ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

プライベート・ウォー

2019-09-15 13:05:28 | は行

「ラッカは静かに虐殺されている」(17年)監督が

実在の戦場記者を描いた作品。

 

「プライベート・ウォー」72点★★★★

 

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アメリカ人ジャーナリスト、メリー・コルヴィン(ロザムンド・パイク)は

英国サンデー・タイムズ紙の特派員として

世界の紛争地帯を飛び回る戦場記者だ。

 

2001年、スリランカで取材中に被弾し

左目を失うが、

外国人記者賞の授賞式に黒い眼帯をつけて現れ

それが彼女のトレードマークにもなった。

 

その後も紛争地帯の現実を伝えるべく

過酷な取材を続ける彼女は

やがて猛烈なPTSDに襲われてしまう――。

 

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「ラッカは静かに虐殺されている」のマシュー・ハイネマン監督が

「バハールの涙」(19年)の女性ジャーナリストのモデルになった

眼帯の戦場記者メリー・コルヴィンを描いた作品です。

 

まずは演じるロザムンド・パイクの

憑依ぶりがすごい!

最初は作った感じの低い声が気になったんですが、

次第に

彼女の戦場での仕事ぶりに圧倒されていきます。

 

例えば、紛争地帯のやばい通行所で尋問されたとき

スポーツジムの会員証を見せて

「ヘルスって書いてあるでしょ?私は医師よ!」って、堂々とかます

その肝っ玉・・・!すげえ(笑)。

 

スリランカの取材中に片目を失い、

それでも「なにくそ」とまた戦地へ出かけていく勇気もすごいけど、

 

この映画は彼女を「ヒーロー」として描くのではなく

パーソナルな部分と

そこでの想像を絶する苦痛に重点がおかれているんですね。

 

戦地から戻っても

気付け薬のタバコと酒にまみれ、

生を確認するようにセックスに依存し

それでも悪夢やPTSDに悩まされるすさまじさ。

 

鏡に映る眼帯姿の自分に涙する瞬間の苦しさ。

しかし人前では、決して弱みを見せない異常なタフさ。

「伝えなければ」の信念と同時に

ジャーナリストの名誉も、しっかりと享受しようとする。

そんな人間臭さを、監督はみっちり描いている。

 

“戦場ジャンキー”ともいえる無謀な行動に

うーむ、と微妙な思いすら抱くのですが

たぶん、本人が生きていても

「このとおりだけど? いいんじゃない?」って言いそうで(笑)

そんなところが、いいなあと。

 

「戦争とは、限界を超えて耐える民間人の“静かな戦い”のことだ」――

そう書いた彼女自身の闘いを思い、

改めて、メリー・コルヴィンに、合掌。

 

★9/13(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「プライベート・ウォー」公式サイト

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ペトラは静かに対峙する

2019-06-30 00:49:37 | は行

これまた究極のイヤミスだなあ!(好き。笑)

 

「ペトラは静かに対峙する」75点★★★★

 

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スペイン、カタルーニャ。

高名な彫刻家ジャウメ(ジョアン・ボテイ)の邸宅に

美しき画家ペトラ(バルバラ・レニー)がやってくる。

 

ジャウメと創作をする、というペトラは邸宅に泊まり

ジャウメの妻や息子と親交を深めていく。

 

が、実はペトラの真の目的は

ジャウメが自分の父親かどうかを確かめることだった。

 

しかし、周囲の人々の話を聞くうちに

ジャウメが邪悪で冷酷な人物であることがわかってくる。

 

そんななか、ジャウメ家の家政婦が自殺をする。

え?なぜ?――

 

困惑するペトラは

ジャウメの深い罠に巻き込まれていく――。

 

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いや~久々にしびれましたよ。

究極のイヤミス!(笑)でも引き込まれるんだよね・・・・・・。

 

まず

第2章から始まり、3章、そして1章、と

章をバラバラし、時系列を遡っていく手法に驚かされた。

 

章が飛ぶので一瞬、「あれ?寝てた?」って焦りました。

(笑。いや、今回は寝てませんでしたよ!

 

その後も、時系列がバラバラなことで

ある残酷な結果を知りつつ

それが起こる過程を後から見る・・・・・・、という感じになっていて

これがおもしろい。

 

バラすとまったくつまらないので

ぜひ、劇場で堪能していただきたい!

 

しかし、おもしろい――って言っていいんですかね

中身は相当に王道なエグい悲劇でもあり、

運命の皮肉であるんですよね。

 

 

言ってみれば

創造主であり、かつ破壊神を気取るかのような、

鬼畜な彫刻家ジャウメが

たわむれに人の生や死、運命を翻弄する、という内容で。

 

それでもゲスに終わらず

ギリシャ悲劇のような重みを持つのは、

映画を盛り上げる音楽の妙か、

ドア越しや部屋の外から中へ、また逆へ、と

登場人物の視点とは関係なく動く第3の目、なようなカメラのせいか。

 

はたまた

すべてをじっと見つめて、静かに対峙する

美しき女神のようなヒロインの横顔のせいかもしれません。

 

監督は1970年生まれ(タメ!w)の

ハイメ・ロサレス氏。

高尚のなかにある、この毒っぷり。

なんか、話が合いそうな気がします(笑)

 

ちなみに

ジャウメを演じたジョアン・ボデイ氏は、化学・農業学のエンジニアで

まったくの素人俳優なんだそう。

それにして、この存在感――怖っ!

 

★6/29(土)から新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「ペトラは静かに対峙する」公式サイト

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ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた

2019-06-07 23:53:53 | は行

 

いいね!

彼女の歌、まだ心に響いてる。

 

「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた 」75点★★★★

 

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ニューヨーク、ブルックリンの海辺の街で

レコードショップを営む父(ニック・オファーマン)。

 

元バンドマンの彼は妻に先立たれてから

幼い娘を男で一つで育ててきた。

 

その娘サム(カーシー・クレモンズ)はマジメな高校生に成長し、

どこかオトナになりきれない父に、少々げんなりしつつも

良好な関係を続けている。

 

ある夜、父に無理矢理誘われ、

音楽セッションをしたサムは、オリジナルの歌詞をつけながら

父との合作でいいメロディを生み出す。

 

「え?これ、けっこうイケてない?」

はしゃぐ父が翌朝、ネットに曲をアップすると

思わぬ反響があり--?!

 

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オトナになりきれない父と、しっかり者の娘コンビの物語。

プラス、トニ・コレットがいい感じで〆てくれて

想像以上に「いいじゃん!」マーク。

 

最初は、マジメに勉強する娘に

「あそぼーよ~」とちょっかいを出してくる父親に

「こいつ、正気か?!」と驚いたんですけどね(笑)

 

まあこの凸凹父娘コンビがいい具合。

 

思春期の娘に

「気になる相手がいるのか? どんな男? いや、女?」とか

ふっつーに聞ける父親って、ステキすぎるよ(笑)

元バンドマンという自由人気質と、ニューヨーク・ブルックリンという舞台の

場所柄もあるかもしれないけど

 

こんな親子になりたいなあと、父の立場でも、娘の立場でも思ってしまいました。

 

「子の自立」「親の子離れ」なども描きつつ、

娘は医者の道と、音楽の道、どちらの道を選ぶのか--?!の展開にドキドキ。

 

地に足ついた現実はある。

でも、どこかにドリームの予感が残るのがすごくいい!

 

それに、なんたって

音楽がいいんですわ!

 

オリジナルで作られた、親子のあの曲、ヘビロテしてます。

 

来週6/10発売の「AERA」で

「父を描く映画」特集記事を企画&執筆いたしました。

「ハート・ビーツ・ラウド」含め、いま「父」を描く良作が続々公開!

ということで

発売の折りには、ぜひご一読いただければと思います~

 

★6/7(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかで公開。

「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた」公式サイト

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ベン・イズ・バック

2019-05-25 12:26:17 | は行

今度は母・母つながり(笑)

 

「ベン・イズ・バック」69点★★★★

 

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クリスマスイブの朝。

19歳のベン(ルーカス・ヘッジズ)が

突然、実家に戻ってきた。

 

母ホリー(ジュリア・ロバーツ)は大喜びで迎え入れるが

妹(キャスリン・ニュートン)と良き継父(コートニー・B・エヴァンス)は

微妙な表情だ。

 

というのも

ベンは薬物依存症で施設に入居しており

そこを抜け出して、帰ってきたのだ。

 

家族は母ホリーが24時間ベンを監視することを条件に

1日だけ息子の滞在を認めた。

 

しかし、翌日。教会に出かけた一家が帰宅すると

家が荒らされ、愛犬が消えていた。

 

ベンの昔の仲間がやったのだ。

犬を取り戻すために家を飛び出した息子を

母は必死に追いかけるが――。

 

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「ある少年の告白」(19年)といい

最近、大活躍なルーカス・ヘッジズが主演。

 

本作の演技も実にナイーブで

ほんの少しの何かがトリガーになり、全てが壊れてしまう、

ギリギリの淵を行く

依存症の若者の内面を、見事に演じています。

 

依存症者の苦しみ、抜け出すことが難しい病みの深さ、

その危険が

いかに日常と地続きにあるか、その怖さがよくわかる。

 

そう、彼はいいんです。

でも、問題は「母親」(苦笑)

 

基本は理性ありそうなんだけど

結局、なりふり構わず息子を救おうとする母、ジュリア・ロバーツの

気持ちはわかるけど、倫理的にどうなの、という

言動や行動に共感できるかが

微妙なところなんですよねえ。

 

息子の薬物依存の発端になった医師に

彼女が吐く言葉とか。

いくら恨んでいても、人を呪ってはいけないよ。

呪いは自分に跳ね返ってくるからさ。

 

母親の息子への感情って

現実世界でも、特別なんだなあと感じる機会が往々にしてあり

この映画の妹が感じる「なんなのさー」のほうに

感情移入してしまったのかもしれない。

 

父と息子が、同じ問題で闘う

「ビューティフル・ボーイ」(19年)

併せて見ると、おもしろいかもしれませんね。

 

★5/24(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開。

「ベン・イズ・バック」公式サイト

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パリの家族たち

2019-05-24 23:58:12 | は行

パリ・パリ続き(笑)

 

「パリの家族たち」70点★★★★

 

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「奇跡の教室」(16年、超・良作!)監督が「母親」とは、をテーマに

女性大統領、シングルマザー、独身女性・・・・・・

10人ほどの女性のエピソードを群像劇でまとめた作品です。

 

特に

“母と娘”に焦点があたっており

独善的な母親のもとで育った三姉妹の話がおもしろかった。

 

 

長女はジャーナリスト、次女は大学教授、三女は小児科医と

それぞれのキャリアに進みつつ、

私生活部分では

長女はシングルマザー、次女は独身主義で子ども嫌い、三女は養子を欲しがってる。

 

三者三様の道をゆきつつ

全員がいまだ母の影響を引きずってるんですよね。

 

で、長女の娘は反抗期で

その関係はうまくいかないとか

ああ、因果は巡るよ(笑)

 

冒頭のナレーションが映画の意図とキモを

端的に現していて

 

「だれもが母親のお腹の中という同じ出発点からはじまる。

公平な出発点から千差万別な人生を歩む」

「母親は不死身と思うから、多くを求めてしまう」

ズバリ、言い得て妙だなあと。

 

「母親万歳!」や「母性讃美!」ではなく、

誰もに「母」はいて、

誰もがその関係と向き合ってる、というテーマがいいと思った。

 

ただ

ちょっと音楽が過剰なのか

微妙な感情の押し付け風味を感じたのと

この三姉妹の話に絞ってもよかったのかな、という気はしました。

 

個人的には

「母親讃美」な風潮に「なんぼのもんや」というスタンスで

バスのなかでちょっとしたイジワルをしたり

「ベビーカー問題」にも言及する、子ナシ教授にちょいシンパシーあったんで。

ワシ、いやな女ですな(笑)

 

★5/25(土)からシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「パリの家族たち」公式サイト

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