ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

素晴らしき、きのこの世界

2021-09-27 23:38:36 | さ行

ブリー・ラーソンのナレーションで紹介される、キノコの世界。

ドキュメンタリーです。

 

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「素晴らしき、きのこの世界」70点★★★★

 

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キノコ、もともと興味あったんですよ。

(“キノコ”は、カタカナで書く方が自分的にしっくりくるのでカタカナで書きます)

 

で、観たのですが

いやはや知らなかった、その生命体としての凄さにびっくり!

 

監督のルイ・シュワルツバーグは

タイムラプス映像のパイオニアとされる方だそうで

まずは、にょきにょきと生えてくるキノコや

パッとかさをひらく様子など

アメージングな美しさを捉えた映像に驚きます。

 

これ観てるだけでも楽しいんですが

 

この地表にニョキッと出ているキノコって

植物の形状としてはリンゴでいう「実」のようなもので、

その本体は地面の下にある菌糸体であり、

それが地下で、まるで神経やコンピュータネットワークのように張り巡らされて

離れた場所でも情報をやり取りしている――とか

 

石油流出事故の際に、キノコの菌入りの土を使うと

ごっつ浄化効果がある――とか

「へええ!」な知識がいっぱいもらえる。

 

さらに

猿人からヒトへの爆発的な進化は 

マジックマッシュルームによる幻覚がキーだった――?とか(でも、ありえるかも)

キノコの世界にハマる人々の狂信ぶりとか

だんだん

神秘世界になってゆき

「ん? ちょっと妖しい?」とか思わせられる。

 

 

しかーし。

映画中で、キノコの菌や感染にまつわる重要な研究レポートが出てくるんですが

その研究結果を出してるの、ジョンズ・ホプキンス大学なんですよ!

みなさん!もう毎日テレビでその名前、見ていらっしゃいますよね?(笑)

 

――うん、これは、つながった。

 

これは恐竜の時代や化石にも関係してくる話であり

いまの世界を、そしてこれからを予見する

映画かもしれません。

サイエンス好きも必見。森好きも必見。

 

キノコは、地球を救う!かもしれない!(すっかりやられてます。笑)

 

★9/24(金)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「素晴らしき、きのこの世界」公式サイト

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スイング・ステート

2021-09-20 00:09:43 | さ行

米選挙に関してはいまひとつちんぷんかんだけど

それでも、かなり、おもしろい。

 

「スイング・ステート」72点★★★★

 

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民主党の選挙参謀ゲイリー(スティーヴ・カレル)は

やり手と知られた男。

 

だが、2016年の大統領選挙で

ヒラリー・クリントンが大敗し、打ちのめされていた。

 

いかにして、民主党の票を取り戻すか――

 

次の手を考えていたとき

事務所のチームの若手が

バズってるYouTube動画を見つけてくる。

 

それは

ウィスコンシン州の小さな町で

不法移民のために立ち上がった

一市民ジャック(クリス・クーパー)の演説の映像。

 

彼にカリスマ性を感じたゲイリーは

中西部の農村で民主党の票を問り戻すため

彼を「アイコン」にしようと考える。

 

そしてゲイリーは田舎町を訪れ、

ジャックに

「町長選挙に民主党から出馬しないか」と持ちかける。

 

しかし、ゲイリーの動向をみた

共和党の選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)が

そうはさせるか!とばかり、田舎町に乗り込んできて――?!

 

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米選挙やシステムはいまいち、よくわからない。

しかも、例によって予備知識なしなので

どこからどこまでが実話か、誇張かもよくわからない――

 

そんな状況で観たのに

いやいや、かなりおもしろいぞ?!という映画でした。

 

さすがスティーヴ・カレルというか、

政治話をコミカルに、親しみやすく、観客に近づけて、笑わせてくれるんだよね。

 

 

で、観終わって、資料を読んだら

全然実話ちゃうし(笑)

いや、現実に近い事件は端々で起こってるのか。

 

 

まずは選挙参謀のゲイリー(スティーヴ・カレル)。

もちろん切れ者なんだけど

いかにも「都会」「オレやり手」キャラを誇張してるのがおかしくて

 

その彼が

スマートなスーツを脱ぎ捨てて、L.L.Beanかコロンビアな服に着替え

車も4WDに乗り換えて

(芸細かいなあ。笑)

牧歌的な田舎町に乗り込んでくる。

 

ごっついおっさんたちに胡散臭そうにされ、

しかし、一度心を開かれると

妙にフレンドリーにされて戸惑ったり。

 

そして無愛想で口下手な退役軍人ジャック(クリス・クーパー)を口説き

町長選に出させるんですね。

演じるクリス・クーパーがまた味があっていいんですが

 

そこに「ちょっと待ったあ!」と

ライバル共和党のバリキャリ選挙参謀フェイス(ローズ・バーン)が殴り込み

 

のどかな町の町長選が

民主党VS共和党の争いに発展し

筆舌尽くしがたい泥仕合がはじまっていく――という展開。

 

政治ってコントかギャグ漫画か?という状況、

なんだか日本も変わらない気もしますが(苦笑)

 

そのドタバタのなかに

アメリカの都会と田舎、富裕層と一般市民のギャップが

うまく盛り込まれていて

「民主党支持者は、リベラル、富裕で高学歴なインテリ」

「共和党は保守、労働者の味方!」

と二分されるアメリカの世情を、捉えることができるんですよね。

 

データ解析などテクノロジーを駆使した

いまどき選挙の戦い方が描かれているのも興味深いし

(そこで起こる「え?」な事件も爆笑だけど、あり得そう・・・)

 

そして「都会」の人々が「田舎」の人々を

どこか上から目線で

コントロールしようとする構図もみえてくる。

 

が、しかし

ネタバレはしませんが

そこからの展開がまた痛快なんです。

 

それにしても

越智道雄さんがご存命だったら絶対、

素晴らしくわかりやすく、解説してくれただろうな――と

残念でなりません。改めて合掌。

 

★9/17(金)からTOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国で公開。

「スイング・ステート」公式サイト

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アイダよ、何処へ?

2021-09-19 01:26:47 | あ行

「サラエボの花」(06年)「サラエボ、希望の街角」(10年)

ヤスミラ・ジュバニッチ監督の新作です。

 

「アイダよ、何処へ?」72点★★★★

 

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1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争。

セルビア人勢力に包囲されたボスニアの町・スレブレニツァは

国連によって、攻撃してはならない「安全地帯」とされ

国際保護軍のオランダ軍も派遣されていた。

 

だが、1995年7月。

スレブレニツァを包囲した

セルビア人勢力のトップ、ラトコ・ムラディッチ将軍は

市長以下、住民もあっさり「殺れ」と命令を下す。

 

命の危機に、2万人を超える市民が

国連の施設に押し寄せてきた。

 

現場は国連本部に応援を頼むが

全然話は進まず、助けがこない。

 

国連の通訳として働くアイダ(ヤスナ・ジュリチッチ)は

市民たちを助けるべく奔走しながらも

夫や二人の息子が心配でならない。

 

そんななかセルビア軍が

「バスで市民を移送する」と言い出し――?!

 

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これまでも一貫してボスニア紛争の悲劇を描いてきた

ヤスミラ監督の最新作。

 

ボスニア紛争末期の1995年7月、

約8000人ものボシュニャク人(イスラム教徒)が、敵対するセルビア人勢力に殺害された

「スレブレニツァの虐殺」を

そのただ中にいる女性アイダの視線で描き

 

極限の状況がスリリングにサスペンスフルに描写され

高い評価を受けています。

 

まず1995年って、ホントに、つい最近ですよ?っていうのがショック。

ボスニア紛争については、少しはかじってきたつもりでしたが

この虐殺については知らなかった。

 

しかも

その場所には国連によって「安全地帯」が作られ

国連保護軍であるオランダ軍も駐留していた。

なのに

助けてくれると思った国連がまったくダメ――というこの絶望感。

そして、こんな惨劇が起きていたなんて――

 

 

町が包囲され

恐怖のあまり、国連施設に逃げてくる市民たち。

しかし、あまりの多さにまず施設には入りきれない。

 

現場は国連本部に援軍や物資補給を頼むのだけど、

どうにもまったくスムーズにいかない――という

もうギシギシと歯ぎしりしたくなる苛立ちと

恐怖のただなかに、身を置かれる。

 

そのなかで

国連の通訳として、懸命に住民を助け、働いていたアイダ。

 

そんな彼女が、ヤバくなっていく状況で

「せめて、自分の家族だけでも・・・・・・」と次第に利己的になっていく。

裏の手で夫と二人の息子を施設に招き入れ、

なんとか"特権”で彼らを逃がそうとする。

 

決して「ヒーロー」だけではない彼女の行動に

実際、複雑な気分にもなるんです。

 

が、しかし

いや、そうならざるを得ない状況こそがおかしいのであって。

 

そんなアイダの生身の人間っぷりこそが

常識を逸した現実を、その理不尽を写しているんだと。

 

そして

他国が他国を助けようとしても

こうもうまく機能するのが難しいのか・・・・・・と

その状況をリアルに知らしめたことも、本作の大きな意義だと思います。

 

国連施設に押し寄せる市民たちの姿は

まさにいまタリバン復権下のアフガニスタンで

空港に押し寄せた人々にも重なってつらい。

 

轍を踏まず、国際社会がうまく機能するすべはないのか?

重い問いが残るのでありました。

 

★9/17(金)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

「アイダよ、何処へ?」公式サイト

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マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"

2021-09-18 21:48:53 | ま行

なぜこの人がこんなに取り沙汰されるのか。

やっと、わかった。

 

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「マルジェラが語る〝マルタン・マルジェラ“」72点★★★★

 

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顔出しNGな謎のデザイナー、マルタン・マルジェラ。

2008年に引退してもなお人気の彼に

「ドリス・ヴァン・ノッテン  ファブリックと花を愛する男」(16年)

ライナー・ホルツェマー監督が迫ったドキュメンタリーです。

 

正直、マルタン・マルジェラって

名前は知ってるけど、よくわかってなかった。

 

本人不在で周囲の証言で構成された

「マルジェラと私たち」(17年)というドキュメンタリーもあったりして

「なぜ、この人、こんなに人気なんだろう?」と不思議だったんです。

 

でもこの映画で、その魅力も理由もよくわかりました。

やっぱり本人が語ると(映像は顔出しはなく、手のみだけど)

いろいろわかりやすい。

 

 

映画はパリでの回顧展の準備をする

マルジェラの様子からはじまります。

 

本人が作業しながら、たくさんの「想い出ボックス」を出してきては

自身について語っていくんですね。

 

相当な「取っておき魔」なのか(笑)

仕立て屋だった祖母に影響されたこととか

彼女がくれた端切れで子どものころに作ったアートブックとかも出てきて

これが超絶うまくて可愛すぎる!

 

さらに1980年代、アントワープ王立芸術学院で学び

(ドリス・ヴァン・ノッテンもここの出身!)

コムデギャルソンの川久保玲に衝撃を受けたこと

来日したときに見た日本の"足袋”タビにインスパイアされて

その後名作となる靴を作ったこと――などが

語られていく。

 

88年に自身のブランドを立ち上げ

97年にはエルメスのアートディレクターに抜擢されたりもして大活躍。

 

そして人気絶頂の

2008年にすっぱり引退してしまうわけです。

いまもブランドは残っていますが

 

なぜいまの時代にも、彼が人気なのか――

 

そのコレクションを時代を追って見ていくと

斬新で革新的だけど

どこか「わかる!」というポイントがあって

いまでも全然、通用するんですよね。

 

さらに

97年のエルメスのコレクションなんて

シンプル&ミニマルで

「え?いまでもあるよ、このデザイン⁈」みたいな普遍性がすごい。

 

彼がどうやってその境地に辿りついたのか。

さまざまな識者の考察を含め、

映画は掘っていくのです。

 

それは

いちデザイナーの物語、というだけでなく

「いまの世界の問題」をも提示しているようで

実に興味深い。

 

映画からもいろいろわかるのですが

おなじみ「AERA」で監督インタビュー&栗野宏文さんの考察を交えた記事を書かせていただいて

よりよ~~くわかりました。

 

AERA dot.

でも読むことができます!

 

まず、ほんっとに日本に親和性があるんですよね、マルジェラのマインドは。

わびさび、に通じるし

新しいものを作れ!買え!な消費万歳世界で

彼はいち早く

「そんなに、多くのものは必要ない」

「いいものを、少しだけ」みたいなことに気づいていた。

 

シンプルで、タイムレス。

そして、栗野さんに教えていただいてびっくりしたのは、

この貧乏なワシが唯一持っている「エルメス」の

二重巻きベルトの時計がマルジェラのデザインだったこと!

マジか・・・・・・。

マルジェラ、すげえ・・・・・・

 

それにいち取材者として

「なぜ監督は、ドリスをはじめ難攻不落な人物を落とせるのか?」も

すごーく気になるところだったのですが

インタビューさせていただいて

その秘密も、これまたよくよく理解できました。

とにかく誠実!

そしてホメ上手!(笑)

 

こんな一介の記者の気分もアゲてくださる、その人柄が

困難な取材を成功させているのか!

 

――もっとがんばれ、ワシ。(結局それか。笑)

 

★9/17(金)からホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開。

「マルジェラが語る"マルタン・マルジェラ"」公式サイト

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ミッドナイト・トラベラー

2021-09-11 23:58:49 | ま行

すべてスマホで撮影されたリアル過ぎる記録。

 

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「ミッドナイト・トラベラー」72点★★★★

 

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2015年、本作の監督であるハッサン・ファジリは

タリバンから死刑宣告を受ける。

監督が制作したアフガニスタンのドキュメンタリーが

「気に入らない」というのがその理由。

彼らは、すでに映画に出演した男性を殺害していた。

 

身の危険を感じた監督は

同じく映像作家である妻ナルギスと、幼い二人の娘を連れて

ヨーロッパを目指すことを決意する。

その行程すべてを、スマホで記録したものが本作です。

 

試写を観たときはまだ

タリバン復権の前だったのですが

いま、こんな状況になり

ニュースを観ながら、この映画をヒリヒリと思い出しました。

 

ただ、本作は「恐怖一辺倒」ではないんです。

家族4人の逃避行は、たしかに過酷なのだけど

しかし

写る日常には、どこかあたたかみすらあり

そこが沁みるんです。

 

 

たとえば、ぎゅうぎゅうで入れない避難所の狭い廊下でも

奧さんは段ボールで寝床をしつらえ、娘たちを寝かしつける。

殺風景な収容所でも

食事をし、洗濯をし、なんとか「暮らそう」と苦心する。

 

いつも明るく、なにかと楽しみを見つける長女や

愛くるしい次女の姿もほほえましくて

 

どんな状況でも、人は「営み」を作っていこうとする生きものなのだと

映画を観ると感じるのです。

 

だからこそ、彼らの陥っている苦境が

ことさらに、辛い。

いつも明るい長女が、たまさかに涙するシーンが辛い。

 

それに彼らはアフガニスタンに帰されたら

間違いなく殺されるというのに

どの国でも、難民申請が全然、通らないんです。

 

そして一家は

タジキスタン→アフガニスタン→トルコ→ブルガリア→セルビア、と

移動と放浪を余儀なくされる。

 

奇しくも彼らの旅路は

周辺諸国の空気や、それぞれの対応を映し出す

貴重な記録になっていて

 

なかでも衝撃だったのがブルガリア。

道路を歩いているだけで「難民、出て行け!」と

ナショナリストから攻撃を受けたりするんですよ。

えー、、牧歌的で中立なイメージだったのに・・・(勝手に)

それをする側にも、社会不安がある故なのだろうとは思うけど

ちょっとショックだった。

 

加えて考えさせられたのが

奧さんが、同じ映像作家である、という点。

監督は、撮影することを「仕事」と考え、

気を保っていたのだと思うけど

奧さんは、どうしても家事や日々のことで手一杯になってしまう。

そのことに苛立ちを募らせる様子も

とても苦しかった。

 

正直にいうと、共同監督、で奧さんの名ナルギス・ファジリを

出してあげたらよかったのに、と思う。

奧さんが撮ってる映像もかなりあったと思うんですよね。

 

そして補足。

スマホ映像といっても、予想よりも画面は安定していました。

ただ夢中になるだけに、ワシのように映像酔いする向きは

少々ご注意を。

映画館では少し遠い席からの鑑賞をおすすめします。

 

★9/11(土)からシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

「ミッドナイト・トラベラー」公式サイト

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