ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ザ・ホークス~ハワード・ヒューズを売った男~

2011-04-30 20:01:01 | さ行

そうか
ラッセ・ハルストム監督って
「HATCI 約束の犬」(08年)もやってるんだ。
見てないけど。悲しすぎそうで。


「ザ・ホークス~ハワード・ヒューズを売った男~」58点★★☆

かの大富豪ハワード・ヒューズの
ニセ伝記を書こうとした
実在作家の回顧録が元です。


1970年代初頭のニューヨーク。

売れない作家
クリフォード・アーヴィング(リチャード・ギア)は
企画を出版社に持ち込んでは
ボツを食らい、意気消沈していた。

そんなとき、彼は
大富豪ハワード・ヒューズに目をつける。


ヒューズは隠遁生活を送っており、
実際に彼に会ったことのある人間は
ほとんどいないらしい。


誰もが知っていて、でも
誰も知らない人物――
これって最高のネタじゃね?


アーヴィングは
ヒューズに関する膨大な記事や資料をもとに
ニセ伝記を書こうとするのだが――?!



主人公の行いにはもう
「呆れた」の一言ですね。

しかも同業者(ライター)の所行だけに
余計むかっ腹が立つ(笑)。


名誉欲だけでインチキをして
ホークス=でっち上げな本を書くなんざ
チキンハートなワタクシには
想像もできませんよ。


ただこの話は、
70年代という時代背景に救われてますね。

盗難や文書偽造など
「もう犯罪じゃねえかコレ!」のレベルに至っても
さほどシビアでなく

街のおまわりさんを出し抜いた、くらいの
牧歌的なムードがある。


それに
どこでウソがバレるのか、ハラハラして見ていると
ひょっこりウソがマコトを生んだり、
思わぬネタが転がり込んできたりするというのにも
意外にリアリティがある。


可笑しかったのは
“本物”のジャーナリストが一目彼を見て
「あんた……ペテン師だね」と見破るとこですね。
わらた(笑)


しかし
肝心なインチキ主人公の
キャラが掴みにくいのがマイナス点。

どの程度、自覚してる悪人なのか?
動機はホントに名誉欲だけなのか?とか。


たぶん、高揚してるときだけは
ジャーナリスト気取りの浅いヤツなんだろうけど……。
(自分を振り返ってもそういうトコある。ゆえに痛い


ゆえに
自らの嘘に飲まれていく
終盤の描写も弱い。


ただ
ライターって誰もがやはり
相当に苦労して「テーマ」を探すんだなあというのは
今さらながらへぇ、と思いました。

ネタは向こうから
飛び込んできてくれはしないのね、やっぱり。

がんばろう!(ん?)


★4/30からシアターN渋谷で公開中。ほか全国順次公開。

「ザ・ホークス~ハワード・ヒューズを売った男~」公式サイト
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マーラー 君に捧げるアダージョ

2011-04-29 17:56:02 | ま行


公開相次ぐ音楽映画のなかで
これが一番、おもしろかったですね。


「マーラー 君に捧げるアダージョ」73点★★★★


あの「バクダッド・カフェ」(87年)の監督とその息子が
共同監督で
天才作曲家を描いた作品です。


1910年、夏。

ウィーンの宮廷音楽監督として成功している
グスタフ・マーラーは

オランダで休暇中の
精神科医フロイトを訪ねる。


マーラーは19歳年下の美しい妻アルマを
溺愛しているが、
先日、なんと
アルマが不貞を働いていたことがわかったのだ。

マーラーはフロイトの催眠誘導で
自分と妻の関係を
振り返りはじめるが――



冒頭からエモーショナルなムードで期待大。

思ったとおり
退屈な伝記映画にあらず

男女の心理や芸術家の業に迫るドラマで
見応えがありました。


「起こったことは史実。でも、どう起こったかは創作」という
冒頭のことわりも洒落ている。

マーラーがフロイトと会っていたことや
アルマが不倫してたことなどは
史実として残っているけど、

その中身やそれに至った心理は
想像ですよ、という。


その「想像」をうまく飛翔させたのが
この映画の成功ポイントですね。


偉人や歴史モノって
たいてい史実に縛られて、
教科書的でつまんなくなっちゃうから。


監督たちは
マーラーがものすごくきっちりな
生真面目さんであること、

エッチなことをタブー視しつつも
実は頭のなかで散々妄想してる、などを
生き生きと描写し、

それで
マーラーはフロイトに
「その抑圧があなたを蝕むんですよ。がんと同じくね」と
言われちゃったりする(笑)


さらに
妻アルマの人物像もしっかりと作られ、


自分も芸術家になりたかったのに
天才をサポートする人生を選んだ
その苦しみも身に迫ってくる。

彼女の叫びは本当に悲痛でしたね……


この時代は
「女」ゆえに抑圧されたという話も多いけど
アルマの場合はちょっと違うんで


男女、または夫婦間の役割や、
調和と、個の貫きかたのバランスなど
いまに通じるもの多いですね。


★4/30から渋谷ユーロスペースほかで公開。

「マーラー 君に捧げるアダージョ」公式サイト
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四つのいのち

2011-04-28 19:43:35 | や行

このビジュアルをみて
興味をひかれたあなた!

間違ってません!


映画「四つのいのち」70点★★★★


南イタリアのある山村を舞台にした
一見、ドキュメンタリーのようなんですが
厳密には違います。


映画はまず
山羊飼いのおじいさんの日常を
静かに(しかも遠くから)観察するような
シーンから始まり、

しかし
セリフも起承転結もなく
ただ、そこにあるものが映し出されるという感じ。


そのうちに映画の主人公が
お爺さんから山羊、もみの木、そして炭(!)へと
移り行き、

淡々としたなかに
いきなり
ものすごくシュールなことが起こったりする。


何が起こるかわからないので
ものすごい長回しも凝視しちゃうし
退屈そうにみえて(失礼!)
これが、寝ないんですよ!(笑)


つまりは
人も動物も自然も
すべてはつながっているんだよという話なんですが

でも
「環境」「オーガニック」とかのプラカードを
掲げてるような印象は一切ない。


なのに
「奢るんじゃねえぞ、人間」という
自戒を込めた思いが湧き上がってくる。


まるで禅問答のようでもあり、
悟りの境地にも見えてくる映画でした。


監督はタル・ベーラ監督が好きだそうで
あ、なーる!

すんごい納得ですね。


ちなみに宣伝ポスター(チラシ)のデザインは2種類。

はじめのヤギとおじいさんのバージョンが
シュールで、すごくいい!


こういうバージョンもあるんですが


こっちだと
もっと「環境」的メッセージを感じて
別の印象になりますよ。

チラシの印象ってつくづく、大事!


★4/30からシアターイメージフォーラムで公開。ほか全国順次公開。

「四つのいのち」公式サイト
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スコット・ピルグリム VS.邪悪な元カレ軍団

2011-04-27 20:10:54 | さ行

「キック・アス」や
「エンジェル・ウォーズ」が好きなら
これも観てみたら、どうでしょ?


「スコット・ピルグリム VS.邪悪な元カレ軍団」75点★★★★


カナダ出身の作家による
人気コミックの映画化ですが

これが
パックマンで、ファミコンで、
ストリートファイター

日本カルチャーへのラブ満載なんです。



カナダ、トロントに住む
22歳のスコット・ピルグリム(マイケル・セラ)。

オタク臭プンプンのルックスだが
一応、ロックバンドのベーシストで(アマチュアだけど……)
17歳の中国人女子高生と付き合っている。


ある日、スコットは
夢で見た女性ラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)に
現実世界で遭遇し

一目で恋に落ちてしまう。

が、ラモーナと初デート……というとき
スコットの前に
なんと邪悪な元カレが現れて
バトルを申し込む。

しかも、ラモーナと付き合うには
あと7人もいる
邪悪な元カレを倒さなくてはならないというのだが……!?



予告編を見て、
ツイッターで公開応援署名をした一人ですが、
いや~実ってよかった!

予告より笑えて
予想以上におもしろかったですよ。


主演のマイケル・セラ(「JUNO/ジュノ」のあの彼氏ね)をはじめ
「よくぞ集めたなぁ」という
ビミョーなルックスの役者たちに

話が
「バトル」なんて

B級狙いのドタバタかなぁと思いきや

けっこう骨格がしっかりしてるし
また
繊細な(?)小ネタが満載で。(笑)


映像も
マンガチックな擬音や演出を
かなりベタに使ってるのに
意外に見たことのない、新しいさがある。


しかも
バトルシーンが
思いっきりストファイだったり
(しかも番長が知ってるくらい昔の
アーケド版っぽい……笑)


聞き覚えのあるゲーム音楽が使われてたり、

邪悪な元カレ軍団に
斉藤慶太&祥太の双子がいたり、

音楽をコーネリアス(小山田圭吾)が提供してたり、


日本カルチャーへのラブ魂に
日本人としては
つい微笑んじゃいますねえ。


しかもおそらく彼らは
特に日本、とか意識してないでしょうね。


ファミコンもストファイもPSも

そんなのもう
日本のゲームで育った世代の
世界共通言語なんだなあと
感慨深かったです。


「エンジェル・ウォーズ」評にも書いたけど
あちらが最新鋭のXboxなら
こっちはあきらかに
ゲーム喫茶かファミコンかよ!という

ピコピコなキュートさで勝負す!


★4/29から渋谷シネマライズほか全国順次公開。

「スコット・ピルグリム VS.邪悪な元カレ軍団」公式サイト
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阪急電車-片道15分の奇跡-

2011-04-26 23:54:01 | は行

こういう善意の映画も
たまにはホッとしますな。


「阪急電車-片道15分の奇跡-」68点★★★☆


宝塚~西宮を15分で走る阪急電車。
そこに乗り合わせた人々を描く物語です。


曲がったことの大嫌いな
老婦人・時江(宮本信子)。


おませな孫(芦田愛菜)といつものように
阪急電車に乗っていると

そこに
ウエディングドレス姿の翔子(中谷美紀)が
乗り合わせる。


普段はほかの人同様、
都会人の距離感をクールに保っている時江だが
つい翔子が気になり、声をかける。


その様子を
女子大生のミサ(戸田恵梨香)も見ていた。

ミサは彼氏のDVに苦しんでいたが
別れる決断ができずにいる。


さらに
気の弱い主婦・康江(南果歩)や
地方出身の女子大生など

電車に乗り合わせた人々の糸が
すこしずつ絡み合っていき――。



人ともうちょっとだけ関わってみようよ、
そうすれば世界はもっとよくなるよ、という

素直さと善意が感じられる作品でした。


阪急電車の沿線に住む
さまざまな境遇の8人の日常が
編まれていく様子は

なんだかお決まりパニック映画の
予兆のようなんですが、

まあ
そんなことは起こらず(笑)


あくまでもほんわかに
展開します。



原作は「フリーター、家を買う」の有川浩、
脚本は「いま、会いにゆきます」や「おっぱいバレー」
いや、なんたって「ちゅらさん」の岡田惠和。

なんか「ちゅらさん」ですよ、やっぱし。


岡田惠和氏って
「こんなことない、ない」と思いつつも
「でも、あったらいいかもねー」と
思いたくなるドラマ作りが上手。



“善き心”を持った人が前提な清らかさや
悪人のわかりやすい描きかたは
キライじゃないし、


世界も認める
日本人のモラルや高潔さ、といった本質を
ついている気がします。


だから見やすいんでしょうね。


笑いもたっぷりなのに
常にどこか影があるというか
完全な“陽”でないのも
日本っぽいのかも。


特に周囲になかなかなじめない
女子大生(谷村美月)と
男子大生(勝地涼)のエピソードは
まさに「ちゅらさん」テイストだったなあ。


すべての要となって
作品を締めてくれる
宮本信子の存在も大きく、

天才子役・芦田愛菜も達者で

この二人のババ孫コンビが
ウケました。


この沿線に思い出がある人には
特にたまらないでしょうねえ。


★4/29から全国で公開。

「阪急電車-片道15分の奇跡-」公式サイト
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