ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

カルロス

2012-08-31 20:55:29 | か行

上映時間5時間30分!
でも3部構成なんで、休憩アリですよ。

「カルロス」48点★★☆

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1974年から数々の殺人やテロに関わってきた
実在のテロリスト、カルロス(エドガー・ラミレス)。

「第1部」では
1970年代、ベネズエラ出身のカルロスが
数々の事件を起こし“伝説のテロリスト”になっていくまでを

「第2部」では
ウィーンのOPEC本部を襲撃した大事件が、

「第3部」では
米ソ冷戦が終わり、
革命家の役割が変化していく様が、それぞれ描かれる――。

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「夏時間の庭」(好き!)のオリヴィエ・アサイヤス監督が
1974年から活動してきた国際テロリスト、
カルロスの20年を描いた劇映画。


冒頭に
「史実や報道に基づく、しかし、フィクション部分もあります」の断り書きがあって
イヤな予感がしたんです。

こういう弱気な断り書がある映画は、
大抵つまらないんですよ(苦笑)

で、どうだったかというと
う~ん、ダメだった。

もっと焦点を絞って2時間にできただろ、的な。


同じくフランス映画で
“社会の敵No.1”とされた実在の人物を描いた
「ジャック・メスリーヌ」を思い出したなア。

ただ、もう時間軸に沿って
出来事が起こるだけで、
彼の「大義」とはなにか、とかも見えてこないしなア。


主演俳優の体重増減の技は凄い!と思いますが、
題材の割りには血も流れず、さしたるエロチックもなく(これも大きい。笑)
退屈でした。

まあ3部構成なので、
小説感覚だと
とりあえず上巻買い、という感じでお試ししても。
2部が一番盛り上がりましたが。


しかし見ながら思ったのは、70年代という時代のおおらかさ。

人相最悪な男たちが、
国際会議の場にノーチェックで歩いて入れちゃうんだもんね。
いまなら歩いてるだけで職質もんよ?(笑)

それに冷戦終結後も
シリアだイエメンだイラクだバスクだ、と、
革命家の需要がいつの時代でも
意外にあることにびっくりしました。


★9/1(土)からシアター/イメージフォーラムほかで公開。

「カルロス」公式サイト
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モンサントの不自然な食べもの

2012-08-30 22:53:02 | ま行

モンサント、って
『困ってるひと』(著・大野更紗)に出てきてて
「ああ、グローバルな人には常識なんだ」ってびっくりしましたよ。

「モンサントの不自然な食べもの」68点★★★☆


農薬会社であり、遺伝子組み換え(GM)作物の種を開発し、
世界中に売りつけている
アメリカに本社を持つグローバル大企業
「モンサント社」について取材するドキュメンタリー。


名指しで告発されるだけのことはあって
その悪党ぶりは「すげえ」の一言。

取材者が、Googleで調べる→主要人物にアポ→話を聞くという構成は
ややおもしろみには欠けるんですが
地道な取材による内容は、やはり衝撃です。


映画の冒頭では
社が廃棄した発ガン性物質により
多大な被害を被っている、小さな町の実情が描かれます。


そして遺伝子組み換え種が、
たやすくアメリカ政府に承認された1988年の陰謀などを暴き、
その安全性に疑問を投げかける。

そして世界中の農家に「殺虫剤とセットで」(!)GM作物を売り付ける
同社の恐るべき手法を暴いていくというわけ。


輸入が禁止された国に対する
目に見えない、しかし明らかな報復など、まさにテロですよ。


「世界中の食糧を牛耳ること」を
それほど大問題に感じていなかった自分を恥じます。

これはまさに「静かな戦争」だ!

108分、少々長いと感じるけど、

TPP(環太平洋策略的経済連携協定)など、
農産物をめぐる大事な時期だからこそ
見るべき大事なドキュメンタリーですね。


★9/1(土)から渋谷アップリンクで公開。ほか全国順次公開。

「モンサントの不自然な食べもの」公式サイト
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ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド

2012-08-29 22:51:07 | は行

知ってる曲、盛りだくさん。
本人については知らないことばかりで、おもしろかった。

「ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド」73点★★★★


「ラストキング・オブ・スコットランド」の
ケヴィン・マクドナルド監督が、

“レゲエの神様”ボブ・マーリーの
人生を描いたドキュメンタリー。


子ども時代から、出来事を年代順に追っていく
ものごっつ見やすい、オーソドックスな作りなんですが、

いや~、144分飽きませんでしたねえ。

逆にわかりやすくて効果的。

なにより
かかる曲は、ほぼすべて聴いたことがあって
身体がリズムを取っちゃうんですが、

その人そのものについては
全然知らなかったんで、楽しめましたねえ。


1945年にジャマイカで生まれたボブ・マーリーは、
地域で唯一の白人だった父と、
黒人の母の間に生まれたんだって。
(まあお父さんとお母さんの年の差も、ものすごいんですがね

周囲はもちろん黒人ばっかりだったんで、
彼は差別というより
「拒絶」された子ども時代を過ごしてた。


その孤独感から世界の人々に届く
メッセージを生んだという。


子ども時代から言葉の使い方が
抜群な詩人だったことや、

女性関係についても「へえ~」だったし、

さらに
1979年からジャマイカの政治抗争に巻き込まれ、
次第に「平和の神様」のような役割を担っていく・・・などが

大勢の彼を知る人々へのインタビューと、
彼自身の歌と映像で、
実にうまく構成されてました。


神といわれる人の人となりを知り、
いままで聴いてたCDが、さらに意味を持ってくるような
理想的な伝記ドキュメントかと思います。


★9/1(土)から角川シネマ有楽町ほかで公開。

「ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド」公式サイト
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ひみつのアッコちゃん

2012-08-28 23:13:30 | は行

これは
「お、意外に・・・」の部類に入りました。


「ひみつのアッコちゃん」59点★★★


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メイク大好きな小学5年生のアッコちゃん(吉田里琴)は
ある日、パパが買ってくれた
大切なコンパクトを壊してしまう。

ガックリ落ち込むアッコちゃんの前に、
謎の男(香川照之)が現れ、

魔法のコンパクトをプレゼントしてくれる。


アッコちゃんが教わった魔法の言葉、
「テクマクマヤコン」を唱えると

なんと22歳の大人の自分(綾瀬はるか)に変身!

そして、ひょんなことから
大人の姿のアッコちゃんは
化粧品会社の社員(岡田将生)と知り合い・・・?!

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正直、もっとダメかと思ってましたが、
まず単純に綾瀬はるかが
「ホタルノヒカリ」より可愛らしいかった(笑)


お化粧が大好きな小5のアッコちゃんが、
魔法のコンパクトで大人の女になり、
化粧品会社で働くお話で

たあいないし、変身シーンはチープだし、
結局コスプレだし、
脚本家が3人プラス脚本協力までいて、相当苦労あったのか・・・
いろいろ思うところありますが

それでも綾瀬はるかで、見せてしまうのがスゴい。


中身が小学生、という設定は
彼女の天然っぽい天真爛漫さによく合っているし、

王子様のような岡田将大との恋、も
乙女心にズキュンときます。


化粧品会社でお仕事体験!という展開も
アイデアよし、だしね。


小学生のアッコちゃんが大人にお説教・・・的なシーンは
いまいちだったけど

それでも
「ずるをしてはいけないよ」と
小学生にメディアリテラシーを学ばせるようなシーンもあったんで、

子どもにはいいかもしれません。

ラストもいいと思いましたが、
これがね~120分、意外になかなか終わらないんだ(笑)

もう20分短ければなおよし、ですね。


★9/1(土)から全国で公開。

「ひみつのアッコちゃん」公式サイト
コメント (2)
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最強のふたり

2012-08-27 21:49:57 | さ行

ヨーロッパで空前の大ヒット!――というのも納得。

実話というのもスゴいけど
なるほど、気分いい映画ですねえ。


「最強のふたり」79点★★★★


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スラム出身の黒人青年ドリス(オマール・シー)が、
大富豪フィリップ(フランソワ・クリュゼ)の屋敷に面接にやってくる。

フィリップは事故で首から下が麻痺し、
介護人を必要としていたのだ。

だが、実はドリスは面接に本気ではなく、
不採用になって失業手当をもらおうという魂胆。

障害者であるフィリップにも遠慮のない物言いをし、
周りはヒヤヒヤするが、
当のフィリップはなぜかドリスを気に入る。

彼は腫れ物に触るような周囲の扱いや、
障害者への同情に、飽き飽きしていたのだ。

そしてドリスは採用され、ゴージャスな屋敷で
彼の世話をすることになるが――?!

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フランスで3人に1人が観たという評判の作品。

なるほど、おもしろいですわ。


実話っていうのがすごいですが、それに引きずられることもなく、
つまり「気分のいい」映画なんですね。

まず
演出がすごくストレートで、遠慮がないんですよ。


大富豪とスラム出身、という格差を
「それが現実でしょ?」とばかりにズケズケ描くし、

音楽の趣味の違いとか
わかりやすいツールを使って、小難しさはゼロ。


黒人青年のギクッとするほどの「障害者ネタ」ジョークも
ヒヤヒヤしながら笑っちゃう。

そして
ガタイのいい青年が車イスの主人を軽々運べたりするシーンに
「適材適所か・・・」とフッと、現実を思うわけです。

だって介護の勉強をしてきたヒョロい大学院生より
彼のほうが使えるんだもん実際(笑)。


で、主人は青年に導かれて新たな楽しみを知り
青年もまた、知識豊かな主人との触れ合いで、
より広い世界を知ることになる。


そんな二人の描きかたゆえ、
“いい話”より前に、
なーんかシンプルに
「相性のいい人間どおしが、出会うしあわせ」を感じさせていいんですね。


また
この黒人青年ドリスが、
出自や学歴とは関係なく、物事を正確に見極め、
それを表現できる言葉を持ってるのがいい。


バッハのチェンバロ曲を聴いた彼が
「裸のやつらが笑いながら走ってるイメージ?」
というシーンには笑ったなア。


最初、監督はこの実話のドキュメンタリーを見て
映画化したいと思ったそう。

ドキュメンタリーじゃなくドラマにしようと考えたら
実際のフィリップ氏が
「ユーモラスにコミカルにして」と乗り気で
ドキュメンタリーにはなかったラストをこっそり教えてくれたんだって。

成功だったですねえ。


★9/1(土)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「最強のふたり」公式サイト
コメント (4)
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