプライベートも良好」。

 

ほかの先生も同様にキラキラしていく。

 

酒飲みは往々にして、お酒を飲まない方から

「なんで、お酒なんて飲むの?」

「いやなことから逃避してるんでしょ

と言われた(怒られた)苦い経験があると思うのですが(苦笑)

いや、こういう効能は確かにあるんですよね。

 

でも、だからこそ飲めてしまう人は

どこをリミットにするかが難しい。

そこが、やっかいなところでもあって

 

4人の実験を見ながら

自制と開放のバランスの難しさをヒシヒシと感じました。

まさに、体を張って実験していただいた感じ。

 

それにまず冒頭、高校生たちがビール祭りで大騒ぎ!な場面が出てきて

「え??」と思いますが

デンマークでは飲酒に関する年齢制限がなく

ビールやワインは16歳から店でも買えるそう。

なるほど

そういうことか、と。

 

なので、飲酒に歯止めがかからなくなっていくマーティンに

奥さんが言う

「この国の人たちはみんな飲んだくれてるものね」がまた痛いんですね。

ヴィンダーベア監督が、言いたいことのひとつもそこかなあと。

 

そして、ラストまでいくと

どうしようもない顛末の裏に

達成感に乏しく、評価もされず、疲弊し、摩耗してゆく

「教師」という仕事の大変さと

やれどもやれども、な無力感がずしりとのしかかる。

 

そしてそれは、教師の仕事に限ったことじゃないわけで。

 

それでも最後には

教師という仕事は

若者の心に何かを残すことが出来るのだ――という希望がある。

 

あなたの仕事も、人生もそうかもしれない。

あらゆる中年にむけて

誇りを持て!ということなんだとも思います。

 

そして主演のマッツ・ミケルセン。

かなりくたびれたおやじっぷりで、また新たな顔を見せてくれるし

それにダンスが、すごい!

 

実はマーサ・グレアムのもとでダンスを学び、

演劇学校に入る31歳まで

プロのダンサーとして活動していたそうな。

すご!

 

★9/3(金)から新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国で公開。

「アナザーラウンド」公式サイト

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イン・ザ・ハイツ

2021-08-01 01:30:55 | あ行

最高にアガる!ミュージカル!

 

「イン・ザ・ハイツ」78点★★★★

 

************************************

 

ニューヨーク市マンハッタン北部に位置する

ワシントン・ハイツ。

 

移民が多く暮らすこの街で育った

ウスナビ(アンソニー・ラモス)は

 

両親が残した食料雑貨店を継ぎ

日々を忙しく過ごしているものの

心のどこかで

「故郷プエルトリコに帰って、次の人生のステップを踏み出したい」と考えている。

 

そんなある日、頭脳明晰で名門大に進学し

「街一番の出世頭」と評判だった

ニーナ(レスリー・グレイス)が

ふらりと街に帰ってくる。

 

ニーナに恋していた

ウスナビの友人ベニー(コーリー・ホーキンズ)は

心中穏やかでない。  

 

そしてウスナビもまた

デザイナーを夢見る魅力的なバネッサ(メリッサ・バレラ)に

微妙なアプローチを試みるのだが――?!

 

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大ヒット作「クレイジー・リッチ!」のジョン・M・チュウ監督が

傑作ブロードウェイ・ミュージカルを映画化。

 

いや~

音楽もダンスもすべてが全力!

最高に気持ちよく

いまの閉塞感を

グワッと吹き飛ばしてくれるミュージカルです。

 

ガチなミュージカルファンでないワシも

まず夢中になったのが、音楽。

 

カリビアン×ヒップホップ、サルサにポップス、R&Bと

あらゆるジャンルがうまく使われていて

ここまで音楽すべてがよいミュージカルも珍しいのでは?と思った。

 

劇中のセリフと音楽が溶け合う部分を

ラップが絶妙につないでくれて

「あれ?歌い出したよ?」的な違和感がうすい。

 

加えて

水しぶきもパワフルなプールの群衆ダンスシーンや

街での群衆ダンスシーンなど

とにかく

高揚感とパッションがすごい。

スクリーンから汗と蒸気がたちのぼるような感じで

こちらも熱くなりました。

 

ジョン・M・チュウ監督の

ベタなほどの盛り上げがまた爽快で(笑)

かつ、自身の”移民”たるルーツも

しかと根にあるんですよね。

 

主演のウスナビ役、アンソニー・ラモスも自身がプエルトリコ系で

ニューヨークに暮らす移民の現状が

とにかくリアルだし

 

それに

貧しさに埋もれる”地元”から

外へ飛び出すのか、ここに留まるのか――

若者たちが悩む、という展開は

世界じゅうの誰もに共感できるものだと思う。

 

特に街の出世頭、エリートとして期待されて大学へ進んだものの

社会の荒波に苦戦するニーナのもがきが

胸にせまります。

 

137分ちょっとの長尺も

エンディング近くのトリッキーな映像の遊びなど

所々にスパイスを効かせて

あっという間に感じた。

 

そうそう

本作のオリジナルを自作&主演した

リン=マニュエル・ミランダも、本作に顔を出してます。

ヒントは――

「かき氷屋さん」!(って、全然クイズになってねぇ!笑)

 

★7/30(金)から全国で公開中。

「イン・ザ・ハイツ」公式サイト

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いとみち

2021-06-26 23:10:25 | あ行

うん、これは快作!

 

「いとみち」76点★★★★

 

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青森県弘前市の高校生いと(駒井蓮)は

この世代には珍しい「ド・津軽弁」を話す女子。

 

密かにクラスメイトの早苗(ジョナゴールド)と

話してみたいと思っているが

人見知りゆえ、なかなかきっかけがつかめない。

 

いとの父(豊川悦司)は津軽弁を研究する学者で

いとが幼いころ亡くなった母は、津軽三味線の名手でもあった。

いともまた、祖母(西川洋子)の手ほどきで

三味線コンクールで入賞する腕前だが

最近は、三味線にも身が入らない。

 

「自分は何がしたいんだろう」――

 

悶々としていたある日、

いとがスマホで見つけたのは

「メイドカフェ」の求人。

 

え?いっちょ、やってみる?と

面接に向かうのだが――?!

 

***********************************

 

おもしろかった!予想外によかった!

正直な感想す(笑)

 

1978年、青森県青森市生まれの

横浜聡子監督作品。

 

自身のルーツたる青森を舞台に

そこに暮らす高校生の「自分探し」を描き、

 

テーマはオーソドックスながらも

新しい「ローカル」への視点を持つ

快作だと感じました。

 

冒頭からして

津軽三味線が得意なヒロイン・いとが話すのが

集中して聞いていないとまったく理解できない津軽弁ってとこが衝撃。

 

でも全然おかまいなしに、

いや、むしろ理解を振り切って

ドカドカと話が進むところが好きだ(笑)

 

それはつまり

「地方< 都会」という、なんとなくの固定観念の方程式を

パスッと蹴っ飛ばし、

「標準」におもねらない視線を

ごく自然に、提示してくれているんだと思うんですよね。

(方言でSiriできるんだ!というシーンもびっくらこいた。いいねえ。笑)

 

 

若くして亡くなった妻の実家で暮らす

父と娘、妻側の祖母というやや複雑な環境も

サラッと自然に、居心地よさそうだし

 

そもそも

いとが「ピン!」とくるバイトが

なんでメイドカフェ?(笑)とかあるんですが

そこもフツーに納得させられてしまう。

 

で、

バイト先となるメイドカフェには

シングルマザーとしてがんばる先輩とか

漫画家デビューと東京行きを目指す同僚とか

東京からUターンした店長とか

それぞれの人生を背負ってきた人々がいて

 

いとは

そこでの出会いや、人との関わりを経て、

自身の家族と向き合い、

成長していくんです。

 

シングルマザーやジェンダー問題、格差や貧困――

あらゆる現代を背景にしつつ、

しかし

押しつけがましい「いい話」にするわけでなく、

 

狭い世界にいた高校生が、一歩を踏み出し

社会との接点=バイト先でさまざまを知る過程、

 

それが

10代にとって得難い宝になってく様子が

気取らない筆致でユーモアを交えて描かれていて

いいなあと。

 

 

青森県平川市出身で

雑誌『ニコラ』の専属モデルを経て、俳優デビューしたという

いと役、駒井蓮さんも光ってるし

父親役・豊川悦司さんが抜群の存在感。

 

いろいろを考えさせれながら、

ヒロイン、そして若い世代を応援したくなるのでした。

 

――けっぱれ!

 

★6/18(金)から青森先行公開、6/25(金)から全国公開。

「いとみち」公式サイト

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