ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

タンタンと私

2012-01-30 23:45:41 | た行

えーと、実際のところ
3Dの「タンタン」より
こっちのほうが、俄然おもしろいですよ。

「タンタンと私」72点★★★★

世界中に愛されるキャラクター、
あのタンタンの作者エルジェ(1907~1983)。

あまり素顔をさらさない世界的漫画家に、
なんと40年前、インタビューをした大学生がいた。

大学生はその後、そのインタビューを本にしたのだが

本作はそのときの録音テープをもとに

タンタンの大ファンだった
オステルガルド監督が
エルジェ氏の人生と内面に迫る
ドキュメンタリー映画に作り上げたもの。


あまり自身を語らなかったというエルジェ氏が、
どういう心境からか、
ある大学生の取材を了承し、
しかも、かなり突っ込んだ話をしているのが、まずすごい。


1907年にベルギーに生まれた氏が、
カトリックの厳しい家庭に育ち、
生涯をその規範に縛られていたことや

意外なタンタン誕生のきっかけなど
驚くことばかり。

なぜタンタンが少年記者なのか、とかも
初めて知りました。

さらに以前から
氏の未亡人が「やけに若いなあ」と気になっていたので、
その出会いの顛末などにも「へぇ~」と。


しかも、インタビューをした人物は映画のなかで
後にこのインタビューを本にしたとき、
エルジェ氏から校正に次ぐ校正が入り
「完成に3年もかかった」と話していて(汗)


それだけ氏にとって「しゃべりすぎた」ものだったんですねえ。


それだけに生録音で綴る本作は貴重なものだし、

インタビューを仕事にする者として
ものすごく“うらやましい”と感じた。

でも確かに思い返すと大学生のころのほうが、
意外に人や社会が寛容だった気もする。
「学校の課題で」とかで、あちこち入り込めたもんなー。

それを思うと、このインタビュアーは実にうまく
タイミングと運を利用したと思う。


そしてやっぱり短いインタビューのなかで
対象にここまで迫れたのは
幸運だけでなく彼に「何か」があったのでしょうね。


ただ、当時のインタビューはテープだったので
エルジェ氏本人の映像が多くはなく、
そこはやや残念ですが、
それでもこの内容は十分魅力的。

数少ない氏の映像を見ると、
これまた
タンタンそっくりの細身で
頭の形のよい風貌なのがすごくステキ!(笑)

★2/4(土)から渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマほかで公開。ほか全国順次公開。

「タンタンと私」公式サイト
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ペントハウス

2012-01-29 20:07:05 | は行

いろんな意味で
想像してたのと違ったけど、それはそれで(笑)

「ペントハウス」69点★★★☆

ベン・スティラー×エディ・マーフィーが
「モンスター上司」の監督と組んだ
痛快エンターテイメントです。


N.Y.マンハッタンにそびえる
超高級マンション「ザ・タワー」。

タワーの管理マネージャー、ジョシュ(ベン・スティラー)は
セレブたちの快適な暮らしのために日々気を配り

最上階ペントハウスに暮らす大富豪(アラン・アルダ)にも
大いに気に入られていた。

が、あるとき
大変な事態が発覚する。

大富豪が実は詐欺師だったのだ!

しかもジョシュたちタワーの従業員は
彼を信頼し、わずかな年金を預けていた――。

従業員たちの金を取り戻す決意をしたジョシュは、
プロの泥棒(エディ・マーフィー)に協力を持ちかけるが――?!


華やかな摩天楼が舞台なんで、
金持ちエリート同士の
成り上がり目的の闘いなのかな、と思ったら、
違ってました。

マジメに働く一般市民 VS いけすかない金持ちという図式で
意外だったけど、なかなか爽快。

しかも
スマートな頭脳戦なのかしらん、と思ってたら
違ってて、かなりドタバタ(笑)。

それでも
マジメに働いてもなかなか報われない“弱者”の視点に
キチンと立っていて悪くない。

彼らは被害を報告しても、同情だけで切り捨てられる
「末端の被害者」たちで、

そんな彼らの奮闘は、やはり応援したくなります。

どこかのスーパー・スパイとは違い(笑)、
作戦も行動もずさんだけど、

シビアさがないぶん気楽だし、
一市民としては胸がすくところはありました。


犯罪のプロに助けを求めたり、
誰もが持ってる社会不満をテーマにしているあたり
「モンスター上司」に似てましたね。

マシュー・ブロデリックや
「プレシャス」のガボレイ・シディベなど
キャスト配置も気が利いてます。


特に泥棒テクを憶えるため
「ショッピングモールで万引き作戦」するシーンには笑った。
(注)くれぐれもマネしないように(笑)!

ラストのリアリズムは必要だったかなとも思うけど、
まあ倫理的には、ね。


★2/3(金)から全国で公開。

「ペントハウス」公式サイト
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麒麟の翼

2012-01-27 19:53:11 | か行

待ちに待った劇場版「新参者」!

「麒麟の翼」74点★★★★

ある夜、
東京・日本橋で男性が殺害された。

被害者の青柳(中井貴一)は、腹部を刺されたまま
日本橋にある麒麟像の下まで
通報もせず、歩いてきていた。

なぜ、彼は8分間も歩いたのか?
なぜ、この場所なのか――?

日本橋署の切れ者刑事、加賀恭一郎(阿部寛)は、
いとこの刑事・松宮(溝端淳平)と、
事件の捜査に乗り出すのだが――?!

ドラマ「新参者」のファンだったので
映画化を楽しみにしておりました。

で、満足いたしました。

ある会社員の死を発端に謎を解いてゆく
しっかり骨格のあるミステリーで、

おそらく原作の巧みさを十分に生かしたのでしょう、
中身の詰まった出来でした。

シリアスな雰囲気のなか
飄々とした阿部寛と、技の受け役・溝端がいいコンビで
緊張をほぐしてくれます。

それにメイン舞台は日本橋だけど
やっぱりホームは人形町!というところが
嬉しかったりもして。

阿部ちゃんのスケール(身長含む)は
やはりスクリーン映えしますしね。

ただラスト、
すべてを納めるところに納めないと気がすまない主人公に付き合わされ、
少々冗長なのが惜しかった。

あと15分削れば、さらにシャープに美しかったのでは。 

★1/28(土)から全国で公開。

「麒麟の翼」公式サイト
コメント (2)
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J・エドガー

2012-01-24 23:46:02 | さ行

イーストウッド×ディカプリオ。
初のタッグに
期待も高まったんですが――。

「J・エドガー」(1/28公開)63点★★★


FBIの初代長官として
50年間アメリカ中のあらゆる秘密を掌握していた
J・エドガー・フーバーの生涯を描いた作品です。


70代になったフーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、
部下に回顧録を書き取らせることにする。

若き日の彼は
まだ“捜査”が未発達だった時代から
物事を“システム化”する術に長けていた。

その手腕を生かして
科学捜査の基礎を作った彼は、

同時に歴代大統領たちの秘密を握り、
巨大な権力を手にしていくのだが――。


初っぱなから老けメイクのディカプリオが
ドーンと登場。

老フーバー長官が語るFBIの歴史に、
当時の大事件を織り交ぜていくスタイルで

完全に「フーバーが語る」伝記。

構成も時系列の回想の羅列、という
かなーりシンプルというか単純な作り。

にしては寝ずに見ましたが、

うーーん
ディカプリオは「巨匠監督との期待作!」というムードと
どうも相性が合わないというか、
なかなか恵まれないようで、気の毒。

彼が悪いわけじゃなく、
伝記ものにありがちな過ちに
引っ張られてしまった、と言うことなんですがね。

伝記ものって
実在の人物をどう「映画の主人公」として
デザインし直し、組み立てられるかというところに
全てがかかってると思うんですよね。

遺族や関係者に配慮して、人物設計がボヤけてないか、

さらに語る側の一方的な言い分を
どう公正に、観客に感情移入させられるか。

本作は残念なことに、
そうした伝記モノの陥りやすい
すべての罠に当てはまってしまったのではないか、と。


特に個人的感情や、プライベートに関して
かなりぼかした感じになってるのもあり
人物に入りこみにくい。

イーストウッド監督をしても、
そうなってしまうのか!という。

ただ、名前だけはよく聞く
フーバー長官という人が
「こんなことをした人なんだ!」という驚きは確かにあるし、

おなじみの
「地元警察とFBIの確執」構図の
原点を知ってふむふむ、とは思いました。

しかし、やっぱりこれでは
情感が足りないよなぁ~~。

特に生涯独身であったフーバーの私生活など
もっと「切ない!」描写ができそうなものなのに
描き込みが足りない~~!

描いちゃえ!描いちゃえ!とか
思いますよね、やっぱり。

だって、これは記録でなく映画。
真実は「機密のまま」、謎のままでいいんだから。

なにより困ったのは
老けメイクのディカプリオが
フィリップ・シーモア・ホフマンに見えてしまうことだったり…(苦笑)

★1/28(土)から全国で公開。

「J・エドガー」公式サイト
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DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る

2012-01-23 19:18:43 | た行

なんでこんなにタイトルが長いの(笑)

「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」70点★★★☆

国民的アイドルグループAKB48の
2011年の1年間を追ったドキュメンタリーです。

3.11から始まり、被災地での活動の様子、
そして総選挙、西武ドームライブ、じゃんけん大会……etcと、

泣き笑い満載のドラマを
各メンバーのインタビューを盛り込んで構成してあります。

で、どうだったかというと
いやー、ポロリ泣いちゃいましたよ(笑)
周りのお兄ちゃんもおっさんも泣いてたんじゃないか?

だって彼女たちがホントによく泣くんだもん。
勝負に勝ったとき、負けたとき、何かを得たとき、
どんなときでも
人間こんなに泣けるのかってほど
全身で慟哭する様はすごい。
そして、どれも気持ちいいんですよね。


あらゆる物事すべてに全力でぶつかっていく無防備さと、輝き。
その反面にある危うさに
いやでも心を動かされます。
若いっていいなあ(しみじみ)。

特におもしろかったのは
西武ドームコンサートの裏側かな。
舞台裏の大混乱とパニックを間近に見る臨場感は、
ドラマとして見応えがあります。

それとやっぱり
被災地での活動風景ね。

「何をすればいいのか」大人だって悩むなかで、
少女たちがこわごわ現地に行く姿には、

そもそも受け入れてくれる人がいないと成り立たない、
この職業の“性”が浮き彫りになる。

それは客が数人だった初期の劇場でも
9万人を動員するコンサートでも同じなんだと。

頂点を極めたようにみえる彼女たちの不安にも
しっかりシンクロできました。

被災地の舞台にかぶり付きで目を輝かせる子どもたちの姿に
いかん、また涙が…(苦笑)。

★1/27(金)から全国で公開。

「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」公式サイト
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