ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

団地

2016-05-31 23:23:32 | た行

阪本順治監督作品。
ぷっははは(笑)


「団地」76点★★★★


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大阪近郊にある、小さな団地。

主婦・ヒナ子(藤山直美)と夫(岸部一徳)は
ある事情から、商店街の漢方薬局店をたたみ
半年前に、団地に移り住んでいた。

静かに暮らしていた夫妻の前に
かつての顧客(斎藤工)が現れ
どうしても漢方を処方してほしいと頼む。

その後、
団地にはある噂が――?!


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阪本順治監督、久々の完全オリジナル作品。

大阪近郊にある、古ぼけた(味のある!)団地を舞台に
初老夫婦の生活や、
その周辺にいるシニアたちの日々を描いています。

もうワシのような
団地好き×日常ネタ好きにはたまらないというか(笑)
人情喜劇のようでいて、
意外にとんでもない方向に展開する
おもしろ作品でもありました(笑)


岸部一徳氏×と藤山直美氏の
絶妙な夫婦の呼吸芸あり

「ごぶさたです」を「五分刈りです」と間違える若者(斎藤工)など
ド・ストレートなボケネタあり。
(この理由は後でわかるんだけどね)

大笑いしながら
笑いとは間だなあ、とつくづく思いました。

さらに、笑いの背後にある悲劇と悲しみが、
静かに淀み、漂っていることもわかる。

それが大阪流なのかなあと思いながら

それが人生。そのうえでの笑い。
これがペーソス!と感じました。


★6/4(土)から全国で公開。

「団地」公式サイト
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FAKE

2016-05-30 23:33:08 | は行

衝撃のラスト12分に、なにがあるのか?

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「FAKE」73点★★★★


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森達也監督、15年ぶりの単独監督作。

ゴーストライター騒動の
あの佐村河内守氏の自宅でカメラをまわしたドキュメンタリーです。

ちなみに
ゴーストライター騒動とは
2014年、聴覚障害がありながら「交響曲第1番<HIROSHIMA>」を作曲し
“現代のベートーベン”と言われた佐村河内氏の作品を
新垣隆氏が「自分が作っていた」と告白した問題。

「佐村河内氏の耳を聞こえないと思ったことはない」など
いろいろ暴露した発言の衝撃波はものすごかった。

佐村河内氏は会見で「自分だけの作品ではなかった」と認めて
その後、沈黙。
そんな氏を森監督が撮ったということで
かなり話題になっておりました。


で、映画はというと
監督が佐村河内氏の自宅にお邪魔し、
彼と奥さんの様子や、飼い猫(可愛い!)の姿、
取材を申し込みにくるマスコミなどを写したもの。


森監督がまず
「佐村河内氏を信じているのか?」といえば
まったく我々とおなじスタンスなので
とりあえず、見る我々が判断していくしかない。

で、
佐村河内氏は新垣氏の言い分に不満を持ち
「自分にはたしかに聴覚障害がある」
「作曲はできる」と言い続けるんです。


しかし、佐村河内氏の語る言葉は
どうしても残念ながら怪しい。

いわば「物証がない」状態なんですね。

特に
取材に来た海外メディアの質問は鋭く
見ながら
「もう黙っていればいいのに」とすら思ってしまう。
それでも、佐村河内氏が黙らずにいられなかった理由とはなんなのか?

そして映画は「決して言わないでください」の
ラスト12分へと突き進みます。


ハッキリ言って、これは予想外でした。
というか、ほぼ誰もが違うパターンの衝撃を
予測していたと思う。

結局思ったのは
「人間は自分の信じたいものしか信じないのだ」ということ。
それがものすごくリアルな実感となり、
衝撃になる
なかなかすごいですよ。

この映画だって
あらかじめ作られたシナリオで、
監督も共犯でないと言えるのか?

さあ、なにが本当のことだろうか?

ただ言えるのは
「猫は、全てを知っている」(笑)

合間に挟まる猫の視線が
客観的かつクールな視点となるのがいいんです。

そしてこの映画で
一番真実と思えるのは
奥さんが毎回毎回、訪問者に出すケーキと
それを嬉しそうにする佐村河内氏(笑)。

単なる甘党の猫好き?
いや、これが大きなキーワードではないでしょうかね。


★6/4(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「FAKE」公式サイト
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デッドプール

2016-05-29 22:57:34 | た行

冒頭から“とんがった感”ギンギン!←ふ、ふるっ


「デッドプール」67点★★★☆


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ウェイド(ライアン・レイノルズ)は
かつて特殊部隊に所属した
優秀な備兵。

いまは引退し、
好き勝手に悪い奴を懲らしめる
荒れた生活を送っていた。

だが彼は
運命の女性ヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)に出会い
まっとうな人生を決意する。

が、そんな彼に
運命は残酷な仕打ちを――?!


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ヒーロー乱立の世に現れた
「規格外」で破天荒なマーベルブランドの新スター。


「ウルヴァリン:X:MEN ZERO」(09年)にも登場し、
この期を待っていた、という
ライアン・レイノルズが演じています。

しかしライアン・レイノルズ、最近超復活!という感じ。
特に「白い沈黙」(14年)「黄金のアデーレ」(15年)がよかったけど
「ハッピーボイス・キラー」(14年)の危うさもあり
本作は、そっちの系統かも(笑)


彼が扮するデットプールは
ある事情で、不死身になってしまったヒーロー。
そもそもの身体能力が高く、
ヒーローの素質は十分にあるんだけど

倫理観はゼロ。
行動の動機も「正義感」ではないというのが
新鮮なんですね。

×××的な言葉も平気で言うので
ヒーロー映画なのにR指定をくらってしまった、という(苦笑)

そこに
「テッド」「キック・アス」的なおもしろさが
確かにある。


シリアスな戦いの前に
「あー!タクシーに銃の入ったバッグ忘れてきたっ!」的なズッコケあり(笑)
ハリウッドスター実名でおちょくったり。
「X-MEN」とのリンクもいいネタになってて
楽しめます。

ただ残念なところに
戦いシーンはちょい退屈だったんですが

続編も決定、今後の展開も
期待できそうであります。


★6/1(水)からTOHOシネマズ 日劇ほか全国で公開。

「デッドプール」公式サイト


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或る終焉

2016-05-26 23:44:11 | あ行

誰もに他人事でない。
強烈に響くテーマです。


「或る終焉」74点★★★★


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デヴィッド(ティム・ロス)は
終末期の患者のケアをする看護師。

一人一人の患者の最期に、真摯に寄り添おうとする彼は
ときに患者と家族以上の絆を築いていく。

だが彼はある家族から
「患者と親密すぎる」と
セクハラで訴えられてしまい――?!


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1979年、メキシコ生まれ
「父の秘密」(12年)のミシェル・フランコ監督の新作。


人生の最期に関わる看護師(ティム・ロス)の日々を
静かに見つめる映画です。

重く、シビアなテーマだけど
淡々としていて、暗い気持ちにはならない。
そのことにとても救われます。


それに前作「父の秘密」もそうだったけど
この監督は、観客の想像を自然に引き出し、
それをうまく“裏切る”ことに長けている。

冒頭、主人公(ティム・ロス)が
女性をかいがいしく世話する様子が写されると
「あ、彼の病気の妻なのね」と思う。

しかしそれもフェイクで
彼は彼女の世話をするために雇われた
看護師なのだとわかる。

そうしたシーンを無言で積み重ね、
映画は少しずつヒントを明かしていくんですね。


主人公は
苦しむ患者のうめきを間近に聞き
吐瀉物や汚物を片付ける。

家族の誰も「そこまで出来ない」領域で
彼は患者と深い絆を持ち、疑似家族のようになっていくんです。


見ていると「なんと立派なことだ!」と感心するけれど
彼の行為は必ずしも
本物の家族に「よし」とされない。

ここに正解のない「介護」の難しさが映り、
実に複雑な気分になります。


本作は監督が、自分の祖母の介護を通じて見た
看護師の姿に触発されて作った作品だそう。

結局、人間の「最期のとき」にきちんと立ち会い、
向き合えるのは家族じゃないのだ、と
本作を見ると、つくづく感じます。


そして型どおりの介護ではない
一人一人にマッチした介護を実践しようとする人間は
ときに排除されかねない。

くさか里樹さんの「ヘルプマン!」を思い出し、
「海外のヘルプマンもつらいなぁ」と
感じました。


★5/28(土)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「或る終焉」公式サイト
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マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

2016-05-25 23:57:08 | ま行

あのマイケル・ムーア監督
7年ぶり(そんなになるか!)の新作です。

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「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」73点★★★★


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ドキュメンタリーを“おもしろく”した
21世紀の功労者、マイケル・ムーア監督の新作は

「世界各国に行って、その国のいいところを略奪しちゃえ!」
というドキュメンタリー。

イタリアの有給休暇の多さに「はあ?」と絶句し、
フランスの学校給食のおいしさに「なんで?」と驚き、
ノルウェーの刑務所の開放感に「うそだろ?」とあんぐりする。


疑り深い彼のリアクションと、
“笑いのツボ”は健在。

しかし、今回の彼はいままでと違う。

マイケル・ムーアはもう怒っていない。
マイケル・ムーアは希望を持っているのだ。
ヤケクソじゃなく、おそらく本気で。

いままでになく
「楽観的」なのは、なぜか?


終盤、ベルリンの壁跡を前に彼は
「物事が意外にも急激に良い方向へシフトし、
変化する現実もある」と打ち明ける。

これまで怒って、憤って
先頭に立ってアメリカの「おかしい!」を指摘してきた彼が

テロや対立、不穏が世界中に溢れるいま
時代と逆のスタンスを取っていることが
興味深い。

彼はいままでと同じく、
世間の数歩先を行ってくれるのだろうか――??

そんな希望を、少し感じました。


それにしても
日本の「いいところ」を侵略に来てくれなかったのは残念。

まあ、実際いまの日本は
全然魅力的じゃないんだろうな。


★5/27(金)からTOHOシネマズみゆき座、角川シネマ新宿ほか全国で公開。

「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」公式サイト
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