ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代

2017-04-29 23:28:30 | た行

御年92歳(!)
現役の巨匠。


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「Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代」67点★★★


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1950年代に撮影された写真集「アメリカンズ」で知られる
巨匠ロバート・フランクのドキュメンタリーです。


1924年にスイスに生まれた彼は
御年92歳で、バリバリ現役。


「写真は一枚目が素晴らしい。カメラを意識すると、人は変わるから」
「被写体には話しかけないし、話しかけられるのも嫌いだ」などなど
巨匠の「写真の撮り方、心得」が学べて
「わお!」な映画ですが


監督が、彼の映像作品の編集をしていた
ローラ・イスラエル女史で

ゴリゴリのロックから始まり、
音楽に合わせて彼の写真と足跡が語られ

全体がコラージュ写真のようというか、
ロックな、いやビートニクな感じ。

正直、普通のドキュメンタリーとは違うので
ちょっと見ずらくはあります。

まあ
ローリング・ストーンズのツアーに同行して映画を撮ったり、
トム・ウェイツらが出演した映画を撮った
彼のノリやソウルを、よく表しているなと思いました。

昨年、公開されて話題となった
「写真家ソール・ライター 急がない人生でみつけた13のこと」
のソール・ライターとも近しかったそうで

「ハーパス・バザー」や「ヴォーグ」のファッション写真を経て
ジャーナリズムや映画製作に方向を定めていった
ロバート・フランク氏の成り立ちは

ソール・ライターのそれと比較してもおもしろいですねえ。

ちょうどBunkamura ザ・ミュージアムで
ソール・ライター展が開催されているので
合わせて見るといいかも!


★4/29(土・祝)からBunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

「Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代」公式サイト
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僕とカミンスキーの旅

2017-04-26 22:54:29 | は行

「グッバイ、レーニン!」監督×主演コンビが
12年ぶりのタッグ。


「僕とカミンスキーの旅」68点★★★☆


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31歳のセバスティアン(ダニエル・ブリュール)は
“自称・ジャーナリスト”。

野心とやる気は満々でも
実はまだ何も成し遂げていない彼は
天才画家カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)の
伝記を書こうと思い立つ。

“盲目の画家”として
マティスやピカソに一目おかれ
ウォーホルとも交流のあった彼は
美術界の生ける伝説だった。

だが
カミンスキーのもとを訪れたセバスチャンは
予想外の事態に巻き込まれることになり――?!


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「グッバイ・レーニン」監督、
長編劇映画も12年ぶりなんですね。

伝説の画家と野心ある青年ライターが織りなす
ロードムービーで

嘘っこの“伝説の画家”が
あの「アートシーンにいた!」と
かなり「それっぽく」作り上げた、フェイク加減におかしみがあり。

さらに
「まだ何も成し遂げてない」の青年の焦りや
人の人生を聞き、書かせてもらうことで自分を成すという
同じ職業ならではのシンパシーもあり

おもしろかったのですが

ただ
映画のリズムがちょっと変化球なことと
主要な登場人物どちらも“難物”で、感情移入しにくいのが
難しいところかな。

原作小説があるそうで
監督はインタビューでその小説を
「長編小説というより、むしろ長くなりすぎた短編」と
語ってるんですが

なんだか映画見ても
それがわかるような(笑)

それでも
現代アートで遊んだエンドロール含め、
美術好きには楽しいです。

オチも好き。


★4/29(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「僕とカミンスキーの旅」公式サイト
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草原の河

2017-04-25 23:55:04 | さ行

日本で初めて
チベット人監督による劇場公開映画。


「草原の河」70点★★★★


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チベットの草原で牧畜民として暮らす
6歳の少女ヤンチェン・ラモ。

父親のグルは、自身の父親と確執があり
それによって村のなかでもちょっと浮いた存在だ。

そんななかヤンチェンは
母に赤ちゃんができたことを知る。

ヤンチェンの心に、不安と苛立ちが
広がっていく――。


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1973年生まれの
チベット人監督、ソンタルジャの作品。

草原に暮らす一家を描き
起こる出来事は極めてシンプルなんだけど
雄大な風景と、そのなかでの牧畜民の暮らしぶり、そして少女の成長に
普遍の魅力があります。

それに
俳優たちの「顔」が実に素敵なんですねえ。

特に終始、すねて不機嫌顔な少女ヤンチェン・ラモが
まるで奈良美智さんの絵のようで(笑)

ヤンチェンもお父さん役のグルも
監督の親戚で、演技は素人なのだそう。

いやあ、いい役者を探してきたものです。
お父さん役グルもカッコイイ。

それにしても
この広い広い草原のなかで
若き父グルが抱える父親との確執も
生まれてくる赤ん坊にヤキモチを焼くヤンチェンの悩みも
人間って
なんとちっぽけなものだろう――と思わずにいられない。

そしてどんな世界でも
子どもも嘘をつくけど、大人も嘘をつく。
「そんなのお互いさまだよと」と草原の風が
笑って包み込んでくれる。

そんな感じでした。

プレス資料にある星 泉先生(東京外語大)の解説によると
父グルとその父との確執の背景には
文化大革命があるとのこと。

僧侶だったグルの父は文革で還俗し、結婚し、グルを授かったけど
時代が変わったことで再び僧院に戻り、家族と距離を持った。
それで父と息子のあいだに、距離が生まれた・・・と解読できるそうです。

チベットの歴史背景も考えると
さらに深いですね。


★4/29(土)から岩波ホールで公開。ほか全国順次公開。

「草原の河」公式サイト
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トトとふたりの姉

2017-04-24 23:37:28 | た行

これ、ホントに
ドキュメンタリー?!


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「トトとふたりの姉」80点★★★★


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ルーマニア・ブカレスト郊外で
劣悪な環境から人生を立て直そうとする姉妹と
10歳のトトを写した作品。

これ、ホントに
ドキュメンタリーとは信じられないドラマチックな映画なんです。
「よく撮ったな」と思うしかない。

そして

「エリザのために」
でも明らかになった
ルーマニアという国の疲弊、治安の悪さも重く感じます。


主人公のトトと17歳のアナ、14歳のアンドレア姉弟は
貧しい都営団地のようなアパート群で暮らしている。
そこはロマのコミュニティで
社会からうち捨てられたような場所。

部屋には水道もガスもなく
若者たちはドラッグをやり、仕事もない。

トトたちの母親は麻薬売買で刑務所にいるので
姉弟は子どもたちだけで暮らしている。


映画は
ゴミやら衣類やらが散乱したアパートの一室を
姉たちが片付けているシーンで始まるんですね。

「もうこんな生活はいや!ちゃんとしたいの!」と言いながら掃除をする長女アナの
だらしない生活と決別したい
いまの暮らしをなんとかしたい
とりあえず、部屋を片付ける!って気持ち、とってもよくわかる。

無力な彼女たちにできる、精一杯の決意と抵抗。


でも、少しきれいになった部屋に
あっと言う間にドラッグ中毒の男たちが集まってくるんだわー・・・。

そして「もうドラッグはやらない!」という姉も
結局、手を出してしまう・・・。


この姉弟はまさに
か細い一本のくもの糸の上を歩いているようで
わずかなことで、
下へ下へと落ちてしまうんですよ。

でも映画は決して
“悲惨な状況”を写すことが、目的じゃない。

悪い状況のなかで
「子どもたちが、一瞬見せる輝き」
大人が「助けられたかもしれない」
その瞬間を見事に捉えていて
それが我々に「何か」をギフトしてくれるんです。


例えば、トトが課外授業で
ヒップホップダンスに出合った、その瞬間。

その顔の輝きといったらもう!

その瞬間を写せただけでも
この映画にはものすごい価値があると思う。


反面、せっかくドラッグから抜け出して、仕事をする気になったのに
「ある理由」で元の木阿弥に落ちてしまう姉アナの
「その瞬間」も非常に貴重です。

そして美しかったアナが落ちていく顛末が・・・(泣)


トトたちの未来は、決して明るくないけれど
でも、彼らはいまも、生き続けている。


貧困やドラッグ中毒、育児遺棄や虐待・・・
子どもをめぐる問題が、
なぜ起こり、どうして、こうなってしまうのか。

手を差し伸べるとすれば
それは「どこ」なのか。

ここに写るリアルから、
あらゆることが学べると思います。

観るべし!


★4/29(土・祝)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。


「トトとふたりの姉」公式サイト
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スウィート17モンスター

2017-04-19 23:53:30 | さ行

見るべーし!(笑)


「スウィート17モンスター」79点★★★★


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ネイディーン(ヘイリー・スタンインフェルド)はイケてない17歳。

同じようにガキんちょからスタートしたのに
うまく立ち回って“勝ち組”になった兄貴(ブレイク・ジェナー)
憎悪し(笑)

空回りし、突飛な行動をしては、
いつも母親や周りを困らせている。

彼女の唯一の理解者は
親友のクリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)だけだった。

だが、ある日
クリスタが兄貴と恋に落ちてしまい――?!


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いやあパンチと気の利いた映画っす!

イケてない女子高生の青春が、
誰もが通るあの時代の痛みを思い出させて、ある意味キュン死(笑)


“こじれた”ティーンはいくつも描かれてきたけれど
このネイディーンは
“イケてない”のにえらく存在感と破壊力があるというか(笑)
いわゆる「青春の暗黒時代」、今ふうにいえば「黒歴史」?のリアルさがすごい。

ファッションセンスもズレているし(鹿柄のセーター・・・笑)
口を開けば皮肉ばかり。

そんな彼女と先生(「グランド・イリュージョン」のウディ・ハレルソン!)のやりとりが、実にいい。

「先生!私、いまから自殺するから!
「わお。それは驚いた。先生もいま遺書を書いていたところなんだよ・・・」みたいな(笑)

あざとくない、でも自然にハズした呼吸。うまい脚本だー。


そして、自分に好意を持ってくれてる男子には目もくれず
学校の人気者男子に、あらぬ妄想を抱いてしまうネイディーン。

学校に行きたくないとダダをこね、
母親の職場に連れてこられるネイディーン。

・・・結局、図体のでかい子どもなんですよね(笑)


自意識過剰で、セルフイメージと現実とのギャップに苦しみ
自分を愛してくれる人がいるのに気づかない。

でも、それが17歳ですから!
自分の居場所、ハマる相手になかなか気づかないのが、この時代ですから!

いや、いまでもこじらせ続けてる人もいますから!(誰のこと?ガーン!
「17歳でここまで気づけば大ハッピーだよ!」と
背中をボンッ!って、してあげたくなります。


★4/22(土)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかで公開。

「スウィート17モンスター」公式サイト
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