ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

“樹木希林”を生きる

2019-10-05 15:59:10 | か行

いなくなってもその存在が

我々に、なにかをくれる。

 

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「“樹木希林”を生きる」72点★★★★

 

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2018年9月15日に亡くなった樹木希林さん。

彼女の最後の1年間に

長期密着取材することを許された

ディレクターによる貴重なドキュメンタリー。

 

昨年、NHKで放送され、大きな反響を得た番組を

108分に再編集したもので

未公開シーンも多く入っている。

 

改めて希林さんの名言、その存在感をかみしめることができて

観てよかったなと思いました。

 

 

役作りに欠かせない衣装や髪型、包丁一本、ふきん一枚にまで気を配る

撮影現場での在り方。

時に厳しく相手に接しながら、すっとフォローもする気遣い。

 

生きることすべてにおける

センスのよさ。

 

一緒に車に乗っている、監督の目線そのままの近さで

会話しているようで嬉しくなる。

 

いや、実際にはとてもできません。ドキドキしすぎて(笑)

 

 

そう、最初はテレビ版より

希林さんの優しさやサービス精神を感じる気がしたんだけど

次第に作り手である監督への苛立ちや、容赦ない叱責が際立ってきて

同じ取材する人間として、胸が苦しくもなるんです。

 

「あなたは何をしたいの」「あなたはどう思うの」・・・・・・

希林さんの問いは、監督だけでなく

あらゆる人に向けられているのだと思う。

 

でも、その問いを正面からぶつけられ続けた

監督のプレッシャーはハンパなかっただろうし

好機を得た幸運と引き替えに預けられた荷は、

想像を絶する重しだったはず。

 

ゆえに監督は映画化にあたって

希林さんの問いに困惑し、メソメソもする情けない自身を

よりさらけ出す必要にかられたのだと思う。

 

でも、それによって映画には

希林さんが、後に遺そうとしたものが

しっかり映る結果になった。

 

「あなたは、どう思うの」「どうしたいの」――

ワシも考え続けていきます。

 

★10/4(金)からシネスイッチ銀座ほか全国で公開。

「“樹木希林”を生きる」公式サイト

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帰れない二人

2019-09-08 18:41:06 | か行

ジャ・ジャンクー監督の新作です。

 

「帰れない二人」72点★★★★

 

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2001年、中国山西省の大同(ダートン)。

麻雀客でごった返す遊技場をみまわるチャオ(チャオ・タオ)は

みなに一目おかれる「姐さん」的存在だ。

 

恋人のヤクザ者ビン(ガオ・ビン)と一帯を仕切る二人は

仲間と兄弟の契りの酒を酌み交わし、

義理人情を重んじる「江湖(こうこ)」と呼ばれる渡世人だった。

 

だが、大同一帯も開発が進み、

彼らも時代の変化を感じ始めていた。

 

そんなときビンが若い連中に襲われる。

ビンをかばい、チャオは刑務所に入ることに。

 

5年後、チャオが出所すると

さまざまなことが、大きく変化していた――。

 

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2001年から2018年の中国の山間の山西省を舞台に

移ろいゆく風景と、人の心を描いた作品です。

 

いわゆる渡世人である男女を描いているけれど

ノワールやバイオレンスではなく

あくまでもゆったりと

どこかおおらかで悠久の時を感じさせるのが

さすがジャ・ジャンクー監督!

 

 

時間とともに、国も変わり、社会も変わり、

そして人の心も変わる。

 

そんな「移ろいゆくもの」がここには映っている。

 

その変化のなかで、したたかに

たくましく生き延びるヒロインの、まあハッタリのうまいことに笑ってしまう(笑)

 

 

「四川のうた」(08年)「山河ノスタルジア」(15年)など

ジャ・ジャンクー作品の常連であり

ミューズであるチャオ・タオが

17年の変化を

憂いとチャーミングさ、バイタリティーをもって演じていて素敵でした。

 

この映画では若い頃は余貴美子さんに似てて、

だんだんちょっと西原理恵子氏に似てくるんだよね・・・・・・(笑)

 

9/9(月)発売の「AERA」いま観るシネマで

ジャ・ジャンクー監督にインタビューをさせていただきました~

男女のもろもろを描いても

どこか「時の流れ」を感じさせる、独特な映像作りの秘密も聞いちゃいました。

併記の「もう1本」とあわせてぜひご一読くださいませ~

 

★9/6(金)からBunkamura ル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「帰れない二人」公式サイト

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ガーンジー島の読書会の秘密

2019-08-31 23:24:53 | か行

ミステリーかなと思うと、意外な味になっていく。

 

「ガーンジー島の読書会の秘密」70点★★★★

 

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1946年。戦後の活気を取り戻しつつあるロンドンで

人気作家のジュリエット(リリー・ジェームズ)は

1通の手紙を受け取る。

 

それは

イギリス海峡に浮かぶガーンジー島の住民からだった。

 

ガーンジー島は第二次世界大戦中に、

イギリスで唯一、ナチスドイツの占領下にあった島。

島民たちは島に駐在するナチスドイツ兵たちに家畜を没収され、

夜間の外出や集まりを禁じられていた。

 

ジュリエットは島民と手紙を交わすうち

ある女性の機転で

島民たちが「読書会」を開き、息抜きをすることができた、という話を知る。

 

次作の本のネタを探していたジュリエットは

その話に興味を持ち、島に飛ぶ。

 

歓迎される、と思っていたジュリエットだが、

意外に島民たちは微妙な空気を醸し出し――?!

 

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ミステリーかな、と思うと意外な味になっていく。

ちょっと辛抱はいるけれど

結果「読み進めてよかった」と思える本のような映画でした。

 

 

まず冒頭、1941年、ドイツ軍占領下のガーンジー島から

1946年ロンドンに舞台が移るんですが

どうもしばらく、話が見えてこないんです。

 

これはヒロインである作家ジュリエットと

冒頭に登場したガーンジー島の女性が

雰囲気が似てて、同じ人に見えてしまったからでもあるんだけど

(まあそれも“引っかけ”なのかも知れない・・・・・・)

 

いまいち話が見えず

スパイスのないぼんやりした味だなあ・・・・・・と思っていると

徐々にギアがアップしていく。

 

そしてジュリエットが島にやってくると

明らかに読書会メンバーは歓迎ムード・・・・・・じゃない、微妙な空気。

そこで彼女が島の人々に話を聞くいていくと

起こったできごとがだんだん浮かびあがってくる――という展開で

 

その過程に、取材と書き仕事をする端くれとして

ピピッときた、というか。

 

 

「書かないでね」を約束に、彼女は島民たちに話を聞くわけですが

取材をすすめるうちに、いろいろがわかり

「微妙な空気」の謎も解けてくる。

 

まあ「野次馬根性」と言われればそれまでなのですが

人と人のある場所に起こるデキゴトって、やっぱおもしろいんですよね。

 

そして、書く仕事をする人間にとっては

知ったことを書き、誰かに語ることが喜びなんだ、と。

 

誠実なジュリエットは約束を守り

「出版はしない」けど、島で知ったことを書いて、彼らに進呈する。

それを読んだ彼らが「これは発表されるべき物語だ」と思ってくれるという展開は

書く人間にとって、理想だなあと思うんです。

 

あと、ジュリエットがタイプライターを叩く音が

下宿先のおかみに

「空爆の方がマシだわ」と言われるほど激しいのにも笑った。

ええ、私もカフェで隣の女性に

「タイプ音、小さくしてもらえますか」ってメモをこそっと渡されたことありますから。

うっせー!(笑)

 

★8/30(金)から全国で公開。

「ガーンジー島の読書会の秘密」公式サイト

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カーマイン・ストリート・ギター

2019-08-07 23:58:16 | か行

めったに味わえないほど

うまみ深いドキュメンタリー!

 

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「カーマイン・ストリート・ギター」74点★★★★

 

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ニューヨーク、カーマイン・ストリートにある小さなギター店

「カーマイン・ストリート・ギター」。

この店の一週間を追うドキュメンタリーです。

 

 

ルー・リードをはじめ

ボブ・ディラン、パティ・スミスらも愛用するギター店だそうで

まず

頑固なギター職人おじさんが登場するのかな~と思いきや、

え、すげえキュートな女の子がギターを作ってる?!という

意外な導入部から、グッと惹きつけられました。

 

 

しかも彼女、この店の若い弟子らしいんす。・・・・・・キャー素敵!

 

店主のリック・ケリーは

ニューヨークの建物を解体した際に出る古材を使って、ギターを作っていて

まあおじさんだけど、割と柔和で、優しそう。

 

で、映画は店の月曜日から始まる。

店はとても静かで

80近そうな店主のお母さんが店番をしていて

なんだか居心地よさそうな空気が流れている。

 

そこにふらっとジム・ジャームッシュが来店したり

パティ・スミスバンドに所属するギタリストがやって来たり。

 

そして

客と店主の会話から

店の成り立ちや、ギター作りの過程、

店主やその弟子のヒストリーが自然に紹介されていく。

 

監督が口を挟むのではなく、「場」と「人」と「音」を主役にした

この運びが、実にうまい。

 

なぜ、NYの古材を使うのか?と客が聞き、

「1800年代の古材は乾燥していい具合に共鳴するんだ」と店主が答え、

実際にそのギターを、客が試し弾きしたりする。

その音が、本当に普通のギターと違ってる!というのが

素人のワシにもよーくわかるんです。

 

 

特にビル・フリーゼル氏(現代ミュージックシーンの重鎮ギタリスト、だそうです)がつまびく演奏、

うわ、キター!って感じ。

 

ここに集う人々は

ギターを、音楽を愛し、そして店主同様「木」や、自然を愛してる。

 

誰も決してバリバリに着飾ったりしてなくて

ラフなTシャツや、ちょっとよれたシャツで

「いや~儲かんないよ~カツカツだよ~」みたく言うけれど

でも、なんだか、この上なく幸せそうで、「豊か」にみえる。

 

 

彼らは自分に、そして人生に何があればいいのか

わかっているんだなって

これぞ人生の真の豊さだな、と感じて

心底うらやましくなりました。

 

 

映画中で、店主リックが火曜日にゲットした1850年代のバーの古材から、

木曜日にギターが出来上がる様子も描かれるんですね。

 

そして金曜日に聴く、

そのギターの音色といったら!

 

いや~マジびっくりしました。

ホントに長年、酒と煙草の煙が染みこんだ、

上等なバーボンみたいな、うまみとコクの味わいなのだ!

 

素人のワシでもわかるこの違い、

ぜひ、映画館で味わってみてください。

 

★8/10(土)から新宿シネマカリテ、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「カーマイン・ストリート・ギター」公式サイト

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北の果ての小さな村で

2019-08-01 00:57:32 | か行

実に清涼で、謙虚な気持ちになりました。

 

「北の果ての小さな村で」71点★★★★

 

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グリーンランド東部にある、人口80人の村に

デンマーク人のアンダース青年(アンダース・ヴィーデゴー)が

新人教師として赴任してきた。

 

やる気とガッツに溢れ

10人の子どもたちの前に立ったアンダース先生だが

グリーンランド語を話す子どもたちとは言葉も通じず、

子どもたちもまったく授業に集中しない。

 

生徒の一人が一週間学校に来ないことを心配して家に行くと

おばあさんに

「おじいさんと犬ぞりで狩りの旅に行った。学校より大事だから」と言われてしまう。

 

習慣も文化も違う極寒の地で

村人たちにもなじめず

孤立するアンダース青年だったが――?!

 

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広い広い雪原のなか、小さな点が雪に線を描いていく。

それは狩りに向かう、犬ぞり。

たどり着いた先で彼らは、シロクマ親子と対峙する。

 

そのとき、自分もまさにその場にいるように

神々しいまでの畏怖と畏敬の念が

お腹の底から湧き上がってくる――

 

そんな体験をした映画でした。

 

それほどに

雪原に映る小さな小さな人間の営みが訥々と美しく、のめり込んでしまった。

 

ストーリーは

グリーンランドの村に赴任したデンマーク青年が、

村人に溶け込むことができず悪戦苦闘する、というもので

 

シンプルで、てらいなく

ちょっとユーモラスさもある。

 

主人公が、本当にこのグリーンランドの村に赴任した青年で

出てくる人々もみな、現地の人そのままだ、と

ラストで明かされて

ああほとんどこれ、ドキュメンタリーなんだ!

だからこんなにストレートに胸に迫ってくるんだ!と

合点がいきました。

 

グリーンランドの北の果てに暮らす住民たちはイヌイットで、

独自の言葉や文化を守り続けていて

顔立ちは東洋系というか、ちょっと日本人っぽい。

 

デンマークの同化政策により

差別もされ、デンマーク語を押しつけられもした、という土壌があり

どこか「サーミの血」(2016年)にも通じるけれど

こちらはもっとほんわかしている。

 

で、赴任してきたアンダース青年は

穏やかな好青年だけど

知らず「デンマーク流」や「文明」的なものを

子どもたちや村人に押しつけようとしてるんですね。

 

そんな上から目線を村人たちに感じとられ、

彼は村になかなか溶けこめない。

 

そんななか、だんだんと彼に変化が訪れていく

その様子も、またとても自然で

 

大自然や動物に対するのと同じく、

謙虚に相手に向き合うこと。

 

胸襟を開き、身を任せれば、雪解けは必ずやってくる――

 

そんな気持ちになりました。

 

そして、アンダース青年、

いまも村で暮らしているそうです。

いい話やーん。

 

★7/27(土)からシネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。

「北の果ての小さな村で」公式サイト

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