ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

夜明けの祈り

2017-07-31 23:56:00 | や行

「ボヴァリー夫人とパン屋」監督。
この人は、うまい。


「夜明けの祈り」77点★★★★


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1945年、12月。

ポーランドの赤十字で働く
フランス人医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)のもとに
深刻な顔をしたシスターが駆け込んでくる。

修道院に苦しんでいる女性がいるので助けてほしいとシスターは言う。

一度は断ったマチルドだが
雪の中で何時間も祈り続ける彼女を放っておけず
夜中に修道院へ向かう。

そこにいたのは、身ごもり、苦しむ若い修道女。

彼女を助けたマチルドは
ほかの修道女たちもまた妊娠している事に気づく。

そしてマチルドは修道院で起こった
恐ろしい出来事を知ることになる――。


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1945年、ポーランドで
修道院を襲ったソ連軍の蛮行によって
集団で身ごもってしまった大勢の修道女たち。

立場上、事を公にもできず
どんどん大きくなるお腹を抱えて苦しんでいた彼女たちを助ける
実在した女医を描いた作品です。


出来事の衝撃を静かに匂わせながらも
直接的な描写はせず
やわらかい光で、つらい物語を包み込む。

そこには厳しい状況のなかでも
生まれてくる命に対する畏敬と、喜びが
確かに写っていて

さらに危険を顧みず行動する
女医の善の清らかさ、崇高さが
凜として美しい。


監督は
「ドライ・クリーニング」(97年)を経て、
「ココ・アヴァン・シャネル」(09年)
「美しい絵の崩壊」(13年)
そして
「ボヴァリー夫人とパン屋」(14年)とキャリアを積んできた
アンヌ・フォンティーヌ。

この人は女性の自然な美を撮るのが
抜群にうまいんですよね~。

そして
ストーリーテリングも絶妙。

重く、つらいだけの味ではないので
ぜひ見ていただきたいです。


個人的には
試写状に使われていた
このシーンが、ズキュンでした。


それにしても、思うのは
ここでも「女を助けるのは女」だってこと。

そしてソ連軍の蛮行に
「人でなし」とは文字通り
「人」で「なし!」(木皿泉さん風に)なことなのだと
つくづく感じました。


★8/5(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「夜明けの祈り」公式サイト
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ザ・マミー/呪われた砂漠の王女

2017-07-30 14:22:38 | さ行

トムさんがミイラと大変なことに!


「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」55点★★☆


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現代。

中東で任務についていた
米軍関係者ニック(トム・クルーズ)は
偶然、ある遺跡を発見する。

考古学者のジェニー(ソフィア・ブテラ)と
内部に入った彼は
幾重にも封印された棺を見つける。

遺跡は
恐ろしい力を持ち、歴史から葬りさられた
古代エジプトの王女アマネット(ソフィア・ブテラ)の墓だった。

だが
ニックはその封印を解いてしまい――?!


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「インディー・ジョーンズ」や「ハムナプトラ」的な
エキゾチックでミステリアスな冒険活劇か?と思うと

どうも、ゾンビ方面の比重が高い。


製作したユニバーサルスタジオは
「魔人ドラキュラ」(1931年)「フランケンシュタイン」(31年)などを
生み出してきたところで

このたび
それを次世代向けにする
「ダーク・ユニバース」というシリーズを始動させたそう。

で、本作はその第一弾で
ジャンルとしては“モンスター映画”に入るらしい。

そしてマーベルの「アベンジャーズ」のように
ミイラとドラキュラとフランケンシュタインの共演もありかも?的なことが
今後の展開らしいのです。


で、映画の舞台は現代。

トムさん演じる米軍関係者が
中東での軍事作戦中、偶然、巨大な地下空洞を見つける。
そこにあったのは古代エジプトの王女アマネットのミイラ。

トムさんが不用意にその封印を解いてしまったことから
大事件が起こっていく――という展開。


王女アマネットはかつて死に神と取引し、
人智を越えた魔力を持っている。
で、ミイラになった彼女は人間を襲い、生気を奪って復活していくんですが

彼女に操られた人々はゾンビのようになり
殴っても殴ってもへこたれない。

なので、ちょっと疲れる(笑)


そして残念だったのは
トムさんのキャラクターが、あまり立ってないところ。

体を張ったアクションはさすがなんですが
キャラ造形が「無鉄砲な米軍関係者」というだけみたいで

無茶ぶりな戦い方で死にそうになるわ
考えなしに封印を解くわ
女に弱いわ
いいところがない(笑)。

しかも、笑いの要素がないんですよねー。

せっかく、こういう役柄のトムさんなんだから
もっと自虐ネタみたいな笑いを入れれば
よかったのになーと思いました。

続くとしたら
もっとキャラ立ててほしいなー。


★7/28(金)から全国で公開。

「ザ・マミー/呪われた砂漠の王女」公式サイト
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静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

2017-07-28 23:57:43 | さ行

彼女の詩は
ジム・ジャームッシュ監督最新作の
「パターソン」にも出てくるんですよ。


「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」69点★★★☆


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19世紀半ばの、米マサチューセッツ州。

女子学校に通っていたエミリ・ディキンスン(シンシア・ニクソン)は、
学校の教えになじめず、家に帰る。

詩を書き続けるエミリは
やがて父親の口利きで、地元の新聞社に初めて詩を掲載される。

だが、
「女に不屈の名作は書けない」という当時の風潮もあり
なかなか認められない。

エミリは家に引きこもり、
詩だけを書く日々を送るようになるが――。


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アメリカを代表する女流詩人であり
しかし、生前は世に認められずに亡くなった
エミリ・ディキンスンの物語です。

かなり特徴ある人物で、
映画もそれに合わせて、かなり特徴あるものだと思う。


エミリは人に表面だけ合わせることができず、
人と交われることがヘタな女性。

その性質ゆえ、歳を取るごとに
どんどん辛辣に、どんどん扱いにくくなっていく。


彼女が言わば「気の毒なおひとり様」となっていく様子が
容赦なく描写されていて
うう、ちょっとつらいんですが(苦笑)。


でもそこの映画には
「彼女の詩を深く読み解こう」という、試みも確かにあると思う。


さらに
孤高の詩人の奥底に、実は「外見に自信がない」という
極めてシンプルなコンプレックスがあったと描かれていて
そうだったのか・・・と妙に親近感も沸きました。


結果、思うことは
「詩作は格闘だ!」。

彼女の詩をじっくり読んでみたくなります。


★7/29(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「静かなる情熱 エミリ・ディキンスン」公式サイト
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ローサは密告された

2017-07-27 23:58:38 | ら行

カンヌで
イザベル・ユペールやクリステン・スチュワートを抑えて
主演女優賞に輝いた作品。


「ローサは密告された」69点★★★☆


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マニラのスラムで
雑貨店を営むローサ(ジャクリン・ホセ)。

まだ小さい娘を含め、4人の子を育てる彼女は
ダラダラなダメ夫を尻目に
せっせと店を切り盛りしている。

そして彼女は生活のために
少量の麻薬を店で扱っていた。

そんなある夜、
店にいきなり警察が踏み込んできて
ローサと夫は逮捕されてしまう。

二人は
「保釈して欲しければワイロをよこせ」と
法外な金額を提示され――?!


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まるでドキュメンタリーのような
臨場感溢れる絵。揺れるカメラ。

割れる音がやかましい。
どしゃ降りでぬかるむ道が鬱陶しい。


雑多で乱雑で、清潔ではない画面が
とにかく強烈です。

内容も、実際に起こっていることに基づいている。


フィリピン・マニラの路地裏で小さな店をやるローサは
いきなり踏み込んできた警察に
麻薬売買の罪で逮捕されてしまう。

しかし
連れて行かれた先は警察署の表ではなく、裏口。

そこで彼女と夫は
保釈と交換に、法外なワイロを要求される・・・という。


警察まで黒い、フィリピンの闇がにじみます。


そして両親の保釈のために
なんとか金を工面しようとするローサの子どもたち。

いじらしくもあるけれど、
彼らもまた、善悪雑多な闇に飲み込まれているんだよね。


ブリランテ・メンドーサ監督は
こうしたノイズや、手持ちカメラを映画手法としているそうで
たしかに強度がある。

でも
動くカメラに少し酔ったので、弱い方は注意。

あと
ラストでローサが頬張るのは、甘いものかと思ったけど
焼き鳥のような、魚のすり身を揚げたおかずなんだそうです。
へええ~。


★7/29(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ローサは密告された」公式サイト
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ブランカとギター弾き

2017-07-26 23:11:52 | は行

77分に素晴らしいきらめきとドラマが詰まってました。


「ブランカとギター弾き」72点★★★★


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フィリピンの路上で
盗みや物乞いをして暮らす孤児の少女ブランカ(サイデル・ガブテロ)。

彼女はあるとき
お金で「お母さん」を買おうと思いつく。

街で盲目のギター弾きピーター(ピーター・ミラリ)と出会ったブランカは
その演奏に合わせて歌い始める。

そして彼女の歌声に目をとめたレストランのオーナーが
二人を雇い、店で歌わせてくれることになった!

だが、ブランカには試練が待っていた――。


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「オン・ザ・ミルキー・ロード」
の公開も待たれる
エミール・クストリッツァ監督に見出された
長谷井宏紀監督の長編デビュー作。

マニラの路上で暮らす少女と、
盲目のギター弾きの物語で

役者も撮影もフィリピン、
出資はイタリア、というグローバルな作品です。


決して大仰でなく、しかし端的な描写で、
孤独なストリートチルドレンの少女ブランカの成長が描かれ、

77分という尺に
想像以上のきらめきとドラマが詰まっていました。


路上で窃盗も働きながら
誰も信じず、ヤマアラシのように身を守って生きる少女ブランカが
盲目のギター弾きと出会い、
同じ境遇の少年と出会い、

盗みや狡(こす)い行いで人を蹴落とすことでなく、
人と助け合い、ともに暮らすことの尊さを学んでいく。

そんなブランカが
実にたくましく、可愛らしいし

彼女を誰が助けてくれるのか、誰がより狡い行いをするのか
ドラマが練られていてハラハラです。


なかでも
ワシがもっとも注目したのが、子どもたちとお金の関係。

ブランカも路上の子どもたちも
ゲットした紙幣を数え、貯め込んでいるんですね。

お金は彼らにとって“価値観の最上級”であるのは間違いないんだろうけど
実のところ、彼らがそんなに執着しているようにも見えなくて。
隠し場所もずさんだし、ほかの子や人に盗られてしまえば終わり。

その様子を見ていると、
彼らにとってそれが、まるで野球カードを集めているのと変わらない
無邪気な情熱にもみえてくる。

実際、路上でお金があっても
子どもである彼らにできることは少ないんですよ。

きっと子どもたちは
本当に自分に必要なのは、お金で買えないもの――家族や庇護者、権利、自由なんだと
本能で知っているんだ、と見ながら感じた。

監督は実際にスラムに身をおき、
子どもたちをサポートする活動などを続けてきた方だそうで

彼らをしっかり知っているからこそ、
その感覚が、リアルに伝わってきたのだと思いました。


★7/29(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「ブランカとギター弾き」公式サイト
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