ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

リル・バック ストリートから世界へ

2021-08-24 03:42:10 | ら行

メンフェスの路上から

世界的ダンサーになった青年のドキュメンタリー。

 

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「リル・バック ストリートから世界へ」71点★★★★

 

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テネシー州メンフェスのストリートから

世界に轟くダンサーになった青年リル・バックのドキュメンタリー。

 

というと、一人のダンサーの立身出世物語――と思いそうですが

それだけでなく

周辺のダンサーや若者たちも紹介しながら

メンフェスという時代に置き去りにされた

「街」の物語になっている点が特徴的です。

 

 

まずは1981年に創業し、

地域の一大レジャースポットとなった

ローラースケートパーク「クリスタルパレス」

が紹介される。

 

名前も建物も”ザ・80年代”な雰囲気がたまらん!なここが

地元の若者にとって

どれほど大事な存在だったか、が描かれる。

 

そこから新たなストリートダンスのスタイル

”ジューキン”が生まれた。

 

犯罪多発するメンフェスでは

ギャングを親代わりに慕い、同じ道に進んでしまう若者も多いなか

一部が

ダンスに自分を見出していく。

 

そのうちの一人が

リル・バックなんですね。

 

義父からの虐待や辛い毎日を生き延びていた彼は

ダンスに出会い、

ひたすらに技を極めていく。

 

「行き止まりの世界に生まれて」(18年)のように

仲間内で撮ってるホームビデオにリル・バックが映っていて

大勢のなかで、あきらかにハッとさせるダンスを見せる様子なども

興味深いのです。

 

そしてなにより

ワルな友人とつるむことを回避しようと

決して余裕のない家庭ながらも

母親がリル・バックをアート・パフォーマンス・スクールに

転校させたことが、運命の分かれ道だったんですねえ。

 

そこでクラシックバレエを学び、ストリートダンスとそれを組み合わせ

彼は才能を開花させる。

 

そのダンスが、ヨーヨー・マに見出され、

彼とのコラボをスパイク・ジョーンズ監督が撮影し、YouTubeにアップ。

300万ビューを超え、

やがて

ナタリー・ポートマンの旦那でもある

バンジャマン・ミルピエに見出され、

 

ルイ・ヴィトンとコラボするなど

世界的な注目を得てゆくんです。

本作の監督もバンジャマン・ミルピエのドキュメンタリーを撮っていて

彼と出会ったそう。

 

彼のサクセスには

多数のなかで、自分にしかない「特性」をいかに見出すか

いかに努力し、いかにチャンスを逃さず、成功を手にするか――が

詰まっていて、勉強になる。

 

さらに、いま彼はストリートの若い世代に

ダンスを教える社会的役割を担っているんですね。エライ!

 

薬や犯罪に走ってきた上の世代と決別する道を

次世代に示すその姿に光あれ! と感じます。

 

と、基本、いい映画なのですが

 

ストレートにリル・バックだけに焦点を当てなかったつくりは

意欲的で、意図もよくわかる反面、

若干、散漫になってしまった感もある。

 

リル・バックのファッションや見た目も

けっこうコロコロ変化するので

いま映ってるのは誰なのか、

後半まで一瞬で見分けがつかなかったりするので

(単にワシの識別能力の低さか。苦笑)

 

それでも、挑戦はすばらしいことです。ホントに。

 

★8/20(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほか全国順次公開。

「リル・バック ストリートから世界へ」公式サイト

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Summer of 85

2021-08-23 02:21:55 | さ行

ひゃー!80年代カルチャー&みずみずしさにヤラレタ。

 

「Summer of 85」71点★★★★

 

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1985年、フランスの海岸近くに住む

16歳のアレックス(フェリックス・ルフェーヴル)は

進路に悩むシャイな高校生だ。

 

ある日、一人ヨットで沖に出た彼は

突然の嵐に巻き込まれ、転覆してしまう。

 

絶体絶命のアレックスを救ったのは

18歳のダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)。

 

急速に惹かれ合い、愛し合うようになった二人は

「どちらかが先に死んだら、残されたほうは相手の墓の上で踊ろう」と

誓いを立てるのだが――。  

 

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しょぱな、ザ・キュアーの「In Between Days」の軽快なギターが鳴る中、

80年代のフランスの海岸を

自転車に乗ってやってくる

ボーダー&ボタンシャツの少年――

 

って、ちょっと!フランソワ・オゾン監督!

胸キュンさせすぎですよ!(笑)

 

 

初恋ストーリーをみずみずしく、やさしく描きあげ

まさに原点回帰、という感じ。

 

加えて

そこにサスペンス風味が混じり

 

回想と現在の時間軸を自然につなぎながら

明るく輝く季節と、暗い告白のあいだに

「いったい、何があったのか?」と引き込まれる。

さすがです。

 

 

原作は1982年に発表された

アイダン・チャンバースの小説「Dance on My Grave」。

オゾン監督は17歳のときに読んで胸キュンしたそうで

それから35年。

当時のキュンをいまよみがえらせるのは

楽しかった反面、チャレンジングでもあっただろうなと。

 

(それにプレス資料などで監督は言及してないけど

「君の名前で僕を呼んで」(17年)

に突き動かされたのも、絶対あるだろうなあと思うw

グザヴィエ・ドランみたく)

 

して

単にみずみずしさ、ではなく

やはり、年を重ねての「真理」がある。

 

特にうーむ、とうなったのが

ダヴィドの描写。

 

快活で好奇心旺盛で、ひとたらしで

アレックスをリードしていくダヴィド。

彼でなければ、アレックスは恋に落ちなかった。

 

しかし、その美点は、諸刃となるわけで

ダヴィドは新しく出現した女の子に好奇心を移し、

アレックスと距離を取り始める。

 

しかもダヴィドくん、そのことをまったく悪びれない(苦笑)

 

真っ直ぐなアレックスにとってそれは

死ぬほどショックな裏切りで

そのことでアレックスはダヴィドに詰め寄るんですね。

 

まあ、よくある痴話げんかにもみえるんだけど

そこでダヴィドが言う

「変化がほしいんだ」は

 

単に「不実なヤツ」でなく

前のめりに走り、とにかく経験を重ねたい

生き急ぐような性質を持つ人の芯をとらえていて

そこにも、また悲しみがある、と感じさせた。

 

決して、アレックスを本当に「飽きた」んじゃないけど

あえて振り切った。

ダヴィドもまた、

「人は自分と同じではないんだ」ということを学んでいる途中なのだと。

 

二人が対峙するこのシーン、

ウッと胸にきました。

 

ダヴィドの母親役に

オゾン作品「ふたりの5つの分かれ路」(04年)ほか

最近では

「歓びのトスカーナ」(17年)もよかった

ヴァレリア・ブルーニ・デデスキをあてたのもグッド!

 

★8/20(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開。

「Summer of 85」公式サイト

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スザンヌ、16歳

2021-08-22 23:38:07 | さ行

新時代のなまいきシャルロット!

 

「スザンヌ、16歳」73点★★★★

 

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パリに暮らすスザンヌ(スザンヌ・ランドン)は16歳。

 

ちょっと大人びて、物静かな彼女は

カフェでおしゃべりする同級生たちの輪に入らず

黙ってテーブルクロスにソーダの水滴をたらしている。

 

恋に憧れているけれど

同年代の子たちは退屈なのだ。

 

そんなある日、スザンヌは街の劇場の前で

20歳ほど年の離れた舞台俳優ラファエル(アルノー・ヴァロワ)に出会う。

 

どこか通じ合うものを感じた二人は

早朝のカフェで、劇場で、少しずつお互いを知り、

惹かれ合っていくのだが――。  

 

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スザンヌ・ランドン監督が

15歳で書き上げた脚本をもとに

19歳で自ら主演し、作り上げた長編デビュー作です。

 

いつものように予備知識なく観たので

観た後に

彼女があのヴァンサン・ランドンの娘で

「君を想って海をゆく」(09年)とか「母の身終い」(12年)とか最高だす!)

お母さんは「ヴィオレット―ある作家の肖像―」(13年)とかに出てる

これまた実力派俳優のサンドリーヌ・キベルラン、だったとしって

えらく驚いた(笑)

 

超絶サラブレッドだったんですね。

 

白いシャツにジーンズのすらりとしたスタイル。

ちょっと物憂げで大人びた彼女が年上の男性に恋をする――

まさに新時代の「なまいきシャルロット」(1985年、クロード・ミレール監督)って感じですが

それをすべて

自分で作り上げたっていうのがスゴイ。

 

 

惹かれ合うようになった

スザンヌとラファエルの愛情の描写がなんとダンスだったりと

意表を突く演出もおもしろく

その先にいかない慎み深さに、余計に萌える(笑)

 

なのにけっこうエモーショナルで

ちゃんと痺れる心が描けてるし。

 

さらに驚かされたのが

思春期のスザンヌの心象描写だけでなく

スザンヌの母親や父親の目線にも

ちゃんとなれているところなんですよね。

 

シーンとしては少ないんだけど

お父さんとのちょっとしたやりとりや

自分から離れていく過程にある娘に対する母の想いなどを

実に自然に表現してて

どんだけの才能か?恐るべし、と感嘆。

 

そして

おなじみ『AERA』で

スザンヌ・ランドン監督にインタビューさせていただきました!

ちょっとはにかんだ感じは、映画のスザンヌそのままで

実にキュート!

 

両親への想いや「なまいきシャルロット」への想いなど

いろいろ語ってくれています。

 

8/31(火)発売の号に掲載予定ですので

ぜひ映画と併せてお楽しみください~

 

★8/21(土)からユーロスペースで公開。ほか全国順次公開。

「スザンヌ、16歳」公式サイト

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レリック-遺物-

2021-08-15 00:04:41 | ら行

怖くてもホラーはね、

新感覚を持ってくるので、はずせないんですよ。

 

「レリック-遺物-」69点★★★★

 

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森のなかの一軒家で一人暮らしをしている

老女エドナ(ロビン・ネヴィン)。

だが「彼女の姿が見えなくなった」という知らせがあり

 

娘のケイ(エミリー・モーティマー)と孫のサム(ベラ・ヒースコート)が

久々にエドナの家を訪れる。

 

部屋の中には至る所にメモが貼ってあり

もういない犬のごはんが置いてあったりする。

 

どうやらエドナは認知症に苦しんでいたようだった。

 

ケイはしばらく前から

母が「家のなかに誰かがいる」と

電話で不安を訴えていたことを思い出す。

 

しかしいったいエドナはどこに

行ってしまったのか――。

 

愛する祖母を助けたいと

サムは母とエドナの家に泊まることにする。

 

しかし、そこには恐ろしい秘密があった――。

 

**********************************

 

オーストラリア出身の

ナタリー・エリカ・ジェームズ監督による

新感覚ホラー。

 

「マイ・ブックショップ」(17年)のエミリー・モーティマーが

娘ケイを演じ、

三世代にわたる女性の関係に

老いへの嫌悪や不安、忘れることへの不安などを染みこませていて

たしかに新しさがあります。

 

過激なギャッ!は控えめなので

ホラーが苦手な人にも、まずまずオススメできます。

 

まあ、祖母の家や森の中、

目の端に何かが「いる」感じが絶えずあり

ジクジクと怖いんですけどね(苦笑)

 

その怖さより

女同士こそのギクシャク、家族だからこその衝突やいらだちを、

うまく描いているなあと感じました。

 

仕事が忙しく、老いた母を一人にしていた娘ケイの呵責。

そして彼女自身もまた

自分の娘サムとうまくいかない。

「大学まで行かせたのに、なんでちゃんと仕事に就かないの?」的なチクチクを

ケイはついサムに言ってしまって、嫌われてるんだけど

 

たぶん、こういうギクシャクって

自分の母エドナと自分のあいだでも

起こっていたことなんでしょうね。

 

母と娘のあいだに起こりがちな

「こうあってほしい」の押しつけや、支配。

だからケイは家を出てから、エドナとも距離を取っていたのかという気もする。

しょせん、親子は似るもので

因果は巡ってくるものですから。

 

まあ、このへんは想像でもあるというか

そうそう、本題はホラーなのだった!(笑)

 

で、少し話を明かすと

エドナは結局、突然ふっと帰ってくるんですよ。

「おばあちゃん、どこに行ってたの?」と聞いても答えず

あきらかに、なにかに怯えている。

ケイとサムは、しばらくエドナの家で一緒に暮らすことになるんですが

エドナのおかしな行動や言動が

認知症によるものなのか?それとも心霊現象なのか?

わからないところを

うまくホラーにしているわけですね。

 

プレス資料のプロダクションノートによると

家の中が迷路になっていく描写は

認知症をわずらう人が「迷う」感覚のメタファーだそうで

うーん、それは気がつかなかった(ビクっててそこまで考えられなかった

 

最後の展開に「うーん?」と思う部分はなくはないですが

しかしラスト、娘が母の背中に「それ」を見つけるシーンにはゾクリ。

それは、順番に、確実に、やってくる――というね。

 

けっこう奥行きがあるホラーなのでした。

 

しかもこの話、

日本にルーツを持つ監督の体験に基づいているそう。

 

数年前、お母さんの故郷である日本を

久々に訪れたナタリー監督は

大好きだった祖母が認知症になっていた、というショックな経験から

物語を着想したそうです。

 

そういわれると、この映画

全体的に湿り気があるんですよね。

 

部屋の壁や人体にはびこる黒い異物も

どこかカビやシミ、あるいは墨のようにも見える。

 

これも日本的・・・なのかもしれません。

 

★8/13(金)からシネマート新宿ほか全国で公開。

「レリック-遺物-」公式サイト

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モロッコ、彼女たちの朝

2021-08-14 01:08:52 | ま行

モロッコ発の長編劇映画って

日本初公開!なんだそう。

 

「モロッコ、彼女たちの朝」73点★★★★

 

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モロッコの都市、カサブランカ。

 

美容師のサミア(ニスラン・エラディ)が

臨月の大きなお腹を抱え、路地をさまよっていた。

 

仕事も失い、住む場所もないサミア。

しかし、路地の人々は誰も、彼女を助けない。

 

モロッコでは未婚の母はタブーであり

誰も彼女に関わろうとしないのだ。

 

そんななか、小さなパン屋を営む

アブラ(ルブナ・アザバル)が

サミアをこっそり家に招き入れる。

 

女手ひとつで幼い娘ワルダ(ドゥア・ベルハウダ)を育てているアブラは

サミアの窮状に知らんふりはできなかったのだ。

 

「ふしだら」とされる未婚の母をかくまうことは

客商売をするアブラにとってもリスキーだ。

 

しかし翌朝、出ていこうとするサミアに

アブラはもう何日か泊まっていくように話すのだった――。

 

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1980年、モロッコ・タンジェ生まれの女性監督

マリヤム・トゥザニの長編デビュー作。

 

モロッコでは婚外交渉と妊娠中絶が違法で

未婚の妊婦への目はものすごく冷たいらしい。

だから身重で困り果ててるサミアに

誰も手を差し伸べてくれないんですね。

 

そんな社会で、

手探りで、サミラに手を差し伸べるアブラ。

そしてサミラは彼女のもとに居候するようになる。

 

若くてオシャレなお姉さんができたと

アブラの一人娘ワルダは大喜びで

サミラの作るパンが、店で人気になったりする。

(実際、めちゃくちゃ美味しそうだし!

 

アブラにもシングルマザーとしての苦しみがあり

二人は、互いを支え合う存在になっていく。

 

助け合う女性たちの暮らしには

やわらかく明るい日差しがこぼれていて

決して暗いわけじゃない。

 

でも映画ではサミアの事情や背景に踏み込むことはないんです。

手を差し伸べるアブラも

「数日だけよ」を繰り返す。

 

それだけ風評や、世間の目――「ふしだらな女」の烙印は重いのだ、ともわかる。

そしてサミアは、ある決断をすることになるんです。

 

女性同士が共闘したくとも、シスターフッドを発動したくとも

社会が世間が、それを許さない。

そんな環境がまだまだあるんだ――と

この映画は教えてくれた。

 

先んじて公開されている

「名もなき歌」の母の叫びも痛切だったし

「17歳の瞳に映る世界」のヒロインの痛みも鮮烈だった。

そしてこの作品も

女性の身を切る痛みをまざまざとリアルに感じさせる。

 

女性、男性、と区別をするのはイケてないけど

やはり女性監督がいまこの問題を描く、という共通点は

無視できないと思う。

 

しかもこの話は監督が身近に体験したこと。

サミアにはモデルになった女性がいて

彼女の両親が、未婚の母だった彼女を招き入れて

出産まで見守ったそうなんです。えらいな・・・。

 

世界のあちこちで、たしかに声が発せられている。

映画を通じて、それらを受け止める日々であります。

 

★8/13(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「モロッコ、彼女たちの朝」公式サイト

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