ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

エジソンズ・ゲーム

2020-06-20 01:43:51 | あ行

偏屈な天才理系キャラは

やっぱりカンバーバッチのはまり役。

 

「エジソンズ・ゲーム」69点★★★★

 

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1880年のアメリカ。

蒸気機関車が最先端で

明かりはまだ、ランプだった時代。

 

真っ暗な草原に、集まった人々の前で

電球が次々とついていく。

 

驚きのプレゼンテーションをしたのは

トーマス・エジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)。

 

天才発明家として知られていた彼は

「これからは電気の時代だ!」と高らかに宣言する。

 

そして1882年。

電気でアメリカ中を照らそうとするエジソンの前に

裕福な実業家ジョージ・ウェスティングハウス(マイケル・シャノン)が立ちはだかる。

 

ウェスティングハウスは大量の発電機が必要な

エジソンの「直流」方式の送電法よりも

発電機一台で遠くまで電気を送ることができ

より安全な「交流」方式のほうが優れていると考えていた。

 

ウェスティングハウスは

やはり「交流」のほうが効率的だとする

発明家ニコラ・テスラ(ニコラス・ホルト)を引き入れ

エジソンに対峙する。

 

こうして全米を巻き込む「直流か」「交流か」の

電流戦争が幕を開けた!

 

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ゲーム、というタイトルから

推理炸裂&頭脳バトル、なイメージを勝手に描いてたんですが

 

意外にマジメな伝記物、でした。

 

いまとなっては当たり前の「電気」をめぐって

こんなバトルがあったんだ!という驚きもあったけど

なにより

誰もが名前は知ってるあのエジソンが

こういう人だったのか!を知ったのが

とてもおもしろかった。

 

カンバーバッチもインタビューで同じことを言ってたので

誰にとっても、やっぱりそうなのでしょう。

 

脚本家はものすごーくリサーチをしたそうで、かなり史実らしい。

エジソンという人は

お金には興味なかったけど、

名声、というか、「誰が最初にやるか」みたいなことには

すごーくこだわりを持つ人だったとか、

 

「ひらめいた!」となんでもかんでも発明する、というより

いろんな人のアイデアや才能を

うまくまとめて、形にする、という能力にも長けていたことがわかる。

 

 

そんな偏屈な天才理系キャラに

やっぱりカンバーバッチはぴたりとハマるなあと

思いました。

 

エジソンと対峙する側となる

美形の天才発明家テスラ(ニコラス・ホルト)や

気難しいエジソンと秘書(トム・ホランド)とのバディぶりなど

萌ポイントもたっぷりw

 

「闇」を美しく魅せ、意識させるシーンが多く

いまとなっては当たり前の電気のありがたみを

再確認しました。

 

ただ正直、もうちょっと

ドラマの見せ方がうまいとよかったなあという感じ。

 

でもね、この映画も

またいろいろいわくがあって

あのハーヴェイ・ワインスタインが監督に再三要求を出してグネグネにした結果、

セクハラ問題でいなくなり

 

監督はボロボロになり、全米公開は延期。

 

公式サイトに「日本公開の上映バージョンについて」というインフォがあるのは

この公開作が、ワインスタインの圧がのしかかった版ではなく

監督がそののちに再編した「ディレクターズカット版」なんです、ということを

意味しているのですね。

 

ここにも「闇」があったのかと

思うのでありました。

 

★6/19(金)からTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開。

「エジソンズ・ゲーム」公式サイト

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アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい

2020-06-14 02:27:43 | あ行

「気狂いピエロ」、鮮烈だったなあ!

 

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「アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい」70点★★★★

 

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2019年12月に79歳で亡くなった、ヌーヴェルヴァーグのアイコン、

アンナ・カリーナのドキュメンタリーです。

 

その人生を、晩年の恋人だった監督が振り返る、という形式で

うん、作品全体がラブレター、というのはよくわかる。

 

さて、アンナ・カリーナ、

もちろんゴダールの「気狂いピエロ」などで

知ってはいたけれど

その出自がこんなにドラマチックだとは知らなかった。

 

1940年、ナチスドイツ占領下に生まれた彼女。

 

その生まれた状況もすごいですが

その後、デンマークから一人パリに飛び出し、

あのココ・シャネル、に見いだされ、

モデルとして花開いた。

 

そしてその後、ゴダールやアニエス・ヴェルダ監督、

セルジュ・ゲンスブールにヴィスコンティなどと仕事し、

時代のミューズ、アイコンになっていく。

 

そのサクセスストーリーにも驚くんですが

そこからさらに彼女は、監督業や作家業にも挑戦し

歳を重ねてからも舞台、歌に活躍し

70代になっても、メディアにも惜しみなく登場している。

相変わらずの美とオーラに驚きつつ

 

常に挑戦を続けた女性なんだ!と知り、

改めて尊敬しました。

 

そして

晩年、おそらく70代後半であろう彼女が

若い頃の自分をスクリーンで観るシーンが何度も出てくるのですが

 

若き日の自分を観るその目に、

少しの躊躇も、焦燥もない。

本気で愛おしそうなまなざしであることに

感じ入るものがありました。

 

常に現在進行形で、真剣に人生に向き合い続けた人にとって、

これまでの歩みに、悔いなどみじんもないんだ、と。

 

ましてや過去の栄光や、若さへの執着、

それに老いの不安だってこれっぽちもないのよ、とその姿は語っているようで

なんて、すごいんだろう!と。

 

この映画、劇中に登場する過去映像の著作権の関係から

本来日本では上映できないそうで

今年限りの、特別公開だそう。

 

見逃してはなりませぬ。

 

★6/13(土)から新宿K's cinemaほかで公開

「アンナ・カリーナ 君はおぼえているかい」公式サイト

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お名前はアドルフ?

2020-06-05 23:55:31 | あ行

いまや、ドイツは世界の羨望の的。

あ~メルケルさん、日本に貸してくれないかなあ。

 

 

「お名前はアドルフ?」70点★★★★

 

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エリザベート(カロリーネ・ペータース)は

夫で哲学者のスティファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)と

自宅でのディナーの支度の真っ最中。

 

ディナーには

もうすぐパパになる、エリザベスのイケメンな弟トーマス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)と、

彼の妊娠中のパートナー(ヤニーナ・ウーゼ)、

さらに

エリザベスの幼なじみの友人レネ(ユストゥス・フォン・ドホナーニ)が招かれている。

 

が、少し早くきた弟トーマスが

思わぬことを言い出した。

 

「生まれてくる子の名前は、アドルフにする」

 

――――はい?! アドルフ・ヒトラーと同じ名前を

自分の子どもにつける? 正気か?!

 

一同はすったもんだの大騒ぎになるが――――?!

 

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あの、アドルフ・ヒトラーと同じ名前を、自分の子につける?

おまえ、頭、沸いとんのか?!

――――という名前を巡る騒動を発端にした

ドイツ発のシニカルコメディ。

 

もともとフランスのヒット舞台劇だったものを

プロデューサーや監督が「これをドイツでやらんでどうする!」と

映画化したそうです。

まずは、その心意気が、いいね!

 

で、映画は

イタリア映画「おとなの事情」(17年)にも通じるような

ある日のディナーを90分の映画にした

ワンシュチュエーションの会話劇で

 

アドルフ、という名前を巡る討論から、

次第に身内同士の(やや下世話な。笑)本音バトル、

さらに、「ええ?そうだったの?」な

大告白大会になっていく、という展開。

 

想像よりも「アドルフ」うんぬんはメインテーマにあらず、

それにどう反応するか?から暴かれていく

人間の「本音」に焦点があたっている。

 

なので

政治的な討論、とかではなくて

話が、どこにでもある身内ネタや内輪もめになっていくのが

意外でもあり、なるほどなーと思いました。

 

それでも

騒動の発端となる「アドルフ」に

ドイツの「傷」を思うのはたしか。

 

でもドイツはそれに向き合い、しっかり謝罪もし、

原発廃炉、難民の寛容な受け入れ――――と、前を向いて国作りを進めてきた。

 

ネオナチや難民排除の空気があったけれど

しかし、今回の"コロナ神対応”で

いまドイツ株は急上昇!

 

この映画を観ながら

ドイツの人々が、歴史を噛みしめ、乗り越えんとしている様をリアルに感じ、

そこで体得してきた成熟度をうらやましく思う・・・・・・のは

ワシだけではないはずです。

 

コロナ禍に、より、いろいろを思わせる映画でございました。

 

★6/6(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「お名前はアドルフ?」公式サイト

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アンティークの祝祭

2020-04-24 23:34:52 | あ行

このご時世、断捨離をしてる方も多いのでは?

カトリーヌ・ドヌーヴ様の断捨離は、こんな感じです(笑)

 

「アンティークの祝祭」69点★★★★

 

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フランスの、とある村の

大邸宅で一人暮らすクレール(カトリーヌ・ドヌーヴ)。

 

最近、意識がとんだり、記憶があいまいになったりする彼女は

ある夜、ふと悟る。

「今日が、私の最期の日だ」。

 

その翌朝。

彼女は長年かけて集めてきたコレクション

――からくり人形や時計、絵画や、高価な家具などなどを

ガレージセールで処分することにする。

 

見事な品々に、近隣の人々が集まり

セールは大盛況。

 

そんななか、疎遠になっていた娘(キアラ・マストロヤンニ)が

母の奇行を聞き、20年ぶりに、屋敷を訪れるのだが――?!

 

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死期を予感したマダム(カトリーヌ・ドヌーヴ)が

アンティークを処分しながら

現在と過去を行き交う、という物語。

 

なんといっても

是枝監督の「真実」(19年)も記憶に新しい

御年76歳・フランスの至宝、とされるカトリーヌ・ドヌーヴと

娘役を演じる、実の娘であるキアラ・マストロヤンニの

リアル母娘の共演、

そして

美麗なるアンティークの数々が見どころ、な映画です。

 

ドヌーヴ演じるマダムは、やや記憶に混乱が見られ

(そこそこ進んだアルツハイマーだと思われます)

けっこう「老け」をそのまま出していて

その潔さが、また美しいんですが

 

映画は、そんな彼女の頭のなかをさまようように、

現在なのか過去なのか、

夢かうつつか、その境界が曖昧に、交錯して描かれ、

どこかマジカルな雰囲気がある。

 

時間軸の行き来によって、次第に明かになるのが

夫との亀裂や、息子の死――など

家族の悲しい過去なんですね。

 

それゆえに孤独になったヒロインの悲哀、

そして

実の娘キアラ・マストロヤンニとの間にあるギクシャクした空気などは

果たして演技なのか?というほどに

リアルです(苦笑)

 

時間軸や夢が入り交じるマジカル感に

入り込めない方もいるかもしれない・・・・・・と思うのですが

ある意味、これは

「ゴースト」映画として観るのがいいのかもしれない。

ドヌーヴがもうそこにいなくて

過去を振り返ってる、みたいな感覚です。

 

それにラストはけっこう「あ!」という感じ。

 

 

監督は「やさしい嘘」(03年)や

シャーロット・ゲンズブール主演の「パパの木」(10年。これ、いい映画!)

さらにドキュメンタリー「バベルの学校」(13年。これもいい!)

ジュリー・ベルトゥチェリ。

 

なかなか仕掛けてくるな、と思いました。

 

それにしても。

ドヌーヴが断捨離したコレクションを大放出する

あのガレージセールはマジで宝の山っぽく

ちょっとしたイスやカゴとか、超・いい感じで

ぜひ立ち会いたい!と思ってしまった。

 

ぜんっぜん断捨離、できない煩悩のかたまりとしては(苦笑)

あの一品一品を

目キキに解説してもらえれば、なお面白さ倍増な気がいたしました。

 

★近日公開。

「アンティークの祝祭」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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一度も撃ってません

2020-04-21 23:18:51 | あ行

阪本順治監督。しびれた!(笑)

 

「一度も撃ってません」79点★★★★

 

 

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夜の街で、怪しく目を光らせる

トレンチコートに中折れ帽の男(石橋蓮司)。

 

紫煙たなびく地下のバーで

旧友(岸部一徳、桃井かおり)らと夜な夜な酒を交わし、情報交換をする彼は

 

御年74歳。伝説のヒットマン――だ。

が、実は「一度も撃ってない」。

 

いったい、彼の正体は――?!

 

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「半世界」(19年)も素晴らしかった

阪本順治監督の新作。

 

「大鹿村騒動記」(11年)を彷彿とさせる

おもしろさでした。

 

期待以上にムード満点のハードボイルドで

大人たちの宵&遊び、といった洒脱さがたまらない。

 

 

伝説のヒットマンなのに、

実は「一度も撃ってません」な主人公。

そのシチュエーションだけで、笑いの導火線――!って感じですがw

主人公・石橋蓮司氏が

想像を超えて、おかしいんです(笑)

 

ヒットマンといいつつ、その正体は

まあ一介のミステリー作家なわけですが

 

まず、彼のなんとも几帳面な生活感が、最高w

 

妻が出かけたあとに、洗濯物を干すとき、

下着のまわりをしっかりタオルで囲う、その細かさにしびれた!(笑)

(そして妻役・大楠道代さんがものすごくよい!

 

さらに次々と登場する達者なキャストたちの妙。

 

学生運動時代からの友人役、岸部一徳氏に桃井かおり氏。

実生活でも同時代を生きた「同志」であろう彼らが

煙が薫るバーで醸し出す

あうんの呼吸と、転がる会話。

終わらない「宵」の感じが、本当に楽しげでうらやましい。

 

 

悠々と愉しむオトナたちの一方で、

いまいち影の薄い、少し下の世代の編集者(佐藤浩市)の

存在の巧みさ。

 

そして、さらに下の世代で、酒もタバコもNO!で

「働き方改革」世代の編集者(寛一郎=佐藤浩市さんの息子さんですよ!)が

「現代の狭さ」を描写する。

 

笑いのいっぽうで、ハードボイルド部分を支えるのは

妻夫木聡、江口洋介、柄本明に柄本佑、

渋川清彦、豊川悦司――の美味しすぎる布陣。

 

と、実に楽しい映画なのです。

 

 

なにより石橋氏と、その仲間たちを観ながら思うのは、

この歳にしてやっぱり

「こんなオトナになりたい!」ってこと。

 

アラ70の彼らは、決して

「昔はよかった・・・・・・」なんて言わない。

いまだって、いつだって「良き時代を生きりゃいいじゃん」と

言ってるんだと思うんです。

 

本当にステキです。

 

今週発売の「週刊朝日」で桃井かおりさんにインタビューさせていただいてます。

お目にかかるのは、ほぼ8年ぶり!

wikiにもある

桃井かおりのデビュー作は、あの田原総一朗が監督した”. 週刊朝日 2012年10月5日号 (2012年10月5日)

の取材のときで、

実に3時間超の、忘れない取材でした。

当時の記事も憶えていてくださって嬉しかったなぁ・・・

 

そして驚くほどに

変わらない、いやますます美しく、愉しく、優しくなった桃井さん

今回もたくさんお話くださって、感激です!

ぜひ映画と併せてご一読くださいませ~。

 

★近日公開。

「一度も撃ってません」公式サイト

※公開情報は公式サイト、劇場情報をチェックしてください。

よきタイミングでご鑑賞いただけることを願っています。

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