ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

死の谷間

2018-06-24 15:55:48 | さ行

 

おもしろ映画「コンプライアンス 服従の心理」(13年)の監督作です。

 

「死の谷間」69点★★★★

 

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放射能に汚染され、壊滅した世界で

ただひとつ、汚染をまぬがれた「奇跡の谷」があった。

 

その谷でアン(マーゴット・ロビー)は

愛犬ともに、畑を耕し、たった一人で生き延びてきた。

 

ある日、谷に防護服を着た男が現れ、

アンは男を介抱してやる。

ジョン(キウェテル・イジュフォー)と名乗る男はやがて回復し、

アンとともに暮らしはじめる。

 

が、二人の慎み深くも親密な日々に

もう一人の生存者(クリス・パイン)が現れて――。

 

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「コンプライアンス 服従の心理」のクレイグ・ゾベル監督の新作。

 

まったく状況は違うけど

なるほど心理的に密閉された空間での

人間の関係性を突き詰めるあたり、前作との共通点を感じます。

 

 

原作が書かれたのは1974年ですが

ここに描かれる無人の村のリアルさが、やはりいまの我々をゾッとさせる。

それは、チェルノブイリであり、福島の姿だから。

 

核汚染という地獄の状況を経て、誰もが疑心暗鬼な世界で

たった一人、生き延び、暮らす若い女性(マーゴット・ロビー)。

そこに現れる一人の男。

 

そして、二人めの男が現れる――

 

そりゃなにが起こるか

だいたい想像つきますわな(苦笑)。

 

実際、そうなんですけど

でも、意外にそうスルスルとはいかない。

 

まず最初の男ジョンは、まさに据え膳…なはずのアンと

なかなか深い関係を持ちたがらない。

教養か理性ゆえなのか? それとも――?の展開もおもしろかったし、

 

全体に描写が残酷やドロドロ方面にはいかず

乾いた感じで

慎み深さがあるのもいい。

 

もちろん、3人の関係には

常に緊張感と、残酷の予感があるんですけどね。

 

一度、ゼロになった世界では

人間の「肉体」「身体性」が大きく意味をなす。そして心を支える「信仰」も。

非常にシンプルな「世界のはじまり」が描かれていること、

 

そして

たった一人で畑を耕し、生き延びてきたアンのタフさを

マーゴット・ロビーのフィジカルの強さが裏打ちしている点が

よいなと思いました。

 

★6/23(土)から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「死の谷間」公式サイト

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祝福~オラとニコデムの家~

2018-06-23 17:55:04 | さ行


「万引き家族」ともリンクする
響く! ドキュメンタリー。


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「祝福~オラとニコデムの家~」79点★★★★


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これは……心にカーン!と響くドキュメンタリー。

昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞受賞ほか

各国の映画祭を席巻したというのも納得です。

 

 

主人公はポーランド・ワルシャワ郊外の街で、弟と父と暮らす

14歳の少女オラ。


弟のニコデムは自閉症で、父親はアルコール依存症。

母親は家を出ていて、別の男性と暮らし、どうやら赤ん坊がいるらしく

オラたち姉弟のことはおざなりだ。



なのでオラは学校に行きながら

弟の勉強をみてやり、父親の世話をし、家事もして

一人でがんばっている。

 

オラはカトリックで重要な儀式である聖体拝領を

ニコデムに受けさせようとしていて

一生懸命、その練習させるけれど、ニコデムはなかなか憶えられない。

 

オラは母親に戻ってきてほしいと願っているけれど

なかなかうまくいかない。

 


そんな彼女の日々を

カメラは、まるでそこにいないように、淡々と映し出すんです。


「え?これホントにドキュメンタリーなの?」

「どうやって撮ったの?」と驚くし、

しかもそのカメラの前で、次々とドラマが起こるのがすごい。

(特に母親の、あの展開ったら、もう……!

 

でも、何が起ころうとも、映画は何も声高にはせず、

世界の片隅にいる姉弟を、静かに見つめるだけ。

オラのいら立ちにも、献身にも、無言。

 

その様が、さまざまを背負い

まさに“淵に立つ”な少女の心に観客をダイブさせる。

で、いろいろを考えさせるんです。

 

 


それにこの姉弟は

環境には恵まれなかったけれど、ルックスには恵まれた(笑)。


無邪気な弟ニコデムはギュッとしてあげたくなるほど愛らしいし

(彼が発する言葉は、詩人のようだ!)

オラもすごくキュートな少女なんですよ。



でも、その表情は常に「への字口」の困り顔で、

まるで、さまざまな厄介事が重力となり

彼女を下から引っ張っているようで、胸が痛みます。




散らかった家の中にイラつくオラの姿にも、

「この状況をなんとかしたい!」という気持ちが表れている。

その様子は、昨年のベスト入りドキュメンタリー「トトとふたりの姉」を思い出させたし、

是枝監督の「万引き家族」にもリンクしている。


オラとニコデムに、平和と安息は訪れるのか?

ぜひ、ご覧になっていただればと思います!

 

そしてそして

おなじみ「AERA」にてアンナ・ザメツカ監督に

インタビューさせていただきました~。

美人!(笑)そして

「『万引き家族』はまだ観ていないけど『誰も知らない』は好きで参考にしたわ」と

おっしゃっていました。

 

AERAの記事は「子どもの視点から、社会をみる」テーマで

掲載はまだ少し先、7月になりますが

ぜひ、映画と併せて、ご覧いただければと思います~




★6/23(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「祝福~オラとニコデムの家~」公式サイト

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女と男の観覧車

2018-06-23 01:38:38 | あ行

 

ウディ・アレン監督の新作です。

 

「男と女の観覧車」68点★★★☆

 

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1950年代のコニーアイランド。

 

遊園地のレストランで働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は

夫(ジム・ベルーシ)と、再婚同士で一緒になった。

 

冴えない仕事、冴えない人生に、内心悶々としている彼女の前に

思いがけない客が現れる。

 

それは夫の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)。

20歳でイタリア人ギャングと結婚した彼女は

しかしいま、ダンナから命を狙われているという。

 

不安になるジニーには、もうひとつ、不安要素があった。

彼女はビーチで監視員のバイトをしている大学生(ジャスティン・ティンバーレイク)と

不倫関係にあったのだ。

 

そしてある日、彼らのあやういバランスが

壊れる出来事が起こり――?!

 

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82歳のウディ・アレン監督の最新作です。

 

 このところ

セクハラ問題が大きく取りざたされたりして

(正直、いまさら?と思ってしまうんだけど)

 

作品とは関係ないとわかっちゃいるんですが、

御大、さすがにお疲れなのかなあと、感じてしまいました。

 

冒頭にある「これ、メロドラマだよ」との断り通り、

本当にけっこうベタなメロドラマなんですよ(笑)

 

 

1950年代のコニー・アイランドの遊園地を再現した舞台装置は素敵で

美術も音楽も完ぺきに甘いのに、

 

なんだか主演のケイト・ウィンスレットに

監督の愛情があまり感じられない。

ちょっと気の毒。

 

大仰に悲劇のヒロインぶる彼女は

自分の人生に満足出来ず、他力本願でそれを他者(=男)に求め、

あげく不倫をし、不幸になるという女。

 

この無限ループは古来からあるモチーフだけど

それを御大が描くと

なにかの呪いのように、その不毛さが暗~くあとを引くんですよね。

この"毒"加減が、さすがだなあと思うのですが

 

ご自身の人生の陰に、やはり関係あるのだろうか……と。

ああ、また最初に戻ってしまった!

 

★6/23(土)から丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開。

「女と男の観覧車」公式サイト

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ガザの美容室

2018-06-22 23:48:55 | か行

 

ニュースの現場における

舞台劇のような、シュールさと、その意味。

 

「ガザの美容室」69点★★★★

 

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 パレスチナ自治区、ガザ。

女性店主クリスティン(ヴィクトリア・バツリカ)の美容室は

今日も混雑している。

 

店にいるのは、離婚調停中の主婦(ヒアム・アッバス)や、臨月の妊婦、

結婚式を今夜に控えた若い花嫁と母親、薬物中毒の女性や、敬虔なムスリム女性。

 

それぞれおしゃべりをしながら順番待ちをしていたが

美容室が停電してしまう。

 

国境が封鎖されているため、発電機用のガソリンも届かない。

 

そんななか、外で銃声が鳴り響き――。

 

 

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1988年、ガザ生まれの双子の監督による初の長編映画です。

 

 

美容室を舞台に

ワンシチュエーションで進行するドラマで

まず感じたのは「これ、舞台劇だなあ!」ってこと。

 

ワンシチュエーション劇はけっこうなテクが必要で、

彼らはうまいほうだとは思います。

それでもやっぱり、話や状況を作るためか

なかなか進まない美容師の手の遅さに、客でなくともイライラしてしまった(苦笑)

 

それでも、女だけのこの空間が

イスラムにとって幾重にも深い意味を持つことは想像できます。

 

そして後半、爆音とともに始まる恐怖。

銃撃戦が行われている外の状況を

あくまでも想像させるだけにとどめているのに

まるで彼女たちと一緒に美容室に留め置かれたように、心臓がバクバクする。

音の攻撃が、心底怖い。

 

そんな描写に、この状況を生きてきた人の"生(なま)”が感じられ

その重みと意味を噛みしめました。

 

★6/23(土)からアップリンク渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次公開。

「ガザの美容室」公式サイト

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告白小説、その結末

2018-06-19 23:56:47 | か行

 

ロマン・ポランスキー監督。その技、冴えまくり!

 

「告白小説、その結末」75点★★★★

 

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自ら命を絶った母親との生活を綴った私小説で

人気作家となったデルフィーヌ(エマニュエル・セニエ)。

しかし、周囲の期待とうらはらに新作の構想は進まず、

憂鬱な日々を送っていた。

 

ある日、デルフィーヌはパーティー会場で

自分のファンだという美しい女性エル(エヴァ・グリーン)と出会う。

 

自然な口調で話しかけてくるエルに

思わず心を開き、楽しい会話を交わすデルフィーヌ。

 

さらに数日後、偶然なのか、エルが向いのアパートに引っ越してくる。

 

実はエルは、セレブの伝記を代筆するゴーストライターだった。

 

自分を気遣い、励ましてくれる

エルの優しさに

次第に心を開いていくデルフィーヌだったが――?!

 

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売れっ子女性作家に近づく美人ゴーストライター。彼女の目的は――⁈というストーリー。

ずばり「ゴーストライター」(10年)という

傑作を持つポランスキー監督。

 

このテーマにかなり思い入れがあるようです。

 

 

そして、鑑賞後感はというと

ああ、怖い怖い。

結局のところ、謎が残りまくりなのが、

この女VS女の構造では、逆に効果を発揮してます。

 

 

ゴーストライターであるエルは、なぜ売れっ子作家の前に現れたのか。

1)作家に成り変わりたかったのか?

2)自分の力量では書くことができない、自分自身の私小説を

彼女に書いて欲しかったのか?

 

3)いや、本気で、デルフィーヌの才能に惹かれ、

その能力をもっと引き出したかったのか?

 

4)ファンが高じた単なるストーカー?!

 

凡人は1)を思ってしまうんですが、いやいやそーんな単純なものではもちろんなく

結局、エルの目的は何だったのか、はっきりと描かれないんです。

 

エルはまさにゴーストの如く、

スランプに陥った作家の人生に現れ、消えていく。

ラスト、しっかり「仕事」も果たして、ね(笑)

 

全編がずっと不穏で不快なサスペンスだっただけに、

ラストのこの収まりの悪い、奇妙な愉快さが

たまらなく可笑しいのですよ。

 

 

ライターと作家の間には、近そうにみえて

マリアナ海溝のような深~い深~い谷がある。

それは自立か依存か、仕事か恋愛か、自己実現第一か、私生活重視かetc…

「種族の違う」女と女のあいだにも、然りなんだけど

 

まあ、この二人はそういう意味で

かなり近似値にいるからこそ

その緊張の構造が強まるんですよね。

 

主演のエマニュエル・セニエは言わずと知れたポランスキー夫人ですしねえ。

常にいろいろ問題になってるポランスキー監督ですが

ホント、わかってるよなアと思わずにいられないです、ハイ。

 

★6/23(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「告白小説、その結末」公式サイト

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