ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

エセルとアーネスト ふたりの物語

2019-09-28 23:58:38 | あ行

 

『さむがりやのサンタ』は

子ども時代からの大フェイバリット絵本。

いまだにキャンピングカー暮らしに憧れてますから。

 

「エセルとアーネスト ふたりの物語」73点★★★★

 

**********************************

 

1928年のロンドン。

貴婦人の家でメイドとして働くエセルは

ある日、牛乳配達をする青年アーネストに出会う。

 

毎日、お互いの姿を探すようになった二人。

そしてついにアーネストはエセルをデートに誘う。

 

2年後、二人は結婚し、ロンドン郊外に小さな家を買った。

 

やがて息子レイモンドが誕生するが

次第に戦争の影が、一家の幸せを脅かしていく――。

 

**********************************

 

『スノーマン』『風が吹くとき』

そして『さむがりやのサンタ』の作者レイモンド・ブリッグズ。

彼が自分の両親の人生を描いた原作を

アニメーション化した作品です。

 

両親二人が出会う1928年から、戦争をはさんで1971年までを描いていて

まず

鉛筆書きの素朴なタッチと、

なめらかなアニメーションの融合がとても美しい。

 

 

イギリスの市井の夫婦の

何気ない日常のあたたかく楽しいさまが

実に生き生きと活写されているんです。

 

レトロな湯沸かし器や洗濯機など

昔懐かしい暮らしが、愛おしい。

 

彼らの小さなしあわせが、不穏な戦争の影に覆われていく様子など

まさにイギリス版「この世界の片隅に」(16年)!という趣きで

その相似も興味深い。

 

夫婦のキャラクターも非常に立っていて

夫アーネストより5歳年上の妻エセルは

しっかり者で、ちょっと見栄っ張りなところもある。

いっぽう夫のアーネストは楽天的で、ちょっぴり繊細。

 

夫は労働党支持者で、妻は保守党びいきで

二人のやんわりとした家庭内政治談義も、

時代を写していておもしろいんですよ。

 

そんな二人にも

やがて老いが忍び寄ってくる。

 

1971年に、エセルが亡くなり

まさに追うように、同じ年にアーネストが逝く、という(涙)。

夫婦はきっといまも雲の上で

寄り添っているのだろうな、と思います。

 

ちなみにレイモンド・ブリッグズさんは現在85歳。

いまも、創作を続けていらっしゃいます!すごい!

 

★9/28(土)から岩波ホールほか全国順次公開。

「エセルとアーネスト ふたりの物語」公式サイト

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

WEEKEND ウィークエンド

2019-09-27 23:41:49 | あ行

たまんないな。この監督、好きだな。

 

「WEEKEND ウィークエンド」76点★★★★

 

*******************************

 

金曜の夜。

ラッセル(トム・カレン)はクラブで

グレン(クリス・ヒュー)に出会い

一夜を共にする。

 

土曜の朝。

アーティスト志望で皮肉屋のグレンと、マジメなタイプのラッセルは

互いの違いをおもしろがるように、会話を重ね、互いを知っていく。

 

土曜の午後も二人は出会い、

話をし、愛を交わす。

 

始まったばかりの恋人たちだったが、

土曜の夕方、グレンはラッセルにある告白をする――。

 

*******************************

 

番長の2016年ベスト2位の「さざなみ」(16年)

そして今年もベスト入り確実な

「荒野にて」(19年)のアンドリュー・ヘイ監督が

2011年に発表した作品。

 

ワシ、やっぱこの監督、好きだわ。

この人の持つ情感、質感、色味、空気感がすごく好きだわ

と、改めて思いました。

 

 

その情感は、重すぎず、どちらかといえばクールでもありながら、

しかしたっぷりと溢れ出していく。

深く切なく、しかもどこか残酷さを内包していて

それが真理をついているんですねえ。

 

この作品を知るまで

ご本人がゲイだとは知らなかったけど

その繊細さ、漂う冷徹さに

そうか。と、ちょっと腑に落ちる感じがしました。

 

この作品もゲイのカップルを描いてはいるんですが、

どんな人にも普遍の「恋」、そして人と人との関係が描かれているのが

めちゃくちゃいいんですよ。

 

 

どちらかというと真面目タイプの主人公ラッセルと

アーティスト志望で皮肉屋のグレン。

 

金曜の夜にクラブで出会い、一夜を共にした二人は

互いに「自分にはない」部分に興味を惹かれたのか

土曜日にも会い、会話を弾ませる。

 

それはまさに、誰もが経験する

知らない同士がお互いに興味を持つ瞬間のキラキラと

前のめりで相手を知りたい!と思う、あのきらめきそのもので

 

でも、お互いを知ることでぶつかり、

空気が悪くなりもするんです。

そして

それを超えて「ごめん」で、再び繋がり合う。

 

人と人との関わりのステップが

わずか週末の2日間に凝縮され、

忘れがたいはかなさと美しさを放つ。

その凝縮感と共感度合いが、ハンパない。

 

 

合間にはさまれる

夜明けの空、朝焼けの薄い雲の帯、

「荒野にて」にも通じる優しい時間が、美しすぎて泣きたくなる。

 

さらに

「古いものが好き」というラッセル君の家具や小物のセンスのよさも

人物造形に大きな印象を足してくれます。

 

ミカエル・アース、ミア・ハンセン=ラブ、サラ・ポーリー・・・・・・

ワシ的に、何度でも見返せる「空気」を共有できる

監督の一人だなあと。

 

それにですね、

観終わって、いつまでたっても、いまだに

「あの二人、どうしたかな」と、ふと思う。

そういう映画は忘れがたいんです。

 

★9/27(金)からYEBISU GARDEN CINEMAほかで公開。

「WEEKEND ウィークエンド」公式サイト

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アド・アストラ

2019-09-21 11:52:52 | あ行

 

もうこれでブラピにオスカーあげて?って感じですw

 

「アド・アストラ」74点★★★★

 

*********************************

 

近い未来。

人類は地球外知的生命体との出会いや資源を求めて

宇宙へと旅立っていた。

 

そんななか、アメリカ宇宙軍の宇宙飛行士である

ロイ少佐(ブラッド・ピット)は

冷静沈着、優秀な仕事ぶりを高く評価されていた。

 

が、あるときロイは上官から

驚くべき「極秘情報」を告げられる。

16年前に宇宙へ知的生命体を探索に行ったまま

消息を絶った父(トミー・リー・ジョーンズ)が

生きているかもしれないというのだ。

 

ロイは軍の指示で

父へのメッセージを宇宙へと送るのだが――?!

 

*********************************

 

豪華俳優やスケールの大きさに似合わず、

じっくりと人間の内面を掘り下げる思考系のSF。

好きなタイプでした。

 

まあ、とにかくIMAXの大画面に巨大に広がる

漆黒の宇宙空間、そしてブラピのアップに圧倒される(笑)

「ファースト・マン」(19年)のライアン・ゴズリングもだけど

宇宙ものって宇宙服着てるし、顔しか見えないし

それだけで説得力ある演技をし

映画もたせることができる俳優って、そうそういないんですよね。

 

で、このブラピが

完全にぼっち。

仲間と宇宙に行きもするんだけど

常人の域を超えた冷静さを持つ彼は、

感情を抑え込むあまり、同時に感情を持てなくなっているんですね。

だから物理的にも、精神的にもぼっち。

 

そんな主人公の孤独なモノローグが、黙々と続く。

 

映画も基本、静かなんですが

「宇宙に消えた父は、生きているのか?」と謎を追うミステリー要素が

全体をひっぱっていき

そこには「父と息子の確執」「父との対峙」というテーマがある。

 

さらに

起承として宇宙ものの定石である事故や

ハラハラのトラブルも起こる。

 

ただ、こうしたドキドキが

すべて「いま、確認されている事実」に基づく範囲内で起こる、というこだわりが

またおもしろいのだ。

サイエンス・フィクションではなく、サイエンス・ファクト、と資料にあるけれど

なるほどねー。

 

そこがオトナであり、リアルで、

また人間の寂しさ、哀しみが沁みるのでありました。

 

音楽もとてもよかった。

 

★9/20(金)から全国で公開。

「アド・アストラ」公式サイト

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エイス・グレード

2019-09-19 22:13:35 | あ行

8年生(中2)のイケてないヒロインが最高!

 

「エイス・グレード」75点★★★★

 

**********************************

 

来年、高校生になる

8年生(中2)のケイラ(エルシー・フィッシャー)は

「学年で一番無口な子」に選ばれるほど

目立たない女の子。

 

実は家で「ケイラの人生指南」的動画を撮影し、

YouTubeにアップしたりしてるけど

「いいね!」の数はイマイチだ。

 

シングルファザーのパパは

友だち親子を目指してるらしいが

はっきりいって、ウザかったりもする。

 

そんなイケてない日々や、自分を変えようと

ケイラは一念発起して、

憧れ男子エイデンにアプローチしようとするが――?!

 

**********************************

 

いやあ、これは

SNS時代の青春映画の、新たなヒロイン誕生!でしょう。

 

8年生(中2)のイケてないヒロイン、ケイラの

子どもらしい一途さと、冷静に自分を見ているクールさのせめぎあい、

その懸命さが愛おしくて

ププブッと吹き出しつつ、笑顔になってしまう。

 

まず高校生はよく題材になるけど

中学生を描いたものって、初めて見た気がする。

 

それだけイケてない時代なんだ、

葬り去りたい黒歴史時代なんだってことがよくわかるというか

だって

みんな太っちょだし、ダサいし、男子はガキだし!(爆笑)

 

そんななかでケイラは

YouTubeに「人生指南」的な動画をアップしてみたり、

「もっとこうなってるはずの自分」を思い描き、

自分を変えようと奮闘するわけですね。

 

毛布に潜ってキスや〇〇の練習をしたり

(つーか、いまどきの子どもは、YouTubeで〇〇のレッスンをするのか!笑)

ぽっちゃり目だけど、実はケイラ、かわいいから

全然眼中にない男子からアクション起こされたり。

(意味ねえし!笑)

 

そう、この映画が最高にいいのは

リアルスクールライフを描きつつも

そこに

苛烈ないじめの描写とかがあるわけじゃない。

さらに「妄想女子」方向にいくわけでもないってところなんですね。

 

どこかやさしくおっとりしつつ、

でも心にちょっとツンとくる普遍の思春期の痛みもあって

どの世代にも、刺さる。

そこが新しい。

 

なにより、これがいまを生きる中ボーの最先端、ってところが

貴重だと思う。

 

スナップチャットやインスタとともに生き

(もうフェイスブックなんて古!で、みんな使ってないんだそう

それがあることが当たり前な彼らの日常。

 

あふれんばかりの情報と、そのスピードに柔軟に対応し、

膨大な時間を、スマホに向き合って過ごすその姿に

部外者のオバさんは「大変だなあ」と思ったりもするんです。

 

 

それにねえ

ケイラが憧れる男子、エイデンのキャラがサイコーなんですよ。

もう、中学生男子のガキっぷり全開!って感じ(笑)

SNS時代だろうが、そこ変わんないんだなあと爆笑しつつ

もっと登場して欲しかった!

 

★9/20(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、渋谷シネクイントほか全国で公開。

「エイス・グレード」公式サイト

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プライベート・ウォー

2019-09-15 13:05:28 | は行

「ラッカは静かに虐殺されている」(17年)監督が

実在の戦場記者を描いた作品。

 

「プライベート・ウォー」72点★★★★

 

***************************************

 

アメリカ人ジャーナリスト、メリー・コルヴィン(ロザムンド・パイク)は

英国サンデー・タイムズ紙の特派員として

世界の紛争地帯を飛び回る戦場記者だ。

 

2001年、スリランカで取材中に被弾し

左目を失うが、

外国人記者賞の授賞式に黒い眼帯をつけて現れ

それが彼女のトレードマークにもなった。

 

その後も紛争地帯の現実を伝えるべく

過酷な取材を続ける彼女は

やがて猛烈なPTSDに襲われてしまう――。

 

***************************************

 

「ラッカは静かに虐殺されている」のマシュー・ハイネマン監督が

「バハールの涙」(19年)の女性ジャーナリストのモデルになった

眼帯の戦場記者メリー・コルヴィンを描いた作品です。

 

まずは演じるロザムンド・パイクの

憑依ぶりがすごい!

最初は作った感じの低い声が気になったんですが、

次第に

彼女の戦場での仕事ぶりに圧倒されていきます。

 

例えば、紛争地帯のやばい通行所で尋問されたとき

スポーツジムの会員証を見せて

「ヘルスって書いてあるでしょ?私は医師よ!」って、堂々とかます

その肝っ玉・・・!すげえ(笑)。

 

スリランカの取材中に片目を失い、

それでも「なにくそ」とまた戦地へ出かけていく勇気もすごいけど、

 

この映画は彼女を「ヒーロー」として描くのではなく

パーソナルな部分と

そこでの想像を絶する苦痛に重点がおかれているんですね。

 

戦地から戻っても

気付け薬のタバコと酒にまみれ、

生を確認するようにセックスに依存し

それでも悪夢やPTSDに悩まされるすさまじさ。

 

鏡に映る眼帯姿の自分に涙する瞬間の苦しさ。

しかし人前では、決して弱みを見せない異常なタフさ。

「伝えなければ」の信念と同時に

ジャーナリストの名誉も、しっかりと享受しようとする。

そんな人間臭さを、監督はみっちり描いている。

 

“戦場ジャンキー”ともいえる無謀な行動に

うーむ、と微妙な思いすら抱くのですが

たぶん、本人が生きていても

「このとおりだけど? いいんじゃない?」って言いそうで(笑)

そんなところが、いいなあと。

 

「戦争とは、限界を超えて耐える民間人の“静かな戦い”のことだ」――

そう書いた彼女自身の闘いを思い、

改めて、メリー・コルヴィンに、合掌。

 

★9/13(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「プライベート・ウォー」公式サイト

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする