メンフェスの路上から
世界的ダンサーになった青年のドキュメンタリー。
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「リル・バック ストリートから世界へ」71点★★★★
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テネシー州メンフェスのストリートから
世界に轟くダンサーになった青年リル・バックのドキュメンタリー。
というと、一人のダンサーの立身出世物語――と思いそうですが
それだけでなく
周辺のダンサーや若者たちも紹介しながら
メンフェスという時代に置き去りにされた
「街」の物語になっている点が特徴的です。
まずは1981年に創業し、
地域の一大レジャースポットとなった
ローラースケートパーク「クリスタルパレス」
が紹介される。
名前も建物も”ザ・80年代”な雰囲気がたまらん!なここが
地元の若者にとって
どれほど大事な存在だったか、が描かれる。
そこから新たなストリートダンスのスタイル
”ジューキン”が生まれた。
犯罪多発するメンフェスでは
ギャングを親代わりに慕い、同じ道に進んでしまう若者も多いなか
一部が
ダンスに自分を見出していく。
そのうちの一人が
リル・バックなんですね。
義父からの虐待や辛い毎日を生き延びていた彼は
ダンスに出会い、
ひたすらに技を極めていく。
仲間内で撮ってるホームビデオにリル・バックが映っていて
大勢のなかで、あきらかにハッとさせるダンスを見せる様子なども
興味深いのです。
そしてなにより
ワルな友人とつるむことを回避しようと
決して余裕のない家庭ながらも
母親がリル・バックをアート・パフォーマンス・スクールに
転校させたことが、運命の分かれ道だったんですねえ。
そこでクラシックバレエを学び、ストリートダンスとそれを組み合わせ
彼は才能を開花させる。
そのダンスが、ヨーヨー・マに見出され、
彼とのコラボをスパイク・ジョーンズ監督が撮影し、YouTubeにアップ。
300万ビューを超え、
やがて
ナタリー・ポートマンの旦那でもある
バンジャマン・ミルピエに見出され、
ルイ・ヴィトンとコラボするなど
世界的な注目を得てゆくんです。
本作の監督もバンジャマン・ミルピエのドキュメンタリーを撮っていて
彼と出会ったそう。
彼のサクセスには
多数のなかで、自分にしかない「特性」をいかに見出すか
いかに努力し、いかにチャンスを逃さず、成功を手にするか――が
詰まっていて、勉強になる。
さらに、いま彼はストリートの若い世代に
ダンスを教える社会的役割を担っているんですね。エライ!
薬や犯罪に走ってきた上の世代と決別する道を
次世代に示すその姿に光あれ! と感じます。
と、基本、いい映画なのですが
ストレートにリル・バックだけに焦点を当てなかったつくりは
意欲的で、意図もよくわかる反面、
若干、散漫になってしまった感もある。
リル・バックのファッションや見た目も
けっこうコロコロ変化するので
いま映ってるのは誰なのか、
後半まで一瞬で見分けがつかなかったりするので
(単にワシの識別能力の低さか。苦笑)
それでも、挑戦はすばらしいことです。ホントに。
★8/20(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開。