ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

リンドグレーン

2019-12-08 16:42:54 | ら行

これは良い!心を持っていかれた!

 

「リンドグレーン」77点★★★★

 

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1923年、スウェーデンの田舎の町。

16歳のアストリッド(アルバ・アウグスト)は

自由奔放で、周囲とはなじまない、一風変わった少女。

 

中学を卒業した彼女は

かつて新聞に掲載された作文がきっかけで

地元の新聞社で助手をするチャンスを得る。

 

父の知り合いである編集長(ヘンリク・ラファエルセン)のもと

アストリッドは水を得た魚のように

生き生きと仕事をし始める。

 

そんな彼女に編集長は好意を抱きはじめ

彼女もその愛を受け入れるのだが――?!

 

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「長くつ下のピッピ」の作者、アストリッド・リンドグレーンの

知られざる物語。

なのですが、

創作にいたる話などは一切カットし、

スウェーデンの田舎での少女時代から、10年ほどの間の

ある人生の一部分にのみ焦点を当てている。

 

その潔さに加え、主演女優も素晴らしく、

静かにエモーショナルをかきたてられました。

 

 

1920年代のスウェーデンの田舎で、他に染まらず

一味変わった存在だったアストリッド。

そんな彼女は、キラリと光る文才を認められ、

地元の新聞社で助手を務めることになる。

 

初めてタイプライターに

自分の書く文字が打ち込まれた瞬間の震えるような喜び。

生き生きと取材に行き

ようやく居場所を見つけて輝き出した彼女は

父ほど歳の違う、新聞社の編集長に惹かれていく。

 

彼も彼女を愛し、

二人は結ばれるんですが

しかし、予期せず、アストリッドは妊娠するんですね。

 

編集長には妻がいるし、子どもも7人もいる。

到底、親にも許されない。

歓びの絶頂から、

とたんに不安に押しつぶされそうになる様も、

そこから決意のもとでの出産、そして幼い子との胸を引き裂かれる別れ――

彼女の心の震えにシンクロして

一挙手一投足から目が離せなくなる。

 

自分の心にのみしたがって、

この時代に立とうとする彼女の

不安定にして脆く、しかし強いさまを、繊細に演じた

アルバ・アウグストが素晴らしく

(「マンデラの名もなき看守」「リスボンに誘われて」などで知られる

映画監督ビレ・アウグストの娘さんだそう!)

 

その魅力を引き出した女性監督も、見事でした。

 

リンドグレーンは02年に94歳で亡くなるまで、

子どもの人権を守るために活動したそう。

この歴史を知ると、納得、ですなあ。

 

★12/7(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「リンドグレーン」公式サイト

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i ー新聞記者ドキュメントー

2019-11-16 13:34:17 | あ行

タイトルの意味がわかるラストに、

身が引き締まる思いがしました。

 

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「i ー新聞記者ドキュメントー」75点★★★★

 

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オウム信者を写した「A」シリーズ、

ゴーストライター騒動を追った「Fake」(16年)などで知られる

森達也監督が、

 

今年6月に公開され松坂桃李×シム・ウンギョン主演で大ヒットとなった

「新聞記者」(19年)のモデルともなった

東京新聞・望月衣塑子記者を追うドキュメンタリー。

 

 

いつも大きなキャスター付きのバッグをガラガラ引きながら

(お泊まりセットでも入ってるのかなと思ったけど

森監督への取材によると、中身は全部資料らしいです

 

霞ヶ関を歩き、辺野古や宮古島へ飛び、人々の声を聞く。

籠池夫妻、伊藤詩織さんらとも対話し、

よく食べ、よく話す。 

 

官邸記者会見で管官房長官に鋭い質問を投げ、

妨害されてもめげずに、何度も、何度も繰り返す。

 

そんな姿を追いながら、我々はそこに

昨今のあまりにデタラメな日本の状況を、改めてみることになる。

その不条理と理不尽は

「ギャグかよ!」と笑ってしまうほど酷くて

怒りと呆れが込み上げてきます。

 

さらに浮かびあがるのは

ジャーナリズムが機能してない状況。

 

監督は今回、

官邸での記者会見を取材できなかった。

記者クラブに所属しないフリーランスは門前払いだからです。

特に第二次安倍政権になってから

一人も新たに申請は許可されていないんだそう。

 

その状況を見ると、

望月記者がやっていることの意義がはっきりしてくる。

 

彼女は「入れる」人なんだということ。

 

辺野古で、宮古島で現場で聞いた人々の声を、

記事にすると同時に

直接、政府にぶつけることができる。

 

「記者」とはそういう立場にあるのだ。

 

しかし、だーれもそれをやらないんですよね。

 

 

そのなかで奮闘する望月記者に、

当然、見てる側はどんどん肩入れしていくんですが

 

でも、そこは森監督。

最後に、ある視点を突きつけるんです。

 

これにはハッとさせれた。

 

この映画が見せるのは

結局、我々ひとりひとりが

「あなた、どうなんですか?」「大丈夫ですか?」ということなのだなと

ワシはたしかに、受け取りました。

 

おなじみ「AERA」で森監督にインタビューさせていただいてます。

ニュース記事として

11/25発売に掲載されると思います。

ぜひ、映画と併せてご一読くださいませ~

 

★11/15(金)から新宿ピカデリーほか全国で公開。

「i ー新聞記者ドキュメントー」公式サイト

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グレタ GRETA

2019-11-09 23:32:21 | か行

予想以上にイヤ〜な怖さが持続する・・・・・・!

 

「グレタ GRETA」70点★★★★

 

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NYの高級レストランで

ウェイトレスをするフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は

帰宅中の地下鉄で、誰かが置き忘れたバッグを見つける。

中には落とし主のIDカードも入っていた。

 

遺失物センターが閉まっていたため

しかたなくバッグを持ち帰ったフランシスは

親切心からIDカードを頼りに

持ち主であるグレタ(イザベル・ユペール)の自宅に

バッグを届けに行く。

 

出迎えたグレタはフランシスに感謝し、

お茶に誘う。  

 

母子ほど年の離れた二人は

どんどん親密になっていくのだが――?!

 

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イザベル・ユペール大好きだけど

正直あまり期待してなかったんです(すみません。笑)

 

でも、これが意外に、最後の最後までかなり怖かった。

 

地下鉄で拾ったバッグを

持ち主に届けたヒロイン(クロエ・グレース・モレッツ)が

思わぬ自体に巻き込まれる――というスリラー。

 

親切心が仇になる現代の病理が

なかなかリアルに描かれていて

 

ストーカー心理や執着の描写、

ホラー要素にサイコな心理要素が絡み、

ゾクッ、ゾゾゾ、うわぁ(いやだ~)・・・・・・の三段ステップで

ラストまでイヤ〜な感じが続くんです。

 

 

バッグひとつで善人な女性を釣る――ってアイデアがおもしろいし

若くて屈強そうなクロエを

華奢で年配のユペールが翻弄する構造も

実際にある「この手の人々」のずる賢さを強調していて、

うへぇ~~と思いました。

 

深みはそこそこですが、まず構築がうまいなあと。

それに

グレタの友人役のエリカがえらい!

 

ファンとしては

ユペール様の「すごみ」や「怖さ」を

あまりこういう方向に使ってほしくないのだけど(笑)

どうにも最近、怖キャラが多いよね・・・・・・。

 

怖っ――!の切っ先が一番鋭かったのは

やっぱりミヒャエル・ハネケ監督の「ハッピーエンド」(18年)

そして「エル ELLE」(17年)ですかねえ。

 

★11/8(金)から公開中。

「グレタ GRETA」公式サイト

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永遠の門 ゴッホの見た未来

2019-11-08 23:22:25 | あ行

すごい・・・・・・ウィレム・デフォーがゴッホにしか見えん!

あの自画像が動いてる!(笑)

 

「永遠の門 ゴッホの見た未来」71点★★★★

 

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1886年ごろのパリ。

画家ゴッホ(ウィレム・デフォー)は

「暗い!」「陰気だ!」とまるで評価されていなかった。

 

そんなとき、ゴッホは

画家ゴーギャン(オスカー・アイザック)に

「南へ行け!」と言われ、南仏アルルへやってくる。

 

厳冬の日々を抜け、春を迎えたその地で

ゴッホは、いまだ見たことのない

まばゆい太陽や緑の風景に触れ、

無心に創作をはじめる。

 

が、そんなゴッホは

「変わり者」として、村人たちのなかで孤立していく――。

 

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現代美術作家としても有名なジュリアン・シュナーベル監督が

あのゴッホを題材にした作品。

 

まずはゴッホ演じるウィレム・デフォーの

なりきりぶりにびっくり!

 

本当にゴッホにしか見えないーって

本人、知らないですが(笑)

あの自画像の、肌のカッサカサ感までがそっくりなんですよ。

すご!

 

しかしこの映画は別に

そっくりさんを目指してるわけではないんです。

 

ジュリアン・シュナーベル監督は本作で

自作「潜水服は蝶の夢を見る」と似たアプローチをとっている。

それは、ある意味「不自由な人」の生きる世界をどう写し取り、

それをどう共有させるか、ということ。

 

この映画では

孤独な画家の感じていた光、風、熱、空気、色――

ものすごく個性的な、五感に訴える絵作りがされている。

 

分厚いレンズ越しにみているような世界。

ゴッホの歩く様子とリンクして、動く目線。

 

グラグラするカメラワークは

三半規管弱いワシには、少々しんどくもありましたが(笑)

これがゴッホの見ていた、感じていた世界なのかも、と

確かに思わせる。

 

そう、この映画は観客が

ゴッホの見ていたであろう世界を、

まさに同じように体験するものなんです。

 

それを経て、彼の作品を見ると

また違った印象が生まれてくるってのがおもしろい。

それこそが、監督の思うところだったんだな、と感じました。

 

さらに自分がゴッホになることで、

「ゴッホ~最期の手紙」(17年)で描かれたように

村の厄介者になってゆき、孤立する彼を

社会が殺したのかもしれない――という視点も

「ありかも」とリアルに感じることができました。

 

おなじみ「AERA」(11/11号)いま観るシネマで

ウィレム・デフォーさんにインタビューさせていただいています。

怪演俳優、とも言われる彼が

どのように役に向き合うのか

ものすごく優しく、真摯に答えてくださって、感激しました。

 

話に熱中し、数センチまでに迫るような、深い瞳の色に

吸い込まれそうになった――(笑)

さすが名優!・・・・・・ちょっとした魔術でしたよ(笑)

 

「pen」さんにも映画評書かせていただいております。

 

映画と併せてお読みいただければ幸いです!

 

★11/8(金)から新宿ピカデリーほか全国順次公開。

「永遠の門 ゴッホの見た未来」公式サイト

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ワイン・コーリング

2019-11-04 16:11:02 | わ行

こちらは南仏で自然派ワインを造る醸造家たちのドキュメンタリー。

これまた、個性的なのだ!

 

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「ワイン・コーリング」70点★★★★

 

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「ジョージア、ワインが生まれるところ」(19年)とともに

「映画で旅する自然派ワイン」の特集上映で公開中の本作。

南仏ルーション地方で自然派ワインを造る生産者たちのドキュメンタリーです。

 

ジョージアワインから続けてみると、

まずロックミュージック&ゴリゴリにカットを刻んでくる

ハードなオープニングにビビる(笑)

 

同じ自然派ワイン括りでも

これほど味わいが異なるとは!

 

でも、進んでいくと、なるほど~と思う。

彼らはちょっとヒッピーなんだなあ

自然派、というポリシーのもとで

いわばコミューンを形成している人々なのだ。

 

彼らの造る自然派ワインは、

認証機関の規定に基づいて造られる「ビオワイン」ともまた違っていて

超我が道なやり方を貫いている。

 

農薬や化学肥料NOはもちろんのこと

添加物もナシ、ある人なんか機械も拒否し、馬で畑を耕したりもしていて

とにかく「自然のまま」がモットー。

 

注目はされているけれど、

まだまだ、かなりの少数派なんですね。

 

そんな彼らが、いかに闘い、相互互助によって成り立っているかが

この映画からよくわかります。

 

そして

「自然のまま」は当然ながら「放っとけばいい」とは違う。

 

ケミカルは使わないけど、そのぶん

めちゃくちゃ科学的に成分を分析したり、気象変化を読んだり

最先端のアプローチもあるんです。

 

そこのところも、実におもしろかったなあ。

 

研鑽を怠らず、ワインに全身全霊の

反骨者たちって感じ。

 

こちらのワインも希少ですが

試飲会でいただいたものは、どれも個性的で超おいしかった!

ぜひ機会あればお試しください~

映画に登場する生産者のワインがあるのはこちら。

オルヴォー

 

★11/1(金)から

「ワイン・コーリング」公式サイト

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