ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ファーザー

2021-05-13 23:58:19 | は行

これね、ワシはホラーだと思いましたよw

 

「ファーザー」74点★★★★

 

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英・ロンドン。

アン(オリヴィア・コールマン)は

一人暮らしの父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)の家に急いでいた。

 

父・アンソニーは81歳。

記憶にほころびが出始めた彼を

アンは心配し、介護人を頼んでいるが

父は彼らをことごとくクビにしていた。

 

しかし、アンにはパリに引っ越す計画があった。

そうなると

父の面倒を頻繁に見られなくなる。

 

「なんとか介護人を受け入れてほしい」と父に話すアン。

が、父には

ほかに探るべきことがあった――?!

 

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祝・アカデミー賞主演男優賞&脚色賞、受賞!

これは

アンソニー・ホプキンス氏の最高潮といって

なんら間違いないでしょう!

 

高齢といっても

自分で買い物もでき、食事の支度もできる主人公アンソニー。

一見、普通の暮らしぶりにみえて、

しかし

あれ?いま、話していたのは娘だよな?

え?このいけすかない男、娘のダンナだったよな?――ん、違ったっけ???

 

そんな高齢者の記憶の混乱を

ミステリーに転じさせていくこの展開は

なにより、ホプキンスの醸し出す「凄み」あってこそといえる。

 

ホプキンス自身が

「自分の父親を思い出した」と言っているとおり

誰にでもリアルな状況を、迫真で演じた彼が

スゴイです。

 

 

映画の舞台は、アンソニーの家。

同じ部屋の風景、同じキッチンなのに

写るたびに、

びみょーに物の置き場所が違ったりする。

 

そんななかで

娘と思っていた人物が入れ替わったり

ヘルパーと思っていた人物が入れ替わったり。

 

で観客も

「ん?」「え?」な世界に引きずり込まれていく。

 

これは

認知機能が低下した高齢者の見ている「世界」の描写で

その「え?」の戸惑いは

その本人にとって

ミステリーであり、サスペンスフルな状況なのだと

まず、本作は表しているのだと思うのです。

 

それは本人にとって恐怖なのだけど

 

同時に

どんなに取り巻く人や周囲が変わっても

彼自身=アンソニー・ホプキンスが

そこに「いる」ことだけは変わらない。

 

そのことが

彼の面倒を見る立場にある娘(オリヴィエ・コールマン)にとってもまた

ホラーのなにものでもないのだ――ということが

リアルに伝わってくるところが

痛く哀しく、

絶妙なおもしろさでもあるのでした。

 

とりあえず、老親に電話、電話・・・・・・(苦笑)

 

★5/14(金)から全国で公開。

「ファーザー」公式サイト

※上映情報は公式サイト&各映画館のサイトをご確認ください。

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ジェントルメン

2021-05-08 13:19:21 | さ行

なんか、久々に痛快リッチー。

 

「ジェントルメン」73点★★★★

 

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ロンドンのパブに

ハンサムな紳士が入ってくる。

その男ミッキー・ピアソン(マシュー・マコノヒー)は

闇の世界で名を成したボス。

が、そのとき彼の背後で、銃を構える男がいた――。

 

ところ変わって

ミッキーのビジネスパートナー、レイ(チャーリー・ハナム)の自宅。

レイが夜に帰宅すると、男が忍び込んでいた。

その男は私立探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)。

 

ゴシップ紙の編集長(エディ・マーサン)の依頼で

ミッキーとレイの周囲を探り、

犯罪の証拠を集めていたという。

 

「ゴシップ紙に売ったらあんたの組織は破滅だ。

イヤならこのネタ、買わない?」

 

――そしてフレッチャーはレイに

集めたネタを“ご丁寧に”披露していくのだが――?!

 

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ガイ・リッチー監督による

痛快クライムサスペンス。

 

ガイ・リッチーといえば

「スナッチ」(00年)、というイメージがあったので

このクセモノ男たちがワチャワチャ出てくる感じ、

なんか久々で嬉しかったす。

 

いまだやんちゃを保ちつつ、

成熟も獲得してて、旨みたっぷり。

 

互いを探り、裏をかき合う闇社会のゴタゴタも

狂言回し役のヒュー・グラントの解説という構造から

敵味方の区別や、話がわかりやすく伝わるし

 

なにより

軽快で粋なセリフのリズムと、このカメラワーク!

役者は体得するの大変だったと思う。

 

ボス役マシュー・マコノヒーもカッコいいけど、

やっぱヒュー・グラントがいいし

そして意外にも(失礼!)

コリン・ファレルがダークホースだったりする(笑)

 

1968年生まれのガイ・リッチー監督、

同世代のマコノヒーを筆頭に

このなかでは若手のチャーリー・ハナムにも

ユーズド加工をほどこしつつ

“いい頃合い”の男たちとつるんで

楽しそうです。

 

このバージョーンのポスターも

イカしてるよねw

 

★5/7(金)から公開。

※上映情報は公式サイト&各映画館のサイトをご確認ください。

「ジェントルメン」公式サイト

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海辺の彼女たち

2021-05-03 00:19:30 | あ行

この現実を、直視せよ。

 

「海辺の彼女たち」71点★★★★

 

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ある夜。

ベトナムから技能実習生として日本にやってきた

フォン(ホアン・フォン)は

同僚のアン(フィン・トゥエ・アン)とニュー(クィン・ニュー)とともに

小さなバッグを持ち、地下鉄に乗り込む。

 

いまの職場で3ヶ月間、

1日15時間、土日もなく働かされ、

十分に寝ることすらできなかった彼女たちは

そこから逃げ出し、

ブローカーを頼って、別の職場へと移ったのだ。

 

そこは雪が降る寒い海辺の港町。

 

だが、少しはマシになったと思った状況は

さして変わらず

それでもフォンたちはブローカーへの借金と、ベトナムの家族への送金のため

働かざるを得ない。

 

そんななかで、フォンが体調を崩してしまう。

 

アンたちはフォンを病院に連れていくが

保険証も在留カードもない彼女らは、受付で門前払にされる。

 

「妊娠してるかもしれない」――

フォンの告白に、アンたちは彼女を気遣いつつも

どうすることもできない――。

 

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ベトナムからやってきた“技能実習生”のリアルを

藤元明緒監督が、実際に出会った彼女たちからのメールをきっかけに

フィクションとして描いた作品です。

 

外国人技能実習生の実態は

コロナ禍でその窮状がよりクローズアップされ、

ニュースにもなっているけど

しかし「じゃあ、なんらかの対応や支援があるのか?」という話は

まったく見えてこない。

 

そんな彼らの状況を

限りなくドキュメンタルに描くことで

訴えと、気づきをうながしてくれます。

 

映画の冒頭、

ベトナムから日本に来た女子3人が

過酷な待遇から逃げ出し、ブローカーの斡旋で別の港町にたどり着く。

しかし

ここでも、さして待遇は変わらないんです。

そんななかで、一人の女子=フォンの妊娠が発覚する。

 

でも、前の職場から逃げ出した彼女は不法滞在者となり、保険証もなく

診療を受けることができない。

彼女を診る日本の医師たちも、状況はわかっている――だろうに

逆に、というか

わかっていても、どうしようもないんでしょうね。

 

尊い命を宿したフォンに

しかし静かに、ゆるゆると迫る絶望。

 

どうしようもなくて

雪道をさまようフォンに、道を行く車上の人々をはじめ、誰も気づくことはない。

安易に助けの手はこないんです。

 

でも、だからこそ

劇的な展開を選ばないところに、非情ながらも、迫るものがある。

 

世界は甘くない。

それでも生きていくしかない。

 

それこそが現実であり、いまを生きる苦しみなのだと

胸に刺さります。

 

こんな世の中で、みな、余裕がなくなっている。

そんなときに、人を思いやることは難しいけど

でも、だからって見て見ぬふりをしていいの?

日本を信じてやってきた外国人たちへ

日本がしている非道から、目をそらしていいの?

 

――いいわけないじゃないですか?

 

まずは日々流れっていってしまうニュースを

こういうかたちで、心に留め置き、考えさせることができる、それこそが

「映画の力」にほかならない。

 

そのうえで、しかと、考えるべき問題であります。

てか、この世の中、考えること大杉!(苦笑)

しんどいけど、でも考えることを、

せめて気づくことを、止めてはダメなんだよね・・・。

 

★5/1(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「海辺の彼女たち」公式サイト

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過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

2021-04-30 02:38:14 | か行

写真界のレジェンドは

いまも現役バリバリ!なのです。

 

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「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」78点★★★★

 

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おもしろかった!

 

82歳のいまも現役バリバリの

世界的な写真家・森山大道さんを追うドキュメンタリー。

 

それこそ神保町古書街で、彼の写真集に

「海外でも、ものすごい高値がついている」と聞き及んでおりましたし

あの犬の写真をはじめ、荒々しく強面なイメージを持っていたのですが

映画を見て、正直驚いた。

 

だって、めっちゃ、優しい方なんだもん!

 

映画は

1968年に絶版した写真集を復活させるプロジェクトを軸に、

氏の歴史と、その日常を追いかけていく。

 

荒れた粒子、ブレた被写体、ボケたピント。

1960年代からの活躍、

紹介されるモノクロ世界の強度に、今さらながらビクッとさせられ、

若者たちで大盛況の

サイン会やトークショーの熱気にも驚きます。

 

なにより日々、街に出て

コンパクトカメラを片手に、ひょうひょうとシャッターを切る81歳の

旺盛な「写真欲」に驚嘆なんです。

 

そうやって撮られた写真が、作品になる過程を見ながら

「こういうふうに、世界を切り取っていたのか!」がわかって

とてもおもしろい。

暗室シーンも貴重だしねえ!

 

でも、そんな森山さんも

人生すべてが順調だったわけじゃない。

 

1970年代後半、スランプに陥り

写真が撮れなくなったつらい時代も語られ

さらに2015年に亡くなった

盟友にて写真家・中平卓馬氏への言葉や想いが、強く伝わってくる。

 

どん底の時期から、どう這い上がったのか――

その過程に、勇気を分けてもらえた気もするし

 

さまざまな風雪を乗り越え

いまも

喫煙スペースでタバコを吸いながら、

声をかけてくるファンに、気さくにサインをする

世界的な写真家の優しさに

どうしようもなくホロリとしてしまうのでした。

 

コロナ禍で公開が1年延びた本作、

この1年を森山さんがどう見たのか、どんな写真を撮ったのか――も

すごく気になるところであります。

そして、再びコロナ禍で上映がストップしてしまいましたが

こんなことにくじけない!というパッションが、この映画にはあると感じます。

無事上映のときを願いつつ!

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

 

★4/30(金)から新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開。

※上映状況は各劇場のホームページをご確認ください。

「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道」公式サイト

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ブックセラーズ

2021-04-29 01:11:23 | は行

ゲイ・タリーズが、フラン・レボウィッツが

「本」への愛を語る!

 

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「ブックセラーズ」69点★★★★

 

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世界最大のNYブックフェアに潜入し、

本を愛し、売り、その文化を守っている人々(=ブックセラ-)数人にスポットをあて

掘り下げていくドキュメンタリーです。

 

本屋通りとして知られたNYの通りに

1950年代に368店あった古書店が

いまどうなったか――など

厳しい現状が語られるなかで

それでも「紙の本」を愛する人たちがいるんだよ、という事実と

ブックセラーたちが

この状況をどのように生き延びているか、が写されていきます。

 

ワシももともと紙の本好き、加えて

「神田神保町古書街(毎日ムック)」(毎日新聞社)の取材で

かなり神保町に通ったこともあり

本&古書に思い入れがあるので

とても興味深く観ました。

 

デジタル化が叫ばれて久しい現在も

しかしNYブックフェアは大盛況。

 

例えば、ビル・ゲイツが史上最高額で競り落とした

ダ・ヴィンチの「レスター手稿」とか

「不思議の国のアリス」のオリジナル手稿とか

実に興味そそられます。

 

さらに

装丁に人間の皮(!)を使った本や、美しい宝石をはめ込んだものなどなど

その価値が希少性とともに

アート&グッズ方面に転換しているなあ、という状況も感じる。

 

NYで本屋の上階フロアをアート販売にしている古書店など

「まさに神保町にある古書店そのもの!」って驚きましたよ。

(神保町って世界でも類を見ない”本の街”だと聞いたけど、ホントなんだ!

 

そのほか

アメリカ在住のジャーナリストが

自身の執筆用に集めた資料が

そのままアーカイブとして大学図書館に収められた――なんて話には

うらやましいなと思ったり。

 

さまざまな人にインタビューしていて

あのゲイ・タリーズがちょろっと出てきたりするし

辛辣なエッセイストとして知られるフラン・レボウィッツ女史の

切れ味鋭いコメントが、おもしろい。

 

ただね、見ながら

本を愛する人々の情熱は

イコール、

もし本がなくなったら――という未来を予感しているのかも、という気もした。

 

この世界にたった一つ残った「紙の本」を奪い合うSF映画もあったよね。

「ザ・ウォーカー」(2010年)

だっけ。

 

近未来SFの世界がすぐそこにきている。

メディアのはしくれで生きてきた作り手としては

これからの世界にどう向き合うべきなのか――とか

いろいろ考えさせられた。

そして、いまも、考えてます。

 

★4/23(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

※公開情報は各劇場のホームページなどでご確認くださいませ。

「ブックセラーズ」公式サイト

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